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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
合宿編
34/474

男子風呂

 約50キロのランニングを終え、地獄のような集団行動を終えたAクラスのメンバーたち。


 無人島へ到着した直後は、余裕ぶっていた生徒たちも今は大人しくしている。


「くはー!全身バキバキだぜ!これを明日も、なーんて、普通収容所でもしねえだろ!」


 湯けむり漂う露天風呂。日は沈み星々が煌めく夜の空に、少し濡れた石畳。そしてタオルを巻いた美しい少女、ではなく全裸の通。

 げんなりとしている男たちは、お前のイチモツなんて見たくないからさっさとしまえ。と言いたげな表情をしている。


 そりゃそうだ。ランニングに集団行動。精神的にも体力的にも疲れ果てているのに、男のブツを見せつけられるのだから、拷問と言っても過言ではないだろう。


 しかし通は、自分のブツによっぽどの自信があるのか、それとも羞恥心がないのか、男子たちの汚物を見るような視線を無視して、タオルを巻くそぶりも見せずに露天風呂の外周を闊歩する。


「おい桶狭間!お前タオルくらい巻けや!」


「そうだぞ!おめぇの粗末なのを見せられるこっちの気持ちにもなってみろ!」


「そうだそうだ!男の見たって何も嬉しくねえんだよ!」


 しかしそれも、数分も経過すると我慢の限界に到達する。ハードな特訓のストレスなのか、それともただ単に、通のブツが目に入るのが我慢ならないのか。


 Aクラスの男子生徒の大半は、タオルも巻かずに歩き回る通を非難した。


「ぬぁぁにぃをぉ!!!俺様のが粗末だと!?俺のは日本人の平均だし、加えていうならまだまだ成長途中だっての!」


 粗末だと言われたのがそんなにも不満だったのが、全裸で地団駄を踏んで怒鳴る通。

 通の動きに合わせて揺れるブツが、男子生徒たちの心に深いダメージを与える。

 というか、通のが成長途中などという雑学は、おそらくこの大陸の誰も欲していない情報だろう。


「いいからタオル巻けよ!」


「落ち着けよ!揺らすな!」


 ナニをとは言わないが、通を怒鳴りつけていたクラスメイトたちは、ちょうど通の方を向いていた為揺れるモノが目に映ったのだろう。


 悲鳴にも近い叫び声を上げながら、通の地団駄を止めようとする。


 何なんだこのカオスな光景は。風呂に入ると広がっていた、この世の終わりとも言える光景を目にした悠馬は、そのカオスな光景から最も離れた場所で身体を洗い始めた。


 こういうのはほとぼりが冷めるまで、遠くでこそこそとしておくのがベストだ。

 変なことに巻き込まれたくない悠馬は、安全策を採用し、影に隠れる。


「おい悠馬、そっちボディソープないか?」


 しかしそれも、安全策ではなかったようだ。なるべく通から見えないところを選び座った席。その横に座っていたのは、連太郎だった。


 通は通で厄介だが、連太郎も連太郎で厄介である。彼のだる絡みが苦手な悠馬からしたら、どちらにも逃げても似たような結果になるという、まさに八方塞がりという場面だ。


「ああ、あるけど…」


 これを渡すととんでもないことになる気がする。

 そう直感した悠馬だったが、連太郎が空になったボディソープを見せてきた為、大人しく目の前にあったボディソープを手渡す。


「さんきゅー、危うく汗臭い男になるところだったぜ。今日はめちゃくちゃ汗かいたからなー!」


「はは、確かに汗臭いのはごめんだな」


 何気ない会話をしながら、身体を洗う悠馬。どうやら嫌な予感は思い過ごしだったようだ。

 安心した悠馬は、身体の泡を洗い落とすと、シャンプーを頭につけ、髪を洗い始める。


「そういや美哉坂ちんとはどんな感じ?篠原ちんとは?」


「何だよ急に…」


 髪を洗っている真っ最中、連太郎からの不意打ちをモロに食らった悠馬は、まさかそんな質問をされるとは思っていなかったのだろう、一瞬だけ心臓が止まりそうなほど驚いたが、さすがは悠馬。すぐに落ち着きを取り戻す。


