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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
戦神編
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「んっ…」


 妙な脱力感が全身を包み込み、このまま眠りに就きたいという気持ちに囚われる。


 真っ暗な空間の中で目を覚ました悠馬は、周囲の状況を確認すると、再び目を瞑った。


 記憶は正常だ。


 ディセンバーと名乗る冠位と戦闘に陥り、結果氷漬けにされた。


 だから今自分がどこにいるのか、この空間が何なのかは分かっている。


 ここは悠馬の心の中だ。


 いつも見る、真っ暗な空間。


 光の入ってこない、未来永劫閉ざされたままの空間。


 牢獄という単語がふさわしいのかもしれない。


「クラミツハ…いるか?」


「なぁに?」


 目を閉じたまま言葉を発した悠馬のもとに、真っ暗な着物を纏う女性が現れる。


 髪は地面につくほど長く、2メートル以上の長さがある真っ黒な髪。


 悠馬が悪羅に向けるような真っ黒な瞳に、ほんの少しだけ光を灯すクラミツハは、目を瞑る悠馬の上に乗ると、そっと手を伸ばす。


「力を寄越せ…深淵を覗かせろ」


「それは何のために?」


「ディセンバーを殺す。悠人を操ってる奴を殺す」


「ダメね。0点」


「なんでだよ!はやく寄越せ!」


 悠馬の願いを断った契約神、クラミツハは、呆れたご様子で悠馬の頬を叩いた。


「っ…」


「ユウマ…貴方ね、今の自分の身体の状況、わかっているの?」


「氷漬けだ。セラフ化を使えばどうとでもなる」


 セラフ化をフルパワーで使えば、冠位の技といえど、粉砕できるはずだ。


 そう考えている悠馬は、ゆっくりと目を開き怒った様子のクラミツハと目を合わせる。


 視界がいつもよりも、遥かに狭い。


「バカ言わないで…貴方、もう残されてる時間は少ないのよ?」


「……俺は後何年生きれる?」


「もう1年にも満たない…次セラフ化を使えば、その場で死ぬわ」


 それが悠馬が身体にかけてきた負担のツケ。


 悪羅に忠告をされた後、何度もセラフ化を使用した悠馬は、寿命を削りすぎた。


 そんな彼には、もう時間など残っていない。


「…そっか。悠人の願い通り、俺はもうすぐ死ねるんだな」


「バカなこと考えてないわよね?」


「今からセラフ化を使う。俺は生きてちゃいけないんだよ。悠人の言った通り、俺は地獄に落ちなきゃいけないんだ」


 家族が願っていることなら、それを甘んじて受け入れよう。


 どこか気の抜けた、やる気のなさそうな悠馬は、虚ろな瞳でクラミツハを見つめる。


「……ここからは出さない。少なくとも数時間は、絶対に」


「ここは俺の空間だぞ?そんなことできるわけ…」


「私は神よ。甘く見ないで。貴方の世界くらい、容易く侵食できる」


 自ら死へと向かおうとする悠馬の心を、この空間に固定したクラミツハは、黒いモヤの姿になって消えていく。


「おい…!待て!力を…ここから出せよ!」


 消えていくクラミツハに叫ぶ悠馬は、両手両足を鎖で繋がれて、暴れ回る。



「…バカな男」


「ふっ…過去と対峙したんだ。あれだけ悪羅を引きずっている男が、弟に言われた言葉を鵜呑みにしないわけがないだろう」


 今の悠馬は、正常に見えて正常じゃない。


 悠人というバグによって、考えがチグハグで自暴自棄になっている状況。


 現実では連戦だったから何も考えていなかったのだろうが、落ち着いた空間に入ると、脳が冷静になり、罪悪感に苛まれる。


「シヴァ…ならどうするの?」


「アイツには大切なものがあるだろ。すぐに思い出させればいい」


 クラミツハにそう告げたシヴァは、自ら真っ暗な空間へと入り、悠馬と対峙する。


「シヴァ…力を」


「それは何をするためだ?」


「殺す為」


「お前はその後、どうするつもりだ?」


「死んでもいい」


「花咲花蓮はどうする?今狙われている、美哉坂夕夏は?」


「っ!?た…助けないと…力を寄越せ!夕夏を…助けないと!」


 悠人のことで頭がいっぱいだったようだが、人間の根本、根っこの部分なんていうのは、そう簡単に変わらないし、変わった後にすぐに戻すことはできない。


 今の悠馬がもっとも大切にしているのは、現在であって、過去ではない。


 だから10月の時、悪羅に復讐をするよりも彼女を助けることを優先した。


 つまり今の悠馬の根っこの部分にあるものというのは、家族のことではなく、夕夏や花蓮、彼女たちのことなのだ。


 そしてその次が、家族のこと。


 根っこの部分を思い出させたシヴァは、慌てる悠馬を見て、首根っこを掴む。


「だが無理だ。今のお前には、覚悟も努力も、何1つ足りてない」


「なら…どうすれば…」


 目を覚ました悠馬は、夕夏を助ける方法を必死に考える。


 無人島には誰がいた?


 連太郎はディセンバーを倒せるか?真里亞の異能で強化された自分なら殺れるか?鏡花は?八神は?朱理は?


 ディセンバーに対抗できるだけの策を、計算を行う悠馬は、そのどれもが途中で詰むことを悟り、鎖で繋がれる手でシヴァを掴む。


「あと1回…あと1回でいい!セラフ化を使わせろ!」


「そうすればお前は死ぬ。死んだら彼女たちはどうする?復讐は?」


「……それ…は…」


 使わないと夕夏が死ぬ。

 使うと自分が死ぬ。


 悠馬が死んだら、夕夏はどう思うだろうか?


