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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
36/474

夕食

 時刻は19時半。

 日が沈んでからそこそこの時間が経ち、無人島は宿舎以外は灯など灯さずに、漆黒に包まれていた。


 そしてその宿舎の中。

 1階の夕食を食べることのできるバイキングゾーンは、1年生で賑わっていた。


 すでに仲良くなっているのか、クラスの違う生徒同士も仲良く話している光景が目に入る。


 しかし、上級生の姿はない。その理由は、2年生は2階で夕食を、3年生は3階で夕食を食べるように決められているからに他ならない。


 少し前までは、全学年が同じところで夕食を食べていたのだが、度々上級生が下級生を脅して回るようなことが起こってしまうため、数年前からは完全に学年ごとに分けられての食事となったそうだ。


 1年の生徒たちは、夕食のバイキングを見て大はしゃぎのご様子だ。


 ランニングに集団行動という、ハードな特訓をこなしたのだが、夕食を見て疲れが吹っ飛んだらしい。


「うわ!神かよ!」


「美味そー!なんでもあるじゃん!」


 男子たちの歓喜の声。いや、なんでもはないのだが。

 今現在、テーブルに用意されているバイキング形式の夕食は、和洋中大体のものが揃っていた。


 ポテトやステーキ、ローストビーフに麻婆豆腐、終いにはお寿司、デザートまで並べてある。


 そんなバイキングを見て、喜ばない生徒などいないだろう。これだけの数の食べ物が並べば、確実に好きな食べ物の1つや2つ、置いてあるはずだ。


 大はしゃぎの1年生の面々は、我先にと自身の好きなものをお皿へと注いでいた。



 そんな光景を、3人用のテーブルから観察する悠馬。向かい合って座っているのは、アダムと碇谷だ。


 何故いつものメンバーじゃないのか。その原因は合宿の部屋割りのシステムにあった。


 今回の強化合宿は、他クラスとの交流を深める、ということも含めて行われている。そのため、朝昼夕のご飯時は、基本的に班行動、病気や怪我がない限りは別行動は許されないのだ。


