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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
402/474

スウォルデン

「…なるほど、つまり新たなデバイスを作って欲しいと」


「はい。俺にはこの魔剣と神器があるので必要ありませんが、彼女たちには必ず必要になるので」


落ち着きを取り戻したスウォルデンは、カウンターに肘を置いて悠馬の話を聞く。


その様子はいかにも職人といった雰囲気で、さっきまで自分の作ったデバイスを見てはしゃいでいたヲタクとは大違いだ。


「まず先に言わせてもらうけど、そこの金髪のお嬢さんと翠髪のお姉さんのデバイスは作らないよ」


悠馬の意見を聞いて、スウォルデンは全てを拒否するとは言わなかった。


しかしデバイスの作成を拒否されたオリヴィアとセレスは、なぜ自分たちが拒否されたのかが理解できず、顔を見合わせた。


「純粋な質問ですが、どうして2人はダメなんですか?」


彼は理由もなく断るような人じゃない。

彼が捻くれてしまった原因は、おそらく客側にある。


そもそもデバイスとは、発注をした当人仕様に作られるものであり、スウォルデンも発注者仕様で作っていたはずだ。


しかし彼のデバイスが有名になるにつれ、転売目的での購入者が増えていった。


自分が必死に作ったデバイスが、金儲けのために転売され、そもそも使う気すらない奴らの手に渡るのが許せず、彼は店に入った客を適当に遇らうようになったのだ。


「2人はもう()()()()()()()()?」


鋭い眼差しで、スウォルデンは2人の手の甲を指差す。


「…そういうことか…」


悠馬は2人の手にある共通点に気づき、納得したようだ。


スウォルデンは、既に自分に適したデバイスを持っている人物に追加でデバイスを作成しない。


何しろ最適のデバイスを持っているのだから、その人にはもう、代わりのデバイスなど必要ないはずだ。


「そ。僕は既に自身に適したデバイスを手にしている人にデバイスを作るなんてしない」


悠馬の考えを確信に変える発言をしたスウォルデンは、自分の考えを聞いて納得してくれる悠馬に安堵したのか、瞳を閉じる。


「じゃあ、残りの彼女たちの分は…」


「作っても構わないと思っている」


「!」


なんの躊躇いもなくデバイスを作ってくれると明言したスウォルデンに、悠馬は思わず頬を緩める。


今の戦乙女が新しいデバイスを作ってもらえなかった理由は、彼女たちは既に、自分に適したデバイスや神器を保持していたからだろう。


「あと、ついでにコイツのも…」


ワガママというか、後出しで言いづらかったが、悠馬は思い切って聖魔を呼び出してみる。


悠馬の影から突如として現れた黒髪の男、聖魔は、目を細めながらスウォルデンへとお辞儀をした。


「はじめまして。私は聖魔と申します」


「!!作ろう」


デバイスを作るのは時間がかかるため、後出しの追加注文なんて機嫌が悪くなってもおかしくないのだが、スウォルデンは聖魔を見るや否や、作成承諾を即答した。


スウォルデンの瞳に映る聖魔は、得体の知れないバケモノ。


しかしそのバケモノから出ているオーラは、未だかつて見たことのない、自身の最高傑作のデバイスを引き出すためには必要な人物に見えた。


長らくデバイスを作り続けてきたからこそわかる、直感。


この人にデバイスを握ってもらいたい、あの人に…そういった人間としての感情が、これまでにないほど湧き出てくる。


それに、悠馬の後ろにいる彼女たちもだ。

おそらく全員がかなりの実力者であると悟っているスウォルデンは、彼女たちのお眼鏡に適うデバイスをどのように作ろうかと、早速脳内で考えはじめている。


「まずは異能を教えてくれるかな。異能によっては、使えないデバイスも出てくるからね」


アイベルのように、身体強化系の異能にも関わらず、剣を携え戦うバカもいる。


その可能性を一言目から潰したスウォルデンは、ボロボロの筆と綺麗なメモを机に置き、彼女たちが口を開くのを待つ。


「美月ちゃんから…」


「え…あ…私、美月って言うんですけど、異能は透過と闇です」


「ミツキ、透過と闇、ね。透過を活かすなら、短剣や小太刀、剣なんかがいいかもね。何か使ったことのある武器はある?」


「闇の異能で、小太刀を…」


桜の首を薙いだのは、闇の異能で生成した小太刀だった。

あの場面でなぜ、刀や剣ではなく小太刀を想像したのかはわからないが、きっと本能的に、小太刀が1番扱いやすいと判断したからなのだろう。


派手なものや、見栄えを意識することなく、自分が一番扱えそうなデバイスを選んだ美月に、スウォルデンは筆で机をコツンと叩き答える。


「オッケー。ミツキには小太刀と短剣を用意しよう」


「え?流石に二本も…」


「…イメージしてみたんだけど、君はどうやら2つのデバイスの才能があるらしい。君がどちらの才能を選ぶのか、はたまた両方選ぶのかはわからないが、僕は選択肢を潰したくはない」