「心音上がってるぞー?」


「うるせぇな!異能使うな!」


「バッ!カヤロウ!いきなり叫ぶなよ!俺の耳が死ぬだろ!」


 連太郎の異能は聴覚強化。悠馬の心音を聞くためにその異能を使っていた彼からすると、突然怒鳴った悠馬の声は下手をすると気絶するほどだったのだろう。

 一瞬だけフラついた連太郎は、珍しく本気で怒っている。


「知るかよ!元はというとお前が変なこと言って動揺させるからだろ!」


「はぁん?お前が勝手に動揺したんだろうが!」


「くっ!」


 何も言い返せない悠馬。確かに連太郎の冷やかしに反応してしまったのは、悠馬自身だ。

 しかし、何であそこまで驚いたのか、悠馬自身にもわかっていなかった。


 連太郎との口喧嘩は、悠馬の敗北ということで幕を閉じる。

 無言で髪を洗い始める悠馬。それを見た連太郎は、ニヤリと笑うと、ボディソープを悠馬の頭めがけてかける。

 悠馬が髪の泡を流し終える直前で、何度も。


「?」


 笑いを堪える連太郎と、なぜ泡がなくならないのかわからない悠馬。


「…お前まさかとは思うけど…さっき貸したボディソープ俺に向けてかけたりしてないよな?」


 連太郎が嫌がらせを始めてから3分ほど。ようやくその回答に至った悠馬は、まるで人殺しをしそうな視線で連太郎を睨みつける。


「ぷ…ぷ…そ、そんなわけねぇ…あはははは!」


 隠そうとする連太郎。しかしながら、連太郎も笑いを堪えるのに限界がきたようだ。

 足をバタバタとさせ、先程馬鹿みたいに髪を洗い流していた悠馬のことを思い出しながら笑う連太郎。


「ふざけんなよ!せめてシャンプーにしろ!アホが!」


「ははははは!まじ無理、理解できてないって顔がまじおもろすぎて死ぬ!」


「なら死ね!ったく!だからお前の横は嫌だったんだよ!」


 爆笑する連太郎を怒鳴りつけた悠馬は、石畳の上をズカズカと歩き、連太郎から3つほど離れた席で髪を洗い流す。


 本当に最悪だ。

 想定していたことだが、想定通りになると嫌な気分になる。


 そして今から向かうのは通のいる露天風呂だ。


 肉体的にも精神的にも疲れているのに、何でこんなにも狂った生徒たちの相手をしなければならないんだ。

 そう心の中で嘆く悠馬は、通から最も離れた対角線上の端から露天風呂に入ると、息を潜めて周囲の光景を見回した。


 まるで大自然に囲まれたような気分になる。

 周りは木製の壁で覆われているが、人が通れないほどの細い隙間から、南国系の植物が見え、木々の揺れる音と、心地よい風が吹き抜ける。


 きっと1人で入浴したら、星5つだ。脱力しきった悠馬は、目を瞑ると、1人自分の世界に入ろうとする。が。


 やはり、というか、騒がしい奴がいるため悠馬の思い通りにはいかない。


 先程まで全身バキバキなどと言っていた通は、20メートルほどの竹でできた大きな仕切りの前まで行き、そこを音が鳴らないように触れている。


 そして、他の男子たちは今からなにをしようとしているのか理解しているのだろう、通の一挙一動で大きな盛り上がりを見せている。


 目を開く悠馬。対角線上に映ったのは、未だに全裸の通だった。


「おい!Aクラスの男子たち!オメェらCクラスの女子のえっちな全裸見たくねえのか!」


 拳を握り、大声を上げる通。

 現在、風呂を利用しているのは男がAクラスで、女がCクラス。次が男がBで女がA、そして最後が男Cの女Bという順番になっていた。


 多分、同じクラス同士だと壁越しに会話を始めたり、まじで一線を越えようとする大馬鹿者がいるから、最低限の距離感、ということで男女クラスバラバラの入浴時間にしたのだろう。

