これから
「いやぁー、驚きましたね。まさか王位継承式で悪羅百鬼が乱入するとは」
「しかしこれで確信しましたね、9代目は歴代でも最…」
テレビから流れているニュースに飽きているのか、黒髪の男子、悠馬はリモコンで電源を切る。
白亜の宮殿の、白いフカフカのカーペットの上に設置されているソファでくつろいでいる悠馬は、寮内と何ら変わらない、いつも通りの表情で天井を見上げた。
王位継承式から、はやくも1週間が経った。
今日は戴冠式。エスカから…いや、悪羅から受け取った王冠を、王城の最上階で装着し、そして就任宣言をしなければならない日だ。
もちろん世界中継もされる。
悪羅との戦いを昨日のことのように鮮烈に覚えている悠馬は、胸の上に置いている王冠を手に取り、くるくると回転させる。
「もう…!悠馬さま!今日は戴冠式だというのに、だらしないですよ!」
「でもあと30分あるし…」
「30分で寝癖がついたらどうするんですか!」
ソファで寝そべる悠馬を説教する、翠髪の女性、セレスティーネ。
戦乙女の隊長であり、元エスカのお目付役である彼女は、完全に悠馬に惚れ込み、エスカの時と違ってお母さんのように悠馬を甘やかす。
「私が寝癖を直しますから、ほら!ここ、座ってください」
白いフカフカのカーペットの上で、セレスは自身の膝を叩き悠馬を呼ぶ。
王族衣装に身を包んだ悠馬は、セレスに言われるがままトボトボと歩き、そして彼女の柔らかな膝へとダイブした。
こんなこと、エスカ相手には絶対しなかったはずだ。
ようやく好きな人を見つけることのできたセレスは、厳しいながらも甘々な言動で、悠馬を異能王として育てていた。
「どうですか?緊張してますか?」
「…それが驚くほど緊張しないんだ…」
悪羅と戦った後から、緊張というものを感じなくなった。
理由はわからないが、多分心の中のモヤモヤが消え去り、精神的にも成長したからではないか、なんて1人で考えている。
「それは…良かったです。てっきり緊張して引きこもってるのかと思いました」
「はは…さすがに、ここまで来て引きこもらないよ。花蓮ちゃんたちは?」
「お着替えをして、スタンバイ中です」
「そっか。ならお邪魔したら悪いよね」
「そうでしょうか?花蓮さまたちは悠馬さまのことが大好きですし、お着替え中でも顔を出してくれれば、緊張は解けるかと…はい、寝癖直し完了しました」
太腿に埋もれる悠馬の肩を揺さぶり、悠馬が上体を起こすとセレスは立ち上がる。
朝から悠馬の頭を触ることが出来て満足そうなセレスは、悠馬が顔を出した方が彼女たちの士気も上がるため、遠慮気味な悠馬の背中を押した。
「ほほう?それなら行ってみようかな?」
セレスが言うなら、きっと間違いなんてないさ!
なんでもできる完璧なセレスの言葉を鵜呑みにした悠馬は、神器を腰に携えて歩き始める。
***
「どう?王様になる気分は」
脳内に直接語りかけてくる、クラミツハの声。
彼女たち神々は、混沌を撃破した後も、この世界に残ることにしたらしい。
理由は契約を途中で破棄するのは神としての面目丸潰れだし、念のため…らしい。
冷やかしたような彼女の質問を頭の中で聞きながら、悠馬は宮殿の廊下を歩く。
「実感が湧かない。正直、ここが俺の家って言われても、未だに驚くし夢だと思う」
「あはは!やっぱりユウマ、貴方って最高に面白い!」
「別に面白くしてるつもりはないんだけどな」
神々の笑いのツボというのがイマイチわからない。
常人ではツボらないようなところでクラミツハはツボるし、今だって笑うところがあったのかわからない。
彼女の笑い声を脳内で響かせられる悠馬は、片耳を何度か押さえながら大きな扉の前で立ち止まった。
「ラッキースケベ?しちゃうの?ねえ、やっちゃうの?」
「うるさいな…少し黙ってろよ…」
「えー…」
「俺は意外と繊細なんだよ」
彼女たちの更衣室を開ける際に、頭の中でクラミツハに騒がれるのは正直面倒だ。
彼女たちの会話が入ってこなくなるし、何より集中力がなくなって、彼女たちの可愛い生着替えを目に焼き付けられない。
しょうもないことを考える悠馬は、クラミツハを黙らせた後に、ノックもせずに扉に手をかける。
「準備できて…」
「…悠馬先輩っ!」
扉を開けると同時に立っている、下着オンリーの愛菜。
真っ黒な長髪に、サファイアブルーの瞳で悠馬を睨みつけた愛菜は、戦乙女の衣装を片手に悠馬の大事なところへと蹴りを入れる。
「うぐっ!?」
「…何やってんのよ…悠馬」
「扉開けただけじゃん…」
「乙女のお着替え覗き禁止〜!」
「そういうのは全部終わってからにしてください」
