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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
404/474

動き始める残党

「んんっ…」


 明るい光が窓から差し込み、目を覚ます。

 イギリス支部に来てから、今日で3日目。今日も今日でソフィアは仕事なわけだが、こうして彼女の家でお帰りなさいを言えるだけでも、悠馬の中ではかなり幸せだ。


 一昨日晩と違い、アメリアがいないため彼女たちと一緒の部屋で眠っていた悠馬は、ソフィアがすでに起床し、着替えている姿を目にする。


「おはよ…ソフィ…」


「悠馬。おはよう。まだ寝ててもいいのよ?」


「いや、ソフィが起きてるなら起きるよ」


 時刻は午前5時。

 まだ早い時間ではあるものの、起きられないという時間帯ではないし、なによりも彼女をいってらっしゃいで見送りたい。


 そんな子供っぽい願望を抱く悠馬は、着替え中のソフィアの背後に歩み寄り、彼女を抱きしめた。


「ちょ…」


 フカフカなTシャツの中にある、彼女の柔らかな肉感。

 朝だからか寝ぼけ気味の悠馬は、しばらくソフィアに抱きつくと、数分経って手を離した。


「え!?今のなに!?」


 ソフィアはなぜ突然抱きつかれたのかが理解できずに、目を白黒とさせながら小声で叫んだ。


 彼女たちはまだ寝ているため、そこまで大きな声では叫べないが、このくらいの小さな叫びは許してほしい。


「ソフィ成分の補充」


 大きく欠伸をしながら話す悠馬は、特に興奮した様子もなく、スタスタと歩いて寝室を出る。


 それに連れられるようにして、着替えを終えたソフィアもリビングへと向かった。




 寝室を出て辿り着いたリビングは、2人で使うにはあまりにも広すぎる大きさだ。


 ソフィアはこれを1人で使っていたと言うのだから、一体何をどうしていたのか、かなり気になるところでもある。


「悠馬、何か食べたいものはある?」


「うーん、ソフィが出してくれたものなら、なんでも食べたい」


「ぁ〜もう、悠馬。朝から総帥モード途切れさせないで。今日の仕事に集中できなくなる」


「あ、ごめん」


 悠馬に甘えられるあまり、総帥としての品格を崩しまくっているソフィアは、総帥邸にたどり着くまでに切り替えられるか心配なようだ。


 アメリアだけならまだしも、フレディの前で彼女に恥をかかせるわけにもいかない悠馬は、ソフィアに注意をされてからきちんと謝罪をした。


「私は基本、朝はフルーツジュースしか飲まないけれど…それでいいなら準備するわ」


「ありがとう、飲みたいな」


 彼女と2人きりで迎える、優雅な朝。

 珍しく早い時間に起きたということもあったか、少し気分がいい悠馬は、早起きは三文の徳ということわざを思い出しながら頬を緩めた。


「はい」


 ニヤニヤと笑う悠馬の元に、グラスにフルーツジュースを注いだソフィアが訪れる。


 悠馬はソフィアの注いでくれたフルーツジュースを手にすると、それを口に含みながらソフィアを見つめた。


「悠馬は今日も出かける予定?」


「うん、俺のデバイスのメンテが今日終わるみたいだからさ。…それが終わったら、総帥邸に行ってもいいかな?」


 スウォルデンは悠馬の魔剣モデルを明日まで、つまり今日までに仕上げると言っていた。


 だから悠馬の本日の予定はデバイスを受け取りに行くだけで、その後はとくに予定がないのだ。


 ちょっと期待しているように、ソフィアの仕事場に行きたいと話す悠馬に対し、ソフィアは残念そうな表情で俯いた。


「ごめんなさい、今日は色々と立て込むことになりそうだから、帰りも遅いし、総帥邸に来ても相手できないの」


「そっか。なら、ここで待ってるから」


「うん、ありがとう」


 ソフィアが快諾してくれたなら、喜んで総帥邸に行きたかったが、彼女は学生の悠馬と違い、社会人でしかも総帥だ。


 悠馬は自分がワガママを言っていい相手じゃないと理解しているため、それ以上駄々はこねずに、ソフィアの言葉に深く頷いた。


「それじゃあ、そろそろ行くから」


「待って」


 早くも仕事へと向かおうとしたソフィアが背を向けると、悠馬は彼女の手を掴む。


 一体何だろうか?


