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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
エピローグ
343/474

悪羅VS悠馬

「なにを…」


 エスカの発言に、アメリカ支部総帥、アリスの小さな声が響く。


 今のは間違い無くテレビ音声に入っているだろうが、今はそんなことどうでもいい。


 ただ、エスカの背後にある玉座の後ろから、コツコツという不気味な足音が響き、場内は瞬く間にその音に侵食されていった。


「え…は?」


 1番理解が及んでいないのは、悠馬。

 もともと緊張していたということもあってか、唖然とした表情で頭をあげた悠馬は、片膝をつくことなど忘れ、立ち上がってみせる。


「さて、戦おうか」


 玉座の後ろから現れた、漆黒の人物。

 それは見間違うことはない、何度も顔を合わせ、そして知ってしまった悪羅百鬼の姿。


 彼がここにいるなんて、誰が想定しただろうか?


 エスカはもともとこうなることを予測していたのか、嬉しそうに悪羅へと前を譲り、悠馬に手を振った。


「頑張れー!応援してるよー!」


「お前マジで愚王だろ!」


 ここが世界中継されているなんて忘れて、悠馬は大声で叫ぶ。


「悠馬クン!」


 悠馬の叫び声と同時に、影を纏い急接近した悪羅。


 そんな悪羅に対し、黒の聖剣を抜剣して悠馬の前へと出たルクスは、彼の手にしている薄汚れたデバイスを受け止める。


「おっと!いきなり王は無理かぁ」


 黒の聖剣で打ち合っているというのに、へし折れることもなく、ギリギリと音を立てながら火花を散らす薄汚れたデバイス。


「王をお守りしろ!我々の役目だ!」


 悪羅の先制攻撃を許してしまった、総帥や戦乙女たち。


 辛うじて次期戦乙女のルクスが、王の首を取らせはしなかったものの、後手に回ったのはまぎれもない事実。


 総帥という立場上、これを黙って見過ごすわけにはいかないアリスは、各支部の総帥ならびに総帥秘書へと指示を飛ばし、悪羅を牽制しようとした。


 しかし


「8代目異能王として、最後の命令だ。総帥ならびに総帥秘書、現戦乙女は動くな」


「なっ…」


 なにを考えているんだこの男は


 エスカの命令を聞いて強く踏みとどまったアリスは、玉座へと腰を下ろしたエスカを睨みつける。


「ルクス、ありがとう。あとは俺がやる」


 わずか十数秒の出来事。

 悪羅と剣を交えるルクスに言葉を放った悠馬は、真っ黒な髪の毛を揺らしながら歩き始める。


「…1人でいいのかい?」


「大丈夫だ。心配いらない」


「そうかい」


 ルクスは悠馬の言葉を聞いて、ゆっくりと剣を下ろす。


 それと同時に走り始めた悪羅は、悠馬へと摑みかかる。


 掴みかかってきた悪羅に押されながら、背後に倒れこむ悠馬は、倒れこむ直前で足に力を入れ、バク宙のようにして彼へと蹴りを打ち込んだ。


 バースの時に見せた、いや、バースの時よりも遥かに洗練された身のこなし。


 異能を使って接近した悪羅は、自身の力を利用され、そして悠馬の蹴りも相まって、宮殿の壁をぶち抜いて外へと転がった。


「いてて…」


 オレンジ色に染まる、空中庭園。

 世界中の花々を集めた花壇は、悪羅を恐れたように大きく揺らめき、肥料の香りと蜜の香りを漂わせる。


 悠馬に蹴りを入れられ花壇を転がる悪羅は、この世界の花々を散らしながら、体制を立て直した。


「随分な仕打ちじゃないかな?暁悠馬くん」


「…こっちのセリフだ。何しに来やがった」


「お祝いに…」


「ふざけんな」


 悪羅が祝いに来るなんて、まずあり得ない。

 彼がどういう人間か知っているからこそ、それだけはわかる。


 ふざけたことを抜かす悪羅を睨みつける悠馬は、腰に携えたクラミツハの神器を引き抜き、悪羅へと向けた。


「ま、そうだよね。俺としても元よりこうなることを願って来たわけだし」


 ここで戦うためだけに来た。

 報道陣が解き放ったのか、無数のドローンが飛翔していくのを横目に、悠馬は鳴神を発動させた。


 悪羅のレベルは99。おそらく反転セカイの領域にまでたどり着いた3人の人物の中にカウントされているのが彼で、慣れていない異能を使うのは返って悪手だ。


 何しろ悪羅は悠馬にない数百年の経験を積んでいるわけであって、いくら悠馬が反転セカイの上位互換、セカイを持っていたとしても、異能のゴリ押しで勝てるような相手じゃない。


