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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
留学編
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VIP待遇

 最近、驚いてばかりな気がする。


 室内を見渡しながら、最近の出来事を思い出す悠馬。


 ほんと、入学以前の自分では考えられないほど人生が二転三転して、もはや自分でもわからないレベルだ。


 そんなことを考える悠馬は、茶色と白の模様で彩られた柔らかな絨毯の上を裸足で歩き、良質な絹で出来ているソファに腰をかける。


 床もフカフカで気持ちいいし、ソファも程よい柔らかさだ。


 まるでスイートルームの一室のような、いや、スイートルーム以上のクオリティを誇る部屋が用意されているとは思わなかった悠馬は、ソワソワと周囲を確認する。


「な、なぁオリヴィア、ここ絶対高いよな…」


「ん?ああ。当然だろう。何しろここは、総帥や異能王が異能島に滞在する時のみ使用が許される、特別スイートルームだぞ?」


「はっ!?あの伝説の!?」


 美月が約1年前に日本支部の特別スイートルームでお世話になったと聞いていたが、まさか自分がそれと同じ場所に訪れる日が来るとは思いもしなかった。


 落ち着いた様子のオリヴィアを見つめる悠馬は、不満そうにオリヴィアの太ももをつつく。


「なんでオリヴィアはそんなに落ち着いてられるんだよ?」


「私はアメリカ支部の異能島に滞在する際、アメリカ支部の特別スイートルームを使っていたからな…今更驚きもしない…」


「そういえば冠位だったな…」


 半分くらい忘れていたが、恋人は冠位で覚者で、しかも戦神だったんだ。


 自分の彼女のスペック、経歴をよくよく考えると、そのぶっ飛び具合に目玉が飛び出そうになる。


 フレディの案内も終わり、学校の位置まで把握した悠馬は、気の抜けた様子で天井を見上げた。


「なぁ、オリヴィアはさ、アメリカ支部へ帰りたくなったりしないのか?」


 ふと、頭によぎった疑問。


 誰だって一度はホームシックになる。


 それは戦神のオリヴィアとて例外じゃないし、もし仮に悠馬の寿命が元に戻ったとしても、いつか分かれ道が来るかもしれない。


「どうだろうな?少なくとも、今は悠馬のそばにいたい。ただひたすら、君のそばで尽くしたい」


「…照れるだろ!恥ずかしいこと言うなよ!」


「わ、私だって恥ずかしいんだ!こんな気持ち、今までなったこともないし、心が浮ついて、思っている言葉がすぐに口から出てしまう」


 氷の覚者だとは思えないほど顔を真っ赤にするオリヴィアは、両手の人差し指をぶつけ合いながらモジモジとする。


 1人の少女として恋をしている彼女の表情には、軍人としての面影など一切見えない。


「…でもまぁ、その気持ちはわかるかも」


「そうだろ!」


「うん」


 心が浮ついて、オリヴィアにちょっとしたイタズラをしたくなったり、撫でたくなったりするしな。


 オリヴィアとはまた違う方向で拗らせている悠馬は、後ろを向いたままの彼女と会話を続ける。


「今日は一緒に寝る?」


「ああ。悠馬と一緒がいい」


「じゃあ一緒に寝よう」


 部屋に入って間もない時間だというのに、2人は今日の寝る時の話を始めた。


 それは熟年カップルのような会話であり、とても数日前に付き合い始めたカップルだとは思えない会話内容だ。


「外、綺麗だなぁ…」


「ああ、綺麗な夕焼けだ」


 夕暮れ時ということもあり、青色の空と、そしてオレンジ色の夕焼けが混ざり合い、紫色の幻想的な空を作り上げる。


