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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
戦神編
249/474

あのお方

 寂れた古城のような部屋の中。


 数十年〜数百年前に使われていたと言われても納得できそうな、見るからに廃れた城の中には、人影が見える。


 それも1つではなく、複数の影だ。


 外では雨が降りしきり、雷を伴う雷雨。

 雷のバリバリっという、耳をつんざくような音を聞きながら、無数の光体に包まれた人物は外を見る。


 その人物の姿は残念なことに、性別すら判別できない。


 光り輝く、遠目から見ると神様のような輝きの人物は、背後で跪く人物達に気づくと、口元を吊り上げる。


「身体は馴染んだか?キングよ」


「はい…おかげさまで、俺は新たなる力を手に入れました」


「ほう。それは良かった。妾が直々に、其方(そなた)に力を授けた甲斐があったというもの」


 無数の光を纏う存在と話している人物。


 それはフェスタ準優勝者であり、アメリカ支部現総帥の息子である、キング・ホワイトライトだった。


 世間では数ヶ月前の飛行機事故で死亡したと公表された、あのキングだ。


 髪の色は金髪から白髪に、そして瞳の色も、白銀に近いものになっているため、一目で彼がキングだと気づく人物は、もういないだろう。


「ありがとうございます!貴女様がこの力を授けてくださったおかげで、俺は…!俺は邪魔者を全員殺して…母の…アリスの元へと!」


 力を授けられたキングは、それが嬉しいのか、両手を広げて先の話を妄想する。


「ははは、其方は実に愉快だ。あの飛行機の中、ゴミ溜めの中で其方を見つけられて、妾は幸運だ」


「勿体無いお言葉です…俺、いや、私と貴女様の出会いは、きっと最初から決まっていたのです」


 興奮気味に話すキングを見ながら、光を纏う存在は奥の扉が開いたことに気づき、口を噤む。


「キング…少し部屋を開けてはくれぬか。重要な話のようだ」


「承知しました。失礼します」


 あれほどワガママで自己中だったキングは、そのワンマンプレーの見る影もなく、素直に従順に、光を纏う存在の言葉に従う。


 どうやらこの存在には、キングにそうさせるだけの実力と、知名度を兼ね備えているようだ。


 悠馬やアリスなんかよりも比較にならない、実力を。


「失礼します。…()()()()とお呼びしたほうがいいですか?」


 キングと入れ替わるようにして入ってきた女性。


 彼女は鏡花やミュランのように、黒いスーツに身を包み、ぱっと見では社会人、総帥秘書と間違ってしまうような佇まいだ。


 彼女の髪も、キングと同じく白髪で、瞳は銀色だった。


「いや、よい。其方には、妾の本当の名前で呼んでほしい」


「承知しました。ティナ様」


 跪きながら、ティナと呼んだ無数の光を纏う存在を敬う女は、地面に拳を立てると、深々と頭を下げる。


「して、何用だ?其方が自ら現れるとは、珍しい」


「…これでも以前は、貴女の秘書であった身ですから。我が王のために最善を尽くすのが、秘書の務めです」


「そうか。話せ」


「10月の日本支部で起こった、オクトーバーの騒動について、物語能力を使用したであろう人物に見当がつきました」


「ほう?」


 ティナのことを王と呼んだその女は、10月、悠馬が戦闘に陥ったオクトーバーの一件について話を始めた。


「誰だ?」


「おそらく、美哉坂夕夏かと思われます」


 ニヤリと笑うティナは、頭を抱えながら笑い声を堪え、震えながら白い歯を見せる。


「そうか…そうかそうか…つまり、残り3割の物語能力者が、この世界に誕生したということか」


 椿が以前に話していた、物語能力のお話。

 混沌が4割の物語能力を保有しているとされ、夕夏が3割持っていると、椿はそう言った。


 そして今ここにいる無数の光を纏う人物、ティナこそが、残りの3割を保有する、物語能力者だ。


「混沌は…来たるべき日はいつになるかわかるか?」


「いえ…残念ながら、混沌については、予測すら不可能です」


「初代め…厄介なことをしおって…」


 全ての物語能力が揃えば、この世界の秩序を壊すことも、この世界をまとめる神になることも可能になる。


 そんなとんでもない異能を手にすれば、人なんて容易く狂ってしまう。


 光体の中で歪んだ笑みを浮かべたティナは、コツコツと音を立てながら歩き始め、女の前で立ち止まる。


「イレギュラーは?」


