表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
エピローグ
342/474

王位継承式

「はぁ…緊張する…なんか寒くなってきた…」


「悠馬さま、暖かいスープです」


「ありがとう、ローゼ」


 卒業式が終わってから、その足で向かった異能王の空中庭園。


 まずは悠馬の就職先(?)について話すとしよう。

 察しのいい人ならばもうわかっているかもしれないが、悠馬の就職先というのは、この世界の平和を維持する存在、異能王のことだ。


 悠馬は何十億人もいるこの世界の中、たった1人だけ選ばれる異能王の玉座に座すことが決まっている。


 8代目(9代目)異能王のエスカが腕を失ってから早1年半。

 全世界では、片腕を失った王が、果たして最強なのかと熱く議論され、早く辞めろという意見も数多く挙がった。


 エスカはもともと異能王という地位に執着がなかったようで、嫌だなんてことは一言も言わずに、ただ一言、次の王位継承者は決まっていると話した。


 それが悠馬だったというわけだ。


 新たな王位継承者。全世界の注目の的になるであろう、エスカを超える新たな実力者。


 レベルは上がっても、緊張感がなくなるわけでないため、これから全世界に生中継されると思うと、頭がくらくらする。


 悠馬は真っ白な王族風の衣装に、肩に金色の肩章が施され、青の刺繍が入っている服に身を包んでいる。


 胸元には2つのバッジ、混沌を撃破した黒く輝く宝石の勲章と、あのお方との戦いに参加した人物たちに送られる、ルビーの勲章が付いている。


「悠馬。安心して。世界の目なんて、気にしなくていいの。貴方はいつも通りにしていれば、必ず認められるから」


「ありがとう。ソフィ」


 この場にいるのは、悠馬の戦乙女たちだ。

 驚きもするだろうが、悠馬はエスカの戦乙女隊長であるセレスや、イギリス支部総帥であるソフィアを戦乙女にしてしまった。


 というか、本人たちの希望だ。

 1年の間にいろんな出会いがあって、愛菜のようにアプローチをしてきた学生はたくさんいたが、悠馬はその中でも、自分が本気で好きになった人をそばに置くことにした。


 それがセレスだ。…あとは…


 花蓮、夕夏、美月、朱理、オリヴィア、ソフィア、愛菜、セレス…


 8人の戦乙女、正妻、異能王秘書がいるわけだが。


 席が一つ空いている。


 最初の方にも話したが、戦乙女は7人、正妻は1人、秘書を1人取れるのが異能王だ。


 最大で9人と婚約ができる異能王は、形上だけでも、必ず9人の戦乙女や正妻を集めなければならないわけで、悠馬だけ例外で8人、なんてことはできない。


「おまたせしたね…」


「ルクス!」


 化粧室にでも行っていたのか、最後の1人がこの場に顔を出した。


 ロシア支部元冠位・覚者の漆黒のルクスだ。

 花蓮はルクスが声を放つや否や、嬉しそうに漆黒の彼女へと駆け寄り、抱きつく。


 花蓮とルクスは、何故だか知らないがかなり仲が良い。


 これで9人。

 悠馬は元冠位オリヴィアとルクスを2人と、元戦乙女の隊長セレスを1人と、元イギリス支部総帥ソフィアを1人を戦乙女にするという、前例のないことをやってのけた。


 もちろん、反対するものはいない。


 だって彼女たちが望んだことだし、悠馬が強制させたことではないから。


「悠馬。…私も緊張してきた…」


「美月もスープ飲む?」


 悠馬と同じ真っ白な王族衣装に身を包む戦乙女の美月は、同じく緊張しているようだ。


 まあ、卒業式の後すぐに戦乙女になるんだから、誰だって緊張してしまうだろう。


「立っているだけ…立ってるだけ…大丈夫…」


 夕夏も夕夏で、かなり緊張している。

 みんな同じ衣装で、違うのは勲章のあるなしだけ。


「朱理先輩、これどう着るんですか?」


「こうです」


「ありがとうございます!」


 緊張していない人物も、中にはいる。


 美月や夕夏、悠馬は緊張しているものの、アイドルとして過ごしてきた花蓮や、暗殺をしてきた愛菜といった彼女たちは、平常運転中だ。


 なんというか、こんな状況でもいつも通りなのが凄い。


「悠馬さま?」


「ローゼぇ!やばい!心臓が飛び出しそう」


 刻一刻と迫ってくる、継承式までの時間。

 再びセレスに声をかけられた悠馬は、黒髪を揺らしながら彼女へと抱きつき、子供じみた声を上げた。


 翠色の髪が大きく揺れ、セレスの腰に掛かっていた神器がカチャンと音を立てる。


 赤い瞳をギョッと動かしたセレスは、抱きついてきた悠馬を反射的に抱き寄せ、硬直した。


「ゆ、悠馬さま!?」


「ちょっと待って…マジで…マジで緊張してるんだよ…死にそう…今日延期にしてほしい…」


 卒業式の前は、余裕そうに八神と話していた悠馬だが、いざ本番が近づいてくると、独特な雰囲気にやられてしまい足がすくむ。


 セレスに抱き寄せられる悠馬は、柔らかな彼女の胸の中で目をくるくると回している。


「悠馬…アンタねぇ…」


「か、花蓮さま?」


「アンタはひれ伏せ愚民ども!的なノリでいけば良いのよ!」


「ダメですよ!?」


 なんだその魔王的な発言!

