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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
留学編
268/474

留学生

 トランクをコロコロと引きずりながら、悠馬は歩く。


 直接イギリス支部の異能島へと入国したこともあってか、人は極めて少ない。


 空港の中は日本支部異能島の空港と極めて似た作りになっていて、唯一違う所があるとすれば、それは全ての文字がイギリス英語で書いてあることくらいだ。


 普通の英語とはスペルが違うものもあるため、最初はちょっと戸惑いそうだ。


 そんなことを考える悠馬を横目に、オリヴィアは慣れた様子で空港内の店の名前を確認していた。


 オリヴィアのイメージといえば、バカでポンコツ。


 日本支部に不正入学をしたくらいだし、頭が悪いというイメージが定着しているオリヴィアだが、それは日本に限ったことだ。


 彼女はもともとアメリカ支部出身なわけで、英語に関しては読み書きに話聞きまで全てが完璧。


 純アメリカ人の彼女からしてみれば、悠馬ほど苦労はせずに済むのだ。


 悠馬は公用語の読み書きで苦戦するかもしれないが、オリヴィアは読みに関しては問題ないだろう。


「にしても…オリヴィアのせいで身体のあちこちが怠いんだけど…」


 一通り空港の中を見た悠馬は、オリヴィアに対して愚痴をこぼす。


「な…!私のせいか!」


「当たり前だろ!あれだけ広い空間だったのに、夜になると横にくっつくし、何をするにもずっとベタベタして!」


 それが悪いとは言わないが、ずっとオリヴィアが密着してきたせいで、全身に違和感を感じる。


 なんかこう、未だにオリヴィアに触れられてるみたいな…


 正体不明の違和感を感じる悠馬は、肩を回しながら嘆く。


「くっ!でも満更でもなさそうな顔だったじゃないか!」


「うぐっ!」


 的確に急所を突くオリヴィアは、拒絶しない悠馬にも非があると言いたげだ。


 確かに、オリヴィアに密着されて調子に乗っていたのは事実だし、後になって文句を言うのはお門違いだ。


「第一に、悠馬だって寝ている間に私の胸を…!」


「わー!ダメダメ!こんな公共の場で言わないで!ごめんなさい!俺が悪かったですぅ!」


 危うく夜に何をしようとしたのか言われそうになった悠馬は、顔を真っ赤にしてオリヴィアの声を聞こえないようにする。


 そもそもここは日本ではないため、日本語で話していてもどんな話をしているのかまではバレないのだが…


「ふふん、これに懲りたら、人の眠っている間に胸を触らないことだな」


「…喜んでたくせに…」


 結局、どっちもどっちだ。


 最初に話を持ち出した悠馬が悪い。


 不服そうな悠馬と、満更でもないご様子のオリヴィア。


 2人の相性は、花蓮×悠馬ほどとは言わないが、かなり良さそうに見える。


「ところで悠馬、私たちはどこのナンバーズに留学予定なんだ?」


「知らないのか?」


「ああ。私は悠馬と同じ所がいいとしか言っていないから…」


「はは。第9高校だよ」


 彼女に嬉しいことを言われた悠馬は、頬を緩ませながら留学先の学校名を答える。


 オリヴィアのこういう抜けているところをまとめて、全部好きだ。


 弱いところも、ポンコツなところも、何もかも。


 こういう日々が続けばいいなと、心から思う。


 そんなことを考えていると、ふと、背後から視線を感じたような気がして振り返る。


「っぁ…」


 立ち止まった悠馬は、何かが見えたのか、逃げるようにして一歩後ずさった。


「悠馬?」


「い、いや…なんでもない…」


 悠馬は慌てたように、オリヴィアに返事をする。


 もう左側しか機能していない瞳に映った人物。


 それは腹部から血を流し、こちらを睨みながら立っている母親の姿だった。


 それが幻覚だということは、わかっているつもりだ。


 でも、ふとした瞬間に視界に現れると、どうしてもパニックになってしまう。


「…不安になったら、私に甘えていいんだぞ。きつく当たってくれてもいい。それが恋人だ」


「うん…ありがとう…」


 宥められ、ちょっといい雰囲気になっている2人は、目の前に立っている金髪の男の娘になど気づかず、通り過ぎようとする。


「ちょ、ちょちょちょ!ちょいちょいちょい!待ってよ暁悠馬!ボクのこと忘れたのかい!?」


 ゲートを抜けたすぐ先で待機していた金髪金眼の男子生徒、フレディ・オーマーは、まさか目の前に控えていてスルーされるとは思わなかったのか、動揺を隠せない様子で駆け寄ってくる。