「んまぁ!いやぁ、お風呂上がりの美女を見ながら食べる飯は美味い!」


「おいバカ!俺たちまで変な目で見られるから大声で変なこと言うんじゃねえよ!」


 お風呂上がりの女子生徒たちを眺めながら飯を食うアダムと、それを叱責する碇谷。

 この2人はとことん相性が悪いようだ。

 箸を向けながら怒鳴る碇谷と、その箸を叩こうとするアダム。2人の間には、険悪なムードが漂っていた。


「ってか、何が人多いな〜」


「まぁ、約100人いるからな」


 100人の生徒が一気に夕食を食べ始めるとなると、多く見えるだろう。

 話題転換をするアダムに素っ気なく答えた悠馬は、ポテトを頬張りながら辺りを見回す。


「なぁ、暁。お前さっきから誰探してんだ?」


 キョロキョロと辺りを見渡す悠馬を、不思議そうに見つめる碇谷。

 悠馬は現在、ある人物を探していた。

 豪華客船の中で怒らせてしまい、それから一度も顔を合わせていなかった女子生徒だ。


「いや、なんでもない」


「おっ、暁お前、もしかして三枝か美哉坂か篠原狙ってんのか?」


 なんでもないと言った悠馬を怪しく思った碇谷は、男子が絶対に狙うであろう、学年三大美女の名前を出す。

 すると悠馬は、聞き覚えのある名前がトリプルで、しかもそのうちの1人は、まさに現在探している生徒であったため、頬張っていたポテトを吹き出しそうになる。


「へへっ、ビンゴだな!やっぱ、イケメンのお前でも好きな人できるんだな!」


 逆に好きな人が出来たことがない人がいるなら見せてほしいものだ。

 別に、恋愛感情の好きという気持ちを抱いているわけじゃない悠馬は、勝手に3人のうちの誰かのことを好きだと勘違いしている碇谷を見て、呆れた表情を浮かべる。


 夕夏に抱いている好きは、家族的な意味での好きだし、美月だって友達としての好きだ。

 本当に恋愛感情を抱いてするとするなら…


「あいつくらいか…」


 記憶に残っている少女の姿を脳裏で再生させた悠馬。彼女との出会いは、それだけ鮮烈で、悠馬の心を強く引き寄せた。


「おっ、美哉坂さんが入場だぜー!」


 1人妄想の世界に入ろうとしていた悠馬を現実へと引き戻すアダムの声。

 バイキングの入り口を見てみると、真里亞と夕夏と藤咲という、世にも珍しいメンバーが3人で歩いているのが目に入る。

 藤咲洋子。彼女は入学式の時、美沙と一緒に遅刻ギリギリで教室へ来た、本を読んでいた女子生徒だ。正直な話、加奈よりも近寄り難いオーラがあって、男子からはあまり人気がない。


 真里亞はご存知の通りだ。悠馬からしてみれば、歪んだ性格の持ち主に見えるが、小柄な身長と可愛らしい表情が人気なようで、その手の男子からはかなりの人気を集めている。


 その点夕夏は本当に完璧だ。

 正直な話、悠馬だって復讐や許嫁の件が無ければ、コロっと夕夏に惚れていたことだろう。

 それほどに彼女は魅力的で、完璧な存在だった。


 そんなことを考えていると、悠馬と夕夏の視線が交錯する。

 夕夏は悠馬と目が合うと、ニッコリと笑い、小さいモーションで手を振ると、バイキングの列へと並んで行く。


「お、おい暁!お前まじかよ、今美哉坂に手振られてなかったか!?どういう関係だよ!」


「普通に、友達」


 寮にご飯を作りに来てもらっているという件は話したら大騒ぎになりそうだから何も言わない悠馬。

 しかし、興奮気味の碇谷からしてみれば、今の笑顔は、今の小さな手の振り方は、友達としてでは終わらせれない、ただならぬ何かを感じていた。


「友達って、お前そういう友達だよな!絶対肉体関係持ってるよな!?あんな美哉坂、一度も見たことねえし聞いたこともねえよ!お前一体どれだけ調教したんだ!」


 友達と聞いて、ハッ!とした表情になった碇谷は、席を立ち上がると悠馬の背後まで周り、肩を揺すりながら問いかける。


 碇谷の中では、ただの友達、ではなくそういうフレンドとして捉えられたようだ。夕夏の肉体について、事細かに話を聞こうとしてくる。


「んなわけねえだろ!本当に普通の友達なんだよ!」


「くぅー、まじかよ!それじゃあ美哉坂は、100パーお前のこと好きだぜ?」


「はぁ?」


 額に手を当て、先を越されたと言いたげな碇谷。

 悠馬は飛躍しすぎた話に、わけのわからないと言った表情を浮かべる。

 夕夏から手を振られただけで、悠馬のことが好きだなんてわかるはずがない。そもそも、好かれるようなことをした記憶がない悠馬からしてみれば、尚更のことだ。


 実際は結界事件や、悠馬のその他の言動が夕夏を強く惹かせた原因なのだが、それを意図的ではなく、恩返し、普通の日常会話として行っていた悠馬は、全く理解できていないご様子だ。


「んなわけねえだろ、喋ってないでさっさと飯食え」


 途中まで思考をした悠馬だったが、それ以上は考えてもわからないと判断したのか、思考を放棄すると、ゆっくりと立ち上がる。


 誰かの方を見ているアダムも、皿はすでに空になっていた。

 悠馬とアダムの空になった食器を見つめる碇谷は、自身が話に夢中になっていたことに気づくと、慌てて席に戻り、ご飯を詰め込み始めた。


「あ、湊さん」


 碇谷が夕飯を流し込んでいる真っ最中、アダムが目で追っている女子グループの中にいた、美月と最も親しいであろう女子の湊。

 湊が近くを通り過ぎそうになった時、悠馬は思い切って声をかけた。


「篠原は?少し話したいことがあったんだけどさ」


「はぁ?なんでそんなこと教えないといけないのよ。てか話す内容、私に全部教えなさい?伝えといてあげるから」


 悠馬の呼び止めに応じた湊だったが、美月の話をすると、突如として形相が変わる。

 その鬼のような形相を見た悠馬と碇谷とアダムは、ビクッと身体を震わせた。


 なんでこんなに怒ってるんだこの女は。今のなんて、何気ない日常的な会話じゃないか。そう言いたげな碇谷だが、流石にこの状況で口出しはできない。無言で悠馬を見守る。


「いや、遠慮しとくよ。俺の口からじゃないと言えない内容だからさ」


 豪華客船の中、書斎での出来事を謝罪したい悠馬。もし仮に、湊に豪華客船の中で密会してた、なんてことを今言うと、間違いなくプレートに乗っているナイフで刺されることだろう。


