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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
372/474

王位と乙女2

「なっ…」


 メディア、各報道機関が白亜の宮殿の中で騒つく。

 しかし彼らの驚きよりも遥かに大きな反応を見せたのは、名指しを受けたセレス本人だった。


 彼女は驚愕したような表情で目を見開き、周囲を見回す。

 翠髪を揺らしながら赤眼を彷徨わせる彼女は、自分以外のセレスティーネを探そうとするが、残念なことに同名の人物など存在しない。


 事前にクビ宣言をされていなかったのか、徐々に青ざめた表情に変わっていったセレスは、蹌踉めきながら大理石の壁に背中を預けた。


「失礼ですが、このタイミングで戦乙女隊長を解雇する理由がわかりません」


「説明を願います!」


 セレスよりも混乱から早く立ち直ったマスコミは、マイクを伸ばしながらエスカに問う。


 正直なところ、セレスはエスカよりも有能に見える。

 エスカの出来ないことは大抵セレスがやってきたし、外交やふざけた発言の訂正だってセレスが行ってきた。


 だから率直な意見を言うと、セレスから見限られ辞職を宣言されることはあっても、エスカからのクビ宣言は絶対にあっちゃいけないのだ。


「セレスちゃん、いちいちうるさいんだよ。少し歩くにも時間制限つけてくるし、職務に関しても小うるさいし…正直面倒なんだよね」


 悪びれることもなく、エスカは呟く。

 彼の発言を聞いてから、マスコミたちは頭を抱えた。


 愚の骨頂とも言えるセレスへのクビ宣告。

 明確な理由などはなく、ただ単に色々言われるのが面倒だからと言う適当な理由で戦乙女の隊長を切り捨てる決意をしたエスカは、呆れて何も言えなくなった報道機関たちにウィンクをする。


「し、しかし…」


「クビったらクビ。要らない」


「……」


 エスカのどストレートな発言に、宮殿内は凍りつく。

 今頃ネットやSNSではエスカに対する誹謗中傷の嵐だろう。


 この場で突然クビ宣告をすると言うことは、職を失うというだけの終わり方をしない。


 当然セレスはエスカから捨てられた不要な存在という烙印を押され、周りからは腫れ物を見るように扱われる。

 セレスには何の非もないかもしれないが、世間的にはエスカの心を開けなかったセレスにも問題があるなどと言われることだろう。


 加えてセレスは一国のお姫様だ。

 いくら国のトップといえど、姫が王から見捨てられたら肩身が狭くなる。


 一族の面汚し、国の面汚しとして扱われるであろうセレスは、この時点ですでに帰る場所を失ってしまっていた。


 エスカが発言する場を考えなかったせいで、セレスの人生は転落するのだ。


 セレスは歪む視界に頭を抱え、過呼吸に陥りながら膝をついた。



 ***



「え、この人嫌いなんだけど」


「これでも一応異能王だぞ…」


 自身の意見を率直に伝えたグレー髪の少女、湊は、白い廊下に座り込み、悠馬の携帯端末を指差しながら呟く。


「でもまぁ…今のは酷いな」


 セレスの居場所も帰る場所も、自分が嫌いだからという理由で踏み潰したエスカ。


 これは異能王としてとか、そう言うこと以前に人としてしてはならないことだ。


「隊長さん、どうなると思う?」


「よくてバツイチのお偉方の再婚相手じゃない?」


「バツイチの?あんなに可愛いのに?」


「可愛さは関係ないよ。セレスさんは一度エスカに嫁いだことになってる」


 戦乙女になると言うことは、エスカの嫁になると宣言したと言うこと。関係を持っていようが持っていなかろうがそれだけは事実で、クビ宣言を受けたらバツイチと同じ扱いになる。


 そしてセレスはお姫様だから、バツイチの傷物というタグを世界中の人々が記憶するわけだ。


 当然そんなバツイチのタグが付いているお姫様を貰いたがる王子はいないだろうし、おそらくセレスに言い寄ってくるのは、暮戸に似たようなバツイチやそこらの若い女を欲しがる伯父様ばかりの筈だ。