 話したいことは話したつもりだし、悠馬に引き止められるとも思っていなかったソフィアは、不思議そうに振り返り、瞬間、接近していた悠馬に覆い被さられる。


「っ…!」


 チュッと、柔らかい感触が唇に伝わり、ソフィアは頬を赤く染める。


「いってらっしゃい、お仕事頑張ってね」


 悠馬はソフィアにキスをすると、笑顔で彼女を見送る。


 これではまるで、ヒモが稼ぎのいい嫁さんをこき使っているようにも見えなくない。


「い、行ってくるわ」


 きっとこの光景を通や栗田が見ていたら、「クソヒモが調子に乗るなよ!」と血涙を流しながら襲いかかってくることだろう。


 そんなことを思い浮かべる悠馬は、頬を赤らめながら手をひらひらと振るソフィアを玄関から見送った。



「…さてと、聖魔」


「お呼びですか?」


 ソフィアとのイチャイチャタイムを終えて、悠馬はキリッとした表情で影から現れた聖魔を見る。


「ああ。…こういうのはあんまりしたくないけど、今日はソフィアの側にいてくれ」


 大理石調の床の上、白い壁に寄りかかりながら話す悠馬の言葉を、聖魔はイマイチ理解できない。


 ソフィアは総帥で、実力的に並ぶ者は少ない。

 当然だが、そこいらのテロリストなんてワンパンで倒してしまうし、使徒だってアイベルの時のように、一撃でペシャンコにしてしまう。


 ソフィアにある程度の強さがあることを知っている聖魔は、何でわざわざ彼女を?と言いたげに首を傾げた。


「多分、ソフィは普通の仕事なら俺たちを招待すると思うんだ。だって初日の書類整理の時は、かなり忙しかったのに招待してくれた」


「確かに、書類整理ならばセレスティーネさんやルクスさんが居た方が効率が良い。…となると」


「ああ。なにか、書類じゃない問題があるから俺たちを呼びたくないんだと思う」


 書類ではなく、実力行使や対面的な何か。

 ソフィアの言動から、今日の仕事はいつも通りじゃないと推測する悠馬は聖魔へと視線を送る。


「ソフィなら問題ないとは思うけど。もし仮に彼女がピンチになったときのために、監視しといてくれないか?」


「それが悠馬さんの願いなら、私は喜んでお受けしましょう。…では、彼女が危険になった時のみ、助力するということで」


「ああ。頼んだ」


 これが思い過ごしならいいんだけど。


 悠馬が頼むと同時に、聖魔はドポンと影に沈み、すぐに姿が見えなくなる。


 取り残された室内で妙な胸騒ぎを感じる悠馬は、リビングへと向かった。



 ***



 リビングに戻ってくると、ポケットに入れていた携帯端末が振動し、何者かからの通知が来たのだと気づく。


 悠馬が通知をオンにしている人物は、そう多くない。

 重要な情報を持っている人物、もしくは親友の通知しかオンにしていない悠馬は、その通知をスルーせずに、ポケットから携帯端末を取り出した。


「…愛菜?」


 連絡を寄越してきた相手は、紅桜家に次ぐ日本支部の裏、桜庭家の長女の桜庭愛菜だった。


 最近、愛菜は美月たちともよくつるんでいるようだし、何かあったのだろうか?


 珍しい人物からの連絡に首を傾げた悠馬は、端末のロックを解除し、愛菜からのメッセージを確認した。



 悠馬先輩、もしかしてイギリス支部にいます?

 こういう情報を横流しにするのはいけないと思ったんですけど、今、イギリス支部でデバイスの強盗事件が多いらしくて、各国の軍人がメンテナンスで出していたデバイスも盗まれているみたいです。


