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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
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肝試し

 虫の鳴き声と、風の音、そして生徒たちの楽しそうな声だけが響く中央グラウンド。


 時刻は21時を回り、月明かりと宿舎のライトだけが場を照らすその空間に、100人近い生徒が集まっていた。


 今日のこの肝試しイベントが終われば、明日は帰宅するのみ。


 長いようで短かった合宿にも終わりが見えたことにより、生徒たちの声はいつも以上に賑やかだった。


 それもそのはず。


 なぜこんなにも賑やかなのかと言うと、A.B.Cクラスの女子生徒はともかく、男子生徒たちは、一体感を感じるほどに、分け隔てなく会話を繰り広げているのだ。


 その理由は、間違いなく、好みの女子とペアで肝試しを回れるのか、と言う話。


 男の争いが中断されるのは、大抵女絡みの時だ。


 そしてその娘とペアになるために、いくらまでなら支払えるかと言うお話だ。


 現状の最高額は、Cクラスのメガネ男子、寺本の、真里亞に3万円。


「お前は参加しねーのか?悠馬」


 その様子を近くの岩に座って見守る悠馬に話しかけてきたのは、連太郎。


 最近、大人しくしているのは、おそらく先日の夕夏の一件で派手にやらかしているからだろう。


 いくら国が揉み消してくれると言えど、あまり権力は使いたくないらしく、下手に目をつけられないように先輩のパシリまでやっているご様子だ。


「残念だけど、俺は金を払ってまで一緒に回りたい女子はいない」


 そう言い切った悠馬。


 現状、悠馬の心の中には、一緒に回りたくない女子はいても、回りたい女子はいなかった。


 回りたくない女子、というのは湊や、美月の取り巻き連中のことだ。


 彼女たちは、悠馬や八神に対しても当たりが強い。


 昨日の夕食のことがトラウマになっている悠馬からしたら、湊だけは死んでも御免だった。


「んじゃあ、なりたくない奴と当たったら、10万で代わってやるよーん」


「はぁ?そんな大金持ってるわけないだろ」


 まるで午前中の3年の先輩のような、馬鹿げた価格を要求してくる連太郎。


 悠馬はお前は馬鹿か?と言いたげな表情で、連太郎を睨んだ。


「えぇ?その端末に入ってるお金は飾りかなぁ?」


 連太郎は両手を伸ばし、プリーズ!と言うと、手をプルプルと動かしながら、端末を渡すように急かしてくる。


「…悪いが誰が入金したかもわからない金は使えないし、渡せない。今ある金が底をつかない限り、これに手を出す気はないよ」


 遡ること入学式。


 連太郎と美月が寮へと訪れたその日に、悠馬は美月の消えない傷のこと、自身が暁闇だと言うこと、そして携帯端末に入金されていた約1億円という、莫大な金額についての話をしていた。


 結果としては、連太郎や美月の端末のチャージ額に不具合などは起こらず、悠馬だけが大金を手にしているという形になった。


「だよな〜、その金使った途端、黒いスーツ着たスキンヘッドの黒人たちに連れていかれたら堪んないもんな〜」


「俺の端末はどこのマフィアから資金提供を受けてる設定なんだよ」


 連太郎のピンポイントな例えにツッコミを入れた悠馬。


 そんな中、Bクラスの担任教師である、メガネのインドアっぽい先生が、くじ引きの箱を手にして現れた。


 心なしか、昨日よりも窶れている気がするし、髪の毛も薄くなっているように感じる。


 今日のフィールドワークで1年の生徒たちがしでかしてくれたから、そのせいで疲れているのだろう。


「はい、クラスごとに整列してください。これより肝試し大会におけるくじ引きを行います。くじ引きには携帯端末を使用するので、忘れた方は取りに戻ってください」


 Bクラスの担任教師の声を聞き、整列を始める生徒たち。


 どうやら携帯端末を宿舎に置いてきた生徒はいないようで、列はすぐに完成する。


 迷子になった場合の連絡手段や、懐中電灯がわりのライトとして端末を持ってきていた生徒がほとんどなのだろう。


「では。説明に入ります。みなさんにはこれより、島を1周、ジョギングで走ったコースから山道へと入ってもらい、設置されているチェックポイントを通過してもらいます。もちろん、男女ペアです。そしてペアの抽選方法は、ほい」