 要するに、セレスティーネ皇国としては恥さらしのセレスを歳でもクズでもいいから少しでもいい国に嫁がせ、このことを無かったことにしたい。と考えている頃だろう。


「暁はアプローチとかしないの?」


「なんだよ…藪から棒に…」


「だってなんか不機嫌な顔してるし。それにフェスタの時好みって言ってたらしいじゃん」


「まぁ…でも現実見てるつもりだよ。俺には縁のない話だ」


 正直、あれだけ美人でお姫様でなんでもできる女性は、誰だって喉から手が出るほど欲しいだろう。


 悠馬だって後先考えなくていいと言われたら、セレスを誘拐して自分のものにしようとするレベルだ。


 しかしそれは叶わない。きちんと現実を見ている悠馬は、高嶺の花は高嶺のままだからと、見上げるだけで諦める。


「はーあ、面白くない」


「あっ…」


 悠馬は湊から携帯端末を没収され、会見の内容をリアルタイムで確認することができなくなった。


 何もすることがなくなった悠馬は、大きな板へと視線を落とし、再び作業に没頭し始める。


「悠馬くん」


「夕夏?」


 板へと色を塗り始めた悠馬は、背後から聞こえてきた声に返事をする。


 聞き慣れた声。聞いた瞬間、心の中が落ち着く優しい声の主人は、振り向かずともわかる。


 亜麻色の髪を靡かせて現れた美哉坂夕夏は、両手を後ろで組み、右足を大きく踏み出して悠馬の顔を覗き込んだ。


「みんな休憩してるよ?悠馬くんも湊さんも休んだら?」


「ううん。さっきまで休んでたし」


「私も大丈夫」


 夕夏の申し出はありがたいものだが、そこまで疲れる作業ではないし、さっきは携帯端末で会見を見ていた。


 夕夏の思っているほど疲れていない2人は、顔を見合わせながら大丈夫だと返事する。


「そ?私も手伝おうか?」


「いいのか?」


「うん!クラスは八神くんに任せておいても大丈夫だから!」


 夕夏はクラス委員だ。

 自分の勝手な都合で教室から離れられないであろう彼女だが、悠馬と一緒に居たいのか、教室内のことを八神に任せてからここへ来たようだ。


 可愛らしいというか、思わず頬が緩みそうになる。


 わざわざ彼氏のために時間を作って手伝いに来てくれるあたり、いいお嫁さんになること間違いなしだ。


 優しい表情で悠馬の横に座った夕夏は、距離の近い湊を気にする素振りも見せず、大きな板に色を塗り始める。


「ペンキって変な匂いだね」


「だね、鼻がひん曲がりそうになる」


「はは、元からひん曲がってない?」


「失礼な!」


 ペンキの独特の匂いを嗅ぎながら、湊は悠馬に冗談を言い作業に没頭する。


 ちなみに悠馬の鼻はひん曲がってない。…と思う。


「楽しみだね、文化祭」


「そうだな、今年は一緒に回りたいな」


 湊も横にいるというのに、2人は特に気にした様子もなく話をする。

 その距離感といえば熟年のカップルのようで、多くの意見を言わずとも互いに分かり合っているということが嫌というほど伝わってくる。


「花蓮ちゃんは今年も歌うのかな?私見てみたいかも」


「どうだろうね?」


「ねぇ、水をさすようで悪いけど…美月もよろしくね?あの子、寂しがり屋だからさ」


「うん、大丈夫だよ。今日も放課後会う約束してるし、その時に文化祭について話そうと思ってる」


 湊の心配しているような、美月だけを置き去りにして文化祭を楽しむなんて事態は発生しない。

 もちろん、美月が他の誰かと回りたいといえば悠馬は大人しく手を引くだろうが、そうならない限り積極的にアプローチしていくつもりだ。


 親友が蔑ろにされないか不安そうな湊は、悠馬に優しく頭を叩かれ強く目を瞑る。


「いつもありがとね。湊さん」


「いや…感謝されるためにやってるんじゃないから…」


 修学旅行前なら、気安く触るなと手を振り解かれ、激昂されていたこと間違いなしだ。


 今は借りてきた猫のように大人しい湊を見た夕夏は、口に手を当てクスッと笑う。


「どうかした?夕夏」


「湊さんが前よりももっと可愛くなった!って思ってさ」


「も、もう!からかわないで!」


 以前とは全く違う湊の挙動、表情、そのすべて。

 そんな彼女の変わりように思わず笑顔になった夕夏は、彼女の過去を知らずとも、何かに救われたことだけは直感していた。


 ポカポカと夕夏の肩を叩く湊は、耳を赤くしている。