 それをなんとなく察した悠馬は、湊には何も伝言を頼まないという答えを導き出した。


「自分の口から?告るとか言わないわよね?身の程を弁えなさい。このナルシスト野郎が」


「ぐっ…」


 湊のナイフのように鋭く尖った発言。最近イケメンだと持て囃されていた悠馬からしてみると、その言葉のダメージは計り知れないものだった。

 何も言い返せなかなった悠馬は、無言のまま湊が去っていくのを見送った。


 アダムはアルカンジュをチラチラと見ている。


「うっわ、どぎつ過ぎだろ今の女。あんな女とは付き合いたくねーなー、俺」


 碇谷は自分がキレられた訳ではないから、他人事として話をしている。

 当事者の悠馬は魂が抜けかけだ。


「俺って湊さんに嫌われてたんだ…」


 ほとんど話したことのないクラスの女子に嫌われるというのは、よっぽどのことだ。

 湊と悠馬は、ドーナツ屋さんで連絡先を交換していたので、悠馬からしてみたらすでに友達、仲がいいという分類に入っていたのに、まさかの仕打ちに涙を浮かべる。


 いつどこであんなに嫌われてしまったのか。湊が悠馬をボロカスに言った理由は、ただ単に、美月を取られたくなかったというだけなのだが、それが全くわからないアダムと碇谷、そして悠馬のテーブルは、お通夜の状態になってしまった。


「…帰ろうか?」


「ああ…そうだな…」


「そうしようか」


 魂を抜かれた悠馬と、空気が悪くなってしまった2人は、肩を潜めながら、そのまま夕食を終えて退席していった。


 一方その頃。夕夏、真里亞、藤咲の班はというと。

 周りを男子に囲まれていた。

 気まずそうに食事をとる夕夏と、表情を変えず、いつものように食事をする真里亞。そしてひたすら本を読んでいる藤咲。


 どうしてこんなことになってしまったんだろうか?

 夕夏は心の中で、首を傾げた。


 一方男子たちは夕夏たちの3人組を囲んで、嬉しそうな表情をしていた。

 何故なら、学年でもトップクラスの美女が2人いるテーブル。そして、この3人と仲良くなれば、今日の夜は3人の部屋に尋ねることが可能かもしれない。あわよくばお呼ばれしたいといった邪な気持ちで、3人の元へと歩み寄ってきたのだ。


「ねえ、美哉坂さん。俺ら今日の夜トランプする予定なんだけどさ?どう?」


「いや、それなら俺らの部屋はUNOするんだけど」


「真里亞ちゃん、一緒にどう?」


「3人できてもいいからさ。男子の部屋に行くのが怖いなら、そっちの部屋でやってもいいよ?」


 結構グイグイ迫って来る男子たち。

 彼らは娯楽に飢えていた。今日の合宿でのハードな訓練。それは、全てが思うがままだった中学校生活とは違って、苦しみを深く刻み込まれた。


 予想もしていないような、自分が王様だと思って生きてきたのにこの仕打ち。高校に入ってから自分が1番だ、などと表立って言う生徒たちは居なくなったが、それでも自分自身が1番だと、誰もが心の中で思っているのだ。


 俺なら美哉坂夕夏をオトせる。三枝真里亞をオトせる。と。そしてどちらかを手に入れたら、スクールカーストの上位に君臨すること間違いなし。夢のハーレム生活も待ったなしだと。


 苦しみから逃れるようにして、夢物語を描く彼ら。


 真里亞は全てを察し、冷ややかな発言をした。


「人にお願いをするときは頭を下げるものでしょう?それすら出来ない方々と遊ぶのは死んでも御免です。せめてAクラスの暁くんや、八神くんのように顔を整えて出直してきては如何ですか?」


