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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
番外編 1年生夏休み 
346/474

時代はプール

先ずは端折った1年生夏のプールから…!

 1年の夏休み。

 最初のように気前よく遊んでくれていた友人たちも徐々に仕送りの資金が尽き、徐々に遊ぶ人が減っていく8月後半。


 夕夏の誕生日も終わり、お金が底をついた学生たちがアルバイトを探し始める中、悠馬はベッドの上で心地良さそうに眠っていた。


 蝉の鳴き声が外から響く中、窓を閉め切って冷房を付けている悠馬。


 快適な環境で眠り続ける悠馬は、聞きなれない着信音を聞いて眼を覚ますこととなった。


 携帯端末から響く、アラームではなくなんらかの着信音。

 初めて聞く着信音に顔をしかめた悠馬は、まだまだ眠り足りない体を起こし、不機嫌そうに携帯端末へと手を伸ばした。


「んん…なんだよ…」


 時刻は午前8時。

 夏休みということもあって、生活のリズムが崩れている学生たちからしてみるとかなり早い時間帯で、正直鬱陶しい。


 面倒な連絡じゃないだろうな?


 そんな不安を抱きながら携帯端末を手に取った悠馬は、画面に出ている着信相手を見て、めんどくさそうに応答した。


 着信相手は八神。


「もしもし…」


「おう、悠馬。今日暇か?」


「…俺が暇だと思うか?」


 暇かと聞いてくる友人は、正直面倒だ。

 だって最初に暇かどうかを聞いてくるのだから、何の誘いかを知るためには暇だと答えるしかない。


 しかし暇だと答えた際、楽しくもない遊びのお誘いだったり、無茶なお願いだったりが拒否しにくくなる。


 選択肢をいきなり狭められた悠馬は、寝癖のついた髪を手で寝かしつけながら数秒黙り込んだ。


「もし暇ならさ…第7学区のプールのチケット余ってるんだけど、行くか?」


「…なんでお前と2人きりで…」


「いや、違うから。チケット4枚余ってるけど、俺はほら、プールとかあんまり好きじゃないからさ。そう考えた時、お前の彼女の数思い出してさ。ちょうどじゃね?」


「あっ…」


 野郎2人でプールなんて死んでも御免だが、チケットの枚数、そして彼女の人数を指摘された悠馬は、八神の言う通り、彼女が3人いることに気づく。


「行く!行く行く!」


 さっきまで通話はよ終われとか、八神こんなに早起きとか老人かよ。なんて思っていたけど、前言撤回だ。


 全く乗り気じゃなかった悠馬だが、八神からチケットを譲り受け、そして彼女たちとプールに行けると聞いてから大はしゃぎだ。


「良かった。じゃあ端末にチケット飛ばしとくから」


「ああ!ありがとう!」


 冷房の風に茶髪を揺らしながら、悠馬は嬉しそうに通話を切る。


 今日の予定は決まった!

 朝の8時からテンションが上がりまくりの悠馬は、駆けるようにベッドを飛び降りると、買ったまま来ていなかった水着を手に取り、プールへと行く準備を始めた。



 ***



「悠馬くん」


「な、なに…?」


 電車に揺られながら、第7学区へと向かう。

 車内で揺られる悠馬は、周りからの嫉妬の眼差しを受けながら、肩に顔を乗せてくる夕夏へと頬を赤らめながら反応した。


 夕夏の誕生パーティで、悠馬と夕夏が付き合っていることは、クラスメイトたちに判明してしまった。


 まぁ、遅かれ早かれ気づかれることだったため特になんとも思っていないが、それからの夕夏というのは、ちょっとだけタガが外れているような気がする。


 自分が付き合っていることを周りに隠さなくていい。周りも知っているのだから、どこで接近していようが、問題ない。


 美哉坂夕夏という少女は抑制ばかりして生きてきたため、悠馬と付き合い始めて、周りに付き合っていることがバレてから、その抑制の反動を受けていた。


「悠馬くん悠馬くん、今日楽しみだね」


「うん。そうだね」


 恋人繋ぎのように柔らかな手で包み込んでくれる夕夏。


 いつもよりもちょっぴりオシャレをしているのか、普段はつけないようなネックレスまで付けている夕夏は、悠馬の顔をじっと見つめ、そして肩を触れ合わせる。


 周りからの目が痛い!

 痛いっていうより、殺意だよこれ!