「おい!悠馬ぁ!」


 2人の可愛らしい行動を見守る悠馬は、勢いよく開いた扉から現れた通の声にびくりと身体を震わせる。


 いくらレベルが上がっても、無警戒な状態で大声を上げられると驚いてしまう。


 危うく心臓が止まりそうなほど驚いた悠馬は、教室の前に興奮気味な様子で立っている黒髪小柄な少年、桶狭間通へと振り返る。


「大ニュースだぜ!」


「良くない知らせだな。よし、帰っていいぞ」


 通がニュースだなんだと騒ぐ時は、大抵何かに巻き込まれる。

 以前のイタリア支部総帥秘書の時だってそうだし、下手に遇らうよりも、聞く前に追い払ったほうが得策だろう。


 そう結論付けた悠馬は、興奮気味な通の話など聞かず、作業へと戻る。


「次の異能王が決まったらしいぞ!」


「なっ…」


 通の無視を決め込んで作業に戻った悠馬は、大きな板のペンキ塗りを盛大にミスりながら振り返る。


 夕夏と湊は、悠馬が動揺したことに驚いたのか、板の盛大なミスを見て顔を見合わせている。


「次の…異能王だと?」


 悠馬は筆を持っている右手を震わせながら通を見上げる。


「そうそう!次の異能王!」


「なん…だと…」


 悠馬の将来の夢は異能王になること。

 来年には進路を決めなければならず、密かに異能王について調べていた悠馬にとって、ようやく決めた夢が潰えるのはあまりにもショックだろう。


 なにしろ子供の時から異能王になることを夢見てきたのだ。ショックを受けない方が無理がある。


「くっ!どこのどいつだ!」


「なんか日本支部の学生らしいぜ」


「見つけ出して極夜してやる…」


 日本支部の学生の中に、次の異能王がいる。

 それを知った悠馬は、周囲を警戒するように確認しながら実力者を思い返す。


 真っ先に思い浮かぶのは双葉戀だ。しかし彼は異能王や目立つ立ち位置になるのは消極的な人間だし、フェスタでも成績を残すのを拒否していた。


 ならば次に思い浮かぶのは黒咲律。

 混沌との戦いの際に現れた、〝崩壊〟の異能力者。現状悠馬が戦っても勝てるかどうかは微妙なラインで、崩壊から再生できるのかもわからない得体の知れない存在。


 整った容姿だが地味なオーラを放っていて、何より悠馬的には言動が気に喰わない。


 初対面で噛ませだ真っ先に死にそうだなどと言われた悠馬は、歯軋りしながら表情を曇らせる。


「黒咲だったら絶対に極夜してやる…」


 明らかに不機嫌な悠馬は、横に座る湊と夕夏の視線に気付かない。


「誰なんだろうな?」


 バカな通と、悠馬は気づいていない。

 既に答えがこの空間にあることに。


 バカな通に同調するように深く頷いた悠馬は、眉間にしわを寄せ、考え込むような仕草をとる。


 夕夏と湊は互いに顔を見合わせると、呆れたような表情でため息を吐いた。


「…暁じゃないの?」


「うん、私も悠馬くんだと思うんだけど…」


「え?」


 まさか自分が次の異能王に選ばれているなどという可能性は微塵も考えていなかった悠馬は、鳩が豆鉄砲食ったような顔で2人を交互に見る。


 言われてみれば…というか、単純に考えてそれしかない。


 悠馬はフェスタ優勝者で混沌をも撃破した存在。

 当然だが異能王はその事実を全て知っているし、悠馬は初代異能王ですら成し遂げられなかった偉業を成したのだ。


 そして寺坂の発言していた、近いうち異能王から何かがあるという話。きっとこれが、寺坂の話していた内容のはずだ。


 悠馬が異能王になる準備というのは、水面下で進められていた。


 当の本人は全く知らない様子だが、客観的に見ても日本支部の学生の中で次の異能王になりそうなのは?と聞かれたら、異能島の生徒は大半が暁悠馬と答えるだろう。


 ありのままの事実を告げられた悠馬。


 まさか自分が次の異能王などと思ってもいなかった悠馬は、教室から雪崩れるようにして出てきたクラスメイト、階段から現れた3年生たちを見て、顔を強張らせる。


 どうやら悠馬と通以外の生徒は、悠馬が次の異能王だと判断したようだ。


「え?まじ?」


 この中で現状を最も理解できていない悠馬。

 頭が混乱している彼の、情けない小さな声が廊下にこだました。

台風凄いみたいですね。お気をつけください。

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