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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
エピローグ
340/474

それぞれの道

すみません、少し遅れました(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

 通い慣れた通学路を歩くのも、おそらく今日で最後。


 真っ黒な髪色に戻ってから、茶髪に変えることのなかった暁悠馬は、冬服に身を包み、空を見上げた。


 あれから本当に色々あった。

 混沌、あのお方の騒動からはやくも1年半が過ぎ、季節は巡り3年の冬。


「本当に…色々あった3年間だった」


「……オイ、なんでお前が吹き替えてんだよ」


 空を見上げた悠馬が言いそうな言葉を、後ろから現れたフザけた金髪の男が発する。


 いつもと変わらない、おちゃらけた様子の彼、紅桜連太郎は、不服そうな悠馬を見ながらニヤニヤと歩み寄って来た。


「いやぁ、だって今日は卒業式だぜ?俺は紅桜家を継がないといけないし、お前も…だろ?俺たちの向かう先は、それぞれ違う。だから最後くらい、いつも通りでいようぜ」


「そだな」


 人の新たな門出というのは、同じ学年、同じ学び舎に通っていたからといって必ずしも同じわけじゃない。


 大学に進学する人もいれば、就職をする人もいる。はたまたどちらも選ばず、特殊な方向へ進んでいく人々だっているはずだ。


 当然のことだが、進学先が同じ人もいるかもしれないが、大半の生徒は高校卒業と同時にサヨナラすることになる。


 いつかまた、同窓会や偶然道端で…ということもあるのかもしれないが、連太郎の家系においてそんな展開はまずあり得ないだろう。


「赤坂とはどうなんだよ?」


「ん?加奈ちんは卒業すると同時に、紅桜に姓を変えるってさ」


「へぇ、焫爾さんがよく許可してくれたな」


「んま、色々頑張ったからね〜」


 連太郎は2年の修学旅行で、色々とあって加奈と付き合い始めている。


 それは3年になってからも継続していて、別れの季節である卒業式、つまり今日まで続いている。現在進行形で。


「お前が尻に敷かれる光景しか見えねえな」


「それはこっちのセリフだぜ!悠馬」


「おい、悠馬〜!見ろよ!俺様の制服、真っ白にしたんだぜ!」


「お…」


 連太郎と話をしていると、遠くから大きく手を振ってくる通の姿と、疲れ果てた様子の八神の姿が見える。


 きっとこの大きなイベントで暴走した通が、いつものように八神を引っ張りまわしているのだろう。卒業式という終わりのイベントだというのに、八神は朝からクタクタなご様子だ。


 第1の制服、というよりも、白スーツのようなものを着ている通は、なんだか海外のマフィアに憧れるちんちくりんにしか見えない。


 きっとこの姿を鏡花に見られたら、激怒されることだろう。


「どうだ?真っ白な制服、かっけぇだろ!」


「それはプロフェッショナルが着るから似合うんだぞ…通」


 一般人が白スーツを着ていたら、ただの頭のおかしな自己主張の強い奴だ。


 こういうのはお金持ちや、スポーツ選手が着るから似合うのであって、そこいらの一般人にはお世辞にも似合う人なんていない。


 流石にこのまま卒業式へは行けないと思った悠馬は、通を回れ右させる。


「女と写真撮りたいならいつもの制服に着替えてこい」


「え、でもこれ特注…」


「お前、制服着た女子と写真撮りたいのに、別の格好で卒業式に来たやつと写真撮りたいか?」


 特に高校の卒業式は、人生で最後に着る制服での式典だ。

 当たり前だが、最後の写真は制服で、というのが主流だし、変な格好、仮装のようなコスプレをしている輩と写真を撮ろうとはあまり思わない。


 除け者にされたくないなら制服に着替えて来い。女と写真撮りたいだろ?


