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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
38/474

怪談

 完全消灯時刻も過ぎ、真っ暗になった室内。


 イカつい体育教師、磯部から班員のチェックをされた悠馬たちは、真っ暗な部屋の中にいた。


 時刻は23時。明日のことを考えると、早めに寝て疲れをとった方がいいだろう。

 そう判断した悠馬は、今日起こった新鮮な出来事を思い出しながら、夢の中へと入ろうとした。


「なぁ悠馬、碇谷。起きてるか?」


 夢の中へと入りかけている悠馬を、容赦なく叩き起こすアダム。

 悠馬がウトウトしていると静かにしてくれる夕夏とは違い、アダムは能天気に、容赦なく話しかけてくる。


「ああ…」


「これだから、アダムと同じ部屋は嫌なんだ」


 怒る碇谷。きっと、部屋分けが不服そうだったのは、アダムと性格的に相性が悪い、というのと、眠れそうな時に妨害してくるからなのだろう、不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「まあまあ、落ち着けよ〜、俺知ってるぜ?こういう旅行の夜ってのは、班員で怖い話をするんだろ?」


 嬉しそうににししと笑うアダム。どうやら怖い話をして盛り上がりたかったようだ。


 旅行の夜、定番といえば女子の部屋に侵入してイチャイチャするか、男女でトランプをするとか。はたまた女子だけで恋バナをしたり様々あるが、怖い話も定番だろう。


 どうでもいい話ではなく、怖い話ということでほんの少し興味が湧いた碇谷と悠馬は、ベッドから上体を起こすと、悠馬は部屋に備え付けてある懐中電灯を手にして、部屋の真ん中に置いた。


 薄暗い光が、室内を包み込み、もしかするとふとした瞬間に、本当にお化けが出てくるかもしれない。

 そんな雰囲気を醸し出す、不気味な明るさだ。


「オイ、アダム、在り来たりなの話されても怖くないからよ、俺らの身近に起こりそうなの話してくれよ」


 怖い話といっても、それには種類がある。海外の話や、日本の話。それに実体験などなど。

 その中で碇谷は、スリルを感じたいのか身近で起こりそうなものを指定して、アダムに話させようとする。


「じゃあ、あんまし怖くないかも知んねえけど、異能島の七不思議なんてどうだ?身近だから確認もできるだろ?」


 碇谷の案にすんなりと乗るアダム。

 アダムは八神や通と同じく、中学も異能島の出身であるため、その手の噂を知っているのだろう。

 本土から来た悠馬と碇谷からすれば、初めて聞く自分たちが住み始めた異能島の怖い話だ。


 2人ともほんの少しだけニヤニヤとすると、アダムが寝ている方を見て、話が始まるのを待つ。


「最初はどんなのがいい?」


「そりゃあ怖くなさそうなのからだろ!メインディッシュいきなり言うと後がダメになるからな!」


 怖い話の順番といえば、最初はあまり怖くないものを持ってくるに越したことはない。怖い話に耐性がない人がいたら次の話を止めることができるし、いきなり本命の話をして、後がつまらなくなる可能性もあるからだ。


「んじゃあー、魔法島七不思議、1つ目!異能島のナンバーズ、第7異能高等学校に伝わる都市伝説だ」


 通常よりもほんの少しだけ声を低くして話すアダム。その声の低さが、ほんの少し不気味で、ちょうどいい雰囲気になる。

 生唾を飲み込んだ碇谷と悠馬は、まだかまだかと、話の続きを待っている。


「第7高校には、毎年、新1年生のクラスに、空きの席が1つだけ置いてあるらしい」


「んだそれ?誰か亡くなって、ずっと置いてあるのか?」


「それがさぁ、名簿には毎年同じ奴の名前が書いてあるらしいんだよ。ほら、異能島のナンバーズって、1ヶ月以上の無断欠席で親へ連絡、そして退学だろ?そんなナンバーズの学校に、毎年1年に同じ名前の生徒が在学してることになってるんだぜ?」


 考えてみると、少し不気味な話だ。

 異能島の国立高校、第1から第9の異能高等学校は、他の学校と比べると、若干厳しい基準が備えられている。


 1ヶ月以上の無断欠席は親への連絡、学校側の不手際で不登校になってしまっている場合を除き、即刻退学となる。

 加えて、ナンバーズには留年制度がない。成績不振だった場合は、追試験を受験し、成績が基準以下だった場合は即退学、おさらばとなってしまうのだ。


 そんな異能島の番号付き高校で、何年間も学校に在籍、しかもひたすら1年生をやり直し、顔すら見せない人間など、恐怖しか感じないだろう。


「おいおい、ど、どうせここ数年間だけだろ?」


「俺が中1のときからすでに噂があって、その時の第7の3年生が中学のときから噂があったって話だぞ?」


 少しだけ強がった碇谷だったが、アダムの解説を聞いて黙り込む。アダムが中1のときに、その噂を教えてくれた先輩が高校3年。


 先輩が中学入学時に噂があったと言うことは、かれこれ9年から10年は在籍していることは間違いないだろう。


 10年間も1年生をやり直してる学生。ルールも厳しいこの異能島の学校で、そんな生徒が本当に存在するのだろうか?


