男同士
先日投稿した398話後半を改稿しています。すみません…(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
「ふぅ…って、あれ?みんなは?」
風呂を上がり、髪にタオルをかける悠馬は、ガラガラになっているリビングに座るフレディを見る。
ソフィア宅に宿泊が決定している悠馬は、寝る準備を済ませているのかラフな格好で、温まった身体そのままに声をかけた。
「三階に大きな浴場があるみたいで、みんなで向かったよ」
「そっか」
流石にフレディもアメリアもいる状況で、悠馬が彼女たちと一緒に入浴するのはマズい。
悠馬は高校生なわけだし、ソフィアの風体にも関わる問題に発展し得るため1人で入浴した悠馬だが、女子メンバーは全員一緒に入浴しているようだ。
正直羨ましい。
ほんの少しと言えど、心の奥底で彼女たちとの混浴を期待していた悠馬は、自分だけはぶられているような気持ちになり、しょんぼりする。
「フレディ、仕事のほうはどうなんだ?」
「今にも逃げ出したい気分だよ」
「はは、かなり疲れてるな」
フレディとは初対面じゃないし、それなりに会話をしたこともあるため、すんなりと言葉が出てくる。
大きなソファに腰をかけた悠馬は、髪の毛を丁寧に拭き上げながら、向かいに座るフレディを見つめる。
「黒髪…になったんだね…それが地毛なのかい?」
「ああ…元は黒髪だったんだよ」
話をしながら、黒髪をほんの少し掴んで自身でも確認する。
確か、留学した頃はまだ茶髪だったし、色々と気になるところもあるのだろう。
興味津々のフレディを横目に目にかかる髪の毛を横に払った悠馬は、ソファに寄りかかりながら目を閉じた。
「心境の変化…なのかな?最後に会った時なんかよりも、君はずっと成長してる」
「ああ。おかげさまでな。目も元通りさ」
「!!それは良かった!」
留学した際に悠馬の目が見えていないことに気づいていたフレディは、目が元どおりになったと聞いて嬉しそうに立ち上がり、そして我に返ったのか、恥ずかしそうにソファに座り直した。
「ご、ごめん…ついつい興奮しちゃってさ…」
「そんなに興奮することか?」
「と、当然だろ!」
「?」
悠馬は知らないかもしれないが、フレディや悠馬のことを知る学生からすると、暁悠馬という存在は時代を代表する有名人のようなもの。
なにしろ卒業後は異能王になることがほぼ確定していて、歴史の教科書に載ることは確定だ。
誰だって、知り合いにそんな人物がいたら興奮するだろう。
「でもまさか、君にこんなに大所帯の彼女がいるなんて…羨ましいな」
「ハーレム願望でもあるのか?」
「まぁ…その辺は…」
悠馬の冷やかすような発言に、フレディはゴニョゴニョと答える。
どうやら自分にハーレム願望があるのが恥ずかしいらしく、恋愛に奥手そうなフレディにはかなり難しいだろう。
「今は男同士なんだし、話そうぜ?」
「そりゃぁ…僕だって女の子にキャーキャー言われて、プレゼントなんかたくさんもらったりしてさ…ファンクラブとかできたらいいなって…」
「うわ…欲張りセットだな…」
「君が言うな!」
ハーレムの典型例というか、ファンクラブってもはやどこの漫画の世界だよソレ。
フレディの理想を聞いた悠馬は、まさかここまで予想の斜め上をいく答えが来るとは思ってなかったのか、早速引いている。
まぁ、可愛い女の子にキャーキャー言われたいという気持ちは大抵の男なら共感できるだろうし、理解もできるのだが。
「でもさ、僕ってモテないんだよね…」
「だろうな…」
「子供の時から、女の子と遊ぶ機会はたくさんあって、周りからは嫉妬されてたんだけど…結局それ止まり…」
「うん、わかる気がする…」
フレディは生物学的には男なのだが、言動や行動が女子に近い。
見た目が女っぽいためなのか、それかおそらく、小さい頃から異性とばかり遊んできたから、彼女たちの言動や行動が無意識に癖となって自身に現れているのだろう。
無意識に擦り付けられた、女性っぽい仕草と、女性に近い顔立ちのせいで、フレディは女性から異性として認識されない。
覇王とはまた違ったタイプで異性と恋愛できない、哀れな男子というわけだ。
