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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学試験編
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入学試験4

 

  どうしてこんな事になってしまったんだろう?


 頭の中にそんな疑問が浮かび、悠馬は思考を停止させる。


 そうやって幾度となく同じ疑問に至り、その度に考えることをやめた悠馬は、向かいに座ってコンビニ弁当を食べる女子生徒を眺める。


  今日の夜ご飯は、彼女の奢りだ。

 いや、ありがたいが今はそんなことどうでもいい。


 どうして彼女が俺の寮に泊まりたいのか?という質問をしなければならないのだ。


 弁当を食べる箸を休め、一度深呼吸をした悠馬は意を決して質問をする。


「どうして俺の寮に泊まりたいんだ?俺、そんなお礼求めてないんだけど…」


 弱りかけの女子を助けて、寮に泊めてくださいってお願いされるってことはつまり、そういうことだろ!?


 完全にそっち系のお礼をするために寮に泊めろとお願いされたのでは?という結論に至った悠馬は、頬を赤く染めながら問いかける。


「別に!君が好みじゃないとかそういうわけじゃないんだ!ただ…」


 悠馬の脳裏には、金髪の少女が浮かんでいた。

 初恋の相手。ずっと側に居たかった人。


 自分の能力が反転したせいで、それが叶わなくなった人。


「えっと…そういう事を期待してたんならごめんなさい。そういうつもりで泊めてほしいってお願いしたわけじゃないの」


「え?」


 うわ!はっずかしい!今ちょっとカッコつけてしんみりとした空気醸し出したクセに、全部俺の勘違いだったし!一生の恥だろこれ!


 顔を真っ赤にしながら、先ほど自分がした発言を思い出し消えてしまいたい衝動に駆られる。


 今すぐ暖かいベッドに飛び込んで、真っ暗な空間に引きこもりたい気分だ…


「ごめんなさい。言い方、悪かったよね?ちゃんと説明するから…ちょっと待って」


「敬語じゃなくていいよ」


 コンビニ弁当を食べる箸を休め、弁当の上に箸を立てかける。

 先ほどの悠馬と同じように、深呼吸をしてみせた美月は、重い口を開き話し始めた。


「私、中学校でイジメられてるの。現在進行形で」


「さっきの人たちに?」


 地元ならまだしも、入学試験の会場となる異能島でイジメられるって、よっぽどのことだ。


「うん。かれこれ2年くらいになると思う。イジメの原因は最初は小さな事だった。私さ。見てくれだけはいいから…中学に上がった時結構モテてたの。色んな人に告白されたし、クラスの人気者になれてたと思う」


 まぁ、たしかに見てくれはかなり可愛いと思う。

 悠馬があまり女子と接してこなかった為なのかどうなのかはわからないが、彼女の言ってることは一理あると思う。


 自分で言うのが残念なところだが、恐らくイジメの話をするに当たっては必要なことなのだろう。


「入学してからしばらくしたら、女子からはちょっとした嫌がらせを受けるようになった。だけど、それでも今ほどじゃなかったし、私を庇ってくれる女子もたくさん居た」


 それはそうだろう。

 美月が悪くないのなら、美月のことが気にくわない女子生徒以外は庇ってくれるに決まっている。


「もちろん、だからって調子に乗ったりはしてないよ?普通に生活してたんだよ?でも、ある男子に告白されて、それを断ってから全てが変わった」


「その男子さ。クラスでも人気者で、男子はみんなそいつの味方だったし、女子からも結構支持されてて…自分の申し出を断った私が許せなかったんだろうね。色んな噂を流されたの。他校の不良と付き合ってる。とか、誰々を脅したとか。男子が告白した後、その男子を陰でバカにしてたとか。そんな根も葉もない噂」


 美月は一呼吸置いてもう一度口を開いた。

 その姿が悠馬には酷く苦しそうに見えたが、首を縦に振りながら、何も告げずに彼女の話に耳を傾ける。


「そんな事件から1ヶ月くらい経った頃、ひとりの女子生徒が私にイジメられたって話を、クラス内に広めたの。その子、私が振った人気者の男子のことが好きだったみたいでさ。アピールしたかったんだろうね。元々私のことが気に食わなかった女子たちと、私が振った男子たちが大義名分を手にして、私に暴力を振るうようになった。お前もあの子にこんなことしてたんだろ?俺が告白した時陰で笑ってたのか?って」



 美月は力なく笑って見せると、脱力しきったように背もたれに背中を預けた。


 一度信用が傾くと、その信用を下げるのは簡単だが、元に戻すのは非常に難しい。


 美月は下げられた信用や信頼を、さらに下に落とされたのだ。

 そして、二度目は許しては貰えない。


 あいつには前科がある。前科があるからこっちが嘘をついていると、勝手に決めつけられた。


「先生たちも世間で問題になることが怖かったみたいで、誰も助けてくれなかった。友達もみんな、最初は庇ってくれてたけど、陰で私を笑ってた。桜って子は、私のことを入学した時から嫌ってた女子で、あの子からは毎日イジメられた。上靴を女子トイレの便器の中に入れられたり、給食に床を拭いた雑巾を絞られたり…言い始めたらキリがないくらいイジメられた」


