表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学編
22/474

セントラルタワー

 翌日、4月29日。


 昨日に引き続きどんよりとした雲が空を覆う中、今日も1-Aは騒がしかった。


「え、美哉坂さん遅刻じゃなくて休み?」


「やっぱり昨日無理してたんじゃないの?」


「だから言ったじゃん!あんまり質問しないほうがいいんじゃない?って!」


 女子たちが夕夏が休みだと騒ぐ様子を眺めている悠馬は、チラチラと携帯端末の通知を確認していた。

 昨日、夕夏はあれから一度も現れなかった。顔を合わせることも、話すこともできずに翌日、つまり今日を迎えてしまったわけだ。


 自分の語彙力の乏しさに絶望しながら小さなため息を吐いた悠馬は、目を逸らした女子たちの悲鳴にも近い叫び声が聞こえ、全身をビクッと震わせた。


「美月ちゃんも休みなの!?」


「風邪らしいよ、昨日雨強かったし…濡れちゃったのかな?」


「えぇー、2人がいないとかAクラス終了じゃん!」


「私も帰りたくなってきたー」


 勝手にAクラスを終了させるな。好き放題言っている女子たちを眺めながら心の中でツッコミを入れた悠馬だったが、周りの男子を見てみると、たしかにAクラスは終了しているのかもしれない。


 Aクラスのアイドル2人がいないとあってか、男子たちの表情はまるでお通夜状態だ。中には半泣きの生徒までいるし、お前ら一体どれだけ2人のことを愛してるんだ?と思ってしまう。


 かく言う悠馬も、内心では少しだけ沈んでいた。なにしろ昨晩の出来事。夕夏が登校していない件については心当たりがあるからだ。

 自分が無神経な質問をしてしまったばかりに彼女を傷つけてしまった。

 そう思っている悠馬は、考えれば考えるほど気持ちが重くなっていた。


 なるべく気持ちを切り替えようとした悠馬は、美月のことを思い出す。

 美月はと言うと、少し頼みたいことがあって、動いてもらっている。学校は休まなくていいと言ったはずだったのだが、彼女は本日、学校を休んでまで頼みごとをしてくれているらしい。


「はぁ」


 将来絶対いいお嫁さんになるよな。しっかり者だし。

 そんなことを考えた悠馬は、時計を見ながらため息を吐いた。

 授業めんどくさい。



 ***



 一方、その頃美月は。

 どんよりとした雲の下、大きくそびえ建った真っ黒な建物、セントラルタワーの前にいた。


「おおおおお、久しぶりだのぅ!美月ちゃん!」


 そんな美月を出迎えてくれたのは、前髪が後退している小太りの男。名を十河という人物だった。

 美月と面識があるのか、快くセントラルタワーの中へと案内を始めた。


「お父さんは元気か?いやぁ、美月ちゃんのお父さんと仕事していた時が懐かしいわぃ、美月ちゃんもこーんなに小さかったのに、今ではワシよりも背が高くなって…第1の学校生活は楽しいかのぅ?」


 美月と十河の関係。それは彼女の父親にあった。

 美月の父親は警察官だが、ただの警察官ではない。警視庁の最高位である、警視総監なのだ。まだ美月が小さかった頃、十河は警察官として、よく忙しい父に変わって美月の面倒を見てくれていたのだ。

 わかりやすく言えば、お父さんの友達的な存在だった。


 前髪が昔よりも少なくなっていることに気づいた美月だったが、それは直接十河には言わず、大人しく十河の後に続く。


「はい。友達もたくさんできて、すごく楽しいです」


 丁寧に掃除されているであろう、ピカピカの床。外からは見えなかったが、中から見ると外の景色が丸見えな空間。大きな観葉植物など、人気のないタワーの中をキョロキョロと見渡しながら答えると同時に、美月は1つの疑問を口にする。


「人が少ないんですか?」


「ああ…4月になってからトップが間宮さんじゃなくなったんだが…その馬鹿者が管理職以外全員解雇にしたんだ。監視カメラもあるし防衛設備も充実してるんだから人なんていらないだろ〜ってなぁ。あの時は慌てたが、結局誰も反対できずにこの有様だ」