「…悪羅百鬼、そしてオクトーバーに現異能王、エスカが障壁になりかねないかと」


「オクトーバーもエスカも、取るに足らん小物だ。そんな雑魚は、妾の敵ではない」


 余裕そうな声で、なんの戸惑いもなく異能王すら雑魚と断言するティナは、右手に地球儀のようなものを生成して、日本支部を見る。


「…唯一イレギュラーがあるとするなら、それは悪羅だ」


「…ティナ様でも敵わないと?」


 異能王ですら雑魚と断言してみせたというのに、悪羅に対しては何を言うでもなく、明確な敵として捉えている。


 唯一ティナが警戒する人物、悪羅を想像し、そしてティナが負ける可能性を考えた女は、出過ぎた発言だと知りながらも、問いかける。


「妾は…悪羅が混沌なのではないかと考えておる」


「悪羅が…」


 世界最悪の犯罪者、異能王殺しに大量虐殺まで行う人物が、普通の異能な訳がない。


 純粋な闇だけで異能王を殺すことは不可能だと考えるティナは、悪羅が物語能力を保有しているのではないかと考える。


「ティナ様、しかし、ヤツが出現した際、物語能力の反応は一時的にもありませんでした」


 夕夏がセラフ化で椿を纏い、そして物語能力を使った際は、ほんの一瞬だけ反応があった。


 だからこそ、その反応を辿って、夕夏が物語能力者だと判断したわけだ。


 しかしながら悪羅は、今まで一度も物語能力を使っていない。いや、反応していない。


 ティナの憶測とは裏腹に、悪羅は物語能力者ではないと考える女は、機嫌を損ねないかと、冷や汗を流しながら頭を下げる。


「まぁ良い。現状、悪羅が混沌だった場合、妾の3割の物語能力じゃ太刀打ちできぬ」


 混沌が4割を保有しているというなら、純粋な力だけでも、10パーセントの差があるということになる。


 そのことを鑑みるに、ティナが真っ先に混沌を狙うのは、自滅行為と言ってもいいだろう。


「と言いますと?」


「美哉坂夕夏を殺す。そして物語能力を奪えば、妾は6割の物語能力を保有することとなる」


 それは人類の誰1人としてたどり着いたことのない、未知の領域。


 おとぎ話に出てくる魔王、混沌ですら集めることのできなかった、6割の物語能力。


 お互いに3割の物語能力を保有し、そして発現して間もない夕夏よりも上手に物語能力を使えるであろうティナは、夕夏を殺すという、手堅く確実な手段を選んだ。


「6割の物語能力が集まれば、4割の混沌など、造作もない。そう思わない?」


「は。ティナ様の仰る通りです」


 理論上、ティナが負けることはないだろう。


 頭を下げながら、ティナの威圧感に冷や汗をダラダラと流す女は、震えながらも、きちんと返事をする。


「では…早速始めるとしよう?」


「しかし、どうやって美哉坂夕夏を殺害しますか?」


「…そうだな…これから起こり得る最終局面に備えて、念のため持ち駒の把握をしておきたい。今回は失敗してもまだ時間があるから…そうだな、アイツを使ってみようか」


「ティナ様は…」


「妾は行かぬ。妾が行けば、すぐに決着がついてしまうではないか。それではつまらんだろう」


 持ち駒の把握、テストを兼ねて夕夏を殺そうと画策するティナは、今回は自分自身の参戦を拒否してみせる。


「では、部隊はこちらで…」


「ああ。足は妾がゲートを使う」


「はっ、承知しました」


 女はティナにそう告げられると、ゆっくりと立ち上がり、その場を後にした。



 ***



 古城の中を、キングは1人で歩く。


 新たな力が手に入った愉悦と、そして今まで感じたことのない快感を胸に、大雨の降る外を眺めながら。


「ハハ…今の俺は、総帥にだって、異能王にだって負ける気がしねぇ!」


 悠馬との1戦、あの敗北から何も学んでいないキングは、自信満々に独り言を呟く。


「キン…グ…ね…私…殺し…」


 不意に聞こえてきた声に、キングは意識を廊下へと戻し、ボロボロの姿で立っていた人物を目にする。


「よぉエミリー…随分とボロボロじゃねえか」


「殺し…て…」


「断る。あの方の操り人形であるお前を殺せば、俺が叱られるからな。ま、精々その体で頑張れよ」


 エミリーは疲れ果てた表情で、声も掠れ掠れでキングにお願いをした。


 それは自分を殺してもらうという、以前のエミリーでは絶対に口にしないような言葉。


「誰か…私を殺してよ…お願い…」


 まるで操り人形のように、自分の意思とは全く関係なく動く身体。


 正常なのはごく一部の脳みそと喉だけで、エミリーに許されるのは、ほんの少しの思考と、そして自分を殺してくれる人間を探すだけ。


 無限にも等しい地獄、不眠不休で歩き続けるエミリーの姿は、本物のゾンビのようだった。