あれ?セレスさん?思った以上に歓迎されていない気がするんですけど。
愛菜に大事なところを蹴られた悠馬は、イモムシのようになりながらも、彼女の下着姿を目に焼き付ける。
そしてふと思った。
こんなことしなくても、恋人なんだしお願いすれば下着姿見せてくれるんじゃね?と。
完全な蹴られ損だ。
わざわざ戴冠式前という彼女たちが神経質になるであろうタイミングで扉を開けるという悪手をついてしまった悠馬は、心底後悔する。
こんなことになるんなら、扉ノックしておけば良かった。
「悠馬、大丈夫?」
「…見たいなら見たいって言えば私が見せてあげるのに」
「美月、ソフィ…」
優しくしゃがみこむ美月は真っ白なスーツ生地のスカートを履いているが、残念なことに黒スパッツを履いているためパンツは見えない。
そしてその横に立っている豊満な胸を持つ女性、ソフィアは、悠馬がラッキースケベを起こしに来たと知っているのか、小さな声で問題発言をする。
美月とソフィアの温かい言葉に感動しながらも、大事なところが痛い悠馬は、地面に顔を擦り付けながら声を漏らした。
「痛い…」
「悠馬クンはボクが運ぶから。みんなは着替えを済ませておいてくれ」
『はーい!』
花蓮はドレスに、夕夏は武器の付いていない、バッジの付いていない白い王族衣装へと身を包み、他の彼女たちは、悠馬のよりも若干装飾が減った白の王族衣装を身につけ始める。
そんな中で悠馬を抱き抱えたルクスは、セレスと同じく早く準備が終わっていたのか、更衣室を後にする。
「あああ…」
楽園が遠のいて行く…
嘆かざるを得ない状況に小さな声を漏らす悠馬。
彼を横目に真っ黒な瞳を柔らかに向けたルクスは、抱き抱えている悠馬を大切そうに抱きしめる。
「悠馬クン…何度も悪いけど、本当にボクで良かったのかい?」
「何が?」
「ボクは国家反逆罪でロシア支部から国外追放を受けた、言うなればタダの犯罪者。…正直な話、キミに付いて行くとは言ったけど、犯罪者のボクが、果たして戦乙女として仕事をする資格はあるだろうか?」
これは何度もした話だ。
ルクスは1年半前のあの宣戦布告の影響で、冠位を剥奪され、逮捕はされなかったもののロシア支部から国外追放の罰を受けた。
彼女はもう2度と、守りたかったロシア支部には、大切だったロシア支部へは、足を踏み入れることができない。
ロシア支部を守るためといえど、総帥を幽閉し、悪に寝返ったルクスへの世間の評価というのは、かなり厳しいものだ。
まぁ、世間と言っても一般人は知らないから、総帥たちの意見なのだが。
ルクスが戦乙女になることを反対する総帥は、少なからずいる。
彼女はそれが不安で、自分がいることで今後も迷惑をかけるんじゃないかと心配しているのだろう。
無表情だが不安を感じさせるルクスを見て、悠馬は軽く微笑んだ。
「今更何言ってんだよ」
「え…?」
「大丈夫だ。この世界の王である俺が保証するよ。ルクスは俺の戦乙女で、誰がなんと言おうが、辞めさせはしない。資格なんて必要ないさ。資格が必要なら、俺が選んだ。それだけで十分だろ?」
自分がやりたいことに資格云々が必要なのは、専門職だけで十分だ。
男だから、女だから。犯罪者だから、危ないから資格がないというのは、ただの逃げであり、そんなことをいちいち言ってくる奴らなんてしょうもない人間ばかりだ。
そんな人たちの言葉を、ルクスが鵜呑みにする必要はない。
微笑む悠馬は、ルクスの頬に優しく触れる。
きめ細かく、柔らかい真っ白な肌だ。
戦乙女として悠馬の後ろに立つから、少しだけ化粧をしているのか、いつもに増して色っぽく見える。
お互い見つめ合い、そして悠馬へと顔を近づけたルクスは、彼を抱き抱えたまま口づけを交わそうとする。
「…君たちは…こんな宮殿の廊下のど真ん中で何をしてるんだ?」
「チッ、邪魔しないでくれるか?戦神クン」
「その名は捨てた。私はオリヴィアだ」
絶好のシチュエーション、最高の雰囲気でキスまで運べそうだったのに、それを妨害されたルクスはかなり不機嫌そうにオリヴィアを見る。
睨んでいないのを鑑みるに、彼女たちもそれなりに馴染んでいるのがわかる。
「オリヴィアクン…君、ボクと悠馬クンの雰囲気をぶち壊すなんて酷いな」
「…それはまぁ…すまない」
天然人間オリヴィアでも、2人が何をしようとしていたのかはわかった。
だからこそ、ルクスに愚痴を言われ、彼女は少しバツの悪そうな表情で外を指差した。
「もう外に人がいる」
「ああ…そういうことかい」
悠馬を抱き抱えていたルクスは手を離し、彼を宮殿の床へと着地させる。
