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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
422/474

幕間

「たくさん召し上がってくださいね」


「は、はい!ありがとうございます」


 まるで聖女のように微笑みながらご飯を取り分けるセレスの姿を見て、愛菜は緊張しながら返事をする。


 本土の桜庭家と紅桜家の結婚式場から連太郎と愛菜、どちらも誘拐するという珍事を巻き起こした悠馬は現在、異能島の自身の寮、つまり第3学区のビーチ横の寮にて食卓を囲んでいた。


 もう1つのテーブルではみんなが座ることもできなくなったため、悠馬の寮にはテーブルがひとつ増えている。


 それもそのはず、悠馬の寮には現在、花蓮、夕夏、美月、朱理、オリヴィア、セレス、ルクス、愛菜がいるのだ。


 当然、悠馬は9人がけのテーブルなんて買っていなかったため、愛菜を攫ったあとすぐに、異能島のホームセンターでテーブルを購入してきた。


 そしてそんなことなんかよりも1番気になっているのは、なぜルクスがこの食卓に紛れ込んでいるのかということだ。


 悠馬はセレスの作ったご飯を食べるルクスを見て首を傾げる。


 別に彼女が嫌いというわけじゃないし、正直学校で声をかけてくる女子なんかよりも好感が持てるのだが、ルクスが何を考えているのか分からなくて正直怖い。


 数ヶ月前、突然花蓮がルクスを自身の寮に居候させると言った時だって、かなり不安になったくらいだ。


 なんだかんだでルクスは悠馬と行動を共にするのが普通になっているわけだが、彼女は悠馬と付き合っているわけじゃない。


 この中で唯一悠馬の恋人でないというのに、それに臆さずご飯を食べる姿は大したものだ。


 というかもはや、我が家のような振る舞いでご飯を食べている。


「美味しい…!」


 悠馬がルクスへ視線を向けていると、愛菜の感動したような声が耳に入り、顔を動かす。


 愛菜はセレスが作ったご飯をパクパクと食べながら美味しそうに微笑んでいた。


「ふふ、喜んでもらえて何よりです」


 自分の作った手料理が褒められるのは、誰だって嬉しい。

 それはプロの料理人だって嬉しいわけで、セレスも嬉しそうに微笑む。


 なんだこの微笑ましい食卓は。


 いつも微笑ましかったし楽しい食卓だったが、可愛い後輩彼女が増えるだけで雰囲気が一気に変わるというか、なんだか和む。


「あ、朱理…もしかして私の味噌汁飲んだ…?」


「…知りませんよ?」


 微笑ましい食卓の中、夕夏は朱理に小声で尋ねる。

 夕夏の真正面に置いてある味噌汁のお碗の中は、8割以上空っぽになっていて味噌汁の浅瀬のようになっている。


 どうやら夕夏は味噌汁を飲んでいないらしく、横に座っている朱理が飲んだのではないかと疑っているようだ。


 現に、朱理の味噌汁は注がれたその時の状態だというのに、箸にはワカメがついている。


 これを疑わずして、誰を疑うというのか。


 何食わぬ顔でとぼけて見せた朱理に対し、彼女の箸にワカメがついていることに気付いた夕夏はムッとした表情を浮かべる。


「バレバレだよ!朱理はなんでそうやって私に悪戯するかな…!」


「反応が面白いからじゃ…」


 オリヴィアと夕夏は、何にでもリアクションしてくれるというか、スルー率が低い。

 それは意外と構ってちゃんの朱理にとっては大変面白いことで、だからこそこうして、2人を玩具のようにして悪戯を繰り返している。


「お化けが飲んだのかもしれませんよ?」


「そ、そんなわけないじゃん!」


 ほら、今みたいに。


 普通の人なら何言ってるんだ?と首を傾げてもおかしくないのに、夕夏はわりと本気で、お化けが飲んだという可能性を想像するのだ。


 夕夏の左横に座る美月は、可愛らしい2人の言い合いを眺めながら苦笑いを浮かべている。


 賑やかな食卓。

 夕夏と朱理の言い合いの中、悠馬のすぐ近くに座っていた花蓮は、ニヤニヤと笑いながら口を開いた。


「それで?悠馬、残り1人ってわけだ?」


「え…?なにが?」


「戦乙女よ。今、8人でしょ。あと1人じゃない」


「あっ、あー!」


 忘れていたのか?と呆れ気味な花蓮に、悠馬は思い出したように手を叩く。


 そういえば戦乙女は、愛菜を含めるとこれで8人になったわけだ。


 当初は絶対に集めきれないとか、どう考えても今の状況で戦乙女を選定するなんて無理だなんて考えていたが、なんだかんだで残り1人で最低人数のころまで来た。


「おめでとう悠馬。あと1年残してこのペースなら、あと1人の選定も間に合いそうだな」


「オリヴィア…」


「わ、私も悠馬先輩の戦乙女に…?」


「あ、ごめん。なにも話してなかったよね。嫌だった?」


「いえ、恐れ多いというか、光栄です!」


 愛菜には恋人になろうという話はしたが、戦乙女になって欲しいとは話していなかった。


 しかし彼女だって、第1の学生ならば悠馬が次期異能王になるということは知っているはずだし、そんな悠馬に惚れていたのなら、悠馬に付き合おうと言われた時点で戦乙女に誘われることも想定していたはずだ。


「なんだか、夢みたい…」


 日本支部の裏の人間だったはずの彼女は、好きな人と結ばれ、この国を旅立ち、異能王の花嫁として自由な生活を手に入れる。


 当然、日本支部の裏はこの世界の王たる異能王より圧倒的に立場が低いわけで、悠馬が卒業すれば、もう完全に桜庭家は愛菜に手出しできなくなる。


 思ってもいなかった転機。


 卒業すればこの国の裏として、誰とも再会を果たすことなく、高校時代の思い出なんて誰かと話す時間もなく忘れ去られていくのだと考えていた愛菜にとって、今の状況はこの上ない幸運だろう。