 遠回しにそう告げた悠馬に、通はキラキラと目を輝かせながら走り始めた。


「そこで待ってろよ!俺様は着替えてくるから!」


「ああ。早く行ってこい」


「…お前、随分と通の扱いに慣れたな」


「3年間も生活してれば、ある程度扱いにも慣れるさ」


 朝から疲れ果てている白髪好青年の八神に、悠馬は笑いかける。


「てか、お前は美沙と通学しないんだ?」


「っ…別にどうだっていいだろ?」


 美沙と八神も、付き合い始めていた。

 それは3年になった始まりに起こったある一件の影響だ。


 悠馬の質問に対し、照れ臭そうに頬を赤らめた八神は、冷たい言葉を放ちながらそっぽを向いた。


「フラれた?フラれたか?」


「ち、違えよっ!ただ…最後は女子だけで通学したいから、一緒には行けないって」


「失恋だな」


「失恋だろ」


「失恋しろ」


「リア充共抹殺」


「うわ!?お前らどこから湧いて出た!?」


 八神の美沙との会話のやり取りの回想に、嫉妬と憎しみに満ちた表情の変態四天王の3人が突如として現れる。


 狂気に満ちた彼らは、卒業式だというのに、入学当初から何も進歩していない。


「あ、おい!暁後でサインくれよ!」


「俺も!オークションで売るからさ!」


「おい、そういうの本人の前で言うなよ!モンジ、お前にはサイン書かねえから!」


「クソ!薄情な奴だな!それでも友達かよ!」


「お前ら高校生活3年間でいつもいつも、俺が彼女できるたびにハブってきたくせに、よくもまぁぬけぬけと友達だなんて言えるな!」


 モンジとの安い友情に憤慨しながら、悠馬は塀に背中を預ける。


「しっかしまぁ、お前らが進学とはな…」


 栗田にモンジ、山田。

 山田はスポーツができたからともかく、変態的な性癖をお持ちのモンジや、度々問題を起こして先生たちに説教を食らっていた栗田が進学だなんて、思いもしなかった。


「お前らは就職組だもんな」


 成績優秀な悠馬は就職で、平均以上の学業成績を修めていた連太郎も就職。八神はまぁ、とんでもなくバカだから就職が当然のこととするが、その八神とどっこいどっこいの学力だった彼らが大学進学というのは、未だにしっくりこない。