「ねぇ暁悠馬、教えてくれ!僕はどうすればモテると思う!?」
「整形」
「君に聞いた僕がバカだった」
初手からいきなり極論を突きつけてきた悠馬に、フレディはバカを見るような眼差しでそっぽを向く。
整形は最終手段だ。
なにしろ整形にはお金がかかるし、確実にカッコよくなれる保証はない。
それになんか痛そうだし。
「整形とかじゃなくて、なんかさぁ?ないの?」
整形は嫌なフレディは、知恵を絞り出せと言わんばかりに悠馬の方へと身を乗り出した。
その仕草が実に女っぽくて、危うく持っていかれそうになる。
恋人たちのおかげである程度の魅了耐性が付いている悠馬ですら、不覚にもドキっとしてしまうのだから、覇王だったら今頃フレディの胸筋にフルダイブしているはずだ。
「…筋トレ?言動の矯正?仕草の矯正?」
「うぐ…なんか色々と傷つくな…」
「だって事実だし…」
何気ない悠馬の発言が、フレディの心を傷つける。
しかし悠馬の言っていることは事実で、フレディが本気でモテたいならば、仕草や言動から変えていく必要がある。
まぁ、変えたところで僕っ娘王子様キャラにしかならないだろうけどさ。
結果が目に見えているため、絶対にこうするべきだという判断が下せない悠馬は、目を逸らしながらため息を吐く。
「あ!絶対めんどくせぇ!って思っただろ!」
「オモッテナイヨ」
「嘘だ!めんどくさそうな顔してる!まったく、この話は君から持ちかけたんじゃないか…」
「いや…まさかこんなに面倒な会話になるとは思ってなかったんだよ…」
「その言い方酷くない?」
悠馬の微妙な反応を見て、フレディはションボリとした様子で項垂れる。まぁ、フレディからすれば藁にもすがる気持ちで打ち明けたわけなのだから、ショックを受けるのは仕方のないことだ。
「…暁悠馬、君はどうなんだよ?」
「なにが?」
「次期異能王として。…忙しくないわけじゃないだろう?」
悠馬はフレディと同じく、早くも就職先が決まった側の人間。彼よりもあと1年多く猶予期間があるわけだが、それでもこの世界の王になるのだから、今から忙しいはずだ。
そんなフレディの妄想とは裏腹に、悠馬は目を上に逸らしながら首を傾げた。
「忙しくはないかな…フレディみたいにデカデカとポスター貼られてるわけじゃないし、選挙で勝負するわけじゃないから」
総帥と決定的に違うもの。
それは選挙がないということだ。
総帥は民衆の意見を聞き、それを理解するだけの理解力や知識、そして民衆を味方につけるだけの話術が必要になる。
当然選挙に出馬するのはフレディだけじゃないし、総帥選挙は他人と比較されることが多くなるはずだ。
しかし悠馬は、現異能王の一声で就任が決定するため、民衆のための政策なんて考えなくていいし、選挙のための演説をする必要もない。
極論を言えば、民衆を味方につけずとも成り立つ立場なのだ。
だからフレディが思っているほど、悠馬は忙しくない。
「戦乙女は?アレは条件だって厳しいし、失礼を承知で言うけど、君の今の恋人全員が戦乙女になれるとは到底思えない」
戦乙女の条件はかなり厳しい。
その理由として挙げられるのが、まず前提条件として、レベル10以上じゃなければならないこと。
まず最初に、この条件のせいで全人類の女性の8割以上が脱落するのだ。
悠馬の恋人が全員レベル10以上だなんて考えもしないフレディは、厳しそうな表情で話す。
「それに戦乙女隊長だって、かなりのスペックが要求される。いくらソフィア総帥だって、戦乙女の隊長になれるほどのスペックは持ち合わせてないと思うよ」
フレディの脳内では、悠馬の恋人の中で最も優れたスペックを誇っているのはソフィア。
しかしその彼女でも厳しいと辛口な評価をした彼に対し、悠馬は特に気にした素振りもなく口を開いた。
「まずレベルだけど、みんな条件満たしてるよ」
「えぇ…驚きを通り越してドン引きだよ…」
レベルという最初で最後の難関とも言える条件を難なく突破する彼女たちは、フレディの言う通り驚きよりもドン引きしてしまう。
「それと戦乙女隊長には、適任がいるんだ」
「ま、まさかとは思うけどさ…?あの人が君と一緒にこの場に来たってことは、そういう認識でいいんだよね?」
