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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
番外編 1年生夏休み 
348/474

流れ的に一緒に遊ぶ

「加奈、大丈夫だった?」


 世間一般では既に犯罪者の娘という扱いになり、本土へ戻ればマスコミたちがなにかをインタビューしてきてもおかしくはない。


 そんな加奈に対し、夕夏は彼女の父親が仕出かした最低最悪な犯罪行為は置いておき、真剣に問いかける。


 夕夏は彼女の父親が最低最悪だからといって、親友である加奈を簡単に切り離したりはしない。


 よく言えば聖人で、悪く言えばお人好しのバカ。

 そんな彼女の優しさが心を痛ませ、加奈は顔をしかめた。


 どうせなら、朱理の時みたいにナイフで刺された方が気持ちが楽だった。


 この優しさは、返って痛すぎる。


 夕夏の質問に対し、なにも答えれない加奈。

 彼女がなにも答えないのが心配なのか、一歩踏み出した夕夏の元へと、連太郎が割って入る。


「あー!いいこと考えだぞー!」


「あ、紅桜くん!こんにちは」


 棒読みのような演技に気づかず、夕夏は愛想よく連太郎に挨拶をする。


 きっと今のは後で悠馬から、「アイツには愛想よくしなくていいから」と言われるやつだ。


 加奈を見かねてか割って入った連太郎は、加奈へとウィンクをしながら、夕夏へと笑いかけた。


「ここであったのも何かの縁だしさ、一緒に遊ばね?」


「嫌だ。加奈さんだけならまだしも、アンタは要らない」


「湊ちぃん、酷くなぁい?」


 湊は相変わらずだ。

 悠馬と南雲にはそこそこ会話をするが、連太郎のようなチャラチャラしたふざけた人物は気にくわないのか、早速連太郎単体を追い払おうとする。


 しかしそれを聞いた悠馬は、ピクリと反応を示した。


 そりゃそうだ。

 現状、悠馬は恋人3人に湊たち3人、そして男である自分1人というなかなかにカオスな状況に立っている。


 だというのにさらに加奈を加え、連太郎を省いた暁には、いつ男子たちから刺し殺されてもおかしくない展開になる。


 それに変な噂だってされるだろう。

 暁悠馬はここにいる全員の女と付き合っているんじゃないか、と。


 それは湊たちにも風評被害を与えるし、正直友人同士で遊びにきたという体をよりわかりやすく、自然にするために連太郎を引き入れておきたい。


 正直乗り気ではないが、現状よりも幾分かマシにはなるだろう。


 花蓮の手を引きながら歩く悠馬は、湊の横まで歩み寄ると、彼女の耳元で囁いた。


「湊さん、俺と美月が付き合ってるのバレないためにも、友達同士ってわかりやすいように連太郎も…」


「……わかった」


 美月のためなら。

 そう言いたげに、不服そうに承諾をした湊は、連太郎を追い払おうとしていたオーラを仕舞い込み、背を向ける。


「余計なことしないでよ」


「どうも〜!」


 湊からの承諾をいただき、連太郎はドラマの演技のように綺麗なお辞儀を見せる。


「貴方ね…」


 今日1日、デートではなく、夕夏と共に過ごすことも決まってしまった。


 色々と想定外の事態に直面している加奈は、頭痛持ちでもないのに、頭が痛くなるような感覚に囚われ額に手を当てた。


「逃げんなよ、加奈ちん」


 それは連太郎なりの思いやり。


 ようやく夕夏に対して後ろめたさがなくなった、加奈の背中を後押しする。


 他人に対するお節介なんて、これが限界だ。

 あとは自分でなんとかしてくれと言わんばかりに親指を立てた連太郎は、呆れたような表情の加奈を見てニカッと笑ってみせた。


「ほんと、貴方のことは好きになれない」



 ***



「美月、肩当たってる」


「いいじゃん。誰も見てないし」


 ロープウェイの中、小声で囁く悠馬へと、銀髪の少女が返す。


 彼女の長い髪が肩にあたり、背筋をゾクゾクと震わせる悠馬は、美月のことをかなり意識しているようだ。


 美月とぶつかっている肩を意識しながら、悠馬はあからさまに視線を逸らす。


 確かに、美月の言う通りこの密着に気づいている人物はいない。


 ウォーターマウンテンは山丸ごと一つがアトラクションということもあってか、山頂まではこうしてロープウェイが常設されている。


 そして悠馬と美月が座っているのは、最後尾の1番右端。


 基本的に振り返っても見えない席であるため、肩を密着させていようが気づかれにくい場所でもある。


 悠馬の心地よい暖かさを感じる美月は、少し嬉しそうな表情で、目をそらす悠馬を見た。


 実を言うと、この中で今日のイベントを最も楽しみにしているのは、美月なのだ。


 その理由は、中学時代に虐められ腹部に負った傷のせいで、中学生から高校1年生までの3年間、体育や友人、家族でのプールや海ですら遠ざけて来たからだ。