オリヴィアは悠馬が異能王になる際の風体を考えて、不特定多数に見られるかもしれない、ガラスの多い宮殿内でのイチャイチャを避けたかったのだ。
戴冠式前に戦乙女とイチャイチャしてる姿なんかが撮影された後には、なんてふしだらな王だ!と叩かれるかもしれないから。
「もう集まっているんだね。ゴミメディアたちは」
「ルクス、それ言っちゃダメだから」
「まぁ、あと10分もすればスタンバイだからな。各国の国王も総帥も、ほぼ全員集合しているそうだ」
「良かったじゃないか。悠馬クン。エスカクンの時は、人があまり集まらなかったからね」
「エスカの時は異例だったから、比べてあげるなよ…」
エスカの時は大戦やテロ活動のイザコザに加え、正当な王位継承者でもなかったために批判する国家が多かった。
その意思の表明として、エスカの戴冠式では、反対する国家の国王は無断欠席をしまくったのだ。
数でいうと、ざっと半数が戴冠式に参加しなかった。
「それに、彼らは俺の就任を祝うというよりも、悪羅を殺した人物見たさだろ」
混沌が生きていたことは表向きにはされていないが、おそらく各国の国王レベルとなるとどこかしらから情報を得ているかもしれない。
混沌と悪羅を倒した男が次の異能王になるというのだから、この目でその人物が王になる瞬間を見届けたいと思うのが当然の道理だろう。
何しろ国王はこの場へただで招待されるのだ。
行っても行かなくても、損はない。
「君は相変わらず、卑屈だな」
「…まぁ…だってそうだろうし…」
悠馬が知っているのは、イギリス支部の国王、ノーマンくらいだ。
他の国の国王なんて一部を除いて会ったことも話したこともないし、正直悪羅を倒した男を見に来たと言われた方が納得がいく。
「まだこんなところにいたの?悠馬。あまり時間がないわよ?」
「あっ、花蓮ちゃん」
空中庭園に訪れている人々の話をしていたら、彼女たちがすぐに追いついて来た。
着替えが終わり、花蓮と夕夏とセレス以外同じ衣装になった9人の彼女たちは、悠馬を見てにっこりと笑みを浮かべる。
戴冠式まで、残り5分での出来事だ。
「みんなすっごく似合ってる。可愛い」
「当然でしょ?誰の彼女だと思ってるのかしら?」
「そうだよ!悠馬くん!」
「みんなで似合う色を選んだんだから、似合ってなかったら困るよ」
照れ隠しのように頬を赤らめる彼女たちを見て、悠馬もついつい笑みが溢れてしまう。
「さ、行きましょ?」
花蓮に手を差し出された悠馬は、そのまま彼女の手を握る。その直後、悠馬は歩き始めた花蓮の手を引っ張り、彼女たちの方へと向き直った。
「…こういうことは先に言っておくべきだと思うから」
「え、なに?」
「ありがとう。みんなが居たから、俺はここまで来れた。みんながそばにいてくれたから、俺は笑っていられる。…そしてこれからも…その…照れくさいんだけどさ…よろしく…」
それは異能王に就任する前に彼女たちに伝えたかったこと。
自分の気持ち、思い、そしてこれからを話した悠馬は、顔を真っ赤に染め、頭を下げた。
「あはは、悠馬くん、こちらこそよろしくね!」
「そうですよ。悠馬さん。これからも末長くよろしくお願いします♪」
「よろしくね、悠馬」
「こちらこそよろしくお願いします、悠馬センパイ」
「ああ。共に頑張ろう」
「実力行使はボクに任せてくれ」
「ルクスさま!?だめですよ!?」
「はいはい、ルクス、セレス落ち着いて。せっかく悠馬が良いこと言ってるのに台無しになるじゃない」
「頑張ろうね、私の悠馬」
「みんな…!」
なにを今更…みんなそう思っているだろうが、口には出さない。
もうお互いの気持ちというのは、言わずとも通じ合っているから。
ニコニコと笑う彼女たちを見てから、悠馬は気を引き締め直し、大きく一歩を踏み出す。
その一歩はいつもと同じように見えたが、表情も雰囲気も、以前の悠馬とは全く違うものだった。
「さぁ、行こうか!」
少し肌寒くも、日差しの暖かな季節。
綺麗な花々、白亜の宮殿に見送られる悠馬はこの日、9代目異能王になった。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!
まだ若干の伏線というか、そういう類のものが回収されていないと感じている方もいると思いますが、その辺りは今後、アフターストーリーという形で回収する予定です。
毎日更新は厳しくなるかもしれませんが、週に3回ほど、今と変わらず21時ごろに更新できたらいいなと思ってますので、よろしくお願いします(^人^)
色々書きたいことはあったのですが、いざ書こうと思うと、なにを書けばいいのか迷っちゃいますね…笑