 それに悠馬も悪羅と同じくレベル99なわけで、レベル的には互角、経験値が多い悪羅の方に軍配があがるだろう。


 悠馬がセカイで神になれば悪羅を圧倒できるだろうが、神格を得るなんてこと求めてもいない悠馬には、その選択肢がない。


「ゲート」


「っ…!」


 ゲートで距離を詰めて来た悪羅の、薄汚れたデバイスから放たれた横薙ぎを神器で防ぐ。


 それと同時にゲートを発動させた悠馬は、悪羅の立っているちょうど真上から現れ、彼の脳天を打ち抜こうと、神器を下へ向ける。


 悠馬の刀がゲートでどこへ現れるのかわかっていたのか、上空からの攻撃を見ることもなく回避した悪羅は、薄汚れたデバイスで花壇を掘り返しながらニンマリと笑った。


「やっぱ、同じ異能同士だとこうなるかぁ…」


 ゲートにはゲート、鳴神には鳴神、刀には刀。

 全く同じ異能で対抗し合うことが目に見えていたのか、悪羅は愉快そうに見えた。


「同じじゃねえだろ」


「…まぁ、同じだよ。だって俺は異能を使えないし、だからこそ反転セカイ発動時は全ての異能が使える」


「嘘つくなよ」


 悪羅が異能を失っているのは事実かもしれないが、だからといって反転セカイでセカイと同じ異能を使えるわけがない。


 だって、悪羅がセカイを保有していたなら、彼の世界を巻き戻すことは容易だったはずだ。


 自分が神格を得ることにより、セカイを使用することによって、幸せな世界を作れたはずだ。


 しかし悪羅はそれをしなかった。


 このことが指す意味というのはつまり、悪羅は反転セカイ、物語能力の少し上に立っているに過ぎない。


 まぁ、だからといって何かが大幅に変わるわけではないのだが。


 せっかく手に入れたセカイを有効活用する気のない悠馬も、悪羅より強い異能を保有しているものの、結局反転セカイ止まり。


 全ての異能を失っている悪羅の反転セカイと、全く同じ異能しか使えない。


「ま、どうだっていいじゃん。そんなどうでもいい話より、真面目に戦わないと…ホラ、各国から疑惑の視線向けられるよ?」


「そうだな」


 悪羅が自分自身だということは、知っている。

 だからこそ、こんな日がいずれ来るのだろうと思った。


 目的を達成した自分自身が、最期に一人残った世界で何を望むのかなんて、わかりきっている。


 悪羅百鬼…いや、暁悠馬は、自分が必要なくなった世界で、自分に殺されることを望む。


 だから悠馬は、手加減なんてしない。


 それが6年前のケジメ。いや、暁悠馬としての義務だ。


 悪羅百鬼の息の根を止めて、この世界に蔓延る悪に警鐘を鳴らす。

 異能王として、そして暁悠馬として行わなければならない、大きな大きな第一歩だ。


「ニブルヘイム」


「ムスプルヘイム」


 悪羅が大気に冷気を漂わせるのを感じ取り、悠馬はその冷気たちを、一瞬にして熱気に変える。


 その影響で発生した風は、花壇の花々を大きく散らし、台風のように通過していく。


「…随分と成長したんじゃない?3年前は片手で十分だったのに」


「そりゃあ、レベルだって80近く上がったんだ。当然だろ」


「そうだね」


 悠馬と会話をしながら、悪羅は雷の弓矢のようなものを複数生成し、悠馬へ向けて一斉射撃する。


 彼の弓をクラミツハで切り裂きながら接近する悠馬は、徐々に目を慣らしていき、かすり傷一つ負わずに悪羅の懐へと入り込んだ。


 悠馬が1番得意としているのは、空手でも他の格闘技でもない。


 彼が最も得意としているのは、純粋な剣技だ。


 異能込みの剣技ならまだまだ上はいるだろうが、悠馬は異能なしでの剣技で、2年前に前総帥である総一郎や、宗介を倒した経験がある。


 それで自信過剰になっているわけではないが、悪羅に付け入る隙と考えるには、十分だろう。


 間合いへ入った悠馬を、驚いたように、そして嬉しそうに見つめる悪羅は、空いている左手で氷の剣を生成し、悠馬の剣戟を相殺しようとする。


「させねぇよ…」


「まさか…」


 悠馬が大きく振りかぶった神器からは、無数の閃光と、そして雷が迸っている。


 神器が目に入った悪羅は、放たれる異能を察したのか、生成した氷の刀の密度を更にあげ、防御体制へと入った。


「消し飛べ…!雷切白夜ッ!」


 オレンジ色に染まる空中庭園は、瞬く間に白色に包まれ、そして一瞬にして、世界は青空に変わった。


 聖異能の奥義、白夜と、雷異能の奥義、雷切を複合させた、火力特化の最強技だ。


 生成した刀をへし折られ、腹部から血を吹き出した悪羅は、嬉しそうにその場で踏みとどまる。