フレディも、薄々勘づいてはいたようだ。
悠馬の指す適任が誰なのか理解し始めたフレディは、頭の奥が痛くなるような気がして、こめかみに手を当てる。
「あの人がクビになったのって…もしかして君が寝取ったからだったりするのかい?」
「いや!違うから!ローゼとは少し前から繋がりがあったけど、まともに接触したのはクビになった後からだから!」
そう、戦乙女隊長の最適任はセレスだ。
当然だが、元隊長である彼女に資格がないわけがなく、悠馬の脳内では既に、セレスには戦乙女の隊長として側にいて貰うつもりだった。
悠馬の話を聞いたフレディは、まさか現異能王のエスカからセレスを寝取ったのではないかと、気が気でないようだ。
悠馬が弁明をしているというのに、彼の挙動不審な行動を見ると、悠馬の言葉を全く信用していない。
「まさか無理やり襲ったり…」
「だから違うって!」
「も、もう何を言われても驚かないぞ…!君に常識は通用しないみたいだ!」
「おい、その言い方だと俺が法律を破って犯罪行為に手染めてるみたいだからやめろよ!」
なんだか犯罪路線でセレスと付き合ってるみたいに捉えられて心外な悠馬は、憤慨しながら頬杖をつく。
「そんな飛躍した妄想ばっかりするから彼女できないんじゃね?」
「失敬な!君が普通じゃありえない人たちを恋人にするからだろ!常識的に考えろ!」
「はっ、負け惜しみですか〜?フレディちゃ〜ん、俺の戦乙女の枠空いてるけど、もし良かったら入りますかー?」
「僕は男だーっ!」
フレディと悠馬の、醜い争い。
意外と沸点の低かった彼らは、底辺の争いを繰り広げながら大きく息を切らす。
「はぁ…はぁ…」
「割と真面目に、あと2人どうすっかな…」
「え?」
「?」
悠馬の言葉を聞いて、フレディは首を傾げた。
今日総帥邸に訪れた面々は、花蓮、夕夏、美月、朱理、オリヴィア、セレスにルクスの7人。
「あと1人じゃないか」
「?いや、あと2人だって」
「ソフィア総帥数えてる?」
「当たり前だろ」
2人の間には、大きな解釈違いがある。
フレディの認識では、今日悠馬が引き連れてきた女性+ソフィアは全員恋人だ。
しかし悠馬の認識で、ルクスは数えられていない。
だから2人の間には誤差が生じているのだ。
それに気づいていない2人はお互いに顔を見合わせ首を傾げ、指を折ってカウントを始める。
「お前誰数えたんだよ?」
「あの1人だけオーラが歪な人だよ」
「ルクスぅ?アイツは俺に対して恋愛感情なんて持ってないし、第一俺はアイツに半殺しのズタボロにされたことあるんだよ。そりゃ顔はいいけどさ。とてもじゃないけど恋愛対象としてはないって。あり得ないな」
「あ…」
誰をカウントしていたか理解した悠馬が流暢に話し始めてすぐ、彼の背後にあった扉はゆっくりと開き、漆黒の艶やかな髪を靡かせた女性が立っていた。
それにいち早く気づいたフレディは身を硬直させ、未だかつてないプレッシャーを感じて反射的に異能を発動させる手前まで持っていく。
しかし話に夢中の悠馬は、会話を10割終えてから、背後の存在に気付いた。
「…!やぁ…ルクス…」
振り返った先に立っていたルクスを見て、悠馬は作り笑いを浮かべながら会釈する。
ルクスだって恋愛対象として悠馬のことを見ていないと思うが、恋愛対象外だと明言した会話を本人に聞かれるのは、かなり気まずい。
「……ムカつくね」
微妙な雰囲気の中、悠馬が作り笑いを浮かべていると、ルクスはそう吐き捨てて扉を閉めた。
「…?」
ルクスが怒った?
今までルクスが怒った姿なんて見たことがなかったし、そもそも怒りの感情があるのかすらわからなかった彼女が見せた行動に、悠馬は理解が及ばない。
「あーあ、フレディのせいで怒った」
「今のは君のせいだろ!顔はいいけど恋愛対象じゃないなんて言うから!」
「はぁん?向こうだってそう思ってるんだよ!お前はバカか!」
「バカは君だー!」
どうして男同士なのに、異性に対する恋愛感情の理解がここまで違うのか。
ルクスの怒りの理由を理解できない悠馬は、フレディとギャーギャーと喚き合う。
後日、ソフィア宅には近隣住民からのクレームが届いた。