「安心しろ、愛菜。これは夢じゃない。君が掴み取った未来だ」


「オリヴィア先輩…!」


 そう、これは悠馬が救った過程で出来上がった未来でもあるのかもしれないが、悠馬が差し出した手を愛菜が掴んだからこそ、確定した未来だ。


 これは愛菜が掴み取った未来。

 決められたレールの上から脱線して、彼女自身がなりたい自分を見つけ出したからこそ、実現できたのだ。


「…2人って面識あったの?」


 水を差すようで申し訳ないが、なんだか距離感の近いオリヴィアと愛菜に疑問を覚える。


 確かに愛菜とオリヴィアは文化祭の時、この寮で顔を合わせてはいるが、その時は大した仲じゃなかったようだし、今みたいな雰囲気ではなかった。


 意外と鋭い悠馬に対し、ぎくっと身体を震わせたオリヴィアは、助けを求めるようにして美月へと視線を送った。


 悠馬に隠れてコソコソと、愛菜を戦乙女にしようなどと計画を練っていたことだけは絶対にバレてはならない。


 今の雰囲気をぶち壊すような計画を口に出さないオリヴィアは、自分じゃボロが出るからと美月に丸投げするようだ。


 美月はオリヴィアの視線が交錯し、目を伏せた。


「悠馬は知らないだろうけど、愛菜さんとは文化祭の時に連絡先交換してたの」


「へぇ〜」


 悠馬は女の子の事情というのも知らないし、軽い気持ちで連絡先を交換していると聞いても、そういうものなのだろうと結論付ける。


 何しろ愛菜は女の子なわけだし、気安く男と連絡先を交換したわけではないため、悠馬はこの件について深く追及できる選択肢はなに一つとしてない。


 仮に愛菜とオリヴィアが怪しいと思ったところで、そこに異性との関係でも見つからない限り、悠馬は今の言葉で納得せざるを得ないのだ。


 結論、そういうものなのだろう。


 女子の事情を知らない悠馬は、女の子は一度顔を合わせれば仲良くなる生き物なのだろうと誤解をして、深く頷く。


 実際、下衆な女がいれば連絡先を交換して脅し合いや蹴落とし合いが巻き起こるわけなのだが、悠馬は彼女に恵まれているため、そういった女の負の面を知らないし。


 まったく幸せな男だ。


 それっぽい理由で納得してくれた悠馬を見て、美月はそんなことを考える。


「あと1人、か…」


 愛菜が戦乙女になってくれると聞いて、残る戦乙女はあと1人。


 ドヤ顔でこっちを見ているルクスをガン無視した悠馬は、味噌汁を飲みながら、残りの1人について考え始める。


 ここ、日本支部異能島の学生の中で、彼女たちを除いたレベル10の学生というのは、おそらくいないはず。


 先輩女子の中にレベル10がいるなんて聞いたこともないし、同学年にも、年下にもいると聞いたことがない。


 だとしたら可能性として挙げられるのは、残りの1枠は本土の学生から選ぶか、或いは…


 悠馬は先ほどガン無視したルクスの方を見る。


 アリかナシかで考えた場合、正直に話すとルクスはアリに分類される。


 彼女のスペック的には戦乙女にしてもなんら問題はないし、セレスやソフィア、オリヴィアと違って冠位という称号をはく奪されているため、今後なんらかのイザコザに巻き込まれる心配はない。


 他国から引き抜き云々と文句を言われないであろうルクスには、かなりの価値があるはずだ。


 しかしそれと同時に、いくつかの不安もある。


 まず第一に、悠馬はルクスのことを異性として見ていない。

 そりゃそうだ。自分を一度三途の川にまで追いやった女に興奮しろと言われる方が無理があるし、悠馬は両手両足を彼女に斬り落とされた経験だってある。


 ハッキリ言うと、恋愛対象、将来の花嫁候補として彼女を見れないのが現状だ。


 悠馬に一度視線をガン無視されたからかムッとした表情でご飯を食べる彼女を見ながら、首を傾げる。


 最近、ルクスの様子がおかしいような気がする。


 一番最初、出会った時から彼女はほとんど感情がないように見えたし、唯一感情が見え隠れしていたのはロシア支部に関する話についてだけ。


 そんな彼女は現在、悠馬の一挙一動で喜怒哀楽を露わにするようになっていた。


 思えばイギリス旅行のフレディとの会話を聞かれた時から、彼女の様子はおかしい気がする。


 …まぁ、自分と同じ闇堕ちである彼女が、人並みの喜怒哀楽を示せるようになるのはいいことだろう。


 彼女がどういう想いを自分に向けているのか理解できていない悠馬は、ルクスの視線を好意ではなく、成長として受け取り呑気なことを考える。


「…」


 花蓮はそんな鈍感な悠馬を、馬鹿を見るような視線で見つめる。


「…悠馬、アンタってやっぱりダメダメよね」


「え、なんの話?」


「知らない。自分で考えなさいよ」


 近くで見ている花蓮が気付く、ルクスの好意。

 それを正面から受けているはずの悠馬が好意に気付いていないことに呆れる花蓮は、半ば投げやりになりながら言葉を返した。


 呆れる花蓮を見て、悠馬は首を傾げる。


 一体なにがダメだったのだろうか?


 自分がなぜ花蓮に呆れられたのか理解できない悠馬は、食事を食べながら、自分のダメなところを考え始めた。

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