「お前は誤解を解かなかったのか?」


「もちろん解こうとした。最初の不良と付き合ってるとか言うのは、嘘だってみんな信じてくれた。…でも、2回目は信じて貰えなかった。火のないところに煙は立たないって言うしね。私にも何か原因があったんだと思うし」


「そっか」


「でも、私にも限界がきた。一度だけ桜に仕返ししたの。私の親、警察官でさ。お前のお父さんも汚いことして偉くなったんだろうって言われて、ムカついて叩いた」


「その結果、イジメがさらにエスカレートして、今みたいな感じでイジメられるのが日常になった。酷い時は道路に突き飛ばされて、車に轢かれたりもしちゃったし」


 それはもう、イジメの領域を超えている。

 先生も誰も止めなかったから、みんな調子に乗ったのだろう。

 酷い話だ。


 あいつら消しとばした方が良かったのだろうか?


 今更になって、自分のとった選択が間違っていたんじゃないのか?と思えてくる。


 自分が中途半端なことをしたせいで、美月が更に酷いイジメに遭うかもしれない。


 その結果が容易に想像できた悠馬は、真剣な表情で美月の方を見た。


「それで私はあの子たちから逃げたくて、本土から完全に引き離されて、本土の生徒たちとの接触がほとんどない異能島の入学を希望した。…でも、私運がなくてさ。今日のペーパーテストで、あの子たちと同じクラスになっちゃって。挙げ句の果てには寮まで近所。ペーパーテスト終わって、走って帰ったんだけど後付けられてたのかな、寮知られてて。さっきの有様ってわけ」


  つまり、彼女は悠馬の寮じゃなくても、あのいじめっ子たちから離れられる寮に泊めてもらえればどこでも良かったわけだ。


 数分前淡い期待をしていた自分を殴りたい。悠馬は心の中でそう嘆いている。


「それで、2つ目のお願いは?」


 彼女は悠馬と出会ったときに、お願い事が2つあると言った。


 1つ目は寮に泊めてもらうことで、2つ目は一体なんなのだろうか?


 1つ思い当たることがあった悠馬は、その言葉を期待しながら問いかけた。


「桜たちを…どうにかして落とす方法ってないかな?」


 そらきた!

 自分が求めていた、彼女のどす黒い部分に心の中で歓喜する悠馬。


「勿論、対価は払う。お金でも、何でも。…さっき言ってた、そういうお礼でも構わない」


 先ほどの発言を覚えていたのか、そう言いながら顔を赤くした美月を見て、悠馬は大変申し訳ない気持ちに苛まれる。


 自分がちょっと調子に乗ったせいで、彼女に変な覚悟を決めさせる形になってしまったのだ。


「じゃあ先に対価を決めていい?君の異能は?」


「篠原でも、美月でも…好きに呼んで。私の異能は、闇と透過。闇は文字通りの闇で、透過は少しの間自分を透明にしたり、物を透明にしたりできる」


 珍しい能力×2だ。

 闇と聞いて、自分と同族であることをただただ喜ぶ悠馬。


 透過は応用力が高そうだし、不法侵入し放題なんじゃないか?と良からぬ想像もしてしまう。


「それじゃ、篠原。ごめん、名乗り忘れてたね。おれは暁悠馬。好きに呼んでくれて構わないよ。レベルはいくつ?」


「それじゃあ、暁くん。レベルは9だよ」


 その言葉を聞いて、悠馬は仰け反る。

 さっきのいじめっ子のリーダーはレベル8だとほざいていたし、もしかしなくても、美月1人で解決できる問題だったんじゃないか?


 俺って逆に迷惑なことしたんじゃないの?と考え込む。


「あ、一応言っとくけど、私いじめっ子たちに闇堕ちしちゃったことは言ってないから、あの子たちは私がずっと聖人の善人だからやり返さないと思ってる。…まぁ、私がやり返したところで誰もやめたりはしないからね。所詮多勢に無勢だよ」


 悠馬が言いたいことを予期しのか、彼が口を開く前にいじめっ子たちに異能を使わなかった理由を口にする。


「そっか。それじゃあ、篠原。対価は決まった。もし俺とお前が入学出来たら、出来る限りでいい。その能力を、俺のために使って欲しい」


 まだ何かをすると決めたわけじゃないが、透過という名の異能は、一度も耳にしたことがなかった。

 