「あ、居たんだフレディ」


「誰だ?この女は…」


 何気ない悠馬の一言が、フレディの心を傷つける。


 居たんだ…って、興味のカケラもないような一言。


 フェスタで知り合った仲だというのに、大した感動もなく、居たんだ。で済まされたフレディはその場で膝から崩れる。


 フレディは去年のフェスタ準優勝者だ。


 そんな彼からしてみると、いくら今年のフェスタ優勝者といえど、居ても居なくても変わらないような挨拶は受けたくなかっただろう。


 チヤホヤされている分、負うダメージも大きい。


 オリヴィアは凹むフレディを威嚇するように睨みつけている。


 どうやら本気で、悠馬が女と遊ぶ可能性を考えているようだ。


 実際問題、フレディは男なのだが、そのことを知らないオリヴィアにとって、ボクっ娘女子などという新要素は、新たなる敵という認識なのだろう。


「居たんだ…って!その挨拶は酷いんじゃないのか暁悠馬!ボクは仮にも、君と本戦を戦った仲じゃないかっ!」


「え?棄権したじゃん…」


 なんか厚かましく語っているが、悠馬の記憶には、本戦を戦って仲良くなった記憶など一切ない。


 突然叫び声をあげたフレディに、「情緒不安定なのか?」と訊ねたくもなったが、そこは我慢して、泣き顔を見せるフレディの肩を叩く。


「そんな顔してると、本当に女の子だと間違われるぞ?」


「余計なお世話だぁー!」


 フレディの叫び声が、空港内にこだまする。



 ***



「で、ボクが今日から、暁悠馬と、そして君の案内をすることになったフレディ・オーマーだ。気軽にフレディと呼んでくれ」


 数分後、気を取り直したご様子のフレディは、空港を出てすぐにあるバスターミナル前で自己紹介を始める。


「で?悠馬との関係は?」


「暁悠馬、この子は?」


「ああ…俺の彼女…あとフレディ、性別教えてやってくれ…」


「あっ…ボクは男だよ?だから悠馬と変な関係になんてなってない」


 オリヴィアの疑惑の視線に気づいてくれないフレディに、悠馬は渋々、性別を開示するようにお願いした。


 性別教えてあげてよ!なんて言ったら、キレられると思ったが、案外すんなりと教えてくれて安心した。


 不機嫌そうにもなっていないし、セーフだ。


「怪しいな?その美形で男だと?胸があれば、女じゃないか」


「む、胸がないからこそ男じゃないかっ!ボクはれっきとした男だ!」


「ほぅ…そうなのか…珍しい生き物だな…」


「人を珍獣みたいに観察するなっ!」


 オリヴィアとフレディは、相性が悪いかもしれない。


 ポンコツのオリヴィアは、フレディの心情など読まずに、ただひたすら、興味本位で質問を重ねている。


 質問をされるフレディの心には、ダメージが蓄積されているだろう。


「君、名前は?」


「オリヴィア・ハイツヘルムだ」


「ハイツヘルム…それはそれは…悠馬、逆玉狙い?」


「違うからっ!」


 ハイツヘルムと聞けば、誰もが誤解してしまう。


 オリヴィアの先祖と父親が有名なため、そういう誤解もされるのだと知った悠馬は、食い気味に否定した。


 伝説を見て育ってきた悠馬たち世代からしてみると、ハイツヘルムは生きる伝説みたいなものだ。


「ふぅん?ほんとかな?」


「本当だよ!俺がそんな駄目男に見えるのか?」


「あはは、見えないね」


 悠馬をおちょくるフレディは、綺麗な白色のタイルの上を走りながら、屈託のない笑顔を浮かべる。


 その姿は、これがメインヒロインです。と言われても、「ああ、わかる気がする」となってしまうほどの美しさだ。


 別にドキッとはしていない。


 特に心を動かすことのなかった悠馬は、多分フレディがこういうことをするから、女と誤解されていくんだろうな…と冷ややかな視線を向ける。


 彼の一挙一動は、意識して行っていると言われた方が納得できるあざとさだ。


「さ、このバスに乗るよ」


 フレディのあざとさをオリヴィアと2人で観察していたら、いつのまにかバスが停車していた。


 3人はそのままバスに乗り込むと、1番後ろの席に座った。


「へぇ…」


 バスは二階建てになっていて、日本支部のバスの倍ほど人が乗れるようにもみえる。


 日本支部の、ちょっとおじさんチックなバスの内装とは違い、イギリス支部のバスの内装は、端的に言えば全体的に高価に見える。


 これが国民性というか、民族性の違いなのだろう。


 目新しいバスに乗れて嬉しそうな悠馬は、隣に座るフレディを見る。


