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願いのもの

 悠馬は1人、寮の中で携帯端末とにらめっこしていた。


 外が明るいことから察するに、今の時間帯は昼過ぎ。


 1月の昼間と言えばかなり寒いし、わざわざ休みの日に外に出なくてもいいだろうという気持ちはわかるのだが、こんなぼっちでいる悠馬の姿を見てしまうと、心苦しいものがある。


 もしかして君、ハブられてるの?友達いないの?と。


 ちなみに悠馬は、ハブられているわけでも、友達がいないわけでもない。


 ただ、今日はそれ以上に重要なことがあり、外出を控えているだけだ。


「なんだよこのふざけた連絡は」


 悠馬の睨んでいる携帯端末には、ある人物からのメッセージが送られてきていた。






 お久しぶり、暁悠馬クン☆


 あ、お名前合ってるかな?僕だよ僕、8代目(笑)異能王のエスカさんだよ〜


 君が望んでいた情報は、今日中に日本支部異能島の、君の寮に届くはずだから、届いたら連絡してね〜


 それと、届いたものは絶対に返却するように!


 結構ヤバいものだから、バレるとセレスちゃんに殺されちゃう☆


 それじゃあ、君に幸運が訪れることを願って






「なんなんだ…このふざけた文章は…」


 何を送ってくれるのかは知らないが、結構ヤバいブツが悠馬の寮に向けて発送されているようだ。


「え?大戦の引き金とかになるような代物?それともなんかの兵器みたいなの!?」


 戦乙女のセレスに殺されるという単語を見るからに、ヤバいものであることには変わりない。


 なんてったってセレスさんは品行方正な良い人だし、常識を弁えているきちんとした人だ。


 そんな品行方正な彼女が、間違っても流れで人を殺すことはないだろう。


 何が送られてくるのかわからない悠馬は、妄想を繰り広げながら絶望する。


「さすが愚王…やることが意味不明だ…」


 というかそもそも、悠馬は自身の願いを口に出したわけではない。


 本当に願い通り、この世界に同一人物が2人存在していることについて記されているのだろうか?


 変なものだったら、この場で破り捨ててセレスさんに殺してもらおう。


 そんなことすら考える悠馬は、インターホンの音を聞いて立ち上がる。


 どうやら早速、異能王からのプレゼントが到着したようだ。


「お疲れ様っす〜、こちらに印鑑かお名前お願いします」


「…お前、星屑?」


 扉を開けた先にいたのは、帽子を深く被っているが見覚えのある男子生徒。


 悠馬と花蓮のお付き合いを手引きしてくれた、恋のキューピッドと言っても過言ではない存在の星屑だ。


「久しぶり」


「バイトか?」


「バイトに見える?」


 おそらく異能王の送ったであろう、謎のブツを手にしている星屑はニヤリと笑う。


 彼の瞳の奥の感情は、よく見えない。


 しかし彼がただバイトをしていて、偶然悠馬の寮に来たという可能性は低いだろう。


「それ、ヤバいやつなのか?」


 ならば異能王が送ったブツがヤバいから、星屑が何かしらの接触をしようとしてきたんだろう。


「察しがいいなあ、さすが悠馬!そうそう、これは本当にヤバいモノだから、口外は禁止、そして彼女の寮へと続く扉も鍵をかけて見たほうがいいよ」


「そんなにヤバいのか?」


「うん!ヤバすぎる!ってか、普通これ紙で包装して送るようなものじゃないし!ワールドアイテムより上だよ?」


「そんなにかよ!!」


 大きく目を見開いた悠馬は、星屑が出張るほどのヤバい代物だと悟り納得する。


 普段表に出ない星屑が配達員の姿をして現れたのは、これを他人に見せるなという忠告だろう。


 しかしなぜそんなにヤバいものを、こんなに無防備で送りつけて来たのか。異能王の頭の中はどうなっているのかわからない。


「んま、今日1日、じっくりと読んで見なされ!この世界の理についても、少しは知れるんじゃないかな!」


 星屑はそう告げると、悠馬が書いたサインを受け取り、商品を渡して去っていく。


 悠馬は慌てて鍵を閉めると、夕夏の寮へと続く脱衣所の鍵も締め、鳴神の如く包装紙を破った。


「何が入ってんだ!?」


 ワールドアイテムクラスと言われると、誰だって気になってしまう。


 ゼウスの雷霆ケラウノスや、オーディンのグングニル、5大聖剣と言われる黒の聖剣や蒼の聖剣を超えるものが入っているというのだ。


 包装紙を引き裂いた悠馬は、中から出て来た古びた茶色の書物を見て、全身から血の気が去っていく。


「いや、いやいやいや、それはねえよ。ありえないって」


 なんか、オーラと雰囲気でこれがなんなのかわかった気がする。


 そんな感情を抱いた悠馬だが、流石にありえない、こんなこと起こるはずがないと、今の自分が導き出した結論を白紙へ戻そうとする。


 悠馬が今思い浮かべている書物のタイトルは、異能王しか閲覧が許されていない初代異能王の文献だ。


 この世界の真実が書いてあり、おそらく悠馬の知らないことが数多く記されている。


 いや、この書物に記されている内容は、悠馬でなくても誰も知らないはずだ。


 悠馬は震える手を伸ばし、恐る恐る本を裏返す。


「…未来の王たちへ」


「出たよ。絶対初代異能王の時代のものじゃん…てか未来の王たちって、俺王じゃないけど見ていいの?」


 そんな不安を抱く悠馬は、自身の心音が加速しているのを感じながら頭を抱える。


 なんか緊張しすぎて、視界が揺らぐし、若干気分が悪い。


 こんな代物が届くと思っていなかった悠馬は、重度のパニック状態だ。


「と、とりあえず開いてみよう?」


 気を取り直して、1ページ目を開く。

 ページを開いた悠馬の目に入って来たのは、いきなり驚くべき真実だった。




 〝初代異能王は、混沌に敗北した。


 我々は来たるべき日に備えなければならない〟




「…は?」


 お伽話とは全く違う結末。


 初手から絶望を叩きつけるような二行の文章は、この世界をひっくり返すには十分すぎる内容だった。


「…なんだよ…この本…」


 まるで自分だけ知らなくていいものを知ってしまうような、そんな恐怖を感じる。


 なんとなく、この先を見るのは怖い。


 誰だって他人よりも先に、この世界の事実なんて知りたくはないだろう。


 例えばそれが、今生きている世界が地獄です。と突きつけられるような文章であるなら尚更だ。


 悠馬はゆっくりとページをめくっていく。


 そこには混沌の異能について記されていた。




 〝彼は自身の発言した言葉を、文字通り叶えるという異能を持っている〟




「ぶっ壊れ異能だなぁ…俺より強いじゃん」


 悠馬はレベル10の中でも、おそらく最も多くの異能を持っている。


 5つの異能が使える悠馬は、それほどに珍しい存在なのだ。


 だというのに、混沌は〝全て〟の異能が使えるという。


 初代が負けるのも納得がいくし、そんな存在に太刀打ちできるはずがない。




 〝混沌は生きている。この世界とは別の次元に、初代異能王が拘束した。


 しかし残念なことに拘束は不完全で、近い未来、混沌は再びこの世界へと降り立つことだろう。


 だから我々は、来たるべき日に備えなければならない〟




「……」


 悠馬は言葉を失った。


 数百年も生き永らえているであろうバケモノ、混沌の存在と、混沌が近い未来にまた現れるという真実。


 ここに記されている異能の情報が事実なら、この世界の人間が束になったって勝てるわけがない。


 最初から結末は決まっているのだ。


 しかしそんな悠馬の絶望は、次のページで少しだけ和らぐこととなる。


「対混沌粛清レーザー…」


 どうやら異能王の王城、つまり空中庭園には、混沌対策のためのレーザーが組み込まれているらしい。


 多分、威力はヤバイ。


 兵器が意味をなさない現代で、兵器を用意するということはつまり、混沌の異能なんかよりもその兵器の方が火力を持っているということだ。


 この本の作者がバカじゃない限り、そのレーザーにだけは勝機がある。


「けど、これ使ったら国1つ滅ぶのかよ…」


 国1つを犠牲にして混沌を殺すレーザー。


 国1つを失うよりも、混沌を殺す方が重要だとこの本の作者は判断したらしい。


 その時代を生きていない悠馬たちからして見ると、国の方が大事だろ!となるが、実際に見てきた人々が混沌の方がやばいと判断しているあたり、混沌がどれだけの存在だったのかが察せる。


「おっ、混沌のレベルについての記載だ…」


 こんなぶっ壊れな異能を使えるということは、さぞレベルも高いんだろう。


 例えば20とか、30とか。


 レベル10の悠馬はそんなことを考えながら文字を読み、そして思考停止した。


「うん、こりゃあ、全人類が一丸となっても倒せねえわ…無理だよこんなの」


 文献に記されている混沌のレベル。


 それは推定レベルであるものの、悠馬が諦めるには十分なレベルだった。




 〝混沌〟推定レベル〝89〟




 こんなレベルの人間が、この世界に存在していいはずがない。


 こんな奴と戦わされた初代異能王には、同情するしかないだろう…


 そこまで考えたところで、悠馬はタルタロスの地下で遭遇した、Aさん、自称初代異能王を思い出す。


「また行く機会があれば、ちょっと確認してみよう」


 本人だったら、きっとこの話についても詳しく話せるはずだ。


 この話が出来なければ、あれは偽物。


 この世界で現在、エスカと悠馬以外が知り得ない情報のため、本人確認をするためには十分な内容だ。


 混沌のレベルに恐怖を感じながらもページを読み進める悠馬は、自身の目当てのページを発見し、メガネを掛けた。


「時間遡行、時の巻き戻し方について…」




 〝まず最初に、時間遡行とは可能性の破壊に他ならない。


 時間遡行は可能性を破壊し尽くした後に存在する、言うなればたった1つの最終的な解である。


 時間遡行には、第1に時空神との契約、つまりは時間を操る神々の結界と、そして神々の承諾が必要となる。


 此れは限りなく不可能に近い条件だ。


 そもそも時空神は、並大抵のことでは時間遡行を承諾はしてくれない。


 何故なら前述の通り、時間遡行を完遂するには全ての可能性を破壊し尽くすからだ。


 だから時間遡行が可能となるには、この世界が滅び逝く必要がある。


 初代異能王、繧ィ繝ォ繝峨Λは、最果ての世界より時間遡行をして来たと語った。


 その世界では我々は完全に敗北し、混沌が世界を包んでいたそうだ〟




「…文字が…」


 初代異能王の名前だけは、読み取ることができなかった。


 しかし内容は粗方わかった。


 要するに、時間遡行は存在しているが、条件がかなり厳しく、人類が滅びた先でしか行えないというわけだ。


 死神のことを想像した悠馬は、最初のページに記されていた混沌を思い出し、ある可能性を導き出す。


「混沌に負けて…俺は時間を遡ったのか?」


 だとしたら、他のみんなは死んだということか?


 いや、考えるな。今は考えたくない。


 先の結末を知りたくない悠馬は、終着点を悟ったものの、強引にその答えを捻じ曲げようとする。


「きっと、何かやり残して戻ってきただけだ…そうに違いない」


「そうじゃないと困る…」


 悠馬はそう言い聞かせながら、ページをめくる。





 〝可能性の破壊について〟


 〝可能性の破壊というのは、端的にいえば起こり得た結末のことである。


 例えば今の時間軸、つまりは現実では最愛の人が死んでいたとする。


 しかし別の結末では、最愛の人が生きている結末や、その他の結末などが存在するわけだ。


 要するに、バッドエンドやハッピーエンド、はたまた別の終わり方を迎えたパラレルワールドの結末が、可能性というものだ。


 そして我々が選び得なかった結末を、破壊する。


 そうすることにより、世界はたった1つに収束し、振り出しに戻される〟




「…」


 全ての可能性を破壊すれば、人類は行き止まりに辿り着いてしまう。当然だ。自分たちの選んだ道をすべて滅ぼすわけだから、行き止まりにならないわけがない。

 どの結末でも全員が死に、人間の生きる道が全てなくなる。


 枝分かれして行く結末を全て破壊することによって、一本の新たな世界に繋がるというわけだ。


 しかし破壊するとは、具体的にどういうことなのだろうか?


 詳しく記載されていないため、その可能性というものに疑問を抱く悠馬は、不思議そうに首を傾げた。


「破壊って…みんな殺すのかな」


 文章から察するに、きっとそういうことだろう。


「いや…きっと違うだろ」


 そんなこと、あり得るはずがない。


 今の自分が、この世界とはまた別の世界を破壊し、そして花蓮や夕夏を殺す瞬間なんて想像もできない悠馬は、首を振り本を閉じる。


「まぁ、要するに時間遡行、そして同じ人間が同じ時間軸に存在するのも可能ってことだろ?」


 それだけわかれば、あとは十分だ。


 自分のことは自分でなんとかする。


 それが暁悠馬なのだから、死神だって同じ考えで動いているはず。


 知るはずのない情報を知ってしまった悠馬は、脳が情報過多に陥ったのか、その場で大の字になって寝転んだ。

…そういえば1話で悠馬くんが聖人だった可能性を破壊した人がいましたね。

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