 教員側のナイスな判断だ。


 なぜか脳裏に夕夏の全裸が浮かんだ悠馬は、はしゃぐ通を見て、隣がAクラスじゃなくて良かった。という安心と、夕夏の全裸を他の誰にも見られたくない。という気持ちが湧いてくる。


「何なんだろうな…この気持ちは」


 悠馬が自身の気持ちに悩んでいると、先程話した最低限の距離感など知らないのか、いつのまにか女子風呂側に、全裸の男子生徒が3人増えていた。堂々と腰に手を当て、仁王立ちで。


 こいつらは正真正銘、本当のバカだ。まさか合宿初日で大問題を起こそうという気ではないだろうな?そういうことは最終日にやるか、予め計画を立てて実行するもののはずだ。

 例えば悠馬のゲートを使って覗き見るとか、ゲートを使って盗撮とか。


 悠馬も隣のお風呂に好きな女の子でも入っていたら、1人で変なことをして楽しんでいたかもしれない。しかしながら、残念なことにCクラスには悠馬の知り合いは殆どいないし、真里亞もあまり好きなタイプではない。協力する気も、興味もない悠馬は、誰かが止めてくれるだろう的なノリで、まるで見世物でも見ているかのように、壁に並んだ全裸の4人衆を見物する。


「おい、山田。お前の異能で竹に穴開けれるか?」


「無理だ。絶対に音が響く」


 通なら山田と呼ばれた男子。この男子は自己中が多いこの第1の中で、比較的まともな性格と言えるだろう。野球部に所属しているため、頭は坊主だが、女子からもソコソコの人気がある。


「モンジ、お前の異能でこの壁をバレないように登れないか?」


「無理だな通。流石に平面に近いものは登れない。他の手を探そう」


 モンジと呼ばれた男子。こいつは帰宅部で、中々ど変態な趣味をお持ちらしい。見た目は黒髪で真面目そうな男子なのだが、入学1週間目で、教室内でエロ本をぶち撒け、女子からは距離を置かれている。


「あぁ!じゃあ栗田!お前は!」


「ふっ、俺に任せとけ。俺はこのくらいの壁、ジャンプで乗り越えれる」


 最後に通が頼った男子。栗田。彼は入学当初、友達グループを作るなら俺をリーダーにしろ!などと言ってきた、襟足の長い少しヤンキーチックな男子だ。

 チャラチャラとした女子たちと仲がよく、度々授業中に問題を起こしては、教師に怒鳴られている。


「ほう、じゃあ俺を背負って…」


 栗田の背中に乗ろうとする通。栗田も栗田で、今回は協力をする気らしい。拒否するそぶりも見せずにニヤリと笑うと、通に手を伸ばす。


「待て!なに考えてんだお前ら!」


 通が栗田の背中に乗ろうとした、その時。聞き慣れた大きな声が響き渡り、その声の主を悟った悠馬は、この話題がここで終わることを悟り、目を瞑る。


「な、何だよ八神!」


 そう、クラス委員である八神の登場だ。先程まで身体を洗っていた八神だったが、クラスメイトたちが騒がしくて異変に気付いたのだろう、真剣な表情で通と栗田の元へと歩み寄る。


