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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
アフターストーリー
360/474

ハワイ島

「ったく、あの入国審査のヤツ威圧的すぎるだろ」


「それな!ビビってちびりかけたぜ!」


「はは、モンジ、お前失禁太郎にやるぞ」


「んだよそれ!」


 大きなトランクケースを転がしながら、和気藹々と間抜けな話をするクラスメイトたち。


 飛行機の中は比較的広いスペースではあったものの、それでもひたすら座り続けていたため、伸びをしている生徒も多い。


 ようやく座席から解放され、自由に歩き回れる時間。


 そう、ここは地上の楽園、ハワイ島。

 学生ならば、きっと一度は行ってみたいと思ったことがあるであろう、アメリカ支部屈指のリゾート地だ。


 栗田やモンジ、山田は、口々に罵り合いながらも表情は緩みきっている。


 誰だって、修学旅行序盤でマジ喧嘩はしたくないだろう。


「お前ら。気の緩む気持ちはよくわかる。よくわかるんだが…」


 生徒たちが和気藹々と話す中、一番先頭を歩いていた黒髪の女性は、立ち止まると同時に振り返る。


 彼女が振り返るとすぐに、Aクラスのメンバーはお気楽モードから気を引き締め直したように無言になった。


 担任教師の鏡花が振り返ったからだ。


 一気に緊張感が高まるAクラスの面々は、無表情の鏡花を見て、生唾を飲む。


「ここは日本支部じゃない。当然のことだが、君らの間違った行動で、大事件が発生すれば誰も助けてくれない」


 ここはアメリカ支部。

 当然だが日本支部とルールも法律も違うわけで、何か問題を起こして知らなかったじゃ済ませられない。


「浮つく気持ちもわかるが、くれぐれも粗相、問題がないように行動しろ。わかったな?」


『はーい』


 いつになく甘めの忠告をした鏡花は、有無を言わせぬ眼光ではなく、いつも通りの表情で彼らを見下ろす。


「よし。話は済んだ。まずはホテルに向かうぞ」


 甘めの釘刺しが終わった鏡花は、ウキウキ模様の生徒たちを横目にホテルへと向かう。



 ***



「で?」


「で?って何よ」


 そこそこ豪華なホテルの一室に立ち尽くす悠馬は、部屋の奥で優雅に座っている金髪のふざけた人物を睨み付ける。


「どうして俺とお前が一緒の部屋なんだよ!おかしいだろ!」


 名前順でならアダムと2人部屋のはず。

 いや、正直アダムと2人もかなり嫌だったんだけどさ。


 修学旅行先のホテルの2人部屋で、まさか連太郎と一緒になるなどと考えていなかった悠馬は、怒っているというよりも凹んでいる。


「くそ…これが人間のすることかよ…お前と一緒なんて、タルタロスに宿泊した方がまだマシだ…」


「へいへい、ちゃっかり人様をタルタロス以下の存在にしないでくれるかなぁ?」


 悠馬の発言に、連太郎も黙っちゃいない。

 2人は確かに腐れ縁だし、悠馬は連太郎とソリが合わないため嫌がるのもわかるのだが、さすがに一緒にいるだけで犯罪者収容所以下だと言われると反論したくなる。


「いいや、タルタロスの方がマシだね、絶対」


「そりゃ絶対ないって、それにお前、ここに帰ってくるとは限らないだろ?」


「物騒なこと言うなよ…殺す気か?」


 ニヤニヤと笑いながら話す物騒な連太郎。

 ここに帰ってくるかわからないなどと言われた悠馬は、訝しそうに彼を睨みつけた。


「だってお前、彼女の部屋に…」


「あ"ぁ"あ"!それだぁあ!」


「急に叫ぶなよ!驚くだろ!」


 連太郎を指差し大声を上げる悠馬は、どうやら彼女の部屋へ行くのは盲点だったらしい。


 人生最後の修学旅行、しかも彼女がいるという展開で夜に自身の部屋でスヤァっと眠るのはどうかしている。


 彼氏彼女の関係じゃなくたって、合宿の時のように女子の部屋へ乗り込む男子は少なからずいるはずだ。


 女子部屋のことなど考えていなかった悠馬は、嬉しそうな表情を浮かべながら真っ白なベッドにダイブする。


「…でもよ、お前、鏡花先生とかどうすんだよ?」


「逆に聞くけど、お前合宿の時どうしたよ」


「いないタイミングで掻い潜った」


「じゃあ今回もそうしろよ」


 修学旅行と言われれば、女子部屋へ行くときに厳しい先生が待ち構えているのを想像するかもしれないが、それは小中学校までだ。


 確かに合宿の時は先生たちが見張っていたし、身動きが取れそうにない場面もあったが、それはあくまで、異能祭の準備期間、集団行動を厳しくするためだ。


 高校生ともなれば責任能力だってかなり向上しているし、ここは生徒たちに任せて…と緩く見守ってくれるのが国立高校というものだ。(他の高校はわからない)


