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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学試験編
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入学試験3

 

  悠馬が立ち止まった先。


 下品な笑い声を上げている女子生徒たちの足元には、踏みつけられている人物がいた。


 顔を地面に擦り付けられ、後頭部を何度も踏まれている。

 彼女の髪が月夜に輝く銀髪じゃなかったら、悠馬も気づかずに見逃していたかもしれない。


「なぁ美月ぃ!お前が嘘つかなきゃこんな事にはなってなかったんだよ?んん?」


「アンタ異能島の入試は受けないって言ってたくせに、私たちに嘘ついてたわけ?」


「ほら。いつもみたいに謝りなさいよ」


「ごめ…ごめんなさい…」


 踏まれた状態で、震えながら謝る女子生徒。

 それを笑いながら動画で収めている5人の女子生徒は、倒れている彼女を何度も蹴る。


 これがイジメか。結構ムゴイな。

 真ん中で何度も謝っている女子生徒を、許すそぶりもなく何度も蹴りつける女子生徒たち。


 だが部外者の悠馬からしたら、どちらが原因でこんな揉め事に発展しているかもわからない為、仲裁は出来なかった。


  助けた方が悪者だったらこっちの気分まで悪くなるし、この問題に首を突っ込んで入学試験がパーになる可能性だってある。


 悠馬には彼女を助けるメリットが何1つとしてなかった。


 そう判断して心の中で銀髪の少女に謝った悠馬は、携帯端末のダイヤルを操作して、警察へと連絡をしようとする。


「なぁにヒーローぶって電話しようとしてるわけ?アンタ」


 悠馬が端末を操作している最中。

 イジメに夢中だった1人の女子生徒が悠馬の姿に気付き、近づいてくる。


「今警察に電話しようとしてたんじゃない?それとも理事?誰に電話しようとしてたわけ?」


 悠馬の元へと近づいてきた女子生徒は、態とらしく足を踏みつけながら問いかける。


 品のない笑顔だ。

 悠馬が彼女に対して抱いた第一印象は、その一言だった。


「これうちらの問題だからさ。関わらないでくんない?」


「そーそー。アンタもこうな風になりたくなかったら…ね!」


 悠馬に警告をするように、背後に控えていた女子の1人が、美月と呼ばれた銀髪の少女の横腹に蹴りを入れる。


「うっ…あ…」


 それと同時に、倒れていた銀髪の少女は、呻き声をあげながらのたうち回る。


「ね?黙っててくれる?今なら美月好きにしてもいいよ?口止め料と思って。どうせ美月は他人に言いふらしたり出来ないし、この島にも入学出来ないだろうから問題にもならないわよ?どうする?」


 悠馬の足を踏んでいる女子生徒は、立場が自分たちの方が上だと判断したのか、黙ってくれとお願いをするのではなく、黙っていろと念を押すように悠馬を睨みつける。


「あ、それいーねー!そのビビリ君と美月をここで青姦させて私ら動画撮影するとかどうよ?超ウケると思うんですけど!」


「あは!葉縁いい事考えるね!そうしよ?美月もいいでしょ?ねぇ!返事しろ!」


 ハヨリと呼ばれた少女に同調した女子生徒が、美月の髪の毛を強引に引っ張り顔を上げさせる。


 綺麗な瞳だった。

 銀髪の長い髪に、顔には泥や砂が付いているものの、美しい紫色の瞳が怯えながらこちらを伺っていた。


「悪いけど、俺は遠慮しとくよ。もう警察には電話してるし。じゃあね」


 もちろん嘘だ。

 警察にはまだ電話をできていない。

 足を踏んでいた女子生徒の靴から強引に足を引っこ抜き、背を向ける。


「待ちなよ。そんな事してタダで済むと思ってるわけ?」


 コンビニまではもうすぐだ。

 そう考えながらコンビニへと向かおうとした悠馬だったが、背後から呼び止められて振り返った。


「何が?」


 振り返ると同時に、鋭い風のようなものが悠馬の頬を切り裂き、血が頬を流れる。


「通報してヒーロー気取りですかぁ?でも残念、私のレベルは8。アンタをボコボコにして、ここに美月を剥いて置いて行ったら、警察はなんて思うかな?レイプ魔?強姦未遂?」