 セントラルタワーの最上階近いということもあり、周りの建物に景色を阻まれることなく夕焼けに染まる空を見る2人は、その絶景に感動したのか、しばらくの間無言になる。


 空は良い。


 沈んでいた気持ちも、悩んでいたことも、一瞬ではあるが、全てを飲み込み、そして安寧の時間をもたらしてくれる。


「あ、そういえばさ」


「なんだ?」


 数秒の沈黙が続いた後、その沈黙を破ったのは悠馬だった。


「冠位って、全員で何人いるんだ?」


「今は7人だ。通常ならば、冠位の席は6つしか設けられていないのだが、私の後に、特例で認められた冠位がいる」


 この話を詳しく話せる人物がいなかったため、ようやく冠位の話を聞ける。


 他の彼女たちがいると話せない内容だが、今日この瞬間に限っていえば、邪魔者への警戒も、他の人たちにも聞かれないため、安心して話ができる。


「7人全員、わかるのか?」


「ああ。知りたいのか?」


「教えてほしい」


 何かをしようというわけではないが、様々な疑問は浮かんで来る。


 特に、ディセンバーと戦い、師匠にチャンを持ち、死神と知り合い、そして彼女が戦神の悠馬ならば尚更だ。


 悠馬の食い入るような視線を感じたオリヴィアは、彼の方を向くと、横に座って話を始めた。


「まず最初に。最年長の冠位だが、アメリカ支部炎帝のレッド。彼は炎の異能の覚者であり、頭脳は総帥ほどではないが、それなりの頭脳と、そして異能なしでも抜群の身体能力を持っている」


「へぇ…」


「髪は特徴的な真っ赤で、体格はとんでもなく大きいから、多分一目見れば、レッドが誰かはわかってしまうだろう」


「まじかよ」


 そんな特徴的な冠位がいることなど知らなかった悠馬は、腕が丸太ほどの太さで、異能なしでコンクリートの壁を粉砕するような赤髪男のイメージを浮かべる。


 できれば会いたくないし、戦いたくない存在だ。


「2人目が、中国支部の冠位、雷帝のチャン。彼は異能の中でもおそらく最も早い速度で行動ができる上に、総帥と同等の頭脳を持ち合わせている。悪に容赦がなく、そして優秀なことから、彼が中国支部の総帥となる日も近いだろう」


「チャンか…」


 見た目的にも結構歳が行ってそうだったし、2番目に話されるのは妥当なのかもしれない。


 師匠である人物の、自身のイメージ通りの話をされた悠馬は、特に反応もせずに頷く。


「3人目は、ブラジル支部冠位の閃光のルーカス。ブラジル支部の白夜騒ぎは知っているか?」


「ああ…小学生くらいの時ニュースで見た気がする」


 白夜騒ぎというのは、本来ブラジル支部では訪れないはずの、1日中日が昇っている状態である白夜が、なんの偶然なのか発生してしまったという騒ぎだ。


 実際、1日中日が昇っているわけではなく、数分間、昼間のような明るさが続いたため、話が誇張されて白夜騒ぎとなった。


「その騒ぎを起こしたのが、ルーカスの秘奥義、白夜だ。悠馬、君が合宿で使ったものでもある」


「ああ…」


 全く記憶にはないが、零のしたことだろうからとりあえず頷いておく。


 まさか白夜騒ぎを起こしたのが冠位で、そして自身もその異能を発動させているなんて、思いもしなかった。


「白夜は万物を浄化すると言われ、敵と見なされたものにもそれが適応されると聞く」


「ほう…」


「おそらく冠位の秘奥義の中で、トップクラスで危険なのはルーカスの白夜だ」


 オリヴィアは真剣な眼差しでそう告げる。


 それはそうだ。

 敵と見なされれば浄化されるのだから、白夜を打たれたら死に確定なわけだし、あまりにも危険すぎる。


「4人目は、オーストラリア支部冠位、風帝のヴェント。彼は気まぐれな性格で、私も一度も顔を合わせたことがない。アリスが言うには、世界会合に参加しているのは影武者で、本人は自由気ままな旅をしているそうだ」