「おいおい、そんなに死にたいなら、俺が殺してやろうか?」


 エミリーの願いを無視して立ち去るキングの横から現れた、銀髪の人物。


 白髪ではなく、雷で輝く銀色の髪をした男は、全身から冷気を漂わせ、変わり果てたエミリーの顔を覗き込む。


「はは、これがお前の元カノって奴か?キング。以前は別嬪さんだっただろう?情けで殺してやれよ」


 エミリーの顔を覗き込んだ銀髪の男は、キングに向かって冷やかしたような発言をする。


 無限にも等しい地獄の中にいるエミリーにとって、残された安寧は死のみ。


 元彼の情けとして、殺してやれと話す銀髪の男は、大げさに両手を広げると、古城の廊下を氷漬けにする。


「この城は退屈だ。俺は戦い足りねえ、殺したりねえ、あの女に復讐をするまでは死ねねえ」


「チッ…なんで死人がここにいるんだよ」


 銀髪の男を不服そうに並んだキングは、彼のことを知っていた。


 ロシア支部元冠位・覚者の氷帝のディセンバー。


 4年前の第5次世界大戦において、当時は無名だった覚者、戦神と戦闘に陥り、死闘の末亡くなったはずの人物。


 銀色の髪に、青色の瞳のその男は、戦神、つまりはオリヴィアの最大の敵であり、最大の壁。


 そんな人物が、なんの軌跡か、綺麗な体で生きているのだ。


 元々ロシア支部とアメリカ支部の仲は決して良いものではないため、キングはかなり不機嫌だ。


「もう待ちきれねえなぁ…俺は4年も復讐を我慢してるっつーのに、あのお方は俺には待てばかり…おかしいとは思わねえか?」


「…おかしいも何も、アンタはロシア支部や各支部の上層部に顔が割れてる。表に出た時点で、大問題になるのが目に見えているだろ。だから簡単には表に出せない」


 覚者の顔は、学生でない限り、各支部で共有されることになっている。


 その理由は単純だが、勝手に送り込んで、国を滅ぼされないようにするための保険のようなものだ。


 だから死んだはずのディセンバーが、表に出て暴れでもしたら、各支部は大騒ぎになることだろう。


 そしてティナの計画にも狂いが生じるかもしれない。


 ディセンバーよりもまともな思考を持ち合わせているキングは、戦闘狂の彼を冷ややかに見つめ、凍りついた廊下に視線を落とす。


「なら付き合えよ。俺のストレス解消に」


「嫌だな。覚者のアンタが、あのお方から力を授かったなら、少なくとも俺より強いはず。殺されるのは御免だ」


 ディセンバーの誘いを断ったキングだったが、その瞳は戦意喪失など微塵も感じさせず、敵意は剥き出しのままだ。


 近いうちにこいつは殺す。


 覚者、冠位と言えど、それは元の話だ。


 ティナに直接力を施されたのは、キングともう1人だけと聞いているし、潜在値的にはキングの方が上と考えるべき。


 つまり場数を踏めば、今は勝ち目がなくても、近い将来、コイツを消すことができる。


 ディセンバーのような人格と気が合わないキングは、密かに彼の殺害計画を企てながら、操り人形のようにして歩き回る人物たちを見る。


 それはエミリーのように、無理やりこの場に連れてこられた、もしくは自分の意思でここに来ながら失敗した、ほとんど意識もない、言葉しか発せない操り人形たちだ。


「…多くなってねえか?」


「あのお方が招集をかけたんだろう」


「ここに居たんですね。成功体の2人は」


「…ディセンバー様だろうが。口の利き方には気をつけろよ、女」


「…」


 無言のキングとは真逆に、スーツ姿をした女に対して突っかかるディセンバー。


 どうやら一括りでまとめられた挙句、名前を呼ばれないのが不満らしい。


 しかしそんな彼の苛立ちは、彼女の発言を聞いてから、すぐに収まることとなった。


「これから物語能力者の美哉坂夕夏を殺すために、無人島へ向かいます。もちろん、キングとディセンバー、貴方達もね」


「ふふ、ははは!ようやくか!」


「っ!」


 それはキングにとっても、ディセンバーにとっても嬉しい知らせだった。


 力をつけたいキングと、暴れたいディセンバーは、同時に抱いた疑問を口にした。


『関係ない奴は殺してもいいのか?』


「構わない。全員殺しても持ち駒が増えるだけと考えてください」

聞き覚えのある名前ですね…


そういえば、本日ノクターンノベルズの方に初めて投稿を行いました。お話は花蓮ちゃんとの初夜からしていくので、興味のある方は是非読んでみてください(クオリティの保証はできかねます…)

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