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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
425/474

未来のハナシ

「うーん」


 さて、どうしたものか。


 瓶に入っている紫色の液体を眺める悠馬は、ベッドに横たわりながら、様々な可能性を考える。


 彼が眺めているのは、先日ヘルメスという雑貨店で購入した謎の商品だ。


 これが毒薬だった場合、かなり苦しいだろうがシヴァの結界のおかげで死ぬことはないだろう。ならば飲んでみて、何が起こるのか確認するのもありだ。


 しかし、もしかするとこれを飲んだら身体が縮んでしまっていた!なんてなるかもしれない。


 探偵になりたくない悠馬は、身体が縮んで戻らなくなったらどうしよう?などと考えながら、瓶の蓋を開けてみる。



「ま、試すか」



 身体が縮んでも、セカイを使えばなんとかなるだろうし、他の何が起こったとしても、セカイでなんとかできるだろう。


 そんな楽観的な結論を叩き出したこの愚かな男(次期異能王)は、瓶の中に入っている紫色の液体を飲み干し、瞬きをした。



「ん…?」



 瞬きをしてすぐ。

 見慣れた真っ白な何もない天井が、突如として豪華な天幕に変わってしまった悠馬は、状況が理解できずにパチクリと瞬きをする。



 瞬間移動的な薬だったのだろうか?

 確かに詐欺商品ではなく面白い商品だということは認めてやるが、使用者がゲートの異能を持っていなかった場合、どうさせるつもりだったのだろうか?


 誰のベッドか知らないベッドで横たわってしまった悠馬は、横に何者かがいることに気づき、そっちを見る。



「ろ…ローゼ?」


 横で眠っているのは、赤の他人などではなく、悠馬の恋人であるセレスだ。


 しかしセレスの雰囲気もいつもと違うというか、さらに胸が大きくなっている気がするし、色気が増しているような気がする。


 もし仮に悠馬に女経験がなければ、このまま襲っていてもおかしくないくらいだ。



「んん…悠馬さま…?」


 悠馬の間抜けな声が聞こえたのか、セレスは一度大きく目を瞑り、眠たそうな表情で顔を上げる。


「お、おはようローゼ…ここどこ?」


 セレスが顔を上げ、悠馬は周囲を見渡す。

 置いてある家具、眠っているベッド、窓越しに見える景色、そのすべてに見覚えがない。


 唯一見覚えのある彼女のセレスですら若干違うことに違和感を覚える悠馬は、不安なのかセレスの手をそっと握り、不安そうに訊ねる。


「もう…寝ぼけていますね?ここは悠馬さまの寝室ですよ」


「なんてスケベな…」


 セレスの色気の増した表情に夢中になっていた悠馬は、上体を起こした彼女がネグリジェ姿だったことに気づき、頬を赤らめる。


「…本当に寝惚けてますね。一緒に寝るときはいつもこうじゃありませんか」


「ごめん、めっちゃ寝惚けてるかも…」



 もはや何がなんだかわからない。

 ここがどこなのか、そしてセレスがなぜこんな格好で、どうして自分がこんなに大きなところを寝室にしているのかわからない悠馬は、とりあえずセレスに寄りかかる。



「完全に目が覚めるまで待って…頭の中がこんがらがってる」



「はい。昨晩仕事も忙しかったですからね。おかげで今日はゆっくり出来ますけど」



「そうそう、異能王の仕事、しんどいんだよな……ん?」


 自分の脳内に突然浮かんできた言葉が、そのまま口に出る。

 そこでようやく、悠馬は今、自分がどこにいるのかを理解した。



「未来か…ここ」


 悠馬はヘルメスから購入した薬で、未来に来ていた。

 これがどれだけ先の未来なのかはわからないが、少なくとも卒業後で異能王になっていることは確実だ。



 ある程度の状況が飲み込めた悠馬は、セレスの左手の薬指についていた指輪を見て、フッと微笑んだ。



 どうやら未来の悠馬は、セレスと結婚しているようだ。



「みんなはどこかな…」


「お花に水をやっているかもしれませんね。手伝いに行きますか?」


「ううん。みんながいるなら、大丈夫」


「あ!パパとセレスおねえちゃんまたラブラブしてる!」


「!?パ…」


 セレスとの会話に夢中になっていた悠馬は、不意に遠くから聞こえた声に、ベッドから跳ね上がる。


 悠馬が視線を向けた先には、黒髪にエメラルドの瞳をした3歳ほどの可愛らしい少女が立っていた。


「うふふ、おはようございます、蓮華ちゃん」


「おはよー!セレスお姉ちゃん!ママがご飯作って待ってるよ!パパの分はなし!」


 微笑みながら蓮華と呼ばれた幼女と話すセレスと、悠馬のことをパパと呼び、飯は抜きだと両手でバツマークを作る蓮華。


 何がなんだかわからない悠馬は、くるくると目を回しながら、ベッドに倒れ込んだ。


「悠馬さま!?」


「パパー?」


「ごめん、数秒だけ待って」


 え?パパ?パパってパパだよね?