「あ、ありがとうございます」


セレスは一連の話を聞きながら、スウォルデンの恐ろしさを知る。


スウォルデンは、相手の骨格や体格、肉付きに仕草を見た上で、その人物になんのデバイスが適しているのか、はたまた何の武器を使ったことがあるのかを瞬時に割り出している。


そしてその中で、相手の隠れた才能すらも見抜いている。


天才は自身の脳内で全てを完結させ、周りには理解されず、道具や作品が完成してから理解されると言うが、まさにその通りだ。


彼は脳内で全ての確認を終えて、美月には2つのデバイスがいいと判断した。


「次、亜麻色の君」


「夕夏です。…異能は炎と雷…がメインですが、聖や闇も使うかもしれないです」


「こりゃまた珍しい」


複数持ち、しかも本来両立しないはずの異能を使うという妄言にも近い夕夏の発言に、スウォルデンは頭をポリポリと掻きながらメモを見つめる。


「使ったことがある武器は?」


「…すみません、ないです」


「だよね。……()()()()()


美月の時と違い、判断が遅いスウォルデン。

おそらく彼の直感や才能を持ってしても、夕夏のポテンシャルは計り知れないのだろう。


何しろ夕夏はこの世界に3人しかいなかった物語能力者の1人なのだ。


1人は元異能王、もう1人はあの混沌なのだから、その2人に匹敵するであろう夕夏のポテンシャルは、スウォルデンの目を持ってしても判別できない。


「いや!本当に面白いよ!君、誰だっけ?」


数秒考え込むような仕草を見せたスウォルデンは、一度リフレッシュするのか、悠馬の方を向いて歓喜する。


「悠馬です」


「ユウマ!君と出会えて良かった。こんなにデバイスの創作意欲を掻き立てられるのは人生で初めてだ!いろんなデバイスが頭に浮かんできて、もうぐっちゃぐちゃだよ!」


嬉しそうに見えるが、ぐちゃぐちゃだと言っているし、文句を言っているのだろうか?