「会合不参加とか、輩だな…」


 異能王から賜ったはずの冠位という称号なのに、異能王が主催する世界会合に影武者を呼ぶとは、とんでもない野郎だ。


 まぁ、影武者と知っていて異能王がスルーしているなら文句は言えないが、それでも非常識だということは断言できる。


「そして5人目が、日本支部冠位の道化の死神だ。ヤツは冠位の中でも最も異常で、異能王に自ら冠位にしろと進言した輩だ」


「それ、まじなのか?」


「ああ…ゲルナンクラスとまではいかないが、それと並ぶほど危険視されていた犯罪者の首を揃えて持ってきた時は、アメリカ支部も大混乱だった」


 各国のトップの中では、戦神の次に逸話が多い存在として、恐れられていることだろう。


 死神がごく短期間で、自分が冠位になりたいがために成し遂げた行為というのは、それほどに畏怖の対象であり、そして各国の上層部を震え上がらせた。


「まぁ、話した通りヤツは日本支部の冠位だ。悠馬、キミが戦うようなことにはならないだろう」


「だな」


 味方でいてくれる限りは、頼もしい存在だ。


 同じ国の人間として、同じ敵と戦うであろう死神が、悠馬に手を挙げる可能性ということはまずない。


「そして6人目だが…」


 ここにきて、オリヴィアは言葉を詰まらせた。


 躊躇っているというか、怯えているというか、今から禁句を呟くような、そんな雰囲気で喉から声を出す。


「ロシア支部冠位…漆黒のルクス」


「漆黒か…」


 噂程度でしか聞いたことはないが、悪羅、そして暁闇に並ぶと噂されている存在に、悠馬自身は興味津々だ。


 何しろ自身と同じ、純度の高い闇の異能を使える存在は多くない。


 同類の話とあって、悠馬はすぐに食いついた。


「…ヤツはホンモノのバケモノだ。私でも、勝てるかどうかはわからない」


「そ、そんなにかよ…?」


 戦神として、世界最強と名高い異能王に並ぶオリヴィアがここまで弱気な発言をするのは、未だ嘗て見たことがない。


 ディセンバーの時のように消極的になっているわけではなく、純粋に考えて勝てるかどうかわからないと表現したオリヴィアは、左手を伸ばし、悠馬の右手を掴む。


「私は一度…ヤツと話したことがあったが…アレはダメだ。この世界に住む人間とは全く違う」


「どういうことだ?」


「彼女の真っ黒な瞳を見てわかった。もし仮に私が彼女と戦ったとしても、無傷で勝利するのは不可能だと断言してもいい。最低でも腕は奪われるはずだ」


「…そう、なんだ…」


 現実味が湧かない話ではあるが、彼女がこれだけ驚いているということは、かなりの実力者、そして狂気の持ち主なのだろう。


「特にアイツが使うとされる極夜は、ルーカスの白夜とは反対に、万物に呪いを付与し、そして死に至らしめるというものだ」


「それが…闇の秘奥義…」


 闇の異能使いとして、初めて頂を知った悠馬は、レッドパープルの瞳を輝かせる。


 ここまで来るのに、名前を聞き出すのだけに随分と時間がかかった。


 でもようやく、頂が見えたんだ。


「…あれは数多の呪いを凝縮している。会ったとしても、絶対に近づかないでくれ。私がなんとかするから」


「どんな見た目なんだ?」


「いつもは黒い修道服?法衣?を着ている。彼女は元々教会で育ったらしく、冠位になった今でもその服を愛用しているようだ」


「あ、ああ…」


 そういえばフェスタの決勝前、ロシア支部総帥のザッツバームと話していた際にそんな奴が横にいた気がする。


 あの時に感じ取った違和感、そして恐怖感といったものは、どうやら気のせいなどではなく、本能的にあの存在を危険視していたのだろう。


 覚えのある特徴を聞いた悠馬は、冷や汗を流しながらオリヴィアの手を握り返す。


「今の俺と…そのルクスが戦ったら、どうなると思う?」


「…ハッキリ言わせてもらうと、ルクスはキミの上位互換だ。万に1つも、キミが白夜を使えたとしても、勝てる可能性は無いと言わせてもらう」


「そんなにか…」


 零の反転セカイ時でも無理だと言うのなら、勝ち目なんて最初からないだろう。


 オリヴィアの言う通り、ルクスとは関わらず、彼女に助けを求めたほうがいいのかもしれない。


「そして7人目が、私だ」


 案の定、1番若いのはオリヴィアらしい。


 死神の順番は年齢不詳だから声や体格、そして会話の内容から予測を立てたのだろうが、聞いた限りでは、オリヴィアの次にルクスが若いということになる。


「ルクスって何歳なんだ?」


「話では20だと聞いている」


「意外と若いんだな」


「アレは闇堕ちでなければ、今頃ハリウッドスターだ」


「そんなに可愛いの!?」


 ルクスと関わりたくないと思っていた悠馬だが、オリヴィアの話を聞いて揺らぎ始める。


 オリヴィアが褒めるくらいなのだから、かなりの美女だろうし、ハリウッドスターレベルともなると、野次馬感覚で見たくなってしまう。


 フェスタの時、あの法衣みたいなのをひん剥いて顔だけ見ればよかったと思うほどだ。


 学生としてイタズラをしたなら、おそらく許されていただろうし、なんとも惜しいことをしてしまった。


 よし、今年のフェスタでは偶然を装って顔を見よう。


 そう決断した悠馬は、7人の冠位の話を整理しながら目を瞑った。


 現状、関わりのある冠位はお互いに顔見知りで仲もそこそこいいし、敵対するということはないだろう。


 そして、イギリス支部に冠位がいなくてよかった。


 ソフィアの一枚岩だと知った悠馬は、安堵のため息を吐いた。

すみません、諸事情により投稿が遅れてしまいました…

明日からは通常通り投稿できる予定です(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

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