 一体どれほど優れた物なのかはわからないが、その異能が便利なものならば、色々な情報を盗み見ることも出来るわけだ。


  悪いことばかりを考える悠馬は、少しだけ口元を緩める。


「わかった。暁くんのために異能を使う」


「俺は対価として、あのいじめっ子たちをどうにかして入試から脱落させる。…ついでに、篠原。乗りかかった船だ。高校三年間、何があってもお前を助けてやるよ」


  別に、1人くらいなら簡単に守りきれるだろうし、俺は下手をすると入試で用済みになる訳だ。

 

  彼女が約束を反故にするとは思えないが、その可能性がゼロではない為に、三年間彼女を縛り、約束を守らせるだけの条件が必要だった。


 悠馬のそんな事情を知らない美月は、耳まで真っ赤にしてコクコクと頷いている。


「よし、じゃあ話は終わったね。風呂入ってきなよ」


「ありがとう」


  悠馬に風呂の方を指さされた美月は、椅子から立ち上がると、風呂場へと向かう。


 彼女が風呂場へと向かう姿を興味深そうに眺めた悠馬は、ポケットに入れていた携帯端末が震えたことに気づき、携帯端末を取り出した。



 重要【明日の実技試験の内容について】


 こんばんは。第1異能高等学校入試部です。

 明日の実技試験の内容が決まりましたのでルールを下記に記載しております。

 各自ご確認ください。


 試験開始日時:明日午前10時〜1時間を目安。


 集合場所:第1区第1異能高等学校裏にある瑞穂山入口


 持ってくるもの:学校側が配布した携帯端末、制服ではなく各中学の体操着を着用。忘れた物は明日の午前10時までに本学入試課までお越しください。


 以下、試験内容

 制限時間:1時間


  今回の試験は、色で分けられた3チームで行うこととする。

  3チーム三つ巴で実技試験を行い、異能を使って相手チームカラーの生徒を戦闘不可にすることにより採点とする。

  また、本試験は万全の体制でバックアップがされているため、悪意のある攻撃でない限り、受験者に大怪我を負わせることはできない。

 

  チームカラーは白、黒、赤の3つで、チームカラーはルール説明の最後に記入されている。


 各チームには王が1人ずつ設けられており、王は本試験を受験する生徒の中でレベルの高い上位者3人が選出される。


 王の他にも、叛逆者【各チームから5名】、占い師【各チームから5名】通常学生【選ばれなかった生徒全員】がランダムに選ばれ、叛逆者は自分の望んだタイミングでチームカラーを変更でき、占い師は自分チームと他いずれか片方のチームの王を知ることができる。占い師はその情報を最大で3名まで共有することが可能で、それ以上の受験生に共有を行おうとした場合、その時点で失格とする。




  王はこの試験には参加するが、実技試験の影響を受けず、無条件で合格とする。


 この実技試験は、制限時間の他にいずれかのチームにの王が戦闘不可と判断された場合、即時終了となり、王を戦闘不可にした生徒は無条件で合格となる。


 あなたのチームカラーは【黒】 役職は【王】です。


 メールの全文を見て、悠馬は思わず笑い声をあげる。


「はははは…!」


 この試験内容なら、あのいじめっ子たちを簡単に脱落させることができる。

 加えて、能力上位者3名を無条件で合格にした理由はおそらく、その3人が真面目に試験を受けると、平等な試験、評価ができないと判断したからだろう。


 例えば悠馬が、先ほどのいじめっ子3人を氷漬けにした異能を開幕と同時に使えば、近くにいた生徒は即脱落。採点をする前にある程度の人数の試験が終わってしまうのだ。

 それを危惧して、高位の異能力者にはなるべく動いてもらわないような方針をとったのだろう。


 それに、異能島も強い異能力者は手元に置いて起きたいようだしな。

 異能島には、2つの教育目標がある。


 1つ目は、きちんとした異能の使い方を学ばせ、将来活躍できる職場を各々で見つけてもらうこと。


 2つ目は、数年前の解放軍のような狂人を生み出さない為に、危険思想を持ち合わせた大人を人格形成の場である学生生活中に接触させない。


 というものだ。

 例えば、上位の異能力者が何らかの理由で入試に落ちて本土へと戻り、危険思想の持ち主と接触して犯罪を起こす。

 まぁ、これは実例があった。


 だからこそ、異能島の入学試験委員会も、上位異能力者を易々と本土へは返したくないのだ。


 今の時点でレベル9.10ともなると将来是非軍人として働いてもらいたいような、磨けば光る金の卵なのだから。


「上がりました〜」


 悠馬が1人でニヤニヤとしていると、美月が風呂から上がってきた。

 一度寮に戻って服を取ってきていた為、さっきの薄汚れた制服とは違う、少しラフ目の真っ白なTシャツだ。


「篠原、実技試験の内容が決まった。お前のチームと役職、全部教えてくれ」


「え?わかった」


 一人勝利を確信した悠馬は、美月に携帯端末を見せてもらいながら、明日のプランを脳内に描き始めた。

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