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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
376/474

天気予報は外れやすい

「凄く…良かったです」


 劇場から出てきたセレスと悠馬は、仲睦まじく手を繋ぎながら歩く。


 セレスは目元が少し赤く腫れているため、映画を観て泣いていたのかもしれない。


 映画を好評するセレスを横目に、悠馬は映画の内容を思い出していた。


 好きな人と結婚するはずだった女性が、家の都合で他の男と結婚する羽目になり、そのことを隠して好きな人と密会し、そして家の都合で結婚する男に染まっていく物語。


 最終的には女性の好きだった彼が自殺して女性も自殺するという物語なのだが、如何せん気に食わない。


 そんなに好きな人を思っていたなら女性は駆け落ちすればいいと思ったし、事実を隠して好きな人に会いに行くのも謎すぎる。


 これが女心なのかはわからないが、納得できない悠馬はセレスのように感動できなかった。


「悠馬さまはどうでしたか?」


「一応楽しめたかな?」


 眠りはしなかったし、最後まできちんと観たし、その点だけで判断すれば楽しめていたのかもしれない。


 セレスの質問に優しい解答をした悠馬は、彼女が心の中でガッツポーズをしているのに気づいていない。


 掴みはバッチリ!

 好評を得ることができたと思っているセレスは、上機嫌に悠馬の手を引き、胸を腕に押し当てる。


「せ、セレス…」


「はい?」


「当たってる」


「あっ…すみません。私ったらなんてはしたない真似を…」


 どうやら無意識だったらしい。


 セレスの豊満すぎる大きな二つの山に腕を挟まれていた悠馬は、彼女が顔を真っ赤にして頬に手を当てる姿に思わず微笑む。


「セレスもそんな顔するんだ?」


 今のセレスは、お姉さんというよりも世間知らずなお姫様という言葉がふさわしい。


 初めて見るセレスの意外な一面に、悠馬は鼓動を高鳴らせる。


「申し訳ございません」


「あ、いや…別に気分は害してないし寧ろハッピーだから」


 好意を寄せている異性の胸に触れて気分を害する人なんていないはずだ。

 気になっている人のことはなんだって知りたいし、触ってみたいし、なんならハグだってしたい。


 生命として、動物としての欲求に満足感を感じる悠馬は、映画館の外に出てから空を見上げた。


「結構曇ってるな」


「そうですね。ですが晴れ後曇ですし、仕方のないことです!」


 ずっと青空が広がっていたら嬉しいのは事実だが、今日の天気は予報ですでに知っていた。

 午後から曇空になることも知っていたセレスは、ちょっとだけ残念そうにする悠馬を励ましながら手を引いた。


 今更天気のことを嘆いたって、どうしようもない。


 すぐに気持ちを切り替えた悠馬は、左腕に付けている腕時計を確認する。


 時刻は12時過ぎ。

 待ち合わせから2時間とちょっとが経過している昼時だ。


 東京の街中は通行量もかなり増え、昼休憩なのかスーツ姿の大人たちも見える。


「お昼にしましょうか?」


 周囲を行き交う社会人に視線を向けた悠馬に気づいてか、セレスは優しい笑顔で昼食を提案する。


「そうだね。そうしよう」


 このタイミングを逃せば昼は食べなくなるだろうし、時間的にもちょうどいい。

 セレスの提案を受け入れた悠馬はふと、あることに気づく。


「あのー、セレス。大変申し訳ないんだけどさ?」


「はい?なんでしょう?」


「俺、東京あんまり詳しくなくて…」


 悠馬はセレスと接近するために張り切っていたわけだが、残念なことに服や髪型ばかりに拘ってリサーチを怠っていた。


 異能島ならまだなんとかなったかも知れないが、東京については全く詳しくない悠馬は申し訳なさそうに顔をしかめる。


「大丈夫です。今日は私がエスコートするんですよ?」


「ごめん。ありがとう」


 なんで先日まで仕事に追われていたセレスの方が東京に詳しいんだろうか?きっとこの日のために、地図から何まで把握してきたに違いない。


 お礼のためだけにそれをやってのけるセレスに感心する悠馬は、彼女の好意が自身に向いていることに気付いてもいない。