 異能島には知らない人がいないであろう花咲花蓮と恋人で、私立高校の生徒たちでもだいたい知っている、前総帥の娘である美人な夕夏とも付き合っている。


 そんな輩が電車の中でイチャついていたら、男子ならば「死ねばいいのに…」と嫉妬のような憎しみを向けても仕方のないことだ。


 少しだけ強気、大胆な夕夏に圧倒される悠馬は、周りからの視線を気にしながらも、彼女から離れようとはしない。


 目的駅へとたどり着いたことを知った悠馬は、第7高校駅前で改札を通り、花蓮の待っている駅前広場へと向かう。


 夕夏は悠馬の腕を両手で強く握り、完全に恋人アピールをしながら駅前広場へと到着した。


 女の子って、凄いよね。

 いつもはこう、清楚というか、控えめなのに、恋人になるとこんなに変わっちまうんだぜ?


 夕夏の変化を喜んでいる悠馬は、鼻の下を伸ばしながら心の中で呟く。


 悠馬は知らない。この夕夏のタガが外れる期間は、わずか数日で終わってしまうということを。


「あ、おはよう!花蓮ちゃん!」


「おはよう。夕夏」


 駅前広場で一際視線を集めている、サングラスをかけてマスクを装着している金髪の女性。


 普通そんな女子を見たら、ヤンキーなのか不審者なのか、と真っ先に考えてしまい視線なんて集中しないが、彼女は違う。


 さすがはモデルにアイドルをしているというべきなのか、オーラを隠すように物陰に立っていても、ついつい目を向け、あの人きっと有名人だ!と思ってしまうものがある。


 夕夏に声をかけられ、スタスタと歩いて来た花蓮がマスクを外すと同時に、駅前広場ではどよめきが起こった。


「あれ、やっぱり花咲花蓮じゃん!」


「すげぇ、初めて生で見た」


「彼氏とデートか?」


「マスクって蒸れるから嫌なのよね…それに肌が荒れるし」


 悠馬が来れば輩に絡まれることはない。

 異能祭で悠馬の実力は異能島の学生たちが知っているわけだし、花蓮1人ならまだしも、悠馬がいるときにナンパを始めるバカなんていないだろう。


 悠馬が来たということもあり、マスクを外してほぼ素顔になった花蓮は、夕夏を見て頬を緩めた。


「夕夏、今日は随分と積極的なんじゃない?何かあったわけ?」


「えぇっと…やっぱり、もう付き合ってることもバレちゃったからさ…外でもこうしていられるんだと思うと、嬉しくてついつい…」


 それは付き合いたてだからこそ起こりうるあるあるだ。


 嬉しくて彼氏、彼女を自慢して回ったり、急接近して、異常な恋人アピールをしたり。


 付き合いたてってのは、周りにも知ってほしいし、騒がれたいものだ。


 それが特に、今まで我慢して来たならなおさら。


 恥ずかしそうに、嬉しそうに話をした夕夏は、花蓮を見てから、軽く笑う。


「なるほどね〜、誕生日の時バレたって言ってたものね。なら私も…っと!」


 空いていた悠馬の左手へとすり寄った花蓮は、周りの視線など御構い無しに悠馬へと密着する。


「ちょ!花蓮ちゃん!」


 男には我慢できない時がある。

 夕夏に密着され、花蓮に密着され、興奮を隠しきれない悠馬は、顔だけでなく、耳まで真っ赤にしてから全身を赤く染める。


 体が焼けるように暑い。

 それは夏だから、などという理由ではなく、ただ純粋に恥ずかしさや嬉しさ、周りの視線が余計に集まったせいで自身の体が発熱しているのだと思う。


「いきましょ?プール」


「うん、行こ!」


「え!?このまま!?」


 両手に花の状態で誘導される悠馬は、驚いたような声を上げながら、プールへと向かった。



 ***



 第7学区の山を丸ごと開拓し作り上げられた、ウォーターマウンテン。


 異能島最大のプールの大きさを誇り、そして豊富な娯楽施設を兼ね備えるウォーターマウンテンは、夏休み後半でお金が底をつく学生が多いながらも、かなりの人数で賑わっていた。


「美月ちゃん、ここで待ってるって言ってたけど、大丈夫かな?」


 はやくもゲート前で混雑している、ウォーターマウンテン。


 これだと脱衣所でも着替えられるかわからないし、一度逸れると、おそらくパーク内での再会は無理だと思った方がいいかもしれない。


 予想以上の人の多さに戸惑う夕夏は、周囲を見渡しながら、先にここへ来ているはずの銀髪の少女を探す。


「ケッ、あの女の子たちガード固すぎね?」


「それな。女4人で来てるくせに、男は要らないって、何のためにプールに来たんだよ」


 少しチャラチャラとした男子生徒たちの愚痴が聞こえ、彼らが歩いて来た方向を見る。


「お…」


 移動させた視線の先で目的の人物を発見した悠馬は、その周りにいる3人を見て、大きく目を見開いた。


 なんか急に、寒気と冷や汗がすごくなって来た。


 銀髪の少女の横にいる、湊に愛海、夜葉。

 まさか美月のいつメンである、性格ドギツイ三人衆まで一緒にいるとは知らなかった悠馬は、早速げんなりとした表情で俯いてみせた。


 こういう時、どういう対応をすればいいんだろうか?


