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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
35/474

楽園

 男子たちが風呂から上がり、風呂へ入るクラスが入れ替わる。


「いやー、ほんと疲れた。まじきつ。あー、男とベタベタして寛ぎたい〜」


 なんの羞恥もないのか、周りの視線など無視して体操着を脱ぐ、悠馬よりもはるかに薄い茶髪セミロングの女子、國下美沙は、自身の欲求を口にしながら、ピンク色のブラジャーへと手をかける。


「美沙、アンタモデルやってた癖に、経験あるの?」


「え?モデルやってたからこそ、あるんでしょ?ほら、雑誌載ると色んな男にも知られて、絡まれるし」


 髪の毛は美月よりも少しグレーがかった髪の色をしている、湊が美沙に問いかけると、美沙は特に気にしたそぶりもなく、自身に経験がある事を告げた。


 それを聞いた女子たちは、一斉に美沙の方へと視線を向けた。

 中学から上がりたての高校生。普通なら、経験している生徒の方が少ないだろう。

 男子たちの前では恥ずかしくて話すことはないが、今は女子だけの空間。


 それを知っているため、女子生徒たちは興味のまま、美沙の様子を伺った。


「えぇー?本当?じゃあAクラスの男子では誰が1番上手いと思う?」


 何を、とは言わないが、女子からして見るとそんなことも気になるのだろう。それとも、ただ単におふざけの話なのか。

 多分、男子たちがクラスの誰の胸が1番大きいかを話すような感じだ。


「そりゃあ紅桜か悠馬っしょ。悠馬は絶対上手いと思う!私の直感がそう言ってる」


 國下が大声でそう叫ぶと同時に、体操着のズボンを脱ごうとしていた夕夏が転ぶ。


「ちょ、夕夏大丈夫?」


「え、あ、うん!大丈夫大丈夫!全然!うん!」


 転んだ夕夏の横で服を脱いでいた加奈がそう尋ねると、夕夏は顔を真っ赤にして目をくるくると回していた。

 どうやら夕夏は大丈夫じゃないようだ。そりゃあ、いきなり好きな人が夜の営みが上手!などという話を吹っかけられたら、驚きもするだろう。


「あ、わかる気がする!暁くん、なんていうかほら、オーラが違うっていうか、飲み込まれそうな感じ?」


「てか美沙、アンタいつから暁くんのこと悠馬って呼んでるの?絶対手出したでしょ!」


 入学直後のビッチキャラが完全に定着してしまっている美沙。

 彼女としても、周りの女子生徒たちが色々と聞いてきてくれるのが嬉しいのだろう、ニコニコと笑いながら、クラスメイトの質問に答えている。


「いやさぁ?ドーナツ屋さん行った時に連絡先交換したじゃん?あれから色々と連絡とってて、今も連絡取り合ってるんだけど、悠馬って呼んでいいー?って聞いたらすんなりオッケーしてくれて、私のことも美沙って」