 しかもコイツらが今年から通うのは、ただの大学ではなく国立大学だ。


 異能島の狭き門を潜ったと言えど、その中で学力的には下の方で停滞していた彼らですら国立大学への入学を決めているのは、さすが国立高校様様としか言えない。


 だが、コイツらが全員国立大学だからと言って、他の学生が全員国立大学に通うわけではない。


 当然だが、専門知識を身につけるために専門学校に通う学生や、国立大学では学べないことを学ぶために、私立大学を志望する優秀な学生もいる。


 本当にそれぞれ道が違っていて、目の前にいる彼らは自分の希望の道へと歩き始めたのだから、すごい奴らだ。


「なんだ?暁、お前なんか寂しそうだな!」


「ははっ、だってコイツ、卒業式終わったその足で式に行かないといけないんだぜ!?」


 みんなそれぞれ道が違う。

 少し感傷的になっている悠馬に対して、栗田とモンジはいつものように接する。


 別れの季節と言えど、誰もがしんみりとしたお別れは嫌だ。いつものようにおちゃらけて、いつものように、また明日と言い合ってお別れをしたい。


 悠馬の気持ちもわかるが、それでもいつも通りに振る舞う彼らは、徐々に通行量が多くなり始める通学路を見た。


「はぁーあ、高校では彼女作るつもりだったんだけどなぁ…」


「俺もだぜ…ったく…」


「ははは…」


 栗田とモンジの嘆きに、なんだか申し訳ない気持ちになる。


 八神も悠馬も連太郎も、彼らと違って彼女がいるため、嘆きを聞いてからあからさまに視線を逸らす。


 卒業式までハイエナたちに群がられて罵られるのは、死んでもゴメンだ。


「お待たせ!どうだ!俺様の制服姿」


「見飽きたよ、バーカ」


「きー!なんだと栗田!お前そんなこと言うから彼女できねえんだぞ!」


「はぁ!?お前もいねえだろうが!」


 争いは、同レベルの者でしか始まらない。

 高校生活でお互いに彼女ができていない2人は、しょうもないことから言い合いを始める。


 卒業式なのに、なんか、うん。いつも通りで安心した。


 いつもの茶番を眺める悠馬と、呆れ気味な八神。

 八神としては、卒業式くらい静かに過ごしたかったのかもしれない。


「クク、相変わらず騒がしいな。お前らは」


「な、南雲…!」


 背後から現れた赤髪の男、南雲に栗田は仰け反る。


 栗田と同じくヤンキーちっくな南雲は、その中でも実力が格上。

 オラオラ系の栗田からしてみると、自分の威厳を保つために対等に振る舞いたいが、それで揉め事に発展したらどうしよう?とでも考えているのだろう。


 朝から変わらず騒がしい栗田たちを見て、南雲は笑う。


「おはー、お前ら!」


「ケッ、裏切り者も一緒かよ…」


「チッ、なんて奴を連れて来てんだ南雲」


「えっ?俺?」


 裏切り者と評される碇谷。あからさまに舌打ちをする変態四天王を見て、彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で周囲を見渡した。


 コイツは真里亞と付き合い始めている。

 前兆は2年のホワイトデーの時からあったし、付き合うのは時間の問題だと思っていたが、平凡な碇谷が真里亞と付き合うのは、四天王にとっては許しがたいことだったらしい。


 お前らが付き合えない理由は、そう言う嫉妬深いところだと思うぞ。


 コイツらは道端で下ネタを言ってはしゃいだり、異性の前で嫉妬を撒き散らすような歪んだ奴らだ。


 3年間で嫌と言うほど思い知らされた悠馬は、呆れ気味に歩き始めた。


「おい、悠馬」


「なんだよ?八神」


 面倒なイベントに巻き込まれるよりも早く歩き始めた悠馬。

 そんな彼に続くようにして、八神も続く。


「お前、今日の準備とかできてるのか?」


「まぁ…着替えるだけだしな」


 今日の卒業式が終われば、悠馬はあるところに直行しなくてはならない。


 それはクラスメイト、いや、異能島の全員が知っていることであるために、誰もが心配することらしい。


「お前はどうなんだよ?」


「え?俺?」


「日本支部軍の入隊式、来週だろ?」


「あっ…と…」


 他人の心配ばかりしているが、果たして八神は大丈夫なのだろうか?


 八神の就職先というのは、何を隠そう日本支部陸軍。

 もともと戦争にも参戦した経験のある八神は、愛坂隊長の背中を追ってか、日本支部陸軍への入隊を希望した。


 そして当然のことだが、レベル10になった八神が落ちるということもなく、入隊が決まったわけだ。


「俺はさ…ほら、意外と知り合い多いし」


 日本支部軍は、異能島からの入隊生が多いため、学生の延長線上、みたいなところがある。


 1番最初に話したかもしれないが、異能島に通う大半の学生は、大企業、軍人、総帥を目指すわけであって、大抵の学生は卒業と同時に軍人になるわけだ。


 つまりこの異能島の悠馬たちと同学年の生徒の半数は軍人を志望するだろうし、入隊して誰1人として知らないなんて状況にはならない。


「そういや、南雲もいるんだよな」


「そうそう。第1からだけでも、16人入隊が決まってるんだ。そう気負うことはないってわけさ」


「そりゃよかった」


 どうやら八神は、自身の進路に緊張していないようだ。


 まだまだ桜の季節とは言えないが、桜の木に蕾がなり始める卒業式。


 当然、出会いもあれば別れもある。

 それが今、この瞬間だ。それぞれの道、それぞれの岐路に立つこととなる、日本支部異能島、第1異能高等学校の卒業式。


 この国立高校に入学でき、卒業するまでの力を修めたことに誇らしくも、どこか寂しく感じる悠馬は、寒空の下小さな溜息を吐いた。

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