 誰の子供?いや、誰の子供ってそりゃあ、蓮華って間違いなく花蓮ちゃんとの子供でしょうよ。



 名前と容姿から冷静に分析を進める悠馬は、自分に子供ができていることを知る。


 嬉しい。正直めちゃくちゃ嬉しいよ?

 でもこれは俗に言う、ネタバレをくらっているようなものだ。


 自分のハマった漫画を読み進めていく最中に、ああ、アイツ死ぬよ。とネタバレをされたような感じに近い。


 まさかここで自分の娘の名前のネタバレをくらうと思っていなかった悠馬は、数秒間額に手を当て、上体を起こした。



「悠馬さま、今日は様子がおかしいですよ?やはり昨晩無理をなされたのでは…」


「ううん。大丈夫。まだ少し混乱してるけど、多分すぐに治るから」


 もしかすると、時間が経つにつれて空白の記憶についても知ることができるのかもしれない。


「パパ、抱っこ!」


「あい、こっちおいで〜」


 とりあえず、色々と理解が追いつくまではこの世界を楽しもうじゃないか。


 蓮華ちゃん可愛いし。


 まだぷにぷにとした、小さな子供特有の柔らかさを持っている蓮華を抱き抱え、悠馬は微笑む。


 これが自分と愛する花蓮の子供だと言うのだから、記憶がなくとも愛着が湧くのは当然のことだ。


 悠馬は子供の抱っこの仕方なんてわからなかったが、蓮華へと手を伸ばすと、どうやら身体が覚えているらしくなんの迷いもなく、彼女を抱えることができる。


「今日ねー、ママがねー、パパと蓮華のためにパンケーキ焼いてくれたの!」


「おー、そっか〜、今日の朝ごはんはパンケーキか!美味しそうだね」


「蓮華ちゃん、言って良かったんですか?」


 ニコニコと笑う蓮華に返事をした悠馬。

 今日の朝ごはんの内容を知った悠馬に対し、セレスは蓮華に対して質問をした。


 瞬間、蓮華は両手で口を覆い、首をブンブンと振る。

 その仕草が、大人がぶりっ子でオーバーリアクションをしているような感じではなく、子供特有のリアクションの仕方で随分と可愛らしい。


 わざとしているわけではなく、割と本気で焦っていそうな蓮華に頬が緩んだ悠馬は、彼女の背中を撫でながら歩く。


「パパ…今の内緒…」


「わかった、蓮華とローゼと、パパの3人の秘密だよ?」


 こう言うとき、どうすればいいのかはなんとなくわかった。

 子供の扱いを知らないといえど、流石の悠馬でも子供に対して「なんで?」「どうして?」などと言う質問責めをする気にはならない。


 蓮華は純粋に、花蓮に朝ごはんが何かは内緒とでも言われていたのだろう。


 しかし子供というのは無邪気で純粋で、うっかりと口を滑らせてしまう。


 グスンと半泣きになっている蓮華を撫でる悠馬は、子供が大好きな秘密という単語で、彼女の心を宥めて見せた。


「うん!3人のひみつ!」


 蓮華の元気な声が、白亜の廊下に響く。


 ほんと、こういう人生も悪くない。…というか、どうかお願いだから、未来はこうであって欲しい。


 嫁にも恵まれ、子宝にも恵まれ、地位にも恵まれている未来の悠馬。


 本当に、こうなってほしいものだ。



 ***



「おはようございます、悠馬さん、蓮華ちゃん」


「おはよう朱理」


「おはよーあかりん!」


 大広間、つまり世間で言うリビングは、体育館の半分ほどの大きさで、いくら戦乙女が9人いると言っても少し広すぎるのではないかと思ってしまうほどの規模だ。


 そんな中へと入った悠馬は、すでにテーブルに座っていた朱理と目が合い、互いに挨拶をする。


 そしてそれに釣られるようにして、蓮華は小さな手を挙げて、元気よく朱理に挨拶をした。


 どうやら蓮華は、セレスのことをセレスお姉ちゃん、朱理のことをあかりんと呼んでいるらしい。


 他の彼女たちのことは、一体なんと呼ぶのだろうか?