「きゃー!暁くん大胆!」


「え!?それワンチャンあるんじゃないの!?」


「私が美沙の立場だったら絶対アタックしてる!」


 悠馬と美沙は、学校ではあまり話さないものの、メッセージのやり取りは頻繁に行っていた。

 その理由は、悠馬は連絡を取り合うような仲の友達が居なかった為、美沙が頻繁に連絡をくれて大はしゃぎしているのだ。

 おそらく、誰が連絡をしても、悠馬は大はしゃぎでそれなりの対応はしてくれるのだろう。

 しかし、それを知らない女子たちは、美沙を羨ましがり、羨望の眼差しを向けている。


 Aクラスで1位2位をイケメンの悠馬と付き合えるというのは、それだけでブランドのようなものなのだ。


「うぐっ…」


 さらに深いダメージを負った夕夏。ブラジャーを外す直前で、目の前にあった棚の角に頭をぶつけた彼女は、自身が出遅れていた事を悟る。


「夕夏?」


「だ、大丈夫!全然!本当全然!絶好調!」


 死にかけの笑顔の夕夏。

 加奈からすれば、別に夕夏が悠馬のことを好きなのは聞いているわけだし、そこまでして取り繕う必要性もないのに。といった感じだ。


「ってかここで話すの寒くない?早くお風呂行こうよー!」


「うん、おっけー!」


 現在話題の中心である美沙が風呂へ行こうとすると、話題に参加していた女子たちがぞろぞろと浴場へと向かいはじめる。


「って、あれ?美月ちゃんは?」


「あー、具合が悪いって。あの子、運動できないって言ってたのに、少し走ってたからね」


「そうなの?先生たちももう少し考えてあげればいいのに!美月ちゃん可哀想だよ!」


「それな!!」


 美月がいないことに気づいた1人の女子生徒に、何故いないのかを答える湊。

 美月の件については、実際のところはイジメの傷が大きすぎる為別の風呂を用意されているのだが、そんな事情は言えない為、別の事情が用意されていた。


 それなりの理由だった為、素直に納得する女子たち。


「わー!凄い!星が綺麗だね!」


「うん!」


 服を脱ぎ、タオルを持って外へと出ると、大きな露天風呂と、空にきらめく星々が目に入る。


 その光景を目にしたメンバーは、それぞれ感嘆の声をあげた。


「わー!星も綺麗だけど、夕夏ちゃんの身体も綺麗です!」


「本当だ!っていうか、夕夏胸でかすぎよ!アンタ何カップ?何食べたらそんなに大きくなるわけ?わけわかんない!」


「わわ!ちょっ!」


 悠馬の隣の席の女子生徒、外国人のアルカンジュが、夕夏の背中を見て大声を上げると、四方八方から視線が集中する。


「前から思ってたけど、夕夏の胸の破壊力ってやばいわよね?本当に同い年なの?」


 真正面から夕夏を見ている女子たちからは、胸の話題しか出てこない。

 普段はこんなこと簡単には口にできないが、今は違う。合宿という独特の雰囲気が、いつもと違った生徒たちの一面を見せてくれるのだ。


「何カップか教えてよー」


「いいじゃんいいじゃん!」


「え、F…だよ?」


 タオル越しに、夕夏の胸をタポタポと揺らす美沙と湊。顔を赤くしながら、恥じらうように答えた夕夏の声を聞いた女子たちは、一瞬だけ静まり返った。


「え、私一生かけても勝てる気しないんだけど…」


「ってか、まだ成長途中でしょ!?なんで私の胸は大きくならないのよ!」


「Fって!F!?」


 クラスメイトたちは、自身の胸を確認しながら、夕夏の胸と見比べて何度も夕夏のカップ数を口にする。夕夏からすれば、公開処刑のようなものだ。


 今にも燃え上がりそうなほど熱くなった顔を抑え、しゃがみこむ。


 そんな夕夏の背後には、瞳を失ったアルカンジュの姿があった。

 夕夏と同じようにタオルを巻いていたはずなのに、いとも簡単にほどけ落ちてしまうタオル。


 彼女の胸は。残念なほどに。絶壁だった。

 夕夏の胸を見下ろし、自身の胸を確認する。それを幾度となく繰り返したアルカンジュは、絶望の表情を色濃くして、夕夏へと飛びついた。


「この胸を揉めば!私も大きくなります!うん!きっとご利益があるはずなんです!」


「ちょ、ちょっと、アルカンジュちゃん!ダメだよぉ!」


「何ですかこの綺麗なピンク色は!信じられません!」


 何がピンクとは言わないが、夕夏のタオルを強引に剥ぎ取り、叫び声をあげるアルカンジュ。その顔はほとんど泣き顔だった。


 よっぽど、自分の胸が小さいのを気にしていたのだろう。しかし、夕夏からすればとんだとばっちりだ。たまたま胸が大きく成長しただけで、背後から泣き噦る外国人女子に胸を揉みしだかれるのだ。