「いってぇ…こんなにダメージを食らったのは、いつ以来かな…」


「チッ…斃れろよ」


 意外としぶとい、というか、さすがは自分自身というべきか。


 明らかに致命傷を食らっているというのに、腹部の傷を徐々に再生させていく悪羅の姿は、自分を彷彿とさせる。


 死なない呪い。不死の呪い。あっちの夕夏の願いを言い換えれば、そうなってしまう。


 悠馬も一歩間違えれば、大切な人を全て失った世界で、たった一人再生し続けて生きなければならないのだ。


 そう考えると、ゾッとする。


 白夜の浄化で消し飛ばせるんじゃないか、そんな期待をしていた悠馬は、その期待が裏切られ、次の手を考える。


「極夜」


「っぶね…」


 悠馬が次の手を考えようと意識を逸らすと、悪羅はその隙を狙ったように極夜を放つ。


 一直線に伸びて来る闇を背後に仰け反り回避した悠馬は、冷や汗を流しながら悪羅を睨んだ。


 悠馬も極夜を食らったからといって死ぬわけじゃないが、間違いなくかなりのダメージを負う。


 ルクスの極夜を何度か食らったことのある悠馬は、あれがレベル差云々というよりも、油断していた場合、自身よりレベルの高い相手でも殺すことができるのだと考えている。


 だから同レベルの悪羅から放たれた極夜は、おそらく相当なダメージになるはずだ。


 夜のような世界を一瞬作り出した極夜を見送り、悠馬は炎に雷、そして氷で生成された矢や槍、剣を自身の周りに舞わせ、悪羅へと迫る。


「どうすんの?」


「こうするんだよ」


 悪羅が放って来る闇異能を相殺するために、事前に生成していた武器たちで相殺していく。


 一本減るごとに一本増やし…を続けていくことにより、悪羅に考える隙を与えない。


 悪羅を手数で圧倒し接近する悠馬は、再び彼との間合いに入り、神器を振るおうとした。


 しかし悪羅とて、そう何度も悠馬の攻撃を許すつもりはない。


 悠馬が神器を振り上げると同時に、肘の関節を的確に蹴った悪羅は、衝撃で飛んでいく神器を眺めながら、続いて空いている足で悠馬へと回し蹴りを入れた。


「ぐっ…!」


「いくら再生すると言えど、関節を攻撃されれば痛いし、手に入れていた力も抜ける」


 シヴァの恩恵を持っているからって、痛みを感じない最強の人間になったわけじゃない。


 右肘を抑える悠馬を見ながら、そう告げた悪羅は闇で出来た球体のようなものを生成し、悠馬へと向ける。


「食らう?」


「嫌だね。崩壊」


「…へぇ。あの黒髪の奴が使ってた異能か」


「やっぱり、見たことないんだな」


 黒咲と悪羅は交わっていない。

 いや、悪羅がいたからこそ悠馬と黒咲が交わって、タルタロスで共闘することになったのだから、悪羅がいない世界では、黒咲と悠馬は交わっていないというわけだ。


 つまり悪羅は崩壊という異能を知らない。

 最初に慣れた技の方が…といっていたが、悪羅が崩壊を知らないなら話は変わって来る。


 相手の知らない異能を使うことにより、相手に深読みをさせることだって出来るし、それだけで相手は、手数が遮られる。


「そんな異能あってもなくても変わらないからね」


「減らず口だな」


 肘が治ったのを確認して、悠馬は動く。

 さっきよりも早く、そしてより複雑に。


 稲妻のような速さで動く悠馬を目で追う悪羅は、どこか嬉しそうな表情で、彼の成長を見守っていた。


「真面目にやれよ」


「!?」


 悠馬の怒ったような声。

 成長を見届けるつもりだった悪羅は、自身の右手が宙を舞ったことに気づき、背後に立っている悠馬を見る。


 悠馬は真剣な表情で、悪羅の右手を地面へと落とした。


「お前が死にたいのはわかってる。…でもな。戦う気もない、意図的に手を抜いてる奴と戦わされるこっちの気持ちにもなってみろよ」


「……そうだね。うん、そうだった」


 悠馬は悪羅に対して、家族を殺された恨みを持っている。


 それは父親に長く生きて欲しいと言われても消えるものではないし、復讐なんてしなくていいと言われた今でも、恨んでいるのは違いない。


 それなのに、目の前でその悪羅が手を抜いてわざと負けてくれたら?


 こっちは本気でやっているのに、バカにしてるのか?という気持ちになってしまう。


 悠馬の意見に対し何か悟った悪羅は、無表情へと変わり右手を再生させた。


「後悔すんなよ」


「しねえよ」

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