 いや、セレスが表に出さないと言うべきか。

 エスカよりは甘く優しく接しているセレスだが、その対応は夕夏を彷彿とさせるもので誰にでも平等にこの笑顔は見せてくれるはずだ。


 セレスが内心でデレデレなことを知らない悠馬は呑気なものだ。


「ところで、お昼って…」


「お寿司を食べましょう。もちろん私が払いますので」


 親指を立ててウィンクをするセレス。

 開いている右の赤眼で悠馬を見据えた彼女は、口角を釣り上げて歩き始める。


「いや、俺もお金はあるから。払うよ」


「だーめ、です!」


「っ///」


 悠馬とてお金はある。回らない寿司屋に行ったとしても自分1人分くらい余裕で払える悠馬は、割り勘を提案するがそれはあえなく失敗。


 セレスの人差し指を唇に当てられた悠馬は、耳を赤くしながら立ち止まった。


「今日はお礼なんです!悠馬さまはお金を払う必要は一切ありません。それに私は元ですが戦乙女ですよ?お金なら問題ありません」


「それじゃあお言葉に甘えて…」


 お礼の上に金銭的にも余裕だから問題ないと言われた悠馬は、それ以上何も言い返せずに大人しく引き下がる。


 というより、唇に人差し指を当てられて何も考えれなくなっている。


 セレスの魅力に魅了される悠馬は、手を引かれるがままに道を進み、回らない寿司屋の中へと向かった。



 ***



「らっしゃい!」


 真新しい白に近い木製のスライド式扉をスライドさせたセレスは、元気のいい声で迎え入れてくれた寿司屋の大将に会釈をする。


 随分と大きい店だ。いや、本当に。

 以前異能島で食べた寿司屋さんはカウンター席にテーブル席2つだったが、今来ている寿司屋さんはその4倍はある。


 この席が全部埋まっても一人で握れるのかは知らないが、もしそうだとするならとんでもない実力者のはずだ。


 入店すると同時に出迎えてくれた魚の入った水槽を横目に、2人はカウンター席へと座る。


「予約のもので良いかい?」


「はい。お願いします」


「了解!」


「…」


 悠馬は大将とセレスの会話を聞いて、すぐに察した。


 明らかに名店。悠馬は詳しくないため全く知らないが、きっと寿司屋で検索したら真っ先に出て来るであろうこの店に客が1人もいないなんてありえない。


 そして大将の予約のものという発言。

 ほぼ間違い無く、セレスがこの店を貸し切ったのだろう。


 涼しそうな顔でメニュー表を見ているあたり、こんな回らない寿司屋さんを貸し切っても懐は温かいのだろう。


「満足させられるかな…」


 早くもセレスと自分が釣り合うのか不安になってきた悠馬。

 悠馬とて流石にデートのために貸し切りはしないし、貸し切りをする時が来るとするならプロポーズの時くらいだ。


 そう思っている悠馬は、彼女がお姫様で元戦乙女隊長であることを嫌というほど実感させられる。


「?」


「ううん。なんでもないよ。ありがとうセレス。すっごく楽しみだ」


「はぅっ…そう言って頂けると予約した甲斐がありました」


 これで確定した。

 セレスが悠馬にお金を払わせたくない理由は、おそらく貸し切ったこの店の金額がとんでも無く高いからだろう。

 これを割り勘などという話になれば、悠馬は目ん玉を飛び出して転げ落ちること間違いなしだ。


 悠馬の笑顔を見たセレスは、悩殺されながら背もたれに寄りかかる。


「ところでセレス、今はどんな感じ?」


「何が、ですか?」


「その、戦乙女辞めたからさ…」


 セレスが戦乙女を辞めたのはつい先日のことだし、そもそもクビなのだが、クビとは言わない悠馬はオブラートに包みながら尋ねる。


「暇になりました。変わったことはそのくらいですかね?」


「へぇ…そうなんだ…」


 てっきり父親に色々言われたり、混乱しているのかと思っていたがそんなことはなかったようだ。


 彼女が変わらぬ表情で話しているため異変に気づけない悠馬は、続いて顔を近づけてきたセレスの質問を受けることとなる。


「悠馬さまはソフィアさまとはどういう関係なんですか?」


「へ…?」


「惚けてもダメですよ?」


 ムッとしたような、少し強めの口調で尋ねてくるセレス。