「え?ご利益あるの?私も揉みたい!」


「じゃあ私もー!」


「美沙はDあるんだからいいじゃん!」


「えぇー?私的にはもうちょっと欲しいなーって思ってるんだけどー」


 勝手にご利益があることになってしまった、夕夏の胸。きっと、今ここに男子生徒が1人で放り投げられたら、一切の悔いを残さずに昇天できる事だろう。


 露天風呂には、夕夏の甘い声が響き渡り、女子同士で胸を揉むという、百合百合しい光景が広がっている。


「た、タイム!限界!無理!もう触らないで!」


「えぇー?」


「夕夏、顔真っ赤じゃん!」


「てっきり夕夏も経験あると思ってたんだけど、まさか経験ない?仲間!?」


 この学校で1位、2位を争うほどの美人である夕夏。クラスメイトたちからすれば、そこそこの経験はありそうに見えるのは、無理もない。


 しかし、残念なことに夕夏は一切の経験がない。一言で言って仕舞えば、新品未使用である。

 それもそのはず、彼女は小中と、男子がいない空間で育ってきたのだ。男と顔を合わせるのは、お見合いの時か家に来る大人程度。


 そんな夕夏に出会いなどあるはずもなく、男子とまともに話したのですら、この異能島の入試の時である。


「私何もしたことないよっ!だってお父さんが許してくれなかったんだもん!」


 どうやら夕夏も何の経験もないことを気にしていたようだ。半泣きになりながら、立ち上がった夕夏は、開き直ったように裸体を公開する。


「まだだもん!私まだ何もしてないもん!!!」


「え!私夕夏の処女欲しい!」


「はいはーい!私も立候補する!」


 後ろから今だに胸を揉んでいるアルカンジュを無視して、夕夏の処女を奪いたいというクラスメイトたちが、立候補を始める。


「あげない!あげないから!」


 スタイルの良い裸体を晒しながら、勝手に話が飛躍していくのを食い止める夕夏。

 女子たちはお祭り騒ぎだ。


「え!?そういえば夕夏、結構告られてるじゃん?何人に告られたの?付き合った?」


「それ気になった!夕夏って好きな人いるの?」


 処女を渡さないってことはつまり、そういうことだろ?と言いたげな、女子たちの疑惑に満ちた視線。どうしてもあげたい人が、つまりは好きな人が彼氏がいるんではないか?と興味深そうに夕夏を見つめる。


 女子たちからすれば、夕夏と好きな人が被るというのは、軽い地獄のようなものだ。何でもできて、顔もスタイルも性格もいい。

 そんな女が競争相手になったら、敗戦は必至。そんな相手と競いたい女子など1人もいるはずもなく、今現在、女子の中では悠馬か八神が候補から除外されそうになっていた。


 多分、夕夏ならこの2人のどちらかだろうと。


「告白された数は…言えないかな…相手の気持ちも考えないといけないし…それと、付き合ってないよ」


 恐る恐る話す夕夏。

 実は夕夏はこの時すでに、クラスメイトの4人から、上級生の3人から、同学年の他クラスから6人と、関係を持ちかけられていた。

 もちろん、その全てを丁重にお断りをして、彼女は悠馬一本に絞ったのである。

 他の男子たちをキープすることもなく、悠馬1人を手に入れることを決意したのだ。


 そんな夕夏が、付き合っているはずもなく、現在の彼女は彼氏いない歴=年齢なのだ。


「好きな人は?」


「それはまだ教えない!この気持ちがホンモノかどうかもわからないの!だからもう少し考えたいの!」


 美沙の鋭い質問。顔を真っ赤にした夕夏は、振り絞ったようにそう告げた。


「じゃあ夕夏、今その人に抱きしめられたい?」


「え!?うん…」


 本当に好きなのかわからないと話す夕夏に対して、美沙は彼女がその相手のことを本気で思っているのかどうかを検査するようだ。

 身体を洗いながら、女子たちは聞き耳だけを立てている。


「何もすることなくても、一緒に居たい?」


「うん…」


 それはそうだ。夕夏はすでに、何もない時でも、ほとんどの確率で悠馬の寮へと入り浸っている。ご飯を食べ終えた後も、風呂に入るまでは悠馬の寮にいるし、最近は作ったご飯を持っていくのではなく、持ってくるのも色々と面倒だから。などと言い訳をして、悠馬の寮でご飯を作るようになっていた。


「それじゃあ最後。その人のこと考えると、胸が苦しくなる?」


「っ!うん…なる」


「それはもう、完全に堕ちたってことよ。夕夏、アンタは今その人に恋をしてる」


「ぁぁあー!やっぱりそうだよね、そうなんだよね!こんな気持ち今までなったことがなかったから!」


 そう言いながら足をジタバタとさせる夕夏。シャワーを浴びて、身体を洗いながら、彼女の興奮は冷めることを知らない。


 一度火のついてしまった初恋。しかも今まで厳しく制限され続け、高校になって初めて恋をしてしまった。そんな彼女の想いが、そう簡単に留まることはないだろう。


 普段完璧に見える女子ほど、新たな何かに気づくと、狂いやすい。

 夕夏が落ちこぼれることはないだろうが、今は勉強よりも、異能祭よりも、好きな人のことを考えているのだろう。


「夕夏ちゃんの好きな人…」


「私たちの八神くんと暁くんが…」


「ま、まぁ!夕夏のことだから他の男子の可能性もあるし!」


 夕夏に好きな人がいることが確定してしまった。女子たちは、八神か悠馬が確定で奪われるものだと判断し、願うなら他の学年の男子であってくれと星に願いを込める。


 しかし現実とは無慈悲なものだ。夕夏の好きな人は、悠馬なのだから。


 高鳴る心音を心地よく感じ、顔を赤くしながらほんの少しだけ笑みを浮かべた夕夏は、横に座っていた加奈に抱きつくと、耳元で囁いた。


「私、悠馬くんのこと大好き」

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