 真里亞が放った火の玉ストレート。

 いくらナルシストで自己中な男子たちでも、自分の容姿が真里亞が口にした男子たちより劣っていることは、なんとなく察していた。

 何故なら、2人は女子から裏でキャーキャー言われ噂になっているのに、自分たちの噂は一切ない。悪い噂はあっても、アイツ、お前のことが好きらしいぜ?などと言ういい噂は一切聞かないのだ。


 その時点で、彼らは感じていた。容姿ではあの2人には劣っているのだろうと。

 しかしながら、彼らは可能性を感じていた。そう、悠馬と八神は、一切女に手を出す素振りがないのだ。


 話しかければ仲良くしているが、2人が自ら女子に話しに行くことは基本的にはないし、入学して1ヶ月が経過したのに、あの容姿で付き合っていると言う噂すら聞かない。


 ならばこの時、この瞬間。異能島のように監視カメラもなく、教員も限られているこの合宿でなら、あの2人を差し置いて美女をオトすことができるのではないか?

 教員にバレることもなく、事をを運べるのではないか?


 そんな淡い期待を、一瞬にして切り裂く、真里亞の発言。彼女の発言は男子たちの精神に、大ダメージを与えた。


「ま、まぁ、そんなこと言わずにさ?」


「そうそう、多分暁なんかより、俺らと遊んだ方が楽しいと思うし」


「後悔はさせないって!」


 真里亞からの発言にダメージを追いながらも、汗をタラタラとこぼしながら中々引き下がらない男子たち。

 夕夏はこのような場面に遭遇したことがなかったため、全てを真里亞に任せ、大人しく夕食を食べる。


「なんと言われようが気持ちは変わりませんよ。ねぇ?美哉坂さん」


「え"っ」


 サラダを食べようとしていた夕夏に向けて、話題を振る真里亞。

 完全に真里亞がなんとかしてくれると安心しきっていた夕夏からすれば、背後からの不意打ちだった。


「う、うん!絶対行かない!」


 何を言えば正解なのか、全くわからない夕夏がぜったいと言うと、男子たちは絶望の表情を浮かべていた。それは死刑宣告も同然だった。


 男子たちからの基準で言えば、三大美女の中で、夕夏の攻略はイージーの分類されていた。

 その理由は、いつも優しいし、大体の誘いは断らない、面倒なお願い事でも手伝ってくれるという、素晴らしい人物だったからだ。

 だから、普通に遊びに誘っても、きっと来てくれるものだろうと思われていた。


 そしてハードが真里亞。Cクラスの男子とはそこそこな交流を持っているらしく、休みの日はCクラスの男女問わず大きなグループでお出かけをしていると噂になっていた。だから、今回のようなイベントでは、グループ同士だからホイホイとついて来て、攻略ができるものだろうと思われていた。


 最後がエキスパートの美月だ。

 この場、この局面に美月が単体で居たとしても、男子はおそらく、誰1人として声をかけることがなかっただろう。声をかける奴がいたとしたら、それは悠馬くらいだ。

 夕夏や真里亞も高嶺の花だが、美月は手の届かないところに飾られ、厳重に警備されている花なのだ。だから男子たちは、遠いところから美月を眺め、かわいい、美しい、いつかお近づきになりたいと呟くだけだった。


 何故、男子たちが触れることができないのか。

 それは、か弱い美月を守る、湊やその他の女子がとてつもない怖いからだ。下手なことをすると、学校生活が終わりそうな勢いで怒られる。


 大抵の男子は、美月に話す前に門前払いされ、近づけないのだ。単体でなら攻略難易度もそこまで高くはならないだろうが、必ず現れる障害物の湊たち。


 人知れずそれが噂になってしまい、男子たちは美月が歩いていたとしても、そう簡単に手を出せないのだ。

 出来ることなら美月から声をかけてほしい。そしたら女子たちも何も言っては来ないだろう。そんな願いを密かに抱いている男子もいる。


 そして今、1番難易度の低いとされていた夕夏から、絶対に行かない発言をいただいた。


 自分たちに可能性が1%もないと悟った男子たちは、そのままゾンビのように、3人のテーブルから去って行った。


「グッジョブよ、美哉坂さん。貴女が言えば、男子は大抵消えるから」


「そう?なんだ?」


 余計なことをまた1つ学んだ、夕夏であった。

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