「噂だと、夜に偶に教室の席に座ってるとか、振り向いたら顔がないとか。見た目はずっと変わってないらしい。つまりずっと高校1年生の見た目ってことだな!」


 嬉しそうに話すアダムだったが、悠馬と碇谷は若干引きつった表情で、身体が寒くなってきたのか毛布を羽織った。


 バカなアダムは普通の学生と信じているようだが、悠馬と碇谷はそこそこ優秀だ。

 呪縛霊や、過去に虐められて自殺をした生徒など、さまざまな憶測が脳裏を行き交い、2人を恐怖のどん底に叩き落とす。


「ひ、一言だけ言えるのは、第7高校に入学しなくて良かったってことだな」


「そうだな…」


「お、おいアダム、もっとマシなの、現実味がないので頼む。流石に気味が悪すぎる」


 第7高校の怪談、というか、都市伝説は若干の気持ち悪さを帯びていた。

 本来七不思議って言ったら、夜にピアノが鳴り響くとか、その程度だろ?

 真昼間から机も椅子も用意されてて、9年以上も在学している謎ののっぺらぼう生徒なんて、笑えない。

 少しだけ認識が甘かった2人は、アダムにもう少し控えめな噂を出すようにした。


「そうだなぁ、じゃあ第4区って知ってるか?」


 七不思議2つ目の話を始めたアダム。

 第4区。その単語を悠馬は知っていた。数日前、夕夏の結界事件で美月に協力をお願いした時。彼女の父親の知り合いである理事が話していたという旧都市のことだ。


「あそこはな、初代異能王と、混沌が戦ったって噂されてる場所なんだよ」


「ハッ、ガキかよ」


 先ほどと比べると随分と恐怖度が下がった話に、鼻で笑ってみせる碇谷。

 こんな内容なら、先ほどの第7高校の話の方が、よっぽど怖かったんじゃないのか?と思えてしまうほどだ。


「それで?何か起こるんだろ?」


「ああ。俺も一回行ったことはあるんだけど、半分くらい行ったところで吐いちまってさ。途中で引き返した。噂じゃレベルが高ければ高いほど奥に行けるらしい。奥には混沌がまだ生きてるとか、初代様の死体があるとか。そんな根も葉もない噂だな」


 初代異能王と、混沌。それはおとぎ話のような物語だ。大まかな話をすると、混沌は世界を滅茶苦茶にしようとして、それを初代様が食い止めた。しかし混沌は、初代に敗北する直前に、呪いをかけたとされる。その呪いは、初代が誰の記憶にも、文献にも、写真にも残らないという、初代の概念そのものをこの世から消し去るという呪いだった。


 しかし、初代の恋人と、2代目の異能王は初代の記憶を死ぬまで保持し、それを記したとされる文献だ。


 まぁ、これは世間でいう勇者のお話みたいなものだ。

 本物の文献は、代々異能王が保持しているらしく、本物の物語は異能王のみぞ知る。といったところだ。


「まぁ、肝試しにはちょうど良さそうだよな?暁」


「そうだな。4区くらいだったらいってもいいな」


 第7高校はごめんだけど。2人は心の中でそう呟く。


「ほいじゃあ次、仮面の男!」


 仮面の男。その単語を聞いた悠馬は、美月の動画の中に現れていた、仮面の男を思い出していた。悠馬からしてみればかなりタイムリーな話が2連ちゃんできた。


「仮面の男は、昼でも夜でも、所構わず現れる、得体の知れないヤツらしい」


「んだよそれ、変質者か?」


「いや、異能島は高レベル同士が集まって出来てるから、その異能同士が無意識に干渉しあって出来上がった存在、なんて言われてる。なんてったって、目を合わせるとその場から消えるらしい」


「ど、どっちがだよ」


 消えるという単語にビビる碇谷。

 消されるという意味だと捉えたのだろう、悠馬もなんとなく、消されるという意味だと捉え、その物騒な話に身構えている。


「仮面の男がだよ。一瞬でいなくなるらしい。逃げるわけでもなく、存在そのものがなかったみたいに。あとは、異能島の中で好き放題やってると、突然仮面の男が現れて、目が醒めると自分の寮のベッドの上だったっていう話もある」


 得体の知れない気持ち悪さの残る話だ。実体験があるのだから、おそらく仮面の男は100パーセント存在するのだろうし、きっと噂話も8割以上は真実なのだろうが。


「あとは、その男が覚者で冠位って話もあるらしい」


「ぶはははは!冠位?それも都市伝説だろ、幾ら何でも飛躍しすぎだ!」


 大笑いで足をジタバタとさせ、笑う碇谷。悠馬は真剣な表情で、考え事をしていた。


 あの動画で、横にいた小太りの男が死神と呼ばれた仮面の男のことを、さすが冠位だと褒めていた。

 つまり、この世界には冠位が実在するということになるのではなかろうか?