 間宮のことも知っていた美月は、少しだけ驚いた表情を浮かべた。

 間宮はこの異能島を6年以上も統括する、異能島最高位の職についていたはずなのに、その者が、トップから落とされたというのは衝撃だった。

 特に間宮が問題を起こしたとも聞いていない美月にとってはなお驚きだ。


「間宮さん、なにかやっちゃったんですか?」


「いぃや、特例らしい。総帥の指示でな。エラい奴が統括になりよったわい」


 顎をいじりながら、やや不満気味の十河はそう答える。人気がない代わりに通り過ぎていくロボットたちを見た美月は、十河が扉に向けて翳したカードを眺める。


「そのカードがないと入れないんですか?」


「ああ。通り抜ける異能でもあれば入れるかもしれんが…カメラに映れば警報が鳴るし、実質これだけと言ってもいいかもしれん。ところで美月ちゃん、今日はお仕事の見学をしたいとお父さんから聞かされているが…どういうところを見たい?案内しよう!」


 十河は、久しぶりに知り合いが来たからなのか、かなり上機嫌だ。美月の行きたいところなら何でも案内すると言いたげにエレベーターの扉を開く。


「じゃ、じゃあ監視カメラを確認する所と、学生データを管理する所?」


「ははは、結構マニアックだのぅ、美月ちゃん。監視カメラの確認は目は疲れるし肩は凝るからオススメできん!まぁ、見せるくらいだったらいいが!学生データベースも、今日だけ特別に、な!」


 どうやら本来なら入れない所らしい。親のコネもあってか、すんなりと承諾してくれた十河は、階層のパネルを操作すると、75階を目指す。


「先ずは映像室、監視カメラの確認をするところから行こうか!きっと驚くぞ!」


 笑顔の十河は、美月が嬉しそうな表情を浮かべたことにより、ほっこりとしている。


「そういえば美月ちゃん、黒の王とは知り合いなのか?」


「え?」


 エレベーターが上へ上がっていく中、不意な発言。驚きのあまり目を大きく見開いた美月は、不審そうに十河を見つめた。


「あ、いや。入試の時の採点は全てワシらがするんだよ。だから君が黒の王を倒したのも知っておる。まぁ、第1の入試だけかなりの制限をかけられていて、映像以外のデータはある人物の手の中にあるんだけどのぅ」


「第1の入試だけ採点方法が違ったって事ですか?」


 十河の話を聞いた美月は、不思議そうな表情で彼に問いかける。気づけばエレベーターの背景は外を映し出し、大きなビルが聳え建っている景色が目に映った。空がもっと青ければ、美月も大はしゃぎで外の景色を見ていたことでろう。


「いんや。そういうわけじゃない。ただ、情報漏洩の防止の為かは知らんが、第1の入試の音声や、学生データは理事のワシらでも目に出来んようにされた。何か不都合でもあったのかは知らんが、ワシらが見れたのは映像だけだった」


「そうなんですか。黒の王は私の友達です」


「ほほぉ!カレシだったらお父さんも喜んでくれそうだが!」


「ええ…正直いつかは…って思ってますけど」


 浮いた話にノリノリの十河。悠馬の容姿と、とんでもない異能の事しか知らない十河からすれば、将来の有望株、つまりは美月に相応しい男なんじゃないかと判断し美月に勧める。


 美月も満更でもない様子で、頬を赤らめながらいつかは…ともう一度呟き、顔を抑えた。


「ははは!美月ちゃんにも好きな人ができたのか!いやぁ、なんか嬉しいのぅ!」


「お、お父さんには言わないでくださいよ!?お父さん色々とうるさいし、恥ずかしいし…」


 軽く十河を叩いた美月は、エレベーターが目的地へと辿り着いた為、顔を真っ赤にしたまま降りた。


「もちろん、ワシからは言わんよ。これは美月ちゃんが言わなきゃならんことだからな!さて、ここがモニター室だ」


 エレベーターを降りてすぐ。第1の廊下の半分ほどしかない横幅の廊下は、右面が全面ガラス張りという、高所恐怖症だったら既に気絶していそうな作りになっていた。


 そして窓とは反対側にある、重厚感のある扉。

 十河がカードをかざすと、その重厚感のあったグレーの扉は、スライド式に開き、美月は目の前に広がった光景に絶句した。


 美月が考えていたモニター室というのは、10メートルほどの大きさの部屋の1つの壁に、所狭しと並んでいるカメラ映像だった。

 しかし、今目の前にしている光景は、それの数倍、いや、数十倍の大きさを誇っていた。


 まるで映画館のシアターのような大きさのモニター室に、様々な場所の映像が映っている。

 おそらくそのどれもがこの島の映像なのだろうが、あまりにもモニターの数が多すぎて、扉を開けてすぐのところにいる美月からは、確認できない。


 いや、確認できるのだろうか?