 つまり何が言いたいのかというと、おそらくだが鏡花が見張りをしている可能性は低いし、見張りをしていたとしても掻い潜れば問題ないということ。


 連太郎の話を聞いて一気にご機嫌メーターが上昇した悠馬は、鼻歌混じりに制服を脱ぎ始めた。


「お、お前私服で回んのか?」


「ん?そりゃあ…制服暑いし…」


 ハワイ島は9月下旬と言えどまだまだ暖かい。

 日本支部だって地域次第ではまだセミが鳴いている時期でもあるし、制服でも私服でもいい修学旅行を、わざわざ制服でまわる必要性はないといってもいいだろう。


 何しろ男子の制服は長ズボンだし、正直言って鬱陶しい。

 見栄えよりも機能性を重視する悠馬は、着替えるそぶりを見せない連太郎を見て首を傾げた。


「お前はそのままで行くのか?」


「当たり前だろ〜?お前、修学旅行だぜ?私服だと見返した時にわかんねえだろ」


「あー…なるほど」


 連太郎の言いたいことは理解できた。

 彼の言う通り、卒業後にアルバムを見直したり、購入した写真を見たりした時、私服で写っていたらきっとプレミア感も何もないし、いつでも撮れる写真に見えること間違いなしだ。


 いくら服装自由と言えど、青春を謳歌したいなら制服で行動すべきだろう。


「それに…」


 連太郎はニヤニヤと笑いながら扉側を指差す。

 指差した方向を振り返った悠馬は、彼がなぜ指を差したのかを予測した。


「お迎えが来たようだぜ?悠馬」


「お迎え…?」


 きっと彼女たちの誰かだろう。

 特に誰とまわる約束をしたわけでもなかった悠馬は、連太郎にそう言われて立ち上がる。


 いったい誰だろうか?

 連太郎を横目に扉へと向かった悠馬は、重く重厚感のある扉へと手をかけた。


「きゃ!?」


「オリヴィア…」


 悠馬が扉を開いた先には、インターホンを鳴らそうと手を伸ばす女性の姿があった。


 悠馬が扉を開くや否や身体をびくりと震わせ驚いたオリヴィアは、金色の髪を揺らし、蒼い瞳で悠馬を見た。


「こ、こんにちは…」


 白いワンピースに身を包んだ彼女は、私服というよりも、どちらかというとドレスに近い。


 ちょっと豪華そうな、普段見せないかなり女の子っぽい彼女の姿に息を呑んだ悠馬は、ごくっと喉を鳴らし、オリヴィアの肩を掴んだ。


「な、なんだ?悠馬」


「すっごく似合ってるよ。可愛い」


「なっ…!」


 出会い頭にベタ褒めされたオリヴィアは、顔を真っ赤に染めて口をぱくぱくさせている。


 まさか衣装を褒められるとは思っていなかったようだ、あまりのことに思考が追いついていないように見える。


「あ、ありがとう///」


 しどろもどろな、いつものオリヴィアとは全く違う返事をした彼女は、悠馬から視線を逸らす。


「オリヴィア…?」


「あ、あの!暇なのか!?暇だろう!?君はいつだって暇なはずだ!」


「うぐ…!」


「ぷはは…!」


 緊張しているのか、それとも彼氏に褒められ空回りしているのか。目をくるくると回す金髪の少女は、勝手に悠馬が暇なのだと断言する。


 連太郎は混乱しているオリヴィアと、精神的ダメージを負った悠馬を見て笑っていた。


「暇…だけど…!」


 もうちょっとオブラートに包んで欲しかった!

 これじゃあまるで、本当に友達がいないクラスで浮ききった存在みたいじゃないか!


 心の中で嘆く悠馬のことなど知らず、オリヴィアは頬を桜色に染め、懇願するような眼差しを悠馬へと向けた。


「デート…したい…」


「うん、いいよ」


 初めて見る、彼女のピュアなお願い。

 彼女は軍人として生きてきた為、普通の生活ではピュアな一面が目立つが、大抵いつもは無鉄砲という表現が似合うような行動ばかりで、こうして恥じらってお願いをする姿は見たことがなかった。