 悠馬をいつも通りに戻すために冗談を言っているのか、それとも本気でそんな発言が許されると思っているのか定かではないが、セレスは即座にツッコミを入れる。


「第一ね…アンタセリフ〝はい〟しかないでしょ!継承式は今日だけど、宣言は来週なんだし、緊張するのは来週にしなさいよ!」


 異能王の継承式は、継承式当日は先代になる異能王が話し続けるだけで、宣言式は1週間間を置くという風習がある。


 つまり悠馬は今日、はいと答えていれば全てが済むわけであって、言葉が飛ぶということは絶対にナイ。


 花蓮に叱られる悠馬は、半泣き状態でセレスから引っぺがされ、ソファに座らされる。


 赤い豪華そうなソファだ。

 きっと買ったら数百万するであろうソファにドサっと座らされた悠馬は、ソファの横にある机から黒い鞘に納められている神器を投げつけられる。


「わぁっ!?」


「神器、腰にちゃんとつけなさいよ。異能王なんて舐められたら終わりなんだから、武器も持ってないなんて思われたらそれこそおしまいよ」


 そういう花蓮は、シヴァの神器であるトリシューラと、翠の聖剣、それにもう一つデバイスを腰に携えている。


 オリヴィアは蒼の聖剣を、ルクスは黒の聖剣を、夕夏は白の聖剣を携えていて、これだけ戦乙女が豪華な武器を持っているというのに、異能王が手ぶらなんて、それはおしまいだろう。