 たしかに美月を誘ったのは悠馬だが、まさかあの3人までいるとは思っていなかったため、ここは夜葉と愛海に悟られぬよう、偶然を装うべきなのだろうか?


 目が合い近づいてくる美月グループに、悠馬はついつい、視線を逸らしてしまう。


 多分バレたらこの場で首を切り落とされて、プールの入場ゲートに生首を放置されるんだ。


 夜葉と愛海がやり兼ねないことを想像する悠馬は、背筋をゾクっと震わせ青ざめた表情になる。


「え?何?美月、何で暁青ざめてんの?」


「えー…夜葉が怖いからじゃない?」


「げっ、私のせい!?」


 悠馬の顔色が悪いことを知った夜葉と美月のやりとり。


 自分のせいじゃないかと聞かされたギャル系女子、佐野町夜葉は、ギョッとした表情で自分自身を指差し、その後に頭を抱えた。


「え?ウチ怖い?」


「いや、怖くはないよ…」


 実際怖いけどさ。

 夜葉の選択肢のない質問に即答した悠馬は、心の中で本音を漏らしながら作り笑いを浮かべる。


 早い段階で彼女たちをうまく誘導して、美月から引っぺがさないといけない。


 幸いなことに湊は悠馬と美月が付き合っていることを知っているし、彼女ならば協力してくれるはずだ。


 いつもは男嫌いの湊を頼るように、懇願の視線を向けた悠馬は、視線を合わせると同時にフルシカトする彼女を見て絶望に打ちひしがれる。


 どうやら協力的ではないらしい。


 もしかしたら、湊も協力してくれて…なんて期待をしていた数秒前の自分を殴りたい。


 悠馬がそんなことを考えていると、湊は不意に悠馬へと歩み寄り、小さな声でつぶやく。


「愛海も夜葉も、アンタと美月が付き合ってることは知ってるから」


「へ…?」


 まだ悠馬の知り得なかった情報を口にした湊は、それだけ告げると距離を置く。


 キョトンとした表情で愛海と夜葉を見た悠馬は、彼女たち2人がニヤニヤしていることに気づき、肩の力を抜いた。


「まさか美月とも付き合ってたなんてね」


「それな〜、やっぱハーレム作る気でしょ?」


「あ、いや…そういうつもりじゃ…」


 3人も彼女がいればハーレムだが、別にハーレムを作るために付き合っているわけじゃない。


 ただ好きだから、そばにいたいから付き合っている悠馬は、頬を赤らめながら夜葉と愛海へと返事をした。


 2人は案外、すんなりと受け入れてくれた。

 もともと湊と違い、男嫌いではなく、美月に変な虫がつかないようにしていた彼女たちからしてみると、優良物件の悠馬と美月が付き合うのは喜ばしいことだったのかもしれない。


 ちなみにだが、美月は今日は元々、湊たちと遊ぶ約束をしていた。

 だから悠馬からプールのお誘いが来た時は断るかどうか迷ったが、彼女たちは彼氏を優先させた方がいいと言って、ここまでついて来てくれたのだ。



 …まぁ実際は、悠馬と美月がどんなイチャつき方をするのか見たいだけの、野次馬魂なのだが。


 あとは悠馬が周りに美月と付き合っていることを言っていないため、いつメンといれば偶然会って遊ぶことになったという言い訳もできるから。


 悠馬と美月、2人の関係も考えてウォーターマウンテンへと訪れた湊たちは、嬉しそうに悠馬へと歩み寄る美月を横目に、互いに目を合わせて深く頷いた。


 時代はプールだ。

これからは毎週 月・水・金曜日の21時ごろに更新していこうと考えてます。

前後したり、更新できない可能性もありますが、出来る限り頑張ります!


そして先に謝っておかないといけないことなのですが、アフターストーリーでは若干本編との矛盾も出てくると思います…(私の記憶力の問題で)。ごめんなさい(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

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