 くじの箱のようなものから映し出された映像は、肝試しで通ってもらうルートが描かれていて、分かれ道の場所には星マークが付いている。


 おそらく星マークがチェックポイントで、正しい道へと誘導してくれるのだろう。


「ほい」と言う掛け声と同時に、先生がくじの箱を叩くと、全生徒に一斉にメールが届く。


「そちらは機械によって完全にランダムで振り分けられた番号になっています」


 先生のその発言を聞いた男女は、思っていた抽選方法と違った為か、その場で嘆いたり、文句を言ったりしている。


「そちらに記載されている番号は、同じ番号同士がペアとなっています。全部で47組のペアができているはずなので、1番の方から順に並んでください」


 悠馬の端末に送られてきた番号は47。


 教員の言った通りの順番なら、1番最後に出発することとなるだろう。


 そして先ほどまでくじを交換云々と話していた男子たちは、このシステムでの交代は難しいだろう。


「おい悠馬、お前何番だ?」


 辺りで番号を言い合う生徒たちの中から、悠馬へと声がかかる。


 周りの身長が高い為か、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら悠馬に向かって話しかけているのは、通だ。


「1番最後。通は?」


「俺は3だ!もうスタンバイしねえと!」


 悠馬と違い、かなり早い番号が振り分けられていた通は、番号だけ聞いて満足したのか、足早にスタート地点へと向かって行く。


「1番以降の生徒さんたちも、順次スタートしますので並んで待機してくださーい」


 乱れたクラスごとの整列は、徐々に肝試しのペアでの並びに変わって行く。


「え…」


「あっ…」


 先生の指示に従い、1番後ろへと並んだ悠馬は、横に並んできた女子生徒を見て、驚きの声をあげる。


 相手も悠馬と同じ気持ちのようだ。銀髪の髪を揺らしながら、口をぽかんと開けて停止している。


「や、やぁ…美月」


「ちょっと。学校でその呼び方はやめて」


「はい…すみません…」


 悠馬が馴れ馴れしく下の名前で呼ぶと、銀髪の少女、美月は冷ややかな視線で悠馬へと注意をする。


 しかしこれは、悠馬のことを思っての行動だ。


 美月の取り巻き連中は、湊と同じく、過激派が多い。


 学校の中ではほとんどの男子が美月には近づけないし、彼女に向かって、直接美月ちゃんなどと口にしたら、過激派に消される可能性すらある。


「私は別にいいけど。悠馬がいじめられても助けないから」


「なにそれひどい」


 別に下の名前で呼んでもいいけど、過激派たちに何をされても助ける気のない美月に向かって、悠馬はショックを受けたようにつぶやく。


「冗談。悠馬だけは庇ってあげるから。ほら、私たちってそう言う関係でしょ?」


 美月はにっこりと笑って見せると、人差し指を唇にあて、そのまま人差し指を悠馬の唇にあてる。


「っ…お前!」


 美月の含みを持ったような言い方と、軽い間接キスに一歩後ずさった悠馬は、耳まで真っ赤になって美月を警戒する。


「あはは!今のカップルっぽくなかった?」


「お前なぁ!そう言うこと他の奴にすんなよ!」


「心配してくれるの?ありがとう」


 いつもとは違う銀髪の少女の行動に釘を刺した悠馬は、おちょくったような彼女の発言を聞いて、そっぽを向いた。


 どうやら彼女は、豪華客船での一件を完全に流してくれているようだ。


 微笑む彼女を見た悠馬は、いつも通りの関係に戻れたことに、安心していた。



 ***



 肝試し開始から30分近くが経過した頃。


 無人島の外周を歩いていたペアの傍れ。黒髪の男子は、ペアの女子にバレないようにビクビクとしていた。


「本当にお化けが出たら、貴方1人に任せても大丈夫なんですか?碇谷くん」


「あ、当たり前だろ!ま、任せとけよ!三枝さん!」


 真里亞に尋ねられた碇谷は、自信満々に胸を叩くと、引きつった笑顔を見せた。


 この奇跡的な状況。


 学年でもトップ3の中に入ると言われる美女の真里亞と、2人きりで夜道を歩けるのは、幸運としか言いようがない。


 てっきり真里亞は悠馬が好き。と勘違いしている碇谷だが、今はそんなことは些細なことで、彼はただ、真里亞にどう男を見せるかを真剣に考えていた。


「碇谷くんは怖いのが大丈夫なんですね?」


「当たり前だろ!全部俺に任せてくれ」


 もちろん、嘘である。


 自信満々に任せろと言う碇谷だが、手はほんの少しだけ震えているし、加えて言うなら碇谷はビビリきって異能まで使っているのだ。


 碇谷の異能は、身体強化系だ。


 身体を少しだけ硬くしたり、運動能力を上げたりする優れた異能ではあるものの、やはり6大属性の雷炎氷風聖闇などと比べると、地味なものだ。


 しかし今回ばかりは、その地味さが助けとなっていた。