 もし先輩が神器やデバイスを持ってイギリス支部に向かっているなら、十分に気をつけてくださいね。



 愛菜からのメッセージは、そう記されていた。


「なるほど…」


 ソフィアが立て込む理由は、これに違いない。

 イギリス支部は世界1位の異応石の産出国であり、デバイスだって世界1位の輸出量を誇っている。


 当然だが各支部の軍人は、イギリス支部とその次にデバイス輸出量の多いエジプト支部でデバイスを購入するわけで、メンテナンスのためにその2カ国にデバイスを預ける。


 そんなデバイス大国イギリス支部で、あろうことが軍人のデバイスを盗まれたのだから、大ごとだろう。


 まだ表向きのニュースではあっていないが、おそらくソフィアは、各支部の総帥や軍人に連絡を取って、裏で情報を流している。


 愛菜もその情報を知ってから、心配してくれたのだろう。


 愛菜が恋心を抱いていることなど知りもしない悠馬は、ただの良心で連絡してくれたのだと誤解をして携帯端末の画面を暗くする。


「ってかソフィ、こんな重要な話、よく2日も黙ってられたな…」


 大根役者とも言えるポンコツソフィアが、デバイスを強奪されたのに2日も何食わぬ顔で生活できたことに驚きだ。


「犯人の目星がついてるのか…?」


 様々な憶測が脳内で行き交い、自身の妙な胸騒ぎが正しかったのだと気づく。


 彼女に聖魔をつけたのは、正解だった。


共有(リンク)…聖魔。何やらデバイス強盗が起こってるらしい。…軍人のデバイスも盗まれてるようだから、相手は多分手慣れてる。…どんなデバイスがあるかわからない以上、全力でソフィを守ってくれ」


 セカイを発動させた悠馬は、右耳に手を当てながら、聖魔と言葉を交わす。


 これは共有(リンク)という異能で、半径10キロ圏内の自身と言葉を交わしたことのある任意の人物に、直接語りかけることができるという異能だ。


 スマートフォンが完全普及している現代では役に立たない異能と思われるがちだが、直接語りかけることができるため、通信履歴も何も残らず、尚且つ周囲に気づかれることなく受信できるというメリットがある。


 聖魔に現状を伝え、警戒レベルを最大限上げるように伝えた悠馬は、ソファに座り、窓辺を見る。


「スウォルデン工房は大丈夫かな…」


 ソフィアのところには聖魔が向かっているし、もしものことがあったとしても安心できる。


 そう考える悠馬だが、ソフィアの問題が頭から外れると、次に浮かんできたのは昨日、自身のデバイスを手渡したスウォルデンだった。


 スウォルデン工房には彼女たちのデバイスの注文もしたし、よくよく考えれば、悠馬と同じくメンテでデバイスを置いている軍人もそれなりにいるはずだ。


「いや、でも…」


 そもそもなんで、軍人はこのタイミングでデバイスをメンテに出しているんだろうか?


 今は戦時中でもないし、どこかの国同士がピリピリしてるというわけでもない。

 軍人が公で活動してるなんて情報が耳に入っていない悠馬は、ふと、数ヶ月前の出来事を思い出した。


「…あの時から間に合ってないのか!」


 各支部の軍人のデバイスが、メンテに出されている理由。

 それは偶然日付が重なったというわけではなく、あのお方との争いにおいて、各支部の軍人はデバイスを手にして戦ったからだ。


「何が目的だ…?」


 おそらくあの時の争いで傷つき、メンテナンスをお願いするデバイスは大量にあるはず。


 しかし軍人のデバイスは、量産型のデバイスと違ってその人に合わせた仕様になっているのが殆どで、盗んだとしても9割以上は使い物にならないゴミ同然の武器。


 イギリス支部に大量のデバイスが流れ込んでいる理由はわかった。


 しかし何故、使い物にならないものまで盗んでいるのか。

 それだけ引っかかる悠馬は、脳内で状況整理をするために瞳を閉じた。


 転売目的なら、新品を盗む。自分で使う目的なら、わざわざ軍人のなんて盗まずに、量産型の最も高額なデバイスを狙うはずだ。


 ならば何故、どうして?

 様々な可能性を考える悠馬は、ただ一つ、納得のいく答えを導き出し、目を開いた。


「……各支部の戦略を削ぐため?」


 それが最も納得のいく筋書き。

 各支部の軍人がデバイスを失えば、当然自身の異能のみに頼った戦闘になり、デバイスを扱っている時よりも少しだけ弱体化してしまう。


 相手はそれが目的で、軍人のデバイスを盗んでいるのだろうか?…それとも…


「そのデバイスを扱える特殊な異能でもあるのか…」


 セカイを手にしているからこそわかる。この世界には、まだ公では知られていない、とてつもない異能があるということを。


 そう、それは崩壊の異能のように、人が手にしてはならない、禁断の領域にたどり着いている異能が。

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