「こういうのはな!先代の方々が死ぬ気で努力して作ったのぞき穴を探すのが定石なんだよ!異能を使って覗き見るのは最終手段だ!」


 八神の口から発せられた、まさかの言葉。安心して目をつむっていた悠馬は、風呂に溺れそうになる程驚くと、目を見開いて八神の方を見やる。


 のぞき穴を探そうとする八神。

 というか、最終手段ということはつまり、のぞき穴が見つからなかったら、大きな竹の仕切りをよじ登って越える気でいるようだ。


 先程までは見世物を見るように見物していた悠馬だったが、クラス委員、八神の衝撃的な発言に、崩れた体制を慌てて戻しながら、真剣に動向を見守る。


 そしていつの間にか、悠馬の横で風呂に浸かっていた連太郎は、八神のまさかの行動にケラケラと笑いながら、風呂に飛び込もうとするクラスメイトの足を掴み、そのまま風呂にドボンさせる。


 どうやらこの想定外の事態を止める生徒は誰もいないようで、誰も彼も面白半分の、見世物を見る程度の気分になっているご様子だ。


「おいおい、お前ら知らねえのか?Cクラスの真里亞ちゃん、パッドだぜ?見るだけ損だよ。夢は夢のままにしておくべきだ」


 誰も止める人はいない。そう思われた中、風呂の端に寄り掛かり、両手を石畳に伸ばした緑色の髪をした木下が、まるで真里亞の胸を見たことがあるかのようにドヤ顔で発言をする。


「んだとぉ!何で知ってんだよ!」


 声を荒げた通は、どうやって見たんだ!?と、疑問よりも羨ましいという感情が上回ったのか、先を越され為憤慨した様子で木下を睨みつけている。


「いや、今日のランニングの時。一回道を外れたと思ったら、胸がなくなっててさ。多分邪魔だったから外したんだろうな」


 ドヤ顔でそんな事をつぶやく木下は、美哉坂愛好会なるものを開いている、所謂変態だ。悠馬や八神はなるべく関わらないようにしていたが、今の状況においては、唯一八神を止めれる発言。グッジョブ!と褒められてもおかしくないくらいだ。


「なん…だと…あの…あのDカップが!錯覚…だと?」


「つーかCクラスの三枝は性格悪いんだろ?そんな奴のどこがいいんだよ!」


 1人の男子生徒が、髪を洗いながら通に問いかける。すると「確かに」と周りが同調を始める。

 無理もない。暴力行為を働いたと噂になった南雲は、現状Aクラスにはなんの接触もしてこないし、無害。それに比べて真里亞は、Aクラスの女子と会うと夕夏や美月をバカにしたような発言をするし、美月、夕夏を推している男子からすれば、その態度は不満だった。


「チッ。仕方ねーな!それならこの俺様が三枝真里亞の偽乳暴いてギャフンと言わせてやるぜ!」


 どうやら通の意志は揺るがないようだ。自信満々に胸を叩き、親指を立てた通は、大はしゃぎで仕切りを飛び越えようと、栗田に飛び乗った。


「おい!お前ら何をしてる!」


 と、そこで、扉をあけて勢いよく入ってきたガタイのいい男教師。悠馬たちAクラスの体育の担当をしている磯部は、異能を使って今にも何かをしでかそうとしている栗田と、その上に乗っている通を見ると、一直線に2人へと駆け寄る。


「いや、その…筋トレでもしようかなって…な、栗田。ハハッ」


 最後の最後で声が裏返り、某ネズミの王国の主人のような声を出した通は、磯部から目をそらしながら苦笑いを浮かべる。


「ああ。お、俺ら異能祭で1位取りたいッスから…」


 栗田も通に同調してみせる。


「そうかそうか。感心だな!お前ら2人は、今晩俺の部屋にこい!そんなに筋トレがしたいなら、俺が鍛えてやろう!ははは!」


「ハハッ」


 こんな状況でも筋トレをしている男子がいたことが嬉しかったのか、豪快に笑う磯部。

 そしてもう一度、同じ声で笑ってみせた通は、目はまるで笑っていなかった。


 まぁ、自業自得ではなかろうか?


 事態が収束し、そんな光景を鑑賞し終えた悠馬は、ゆっくりと風呂を上がると、脱衣所へと向かった。

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