スウォルデンが歓喜していることがわからない悠馬は、なんと答えればいいのか分からずに首を縦に振る。


「ユウカ、君のは後で考えよう」


「あ、はい」


とりあえず夕夏のデバイスは後回し。

答えを見出せない迷宮のような夕夏のポテンシャルをひとまず放置したスウォルデンは、黒髪の朱理へと視線を向ける。


「君は刀だね」


「よくわかってらっしゃいますね」


朱理の仕草を見た時から作るデバイスを決めていたのか、スウォルデンは朱理の要望を聞くまでもなく、デバイスを確定させる。


「ちなみに異能は?…ごめんね、先走って確認を忘れてた」


「闇なので刀で問題ないと思います」


「了解」


「似合いそう…」


朱理が刀を持っているのをイメージした悠馬は、彼女の和風な容姿によく似合うだろうななどと、スウォルデンとはまた違った方向で彼女のデバイスイメージを持っている。


「君は?茶髪の…」


「花蓮よ。私は大丈夫です。トリシューラと剣があるので」


「やめておいた方がいいよ。君はまだ、その2つを扱うのに苦労する。悪いことは言わないから、自分に適したデバイスをオススメするよ」


花蓮の持っている武器は、トリシューラと翠の聖剣。

それはどちらもワールドアイテムの最上位に位置する神器であり、いくら花蓮のポテンシャルが高かろうが、開花する前の花蓮はどうなるかわからない。


大怪我に繋がったり、身体を痛めたりするイメージが出来上がっているのか、スウォルデンは花蓮に対して、しばらくその2つを使わないように勧める。


「私は風の異能を使うんですけど。何がオススメですか?」


「君はこの中でも比較的筋力がある方に見えるから、剣がいいと思うけど」


1番細い美月は軽量の小太刀と短剣、その次に華奢な朱理は剣よりも軽い刀を選択している。


花蓮はアイドル活動もしていたため華奢だがそれなりに筋肉は付いているし、そこまでの重量が無ければ、風の異能を併用して剣くらい振り回せるようになるはずだ。


「ではそれでお願いします」


「はい。なるべく軽くはするから」


「ありがとうございます」


花蓮のデバイスの構想も固まり、スウォルデンは聖魔へと視線を向ける。


「剣」


「ご名答。さすが、人を見る目がありますねぇ」


視線が交錯した瞬間、スウォルデンは聖魔に何のデバイスが向いているのかを言い当て、にっこりと笑った。


どうやら彼らは、言葉を交わさずとも意思疎通ができているようだ。


その理由が天才同士だからなのか、はたまた何かの異能なのかはわからないが、この様子なら特に問題も起こらず、穏やかにデバイス購入できそうだ。


「一応、デザインを聞いておこうか?僕はあまり装飾過多なものは好きじゃないから、色やちょっとしたワンポイントのデザインになるだろうけど」


実戦で使うデバイスに、お洒落な装飾は必要ない。

何しろそのオプションで別料金を取られるような装飾は、実戦ではなんの役にも立たないただのゴミで、むしろデバイスの重量や耐久性を阻害するため、足手纏いでしかないのだ。


悠馬が次期異能王で、彼女たちが戦乙女になるとは話していないのに、スウォルデンは既に、実戦で使う前提で話をしている。


「銀か白がいいです。装飾はいらないです」


美月は自身の髪色に近いデバイスを御所望のようだ。

彼女には黒のデバイスも似合いそうだが、白や銀もイメージがしやすく、すごく似合うと思う。


「ミツキは白か銀、ね」


「私もシンプルなのがいいので、スウォルデンさんに任せるわ」


「カレンはお任せ、シンプルなのね。…黒髪の娘は?」


「朱理です。私は黒でお願いします」


「はい」


スウォルデンはメモを取りながら返事をすると、最後にニッコリと薄ら笑いを浮かべる聖魔を確認し、要望を伺う。


「私も黒で」


「了解。黒ね」


夕夏以外のそれぞれがデバイスの形状、色の要望を伝え終え、室内はひと段落したのか、沈黙が広がる。


互いに何を話せばいいのか、それとも話してもいいのかわからない状態で周囲を確認したセレスは、小さく手を挙げると、一歩前に出てスウォルデンを覗き込んだ。


「…一応確認すべきだと思うので確認しますが、デバイスは何十年先になるご予定ですか」


『あ…』


セレスに言われて、ようやく思い出す。

スウォルデンにデバイスを作ってもらいたいという一心でここにきて、しかもその当人から作成を承諾されたためすっぽ抜けてしまっていたが、スウォルデン工房は数十年先まで予約で埋まっている。


つまり何が言いたいかというと、今予約したからと言って、悠馬が王位を継承する際に、彼女たちの腰にデバイスがあるのかと聞かれると、ない可能性の方が高いというわけだ。


もしかすると、40代くらいになった時にデバイスが届くかもしれない。


なんとも言えない雰囲気、絶望にも近いオーラが室内に充満し始めると、スウォルデンはコツンと筆を置き、大きく息を吐いた。


「年内。できれば5日以内に1本は完成させたいね」


「!?」


「…失礼ですが、予約はどうするおつもりで?」


セレスの質問に、真剣に答えたスウォルデン。

しかし彼の答えを聞くと同時に、悠馬たちはセレスと同じ疑問を抱いた。


スウォルデンが数十年先まで予約で埋まっているのは事実だし、予約をした人々は、ルールをきちんと守って首を長くして待っているのだ。


それなのに悠馬たちのデバイスを優先させるということはつまり、これまでの予約を全て後回しにする可能性が出てくる。


それは商売としてどうなのだろうか?


不安を抱くセレスに対し、スウォルデンはフッと鼻で笑い、瞳を閉じた。


「そんなの、1日の作業量を増やせばいいだけ。そうだろ?」


「そうですが…」


「これは僕の仕事なんだ、好きにやらせてくれ」


スウォルデンは問題ないと言うのだから、大丈夫なのだろう。


1日の作業量を増やすと聞いて、お前の身体は大丈夫なのかと尋ねようとしたセレスは、彼に強引に話を中断されて口を噤んだ。


「…それで、ユウカ。君のデバイスについて話そうか」


全ての会話が終わり、スウォルデンは興味深そうに夕夏へと視線を向ける。


それから、夕夏のデバイスについての話が始まった。

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