「ふふ、悠馬くんと蓮華ちゃんは今日も仲がいいね」


 聞き覚えのある声。

 嫌味や嫉妬なんかじゃなく、ただ純粋に2人の家族関係を褒めてくれているような優しい声にピクリと反応した悠馬は、椅子に座り楽な姿勢を取っている夕夏を見て、大きく目を見開いた。


「ゆ…」


 悠馬が視線を向けた先にいた亜麻色の髪をした少女、夕夏のお腹は、ぷっくらと膨らんでいた。


 そしてそれが、肥満などの不健康から発生するものではなく、新たな生を孕っているのだと言うことも、瞬時に理解できた。


「お腹、調子はどう?」


「んー、さっきね、お腹を蹴られたの。もうすぐ産まれるんじゃないかな?」


「楽しみだなぁ…元気だといいな」


「うん!」


 嬉しそうに話す夕夏を見て、感動が込み上げてくる。

 正直な話、これまで自分に子供が出来たのだとしてもこれまでとなんら変わらないと思っていたし、感動なんてしない物だと思っていた。


 しかし夕夏の孕っている姿を見ると、なんだか実感が湧かないのにウルっときてしまう。


「パパ、嬉しそう〜」


「うん、すっごく嬉しいよ。蓮華はもうすぐお姉ちゃんになるんだ」


「うん!」


 抱っこしていた蓮華を子供用の椅子に座らせた悠馬は、彼女の横の椅子に座り、すでにテーブルの周りの椅子に待機していた彼女たちを見渡した。


 ソフィアは悠馬が知っている時と違い、随分と髪が伸びている。おそらく椅子に座れば、床に髪が付くのではないかと思うほど髪を伸ばしている彼女は、紫色の髪を払い除け、悠馬と視線が合うと微笑んで見せる。


 美月も少し、髪が伸びている。

 少しイメージチェンジをしたのか、前髪を横に流している姿が新鮮で、なんだか初対面のように緊張してしまう。


 色気が増したセレスや、妖美さが増した朱理を順番に見て行った悠馬は、孕っている夕夏と目を合わせ、微笑み合う。


「おはようございます」


「おはよう」


 悠馬が夕夏と微笑み合っていると、聞き覚えのある声が響き、悠馬は扉の方へと視線を向ける。


 視線の先には、ショートカットになった愛菜と、こちらもショートカットにしているオリヴィアの姿が見えた。


 2人ともバッサリと髪を切ってしまっているが、それが新鮮でとてつもなく可愛らしく、思わず口元が緩んでしまう。


 愛菜とオリヴィアは、青色の瞳で悠馬を見つめると、軽く手を振ってから席につく。


 そしてふと、悠馬はあることに気付いた。

 花蓮は料理当番のようだからまだリビングに姿を見せないのはわかるが、あと1人は、一体誰なのだろうか?


 自分が選んでいない、あと1人の戦乙女。

 ネタバレ回避などではなく、純粋な好奇心で最後の1人が気になる悠馬は、キッチンに見える花蓮の姿を確認してから、考え込む。


 どんな人を、戦乙女にしたのだろうか?


「はい、できたわよ」


 悠馬が考え込む最中、思考を遮るようにしてキッチンから現れた花蓮は、一児の母とは思えないほど見事なプロポーションで、視線が交わった悠馬へとウィンクをした。


 やばい、自分の嫁だが、人妻になった花蓮ちゃんは高校生の自分には刺激が強すぎる。


 未来の自分と結婚し、人妻としての色気がムンムンの花蓮に見惚れる悠馬は、最後の1人、自分が選んだであろう最後の戦乙女が、扉から入ってくるのに気付かなかった。


「相変わらず仲が良いね。キミら」


「!」


 聞き覚えのある声、おそらく最後の1人の戦乙女であろう人物の声。


 ピクリと反応を見せた悠馬は、扉のすぐ横に立っていた人物を見て、大きく目を見開いた。


「ル…」




「さま!悠馬さま!」


「はっ…!」


 悠馬は自身の名前を呼ばれ、大きく目を開く。

 悠馬が目を開いた先には、セレスが不安そうな表情で膝枕をしてくれていた。


「大丈夫ですか?…朝起きて降りてきた時、リビングに倒れていたんですよ?」


「あ…あー…なんかの夢を見てた気がするんだ」


「夢?ですか?」


 何か、とんでもなくしあわせな夢を見ていた気がするのだが、それがなんだったのか、イマイチ思い出せない。


 頭にモヤがかかっているような、夢特有の、鮮明に覚えているつもりなのに、内容の殆どを記憶できていないと言う謎の現象だ。


 何か、すごく重要なことを忘れているような気がする。


 険しい顔になりながら立ち上がった悠馬は、セレスに「ありがとう」と一言告げると、額に手を当て、息を吐いた。


「俺は何を見てたんだ…?」


 悠馬が自分が未来を見ていたと鮮明に思い出すのは、数年後の話だ。

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