「桜、やる気?」


「当たり前でしょ!私らなら警察が来る前にこの男をボコボコにできるわ」


 よほど腕に自信があるのか、先ほどまで悠馬の足を踏んでいた女、桜は片手に小さな竜巻のようなものを発生させながら歪んだ笑みを浮かべる。


 そして彼女は、発生させた小さな竜巻をなんの躊躇いもなく悠馬へと向けた。


「ハヨリ!援護!」


 それと同時にハヨリと呼ばれた女子生徒が、集合寮の周りにある石を浮かせて、桜が放った竜巻の中に石を巻き込んだ。


「ギャハハハ!これは骨折れそ〜!」


 勝ちを確信したのか、笑い始める女子生徒たち。

 悠馬は竜巻をぼんやりと眺めながら、異能をゆっくりと発動させていた。


 悠馬が異能を発動すると同時に、発生していた竜巻は中に混ぜられた石ころと共に、跡形もなく消滅する。


 それと同時に、遠くに見える海では小さな竜巻が発生していた。


 悠馬は6大属性の4つの他にも、もう1つだけ能力が使えた。

 今回はその能力を使用して危機を回避したのだ。


「え…竜巻、消えた?」


「もう一回やるよ、ハヨリ!」


「はいよ!」


 桜は懲りずにもう一度同じことをするらしい。

 半ば呆れ気味に、冷ややかな目で桜を見た悠馬は、指先で異能を発生させると、それを桜へと放った。


「凍ってろ」


「いっ…!ハヨリ!カエデ!助けて!」


 悠馬が放った小さな氷の粒は、レベル8だと豪語した桜に直撃すると、一瞬にして全身を氷漬けにした。


 そして氷は、徐々に首を覆い、顔を凍らせていく。


「い、いや!桜!?桜!」


 数秒の後、桜と呼ばれた少女は氷漬けとなった。


 その光景を見て、残り4人の女子生徒たちは唖然としていた。


 リーダーの桜が一瞬で氷漬けにされてしまったのだ。

 生きているのかどうかもわからない。


 自分たちがして来たような生ぬるいイジメではなく、容赦のない攻撃を目にした女子生徒たちは口々に悠馬を罵った。


「ひ、人殺し!」


「ケーサツに通報してやる!」


「待って!もうやめよう?ねぇ!」


「美月渡すからぁ!」


「リーダーがやられたら逃腰なんだな、お前ら。小学校の時に習わなかったか?自分がされたら嫌なことは、他人にしてはいけませんって」


 悠馬はにっこりと笑みを浮かべて質問した。

 だが、悠馬の瞳はいつもの色とは異なっていた。

 いつもはレッドパープルの瞳が、今は真っ黒に変わり、まるで感情がないように彼女たちへと歩み寄る。


「あ、アンタだって桜を氷漬けに…!嫌がることしてるじゃない!」


「そうかな?桜ちゃんは凍ってるし、本当に嫌がってるかもわからないよ?寧ろ喜んでるかもしれない。違う?」


「そんなわけないでしょ!アンタ頭おかしいんじゃない!?」


「そうよ!アンタ病気よ!病院行きなさい!」


「ちょっと賑やかすぎない?」


 悠馬が先ほどと同じように、人差し指を出す。

 そこに展開された異能を見て、女子生徒たちは我先にと逃げようとする。


「ちょ!どいて!」


「嫌だ!私死にたくない!」


 逃げ遅れた女子生徒1人に、バリッと言う音が響きその場に倒れこむ。


「隠れんぼ?俺隠れんぼは苦手なんだよ」


 いとも簡単に2人がやられた。

 隠れた3人たちは、身を寄せ合いながら互いの意見を口にした。


「逃げようよ!一番レベルの高い桜があんなに簡単に…」


「何処によ!すぐに追いつかれるわ!」


「じゃ、じゃあどうするのよ…私こんな事になるなら逃げたかったよぉ」


 泣き出すハヨリを、カエデと呼ばれた女子が励ます。


「大丈夫だよ。だってアイツ、能力が小さい。それってつまり、一度に対象を1つしか追えないってことでしょ?一度に複数狙えるんだったら、私らが助かってる理由がわからない」