 派手な異能であれば、ビビっていても、異能を使っているとバレてしまうため使用は厳しい。


 しかし碇谷の異能は、外見からでは身体強化を使っているかどうかなど、わからないのだ。


 ぱっと見は普通に歩いている一般人と大差ない。


 彼は真里亞にいいところを見せたいが、本当は自分も怖いため、異能を使っているのだ。


 昨日の夜を思い返せば、碇谷がどれだけビビリかもわかるだろう。


「ふふ…頼もしいですね。是非ともCクラスに欲しいくらいです」


「え!?」


 口元に手を当てながら、微笑む真里亞。


 真里亞は合宿前ほど、性格がクズではなくなっていた。


 それは夕夏と一緒の班になり、色々な話をしてきたからだ。


 真里亞は基本的に、Cクラスの生徒たちに囲まれているため、他のクラスとの関わりを持たずにいた。


 そんな真里亞からすらば、Cクラスの生徒たちが話す情報が外界の全てであって、女子たちが調子に乗っていると愚痴っていた夕夏や美月というものは、悪そのものだと、そう勘違いしていた。


 しかしこの合宿で、夕夏と知り合い、話してみると完璧美少女の優しい女の子だった。


 自身を囲っているCクラスの生徒たちがいうほど、周りの生徒たちのガラが悪くないことに気づいた真里亞は、この肝試しを心から楽しんでいた。


「い、いやぁ…三枝さんにそう言われると照れるなぁ…」


 そんな真里亞を見て、顔を赤くしながら頭を掻く碇谷。


 三大美女の一角から、クラスに欲しいと言われたのだから、照れるのも無理はないだろう。


 悠馬でも照れるはずだ。


「ええっと。確かここから山へ入るんですよね?」


「そうみたいだな…」


 会話を弾ませながら歩いていた2人は、ついに中間地点へと辿り着く。


 海面に月明かりが反射していて、木々も無く視界が良好だった外周部と違い、木々が生い茂り、月明かりも入ってこない、視界の悪い森の中を目にした2人は、一度だけ立ち止まる。


「け、結構怖いですね」


「だ、大丈夫。俺がなんとかするから」


 薄暗い森と、風で木々が騒めく音が、不気味な雰囲気を醸し出している。


 先ほどまでは余裕そうだった真里亞も、ほんの少しだけ恐怖を感じているようだ。


 程よい距離感で歩いていた碇谷の方へと一歩近づくと、左腕を右手でさすりながら、前へと踏み出した。


「前の生徒も見えませんね」


「前は確か…神宮とアルカンジュか」


「はい。そのはずです」


 ある程度間隔をあけて歩いていたといえど、前からは声も聞こえないし、ライトの明かりも見えない。


 それが当然のことなのかはわからないが、神宮の性格を知っている碇谷からすれば、何か大きな問題を起こしていないのかと、悪い想像をしてしまう。


「三枝さん。神宮は危険な奴だから気をつけといたほうがいいぜ」


「そうなんですか?」


 Cクラスの中で生活している真里亞からすれば、神宮の危険度など、全く耳に入ってこない話なのだろう。


 神宮はとにかく思想が可笑しい。


 気に入らないものは壊して解決するような奴で、男女構わず暴力を振るおうとするし、物事が上手く行かなければ、すぐにキレる。


 正直言って、この異能島に適した人格者とはお世辞にも言えない。


 三大美女である真里亞も狙われている可能性があると思った碇谷は、変なことが起こる前に忠告だけはしておこうと、横を歩く少女へとアドバイスをした。


「ああ。すぐに暴力も振るうから、気をつけといたほうがいいぜ」


「っ!?」


 そう言って横を見てにっこりと笑って見せた碇谷だったが、前を見て歩いていた真里亞の表情が一瞬引き攣った事により、慌てて前を向く。


「うあっ!?」


 そして、真里亞が目にしていた光景を見た碇谷も、驚きの声を上げて、一瞬仰け反った。


 山へと入ってから数分。それはお化けなどでは無く、得体の知れない大きな何かだった。


 大きさは3メートルを超え、赤黒い硬そうな肌を露出している、人間に近いような形状をした存在。


「すげぇな…教員たち、こんな手の込んだ置物置いてんのか?」


 一瞬の沈黙の後、赤黒い何かが微動だにしないことに気がついた碇谷は、その謎の物体へと近づくと、パチン!と叩いてみせる。


「バケモンはあんまり怖くねーんだよな、俺。先行こうぜ、三枝さん!」


 お化けは怖いが化け物は怖くない。


 そう発言した碇谷だったが、その声が真里亞の耳に入ることはなかった。


 碇谷の立っている、そして赤黒い化け物のいる、その数メートル先。


 化け物の陰からほんの少しだけ見えている、長い金髪を目にした真里亞は、全身から血の気が去り、大きな声を上げた。


「碇谷くん!後ろ!」


 先ほどまでは動いていなかった、赤黒い化け物のようなものが動いたような気がして、叫ぶ真里亞。


 しかしそれは、すでに手遅れだった。

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