「どこいくんだ?」


「んーっと、今日はもう放課後だからね…先ずは2週間滞在する宿を紹介して、そのあと第9高校までの道案内をしようと思ってるよ」


「おお、ありがとう。不安要素がなくなってきた」


 フレディの説明を聞いた悠馬は、留学初日から遅刻するパターンや、宿が見つけられずに輩に絡まれるパターンがなくなって安堵する。


 あとは夜ご飯を食べるところを見つけられれば完璧だ。


 出発したバスの窓から外を見ると、そこには見たことのない景色が広がっていた。



「わぁ…!」


 まるで別世界に飛ばされたような、日本支部とは大きく異なった建物たち。


 落ち着いた、暗めの茶色系で建てられている寮の数々と、道路を見る。


 所々赤茶色の寮が建っていて、真っ白な寮も見えるため、おそらく自分の好きな色、そして内装を選んでから入寮しているのだろう。


 日本支部と似たような建物は見つからないが、日本支部のように、色々な種類の寮があることだけはわかった。


 それと、基本的にゴージャスな雰囲気だということも。



 慣れていない建物を目にしているからそう思うだけなのかもしれないが、建物の外観だけ見ると、日本支部より遥かに景気がいいように感じる。


 金を出し惜しみしていないような、そんな雰囲気を感じる街並みだ。


「綺麗だな」


「ああ。ソフィアさんが総帥になってから、異能島は一気に設備が充実したんだ。何年か前までは、かなり古びた建物が大半だったらしいんだけどね」


「そうなのか」


 ソフィアのことを過小評価していた悠馬だが、それを聞いて少し見直す。


 彼女はきちんと、総帥としての仕事はこなしているようだ。


「…ところで、俺たちの寮ってどの辺なんだ?」


「寮?」


「うん、寮」


 触りの説明だけ受けてはいたものの、やはり寮の場所くらい、地名を知らなくても知って起きたい。


 人間、どこへいくかわからない状況よりも、見ず知らずの地名を言われた方が比較的安心するものだ。


 悠馬の質問に対して、何を言ってるんだこいつ?と言いたげに首を傾げたフレディは、頬をかきながら口を開いた。


「悠馬は短期留学だから、寮じゃないよ」


「……んん?え?」


「じ、実はね?驚くかもしれないんだけど、ソフィア総帥が直々にセッティングをしたらしくて…」


 多分、この中でそのことを1番驚いているのは、フレディだと思う。


 ソフィアの人格をある程度把握している悠馬と、自国の総帥であるソフィアを完全に美化しているであろうフレディでは、彼女に抱くイメージが違いすぎる。


 フレディからして見ると、悠馬に大層なおもてなしをする、いわゆるVIP待遇のような異常性を感じているのかもしれないが、あのソフィアなら、きっと良からぬことを考えてセッティングしているに違いない。


 フェスタの時はセレスに阻まれ悠馬との再会は叶わなかったし、接触があるなら十中八九留学期間中だ。


 彼女なら必ず接触して来る。


 そう考える悠馬は、特に嫌がるそぶりも見せずに、真剣な顔で外の景色を見た。


 向こうから接触して来るなら、願ったり叶ったりだ。


 悠馬はイギリス支部のセラフ化の研究データを知りたくて、ソフィアは悠馬と話したい。


 悠馬自ら総帥邸に乗り込んだり、ソフィアに接触することはほぼ不可能に近いが、ソフィア自ら来てくれるなら話は別だ。


 悠馬にとっては好都合、そしてソフィアがこの留学に思いっきり関わっていることが確定した時点で、不安要素はほとんどなくなったと言っていいだろう。


「ま、まぁ、悠馬の宿泊する場所は…ね?もうすぐつくから、その目で見て欲しいかな」


 変にもったいぶるフレディは、悠馬とオリヴィアを交互に見た後、窓の外で大きく聳え立つレンガ調のタワーを見る。


「あれはなんだ?」


「アレはね、イギリス支部のセントラルタワーだよ」


「へぇ…そうなのか。イギリス風だな」


 日本支部のガラス張りのタワーとは違い、街の雰囲気に合わせた高層タワーを見つめるオリヴィアは、胸を弾ませていた。


「そして、君らが泊まるのも、あのタワーだよ」


『は?』


 セントラルタワーでの宿泊が決定した2人。


 予想だにしない宿泊場所を提供された悠馬たちを現実に引き戻したのは、運転手のアナウンスだった。


「間も無く、セントラルタワー前〜」

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