 腹部の傷が痛む、他人に見せたくない、変な目で見られるのが嫌だ。


 そんな全ての悩みが取り除かれた美月は、こうして3年ぶりに水着を着て、外に出ている。


 3年ぶりのプールが、恋人、そして親友たちとのお出かけになるなんて思いもしていなかった美月は、かなり浮かれていた。


「そういえば、朱理さんとは連絡してるの?」


「それがなぁ…」


「え?早速何かした?」


「朱理、スマホ持ってないから夕夏の自宅の固定電話に電話しないといけないんだよ…」


「あっ…」


 微妙そうな悠馬の表情に、なんとなく察しがついた。


 夕夏と朱理は、従姉妹であって姉妹ではない。

 夕夏大好きの総一郎がいる美哉坂邸に、夕夏以外の女の子を目的に電話をしたらどうなるかくらい、容易に想像がついた。


 誰の親だって、自分の娘と付き合っている彼氏が、従姉妹目当てで電話をかけてきたら煙たがるだろう。


 悠馬はまさに今、その状況だ。


「この前電話かけたんだけど、次来た時に消すって言われた」


「あはは…厳しいね」


「うん」


 正直もう、朱理との固定電話でのやり取りは絶望的だと思っている。


 夏休み期間が終わったら、毎週土日にでもゲートで本土に移動して、デートにでも連れて行くのが最適解だと言うのが、悠馬の出した結論だ。


 彼女には悪いが、総一郎の頭が硬い今は変に電話をかけないほうがいい。


「まぁ、多分私の家もそうだけどさ」


「想像つくよ…」


 悠馬は美月のお父さんのことを知っている。

 彼女の父親が警視総監であることを知っている悠馬は、総一郎のような娘大好き人間を想像しながら遠くを見た。


 彼女たちと付き合っている世の中の一般男性は、はじめての挨拶の際何をして仲良くなるんだろうか?


 いや、果たして仲良くなれているのだろうか?


 何もわからない悠馬は、不安そうに首をかしげる。


「ねぇ…紅桜くん、やっぱり私…」


 悠馬たちの座席の前に座る加奈は、横に座る連太郎に対して恐る恐る声をかける。


「なに?」


「帰っていい?」


「ダメ」


「なんで」


「ようやく枷が外れたのに、逃げんの?」


 赤坂暮戸という足枷が外れた加奈だが、まだ夕夏に対して後ろめたい気持ちは残っている。


 だって枷が外れたからといって、父親が朱理にしでかした事がリセットされたわけではないし、第一先日の一件では、夕夏も巻き込んだ事件へと発展していた。


 加奈は暮戸が捕まれば夕夏と親友になれるなどと甘い考えをしていたが、彼が捕まった今だからわかる。


 暮戸がいなくなったからといって、そう簡単に気持ちの整理も、罪悪感も無くならないと。


 夕夏に対してさまざまな罪悪感を感じている加奈は、俯けになりながら唇を噛んだ。


「…どういう顔して接すればいいのか…わからないの」


「けど今逃げたら、夏休み明けはもっと気まずくなるよ?だって加奈ちんは犯罪者の娘。周りの生徒たちが、そんな加奈ちんを夕夏に近づかせてくれると思う?」


「っ!」


 夕夏はクラス内でも、中心的な立ち位置に立っている。

 愛想も振る舞いも完璧で、同性からも異性からも人気がある彼女。


 対する加奈は、夏休みが明ければ犯罪者の娘で、クラスメイトたちからは疎まれる存在になる事間違いなしだ。しかも加奈は、入学当初から友達が少ない。


 そんな彼女がクラスの人気者である夕夏に近づこうとしたら、どうなるだろうか?


 十中八九、気を利かせた男女が出しゃばって、夕夏の意思に関係なく加奈を追い払うはずだ。


「お前みたいな犯罪者が話していい相手じゃない」と。

 それに無理をして近づけば、前総帥の娘であり、優秀な彼女に、幼馴染という立場を利用して接近していると、良からぬ噂すら立つ。


 火の無い所に煙は立たないというが、加奈は今、家が燃えているような状態で、煽ぐだけで隣の部屋から煙が出てくる。


 おそらくこのタイミングを逃せば、加奈は夕夏と話す機会すら設けられなくなることだろう。


「幸い、まだ気づかれてないんじゃないの?父親がなにをしようとしていたか」


 連太郎の推測では、夕夏はなにも知らない。


 実際彼女は暮戸の思惑を全て知ってしまっているわけだが、それを知らない2人は、呑気に会話を交わす。


「……」


「まぁ、今日は時間あるわけだし、ゆっくりといつも通りになっていけばいいんじゃねえの?」


 こればかりは、自分の気持ち次第だ。

 連太郎がいくら背中を押そうが、加奈が話をできなければ何の意味もなさないし、できる事があるとするなら、それは場所と時間を設けることくらい。


 これも仕事のサービスなのか、それとも同級生としての誼みなのか。


 ヤケに加奈の肩を持つ連太郎は、自信のない彼女の肩を叩いた。


「…触らないでくれる?」


「あれ?こういうの求めてなかった?」


 気まずい雰囲気が流れた。

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