 あまりにも画面の数が多すぎて、近くに行くと酔いそうな気もする。


「な?目が疲れるだろう?」


「はい。質問なんですけど、これだけ監視カメラの映像があって、死角ってあるんですか?」


「…美月ちゃんが悪用するとは思えんから言うが…第四区、つまり旧都市はカメラが一切ない。あそこは空気も悪いし、奥まで行ける人が少ないからなぁ…設置ができん」


 美月の質問に、少しだけ困った表情をした十河だったが、彼女の疑問にきちんと答えてくれる。

 旧都市と言われるのは、異能島が創設された当初存在していた第四区と呼ばれる学区なのだが、何故か使用が放棄され、誰が入っても気分が悪くなる空気が充満している。


 その空気は、気分が悪くなるといっても、レベルが高ければ高いほど奥に行ける為、おそらく何者かが使った異能の残り香でこのような事態が起きているのだろうと言う話がある。実際のところは、いつ何が起きてそうなったのか、何もかもが不明なのだが。


 今では都市伝説や、夏休みの肝試しなどなど、そう言う類で使われることこそ多くなったものの、カメラは取り付けられていないそうだ。


「そしてこれはアドバイスだ。第四区では異能が使いづらくなる。レベルが低ければ入って数メートルで異能が使えなくなるし、奥へ進めば気絶する生徒も出てくる。遊び半分で行くところではないぞ」


 おそらく前例があるのだろう。真剣な表情で忠告をしてきた十河を見て、首を縦に振った美月は、次の質問をした。


「他にはないんですか?」


「カメラの不具合でもない限り存在しない」


「そうですよね」


 自信満々にそう告げた十河を見た美月は、学生データベースの方を見たいです。と十河に告げる。


「ああ!76階だ!」


 付いて来いと言わんばかりに階段を指差した十河は、ズカズカと歩き始めた。

 昔見た光景と変わらない歩き方に、少し微笑んだ美月もその後ろに続いた。



「ここが学生データベース」


 先ほどのモニター室よりも小さい空間に、所狭しと書類が並べられ、真ん中にはパソコンが置いてある。


「ここでは何をするんですか?」


「学生が今住んでる寮、携帯端末の電話番号、異能名とレベルなんかを確認できる。まぁ、これは理事の権限を持った奴らしか使えんから、そう悪用はされんはずだが」


 薄暗い部屋の中で説明をする十河は、書類を一冊持ち出し、美月に見せた。


「因みに、第1の学生の住所と電話番号と名前はデータベースにも存在する。これを秘匿にされると緊急時に不味いからな!」


 つまり、第1の生徒は異能を知られていないと言うわけか。それはおそらく、黒の王だった悠馬が暁闇ということがバレるからだろう。

 国からしても秘匿にしたい情報がある為、隠したかったに違いない。


「結界についても書いてあるんですか?」


「ああ。自己申告制だが書いてある」


「最後の質問です、十河さん」


 何かを確信したような美月は、ゆっくりと十河に近づくと、最後の質問を始めた。


「この島の警察は、理事の権限よりも下ですか?」


「ああ。そうだよ?それがどうかしたのかい?」


「多分ですけど。この島の理事会に裏切り者が居ますよ。この島の生徒を使って実験を始めようとしてます」


 真剣な眼差しの美月。

 何かの冗談だろ?と言いたげだった十河の表情は、徐々に青ざめていった。


 それは先日、死神に大規模な人員削減をやめさせようとしたとき。


「内側に悪人がいたらどうするんだ?理事の中には裏と繋がってるやつもいるぞ?」


 戯言だと思っていた彼の発言。それが警視総監の娘の発言と被ったのだ。


「何ィ?詳しく話してはくれんか?勿論間宮さんも呼ぶ。それに、美月ちゃんと同じ発言をした、この島の統括も呼んで話がしたい」


 驚いたように美月の肩を掴んだ十河は、深々と頭を下げてお願いをする。


「はい。元からそのつもりです。確信も持てたので、話をさせてもらいますね」


 美月はそう言いながら、背後で操作していた携帯端末で、誰か宛にメッセージを送信していた。


「おお!助かるよ!ありがとう!では早速100階、統括本部室へ向かおう!」


 短い足でバタバタと走った十河に、美月も早足で続く。

 どうやら彼の予想は当たっていたようだ。少し笑みを浮かべた美月は、エレベーターを開いて手招きをする十河の元へと駆けた。


「楽しみね、悠馬」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