 オリヴィアの誘いを即承諾した悠馬は、オリヴィアに手を引かれるがまま廊下へと出た。


「…ところで、夕夏たちは…」


「彼女たちにはすでに話を通している。だからキミは何も心配しないでくれ」


「え?ああ、うん」


 オリヴィアとデートをして、後で抜け駆けだなんだとギスギスすることを考えた悠馬だったが、どうやらその心配はないらしい。


 珍しく彼女たちに話を通しているオリヴィアは、頬を赤く染めたまま白いワンピースを揺らす。


 その姿が堪らなく美しく、そして愛らしい。

 大きく実った2つの山と、白人にしかない真っ白な肌。

 柔らかで平均的な肉付きの彼女は、悠馬の横に擦り寄ると、戯れた猫のように身体を委ねた。


 オリヴィアの身体から甘い香りと、そしてサラサラの髪が首元にあたり、身体には柔らかな感触が伝わってくる。


「今日はやけにテンション高くない?」


「うっ…」


「何か隠してる?」


 いつにも増して行動が違うというか、段取りがいいというか…手を繋いだりは道端でもしてきたが、なんだかいつもと違う気がする悠馬は、引きつった表情を浮かべた彼女を覗き込んだ。


「オリヴィア?」


「な、内緒だ!キミは今日1日、私の傍で、私の言うことを聞いてくれ!」


「まぁ、そのくらいなら…」


 図星をつかれたのか、内緒だと話すオリヴィアを見て、悠馬は頷く。


 別に死ねとかいうお願いじゃなければ言いなりにだってなるし、無茶なお願いじゃなければ彼女のお願いなんだからなんでも聞く。


 オリヴィアに言われるまでもなく、そのことを考えていた悠馬は、彼女に続いてホテルから出た。


「っ…!眩しい…!」


 ホテルの自動ドアを抜けるとすぐに、雲ひとつない晴れ間が地面を照らし、直射日光が視線の先を攻撃する。


 カラッとした日本では有り得ない心地よさのハワイ島へと降り立った悠馬は、そこから見える大きなヤシの木と、遠くに見える海を見て頬を緩めた。


「オリヴィア。今日はたくさんワガママ言えよ。俺が可能な限り叶えるから」


「ああ…!」


 こういうデートがしたかったんだ。

 異能島内ではどうしても限度というものがあるし、いくらハワイに似せて作った空間があるのだとしても、本物と比べるとどうしても見劣りする。


 憧れのシチュエーションでデートができる悠馬は、かなり上機嫌なご様子でオリヴィアを引き寄せた。


 それは周りの旅行客や、現地住民の方々に対し、俺の彼女だから手を出すなとアピールするように。


 しかし、そんな2人の時間は長くは続かない。


 ちょっとだけホテルの先へと歩き始めた悠馬は、背後からただならぬオーラを感じ、オリヴィアを抱き寄せると臨戦態勢へと入った。


「きゃ!?」


 オリヴィアは驚いたような声をあげ、筋肉質な悠馬の腕に包まれる。


 悠馬が振り返った先には、黒いサングラスをかけた黒人の大男と、黒塗りの高級車が停まっていた。


「誰だ?」


「こちらのセリフだ。痛い目を見たくなければ動くな」


 ホテルを出て早々、かなりまずい展開だ。

 どこで彼らの逆鱗に触れたのかはわからないが、黒人の大男の雰囲気は、悠馬がオリヴィアを抱き寄せてからかなり悪くなっているような気がする。


 まさか初日で事件に巻き込まれるなどと想像していなかった悠馬は、彼が現地のマフィア系の人間なのかと勝手な予測をし、オリヴィアを抱く力を強くした。


「キサマ日本人…!」


「…なんだよ。動いてねぇだろ?それとも日本人が嫌いなのかよ?」


 悠馬がオリヴィアを抱く力を強くすると、黒人の大男は額に青筋を浮かべ、詰め寄ってくる。


 そんな彼に対し、言われた通り動いてないと弁明した悠馬は、その場で踏み止まった大男を睨み付ける。


 身体強化系の異能を使えば勝てるだろうが、素手での殴り合いはまず負ける。

 彼はヴァズのように恵まれた体格に感けているのではなく、SPや護衛のように、強者特有のオーラを感じる。


 自分の習ってきた武道じゃ勝てないと判断した悠馬は、この状況で異能を使う不味さを考えながら踏み止まる。


 ここで異能を使えば間違いなく国際問題だし、アメリカ支部の法によって罰せられる。


 そう考えると、この場で異能は使えない。

 ならば逃げるか?大男は体格的に初速は遅いだろうし、最悪暴力事件にならなければ異能を使ったとしてもバレない。


 ただ足が早かったで解決できるし、それしかないだろう。


 大男に睨まれながら一歩後ずさった悠馬は、逃げの体制に入る寸前、オリヴィアに袖を掴まれて動きを止めた。


「やめないか。私の彼をそんな目で見るな」


 彼女は不機嫌そうにそう呟き、黒人の大男へと詰め寄った。

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