 だとすれば、世界大戦を終結に導いたとされる戦神の噂や、中国の雷帝といった都市伝説も、全て事実の可能性が高くなってくる。

 戦神と雷帝の話は、また後日、時間があるときにするとしよう。


 色々な可能性が頭の中に広がった悠馬は、嬉しそうな笑みを浮かべた。

 いつか戦神や雷帝、そして仮面の男、死神に遭遇することができれば、復讐のための新たな力を手に入れることができるだろう。


 そんな期待の笑みだ。


「あとはー、」


「ちょっと待てアダム、一回懐中電灯消せ。なんかおかしい…」


 と、そこで、碇谷はある異変に気付き、悠馬がアダムへと渡した懐中電灯の光を消すように促す。


「んだよ?暗い状態で話した方がいいのか?」


 アダムは碇谷に言われた通りに懐中電灯を消すと、先ほどまでビビっていたはずの碇谷が先陣を切って灯を消せなどと言い始めた為、ちょっとだけつまらなさそうにしている。


「っ…!やっぱ…外から光が…」


 部屋に1つだけある窓。真っ暗な部屋の中で、カーテンの閉じられた窓の外から、何かの灯りが、チカチカとこちらを照らしていた。


「え?ちょ、俺なんもやってねえよ?」


「俺も何もしてない」


「お、俺もしてねえからな!」


 怪談をしている真っ最中に、外からの謎の光。ビビり切った碇谷と、不安そうなアダム。そして若干驚いている悠馬は、真っ暗な部屋の中で、お互いを見回し、誰かがふざけているのではないかと警戒する。


「んな、んなわけねえよな?どっかの班のイタズラだろ?」


「いや、教員が見回ってるのに、わざわざ懐中電灯を持ち歩かないだろ。悪戯をするにしても、ライトは夜に目立ちすぎるからな」


「冷静に分析してんじゃねえよ!余計に怖くなるだろ!」


 冷静に、生徒が懐中電灯を持って出歩くという可能性の低さを告げた悠馬に、他の班がイタズラをしていると自身に言い聞かせていた碇谷が怒鳴りつける。


 碇谷は怖い話はそこそこ好きだが、自分の身に起こりそうな怪談や、実体験は大嫌いなのだ。しかし、そんなことを言えばバカにされることだろう。


 そう思い込んでいる碇谷は、少しだけ強がり、あたかも怪談なんて怖くないですよと、強がっていたのだ。


 しかし、実体験となると話が変わってくる。


 化けの皮が剥がれた碇谷は、1人そそくさと毛布に包まると、顔以外の部位を全て守るようにして悠馬とアダムを見た。


「入って来たりしないよな?」


「さあ?通り抜けれるなら入ってくるかも」


「ぎゃぁああ!やめろよお前ら!」


 悠馬とアダムが少し不安を煽ってみると、碇谷が叫ぶ。それを面白いおもちゃを見つけたようにニヤリと笑った悠馬は、すでに外にいるのがおばけじゃないことに気づいていた。


 先程から、規則的に光るライト。

 てっきり最初は人魂とか、そんな感じのものかもしれないと思っていた悠馬だったが、その規則性を見つけてある結論に至り、そのライトが何を示しているのかを理解したのだ。


 ライトの正体は、モールス信号だ。

 おそらく懐中電灯を使って、外側から悠馬側へ向けて合図をしているのだ。

 内容は「そとにでろ」だ。


 つまり、この時点で既にお化けではないということが判明したのだ。


「お、俺寝るから!」


「起きたら横にいるかもな」


「やめろよぉ!まじでやめろ!」


 ビビる碇谷を脅しにかかる悠馬。昼頃はオラオラ系の男子だと思っていたのに、お化けがいるかもしれないとなると小学生並みになってしまった。


「あ、消えた」


「ふぅ…」


 しかし、碇谷いじりも長くは続かなかった。悠馬たちが外へ出なかったからか、5分もしないうちにライトの信号は途絶え、室内は暗闇に包まれた。


「はぁ、怖い話はやめとくか」


「そだな」


 外からの光が消えて安心する碇谷と、怪談をやめたアダム。

 これ以上碇谷をビビらせると大騒ぎになると判断したのだろう。


「話変わるんだけど、Bクラスの南雲の停学理由って、お前ら知ってるのか?」


 真っ暗な部屋の中、今度は室内で懐中電灯をつけることもなく、話を始めた悠馬。

 その内容はBクラスの南雲についてだった。

 南雲の噂は学校中に広まっているものの、ほとんどの生徒が実際には話したことがないし、どういう過程で暴力を振るって停学になったのかもわからない。


 豪華客船の中で初めて話した南雲が、そこまで悪い奴に見えなかった悠馬は、2人に向けて問いかけた。


「ああ、まぁ。俺ら教室にいたしなぁ?」


「ああ!あれは凄かったな、見てて爽快!」


「どんな感じだったんだよ?」


「話せば少し長くなるけど、いいか?」


「ああ」


 悠馬がそう答えると、碇谷とアダムは顔を見合わせ、話を始めた。

 それは、入学式当日に起こった、ある出来事についての話だ。

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