 今まで見たことのない彼女の表情にドキッとする悠馬は、身体をびくりと震わせながらカウンターを見下ろした。


「その…恋人?付き合ってるって言えばいいのかな?」


 将来的には、というかほぼ確実に結婚をする仲。

 しかし今は恋人であって、結婚の契りを交わしたわけでもない。


 付き合っていると明言した悠馬は、少し照れ臭そうに頬を掻く。


「いつからですか?まさかフェスタのあの時に…」


「違うよ!あの時は本当に偶然で…!」


 セレスは悠馬がVIPルームの廊下に侵入しているのを目撃しているため、疑われても仕方がない。


 あらぬ疑いを否定する悠馬は、首をブンブンと振りながら口を開いた。


「俺、1週間だけイギリスに留学してて…」


「その時に?」


「ああ…事件に巻き込まれて、ソフィアと協力して…その時に惹かれた」


 元々向こうが好意を寄せていたため、こっちもその気になってしまったというべきなのかも知れない。


 あの時は時間的にも余裕がなかったため自分のことで精一杯だったが、今思ってみると他国の総帥に許可なく口付けを交わしたりしているあたり大問題だ。


 色々なことを思い出す悠馬は、カウンターに頭を打ち付けたい気持ちに襲われる。


 今すぐ頭を打ち付けて気絶したい。


「はいよ!特上にぎりおまたせしやしたっ!」


 2人の会話を遮るようにして、カウンターから大将の手が伸びる。


 悠馬は大将の差し出した特上の握りたちを見て、数秒硬直した。


 回らない寿司屋では一度食べたが、その中でも高額の部類になる握りだけしか見えない。


 特上などという単語が聞こえたためそうではないかと思ったが、やっぱり大人ってすごいなぁ。


「いただきます」


 美味しそうにお寿司を口に運ぶセレスを眺めながら、そんなことを考える悠馬。


「いただきます」



 ***



「お口に合いましたか?」


 外に出てすぐ。

 回らない寿司屋さんから出てきたセレスは、真っ黒なカードを財布の中にしまいながら悠馬の様子を伺う。


「スゴクオイシカッタ」


「悠馬さま?片言になってますよ?」


 不安そうなセレスに対し、悠馬は先ほどの会計を思い返す。


 回らない寿司屋を貸し切った金額は、○○万円だった。とんでもないというか、セレスはあの寿司屋さんを丸一日貸し切っていたらしい。


 もちろんネタだって事前に予約していたため無駄になるものはないのだろうが、それでも…なぁ?


 まさかお礼の昼食で数十万円も使われるなどと思っていなかった悠馬は、トボトボと歩きながらセレスをチラチラと確認する。


「やべえ…釣り合うかな…大丈夫かな…」


 この人を戦乙女にしたいなんて自惚れたことを考えていたが、果たして本当に彼女を側におけるだろうか?


「悠馬さま?」


「ん?」


 セレスに顔を覗き込まれ、悠馬は意識を外へと向ける。


 彼女は不思議そうな表情で悠馬を見ていた。


「大丈夫ですか?体調が優れないのでしたら…」


「大丈夫!ごめん、余韻に浸ってた!」


 余計な心配をかけさせてしまった悠馬は、それとない言い訳をしながら、直後ポツンと鼻先に当たった水滴に目を瞑る。


「…雨?」


 悠馬がそう呟くと同時に、まるでシャワーの蛇口が捻られたかのように大粒の雨が降り始める。


「クソ…!せっかくのデートなのに…!」


 大粒の雨に当たりながら、悠馬は周囲を見渡す。

 残念なことに、雨宿りできそうな空間はこの場にはない。


「悠馬さま、こちらに…!」


「あ、うん!」


 突如として降り始めた大雨。

 人間なら誰しもが経験したことはある、天気予報雨降らないって言ったじゃん!というヤツだ。


 雨宿りできる場所を探すべく手を引かれる悠馬は、雨に打たれながら微かに見えた建物に気づき口を開く。


「セレス!こっちに雨宿りできそうなホテルがある!」


「ではそちらにいきましょう!」


 晴れ後雨。

 悠馬は微かに見えた建物がなんであるのかイマイチ理解できず、それでも宿泊プランと書いてあったため、ホテルだと思い込みセレスの手を引いた。

天気予報はクラスメイトの「俺テスト勉強してないわ〜」並に信じられません。

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