「セレスティーネ!準備終わってるの?あと5分で入場なんだから早くしなさいよ!」


「あっ、マーニー!すみません!」


 悠馬に抱きつかれ、なんだかんだで残り時間の確認をしていなかったセレスは、勢いよく開いた扉の先にいるマーニーに怒鳴られる。


 青色の髪を揺らす不機嫌そうな彼女、ツンデレのマーニーの左手薬指には、指輪がはめられている。


 彼女はエスカが異能王じゃなくなった後も仕えるらしく、1年前、セレスが無理やり解雇された後に婚約宣言をしていた。


 世間では大ニュースになったものだ。

 戦乙女隊長を無理やり解雇して、ただの戦乙女を隊長にして婚約宣言。略奪愛、愚王だと。


 立場上今はまだマーニーが格上のため、彼女は元隊長であるセレスへ敬語は一切使わなかった。


「セレス、アンタそっちの方が活き活きして楽しそうよ」


「え?」


「何もない!」



 ***



 白く大理石のような石で作られた大きな扉の前。


 高さは20メートルほどだろうか?横幅は10メートルほどある大きな扉の前で止められた悠馬は、初めて見るサイズの扉に、圧倒される。


 大理石のようなもので作られた扉には、おそらく純金であろう取っ手が付いていて、金色の装飾まで施されている。


 それはどこかの宮殿を彷彿とさせる大きさ、美しさで、特にこの場へ来るのがはじめての人物たちは、完全に圧倒される。


「いい?バカガキ。アンタはハイって答えるだけでいいんだから余計なこと言わないでよ」


「た、多分大丈夫です」


 相変わらずドギツイマーニーの説明を受けながら、悠馬は頷く。


 今頃扉の中の宮殿では、セレスとマーニーを除いた戦乙女たちと、各支部の総帥ならびに総帥秘書、そして異能王が世界中継で退位式を行なっているのだろう。


 戦乙女の隊長であるマーニーは、次期異能王である悠馬を入場させる役目があるため、場外だ。


 悠馬は扉が開かれると同時に、入場して異能王の前で跪けばいいだけの、単純な作業。


 しかしそれだけでも緊張する。

 自分が異能王になる、そして中では今頃、世界中の報道機関が集まっているのだと考えると、どうしても余計なことを考えてしまう。


 ミスったらどうしよう?とか。


「ゆ、悠馬くん、頑張ろうね!」


「あ…うん…夕夏、緊張しすぎじゃない?」


 背後から聞こえてきた、夕夏の元気な声。

 元気といっても、声のトーンは落としているためヒソヒソだが、それでも彼女の気合は伝わって来る。


 しかし残念なことに、声とは裏腹に振り返った先に立っている夕夏は、くるくると目を回していた。


 どうやら夕夏も、こんな展開は緊張するらしい。


 自分よりも夕夏の方が緊張しているのだと知り、少しだけ落ち着いた悠馬は、軽く微笑む。


「だ、大丈夫!私はいつも通り…!」


「シッ!うるさい!」


「あっ…すみません…」


 徐々に声が大きくなった夕夏は、マーニーに叱られ口を噤む。


 亜麻色の髪を揺らし、自分の手で口を塞いだ夕夏は、横にいる花蓮に軽く背中を叩かれる。


「大丈夫。いつも通りの私達でいきましょ?」


「う、うん…!」


 さすが正妻なだけあって、花蓮ちゃんは違うなぁ…


 ここで補足だが、悠馬が異能王になるに際しての正妻は花蓮、異能王秘書は夕夏、戦乙女の隊長がセレス、残りの6人が戦乙女という形になっている。


 これはまぁ、付き合った順番と経験の問題だ。

 セレスは以前も戦乙女の隊長をしていたため、彼女たちの中でそう決まったらしい。


 後ろを見ながら、それぞれの神器を携え緊張する彼女たちに微笑みかけ、悠馬はゆっくりと開き始める扉へと視線を戻す。


「さぁ、新たな異能王の入場だ!」


 薄っすらとした光が扉の隙間から入り、悠馬は歩き始める。


 先頭を歩くマーニーに続く悠馬は、大きな青色のステンドグラス、聖母のような絵が描いてある壁画を横目に、異能王の宮殿の中へと入場した。


 悠馬が入場すると同時に、総帥、総帥秘書や戦乙女たちから拍手が上がる。


 ちょっと目を逸らせば見えて来る、日本支部総帥の寺坂や、総帥秘書の鏡花。


 鏡花は今日が教え子の卒業式だったため、飲み会に誘われていてもおかしくないが、どうやら飲み会よりもこっちを優先したようだ。


 軽く微笑みかけて来た鏡花と視線を合わせ、悠馬も頬を緩める。


 今の悠馬がここにいるのは、少なからず彼女のおかげでもある。


 担任教師が鏡花じゃなければ、もっとみっともない人間になっていたはずだ。


 鏡花と寺坂から視線を外すと、続いて見えて来たのはイギリス支部の総帥たち。


 イギリス支部は突如として現総帥のソフィアが辞職を宣言したため大荒れだったらしいが、現在は新たな総帥が英国を率いている。


 それが彼、フレディ・オーマーだ。

 悠馬とはフェスタで戦い、留学の時に再び手合わせをした金髪の美少年。ボクっ娘と勘違いされることを少し気にしている、れっきとした男だ。


 イギリス支部の総帥選挙、というか、全ての支部は、基本的に選挙の際、◯◯公認。という情報が流れる。


 簡単に言えば、日本の知事選みたいな感じだ。◯◯党公認、的な感じで有名人の名前が書かれ、その中から抱負や政策、知名度の高い人間が当選する仕組み。


 そしてフレディは、ソフィア公認ということもあり、卒業後わずか1年という短期間で、総帥としての仕事を覚え、そして本物の総帥にまでなってみせた。


 これは歴代でも最速らしく、卒業してたったの一年で総帥にまでなった人物は他にいないらしい。


 フレディは悠馬と目が会うと、ウィンクをしてみせた。


 あざといというか、本当に女にしか見えない。


「ここに、8代目異能王、エスカ・トラジスタは退位並びに王位継承を宣言する」


 エスカの発言と同時に、悠馬は片膝を突き、無言のまま頭を下げる。


 ここまでは打ち合わせ通りだ。

 まぁ、ちょっと顔を動かしすぎたかもしれないけど、その辺は初めてだし許してほしい。


 あとは〝はい〟とエスカの話に相槌を打てば数分で終わる。


 全世界に中継されているためか、冷や汗を流す悠馬は、背中までビショビショだ。


「ではまず…9代目異能王へ王位継承をするに当たって、キミにはまず、ある任務を与えたい」


「は…い?」


「あのバカ…」


 エスカの言葉に詰まった悠馬。

 予想だにしない、いや、台本にない言葉を発したエスカに対して硬直した悠馬と、それを見たマーニーは、悠馬の反応を見て小さな声で毒づいた。


「キミに与える1番最初の任務…それは…」


 不穏な空気になる、宮殿内。

 ここまでくれば、話を聞き逃していたマーニーですら、悠馬がおかしくないのだとわかった。


 任務なんて、台本には書いていなかった。


 総帥に秘書、戦乙女の視線が、一斉にエスカへと向く。


「悪羅百鬼の討伐だ」


 ニッコリと笑い、さらっと爆弾発言をする8代目異能王、エスカ。


 シンと静まり返る場内。

 不穏な空気を読んだ報道機関たちも、カメラの後ろで顔を見合わせ、首を傾げていた。


 退位式で次期異能王に任務を与えるなんて、前例がないから異変を感じたのだろう。


 そんな不穏な空気が立ち込める、宮殿内。

 1人この計画、自身の退位を楽しんでいる8代目異能王、エスカは、嬉しそうに笑みを浮かべながら右手を横に流した。


「それでは、悪羅百鬼くんの入場です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