「ど、どうするの?」


「アイツを広い空間に誘き寄せて、三方向から攻撃する。そして、気絶させたら桜と翔子を連れて逃げる」


「それしかないの?」


 カエデの案に、ハヨリは乗り気ではなかった。

 本当にそんなにうまくいくのかという不安が頭の片隅に残っていたからだ。


「アンタが必要なのよ。ハヨリ、アンタの能力は1キロくらいの重さの石なら、最大10個扱えるでしょ?これで13方向から攻撃できる」


「わ、私はやるよ。まだ死にたくないもん!」


 いつの間にか悠馬に殺されると勘違いしている女子生徒たちは、一斉に広い空間を目指して走り始めた。

 集合寮の真ん中にある公園だ。


 その姿を呑気に眺めていた悠馬は、一度倒れたままの銀髪少女に視線を落とすと、「ちょっと待ってて」と告げ公園へと向かった。


 チャンスはそう何度もない。

 ハヨリの能力は、使うたびに許容量が減るから、一度失敗すれば手数が減る。


 それにその失敗の隙にハヨリがやられてしまったら、2方向からの攻撃しかできなくなる。


 実質チャンスは一度だけ、良くて二度だと考えたほうがいいだろう。


 そう判断したカエデは、滑り台の背後で悠馬を待っていた。


 自分が囮になって、攻撃はハヨリとミチコに任せる事になっている。


 あの2人はビビって囮なんてやりたがらないし、ここは私がするしかない。


 そう自分に言い聞かせ、今まで見たこともないほど強い異能力者を前に、深呼吸をする。


 もしかすると、あの男はレベル9や、その上のレベル10なのかもしれい。


 レベル10なんて県に1人いればいいと言われるレベルのため、噂程度でしか聞いたことがないが、そんな超のつくほどの上位能力者と敵対していることを心底バカバカしく思う。


「美月さえいなければこんな事にならなかったのに…!」


 人は負けそうな時、自分の命が危機にさらされたとき、自分よりも遥か弱者か、強者に責任転嫁をしようとする。


 アイツから指示されたからやった。

 アイツのせいで失敗した。アイツがいなければ…と。


 真っ暗な公園の中、砂の上を歩く音が聞こえたカエデは、意を決して滑り台から身を乗り出した。


「こっちだ!」


 カエデが声をあげ、指先から水を発生させて悠馬にかけようとする。


 それが合図なのか、先ほどよりも数段大きいサイズの石が、悠馬目掛けて飛んでくる。


 こんなものが直撃したら大惨事だ。


 加えてカエデと呼ばれた女子とは別方向から、ハヨリと呼ばれた女は石を持って、もう1人の女子、ミチコは雷系統の能力をバチバチと散らしながら近づいてきた。


「ニブルヘイム」


 悠馬がそう呟くと同時に、周囲の気温は氷点下まで下がった。


 空中を飛んでいた石は効力を失ったのか地面に落下し、3人はまるで、氷の彫刻のように固まっていた。


 悠馬を中心に10メートルほどの範囲の地面が凍り、その空間にあった遊具や女子生徒たちも、氷に覆われらている。


「大丈夫。加減はしてるよ。明日の入試に害はないと思う」


 まぁ、聞こえてないだろうけどさ。

 悠馬は独り言のようにそう呟き、先ほど銀髪の少女が倒れていたところまで戻った。


「あの…元気?じゃないよね…」


 氷漬けの桜と、なんちゃって電撃を食らった翔子を無視して、悠馬は美月と呼ばれた少女の前にしゃがみこむ。


 こういう時、なにを話せばいいんだろうか?

 言葉に困った悠馬は、自分がアホみたいな質問をしてしまった事に頭を抱える。


 こんなボロボロの女子生徒が元気なわけがない。そもそも虐められていたのだから、元気と答えるわけがないだろう。


「ありがとう…ございます」


 震えながら起き上がった女子生徒は、既に着ていた制服は泥や土で汚れ、みすぼらしい姿になっていた。


「人として当然のことだよ」


 悠馬はそう答えるが、ついさっきまで警察に通報してスルーでいいや。などと思っていたため少し心が傷む。


 気づけば、悠馬の瞳の色は黒ではなく、レッドパープルへと戻っていた。


「そしてごめんなさい…助けてもらって言えることじゃないのはわかってますけど…2つお願いを聞いてくれませんか?」


 美月は、悠馬に向けて深々と土下座をする。

 それを見て仰け反った悠馬は、1つ返事で承諾してしまった。


「わかった。だから頭を上げて?」


 内容を聞く前に、こんな道端で少女を土下座させているように見える羞恥と、先ほどまで見捨てるつもりだった罪悪感が勝り即答してしまったのだ。


「一晩でいいので。寮に泊めてくれませんか?」


「え…?」

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