 きっと夕夏が事実を知れば、罪悪感に苛まれる。


 でも今日セラフ化を使わなくても、寿命はすぐにくる。


「どうせ…あと1年なんだろ…?」


 自分の寿命なんて、想像もして見なかった。


 余命宣告のようなものを受けた悠馬は、どちらにせよ近い将来死ぬというのなら、自分がどうすべきか結論を導き出す。


「…なら守って死ぬ。それが俺に出来る、最善だから」


「それは最善じゃないんじゃないかな?」


「…誰?」


 悠馬がカッコよく腹を括った瞬間に降り立った、白髪の人物。


 それは悠馬のセラフ化によく似た容姿で、そして表情もよく似ている。


 真っ暗な空間に降り立ったその人物は、悠馬とシヴァを見ると、ニッコリと笑みを浮かべた。


「俺は零。この世界の創造者にして元最高神。今は君のセラフ化として、ま、パシリ的なことをしている」


「ぜろ?」


 聞いたことのない神の名前。


 いや、元神だと言っているし、きっと神から追放された、所謂名無し的な存在なのだろう。


 若干情報過多に陥りそうな気もするが、椿という前例がある為、この空間に干渉する存在に理解が早い悠馬は、詐欺師を見るような眼差しを向ける。


「シヴァ、このガキつまみ出せ。今真剣な話したんだ。ガキは帰れ」


「そんな口の利き方していいのかな?俺の善意で寿命を1年残してるのに、ふざけた口利いてると今すぐ殺すよ?」


「はっ…神とは思えない発言だな」


「元…だからね」


「なら説明しろよ…どうして俺はこんなに寿命を使ってんだ?」


 軽い脅しをした零は、テクテクと歩きながら、悠馬を見る。


「悠馬、君がセラフ化で寿命を消費する理由は、豚に真珠だからだよ」


「ぶ…失礼な奴だな!これでも俺はレベル10だぞ!」


 初対面で豚なんて、生まれて初めて言われた。


 容姿的にも整っている悠馬は、その発言は適当ではないと判断し、異議申し立てを行う。


「じゃあ言い方を変えよう。君は今、トミカにニトロエンジンを積んだ状態なんだ」


「…ト…それもそれで失礼だよな」


 自分がトミカと言われた悠馬は、不服そうになりながらも、強く反論はしない。


「当然だよね。だって君のセラフ化、つまり俺は、ほかのクソザコセラフなんかと違って、強すぎるんだもの」


「おい、ちょっと反論させてもらうが、俺はセラフ化を使っても簡単にボコられるし、それで寿命とるとかお前粗悪品だろまじで」


 なんか俺強いですよアピール醸し出して話す零だが、セラフ化を使って良かったなんて記憶、半分程度しかない。


 半分近くロクでもない負け方をしている悠馬は、元最高神を粗悪品だと一刀両断し、睨みつける。


「だって、器がトミカなんじゃ、俺の力が発揮できるわけないじゃん。君、ニトロエンジン積んだトミカがフェ○ーリと同じ速度で走れると思ってんの?」


「…お前本当に神か?」


 例えが現代的すぎて、かなり怪しくなってきた。


 つまりは、今の悠馬では、トミカが壊れかけになるスピードでしか走れないというわけだ。


 最初から全力で走れば、それこそ一度の使用で即死してしまう。


「んま、つまり今の君じゃ俺は扱えないってこと」


「んな…そこをなんとか?なぁ?元最高神なんだろ?」


「うんうん。俺も神の端くれだから…流石に自分の第2の体に、簡単に死んでもらいたくはないんだよね」



 結界であるシヴァやクラミツハと立ち位置が近い零にとって、主人が死ぬということは、1番避けたい事態だろう。


 そんな中何かを思いついたのか、手を叩いた零。


「そうだ、反転セカイを使おう!」


「…なんだそれ?」


 キョトンとする悠馬と、仰け反るシヴァ。


 シヴァは声は出さないものの、零まで近づくと、何かを囁く。


「悠馬はその領域に至っていない。無理がある」


「なら人格を俺に変えれば良くない?暁悠馬として無理なら、零として反転セカイを使えばいい!」


「反転セカイってなんだよ?」


 呑気に思いつき話をする零と、そして質問をしてくる悠馬。


 頭を抱えたシヴァは、夕夏のことを思い返した。


 セラフ化使用時に、夕夏は椿の人格へと変更することができた。


 ならば最高神である零だって、理論上それは行えるはずだ。


「でも、多分だけどこれ使うと俺は暫く消えるね」


「まぁ、お前が消えたところで、最初からいないようなものだろう」


 元々、今日初めて悠馬と接触したわけだし、暫く消えたところでなんの問題もない。


 しんみりとした雰囲気の零を一刀両断したシヴァは、悠馬の元へと戻る。


「…そうだ、零。聞きたいことがある」


「なに?」


 質問をガン無視された悠馬は、別の質問を考えたのか、再び口を開く。


「俺は絶対に、あと1年しか生きられないのか?」


「いや。まだ可能性はある」


「教えてくれ」


「過去を清算すること。若しくは深淵を覗くこと。そのどちらかに成功すれば、君はセラフを使いこなせるようになる」


 なにも死を待つだけじゃない。


 まだ可能性があると断言した零は、心の折れていない悠馬の瞳を見て、ニッコリと笑ってみせた。


「そういえば、アドバイスだけど」


「なんだよ?」


「美哉坂夕夏ちゃん、アレ、君よりレベル高いよ」


「なん…」


 零の口から発せられた衝撃の事実。


 大きく目を見開いた悠馬は、零の言葉を脳内で何度も吟味して、そして飲み込む。


「夕夏が俺よりもレベルが高い?」


 いつも悠馬の後ろを付いてきて、甘やかしてくる夕夏は、普段の生活ではお姉さんのような存在だが、戦闘においてはからっきし。


 たしかにオクトーバーの一件では、椿に変わることによってかなりの力を示しはしたものの、夕夏本人も、まさか悠馬以上に強いだなんて、想像もしなかった。


「それじゃあ、行ってくる。ちなみになにすればいい?」


「敵だと思う奴は全部消してくれ」


「いやぁ、容赦ないね。俺、君のそういうところ好きだよ」


 敵だとみなしたものは全員消す。


 それは事実上、零に生殺与奪権を全て与えるということであり、悠馬が生かして欲しい存在であっても、零が気に食わなければ消してもいいということ。


 さらりと危険な発言をした悠馬に対して、零は満足そうに返事をした。


「それじゃあ、始めようか?弱者の蹂躙を」


ようやくセカイの出番…

ちなみに椿の言っていたセカイの持ち主は悠馬くんではありません。

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