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クリスマスパーティ

「はぁい、皆さん問題でーす、今日はなんの日でしょうか〜?」


 ふざけたような、おちょくったような声が室内に響き渡る。


 今すぐこいつを串刺しにして、ムスプルヘイムで焼肉にしてやりたい。


 そんな歪んだ思考をする悠馬は、サングラスを掛け、サンタクロースのコスプレをした連太郎を睨む。


「はいはーい!セッ◯◯が1年で1番多い日だろ!」


「フッ、これで俺も大人の仲間入りか」


「ま、余裕だな」


 何故か余裕を見せる男子たち。

 そんな彼らを冷めた視線で眺める悠馬は、呆れの溜息を吐き、そして机を叩く。


「てかお前ら!なんで当然のように俺の寮に集まってんだよ!」


 ギャーギャーと騒ぎ回る男子生徒たち。


 ここは動物園かと訊ねたくなるほど各々勝手に会話を進める彼らは、悠馬の疑問になど聞く耳を持たない。


「んなの、お前の寮が広いからに決まってんだろ。あ、デケェ鼻くそ取れた」


「そうそう、お前の寮なら20人くらい入りそうだしな!」


「もうこれ以上は絶対に呼ぶな。呼んだらお前ら、1人ずつ間引くからな」


「ゲッ、物騒なこと言うなよ…」


「暁闇の発言は説得力があるぜ…」


「さすがフェスタ優勝者…」


「てかなんで碇谷とアダムもいるんだよ!それに松山呼んだのどこのどいつだ!マジで間引く!」


 3人を指差しながらギャーギャーと喚く悠馬。


 悠馬の寮には現在、八神に連太郎、通に栗田、モンジ、山田、覇王、碇谷にアダムが集まっている。


 総勢9名。

 一癖も二癖もある人物たちが集結している闇鍋のようなこの空間は、もちろん悠馬がみんなを呼び出したというわけではない。


 今日は12月24日。

 世間で言うクリスマスイブだ。


 みんながみんな、彼女や可愛い女の子とのデートを目論むこの日に、何故こんな馬鹿な野郎の集会所として自身の寮が使われるのか。


 不満でならない悠馬は、怒りで腕がプルプルと震えている。


「でもいいよなぁ?暁は。お前、彼女たくさんいるもんな?今日は誰と一夜を過ごすんだよ?」


「それな。1人くらい貸せよ」


「お前らのブツ二度と使えねえように切り落としてやろうか?」


 年頃の男子たちの冗談を間に受けた悠馬は、何もない空間から神器を取り出し、光のなくなった瞳を向ける。


「じょ、冗談だよ…」


「よっ、サイコパス暁」


 暁闇でフェスタ優勝者。

 そんな狂気じみた肩書を持つ悠馬に対し、すっかりと扱いに慣れているクラスメイトたちは、呑気にお菓子を広げている。


「くっ、こいつらマジで、1人ぐらい間引いてやろうかな?」


 自身の寮のように寛ぐ男子たちに苛立ちを隠せない悠馬は、神器の銀色の刃をほんの少しだけ出し、誰を間引こうかとターゲットを絞る。


「おい悠馬、その辺にしとけよ」


「止めるな八神…俺は今、猛烈に怒っている」


「それはそうだ。だって、お前は今日は忙しいはずだもんな?」


 悠馬の肩を叩き宥める八神は、遠くを見つめながら話す。


 悠馬には彼女がいる。


 それはこの空間にいるアダムや覇王も同じなのだが、悠馬には花蓮に夕夏、美月に朱理という、可愛い彼女が4人もいるのだ。


 すなわち、悠馬にはクリスマスイブを自堕落に過ごす男子生徒たちに捧げるわけにはいかない。


 時刻は13時を回ったタイミングで、まだまだイルミネーションには程遠い時間帯だが、それでもコイツらの姿を見ていれば、薄々わかることがある。


 コイツら、女子に誘われなかった敗北者だけが、寮に残って悠馬の妨害をするつもりだ。


 なんとなくそんな気はしていたが、間違いないだろう。


 彼らは女の子とクリスマスイブを過ごせなかったことを腹いせに、悠馬の聖夜を台無しにしようとしているのだ。


 魂胆が見え見えな上に、友かどうかも疑うような行為。


 法律で殺人が禁じられていなければ、多分今頃2人くらいはいなくなっているはずだ。


「俺の聖夜を…よくも…!」


「いや、その心配はないと思う」


「何故そう言い切れる!お前、こんな変態で性格の歪んだクソ野郎どもが、女子にお呼ばれされるとでも思ってるのか!?」


 クソ、どいつもこいつも頭がメルヘンだ!八神も!


 今までの女子たちの対応を見るからに、ギャル受けのいい連太郎、そして好青年の八神を除いたこの変態4人は、敬遠されがちだ。


 つまり何が言いたいかというと、山田にモンジ、栗田に通は、もし仮にクリスマスイベントがあったとしても、ハブられる運命にあるのだ。


 いや、まだ山田と栗田には可能性はあるかもしれないが…


 とにかく、この中で売れ残りというか、ハブられる奴が出るのは必至。


 八神は自分がイケメンだから周りも誘われるだろうなどと勘違いをしているようだが、世の中そんなに甘くない。


 何しろ悠馬は、クリスマスの恐怖を身を持って経験していた。


「あれは中学1年のクリスマス…!」


 当時の悠馬は今ほど明るくはなかった。

 悪羅に家族を殺されたその年に、元どおりになるという方が無理があるだろう。


 加えて悠馬は、人間関係が出来上がった後に編入、家族が死に窶れていたため、クラスメイトたちからは敬遠される立ち位置にあった。


 妥当な判断だ。

 悠馬だって、当時の自分自身の写真を見たときは、こりゃ敬遠されて当然だと断言できるほど、人を殺しそうな顔をしていた。


 そんなこんなで悠馬は中学1年のクリスマスの時、あることを知ってしまった。


 そう。

 自分以外のクラスメイトが集まって、クリスマスパーティを行なっていたのだ。


 常日頃は仲良くないクラスメイトたちも集まり、嫌われている生徒まで集まっていたというのに、悠馬をハブって。


「コイツらも絶対ハブられる!」


 悠馬は3年前の自分自身よりも、今目の前にいる彼らの方が敬遠される存在だという判断を下した。


「だから安心しろって…もうすぐ女子たちから連絡くるし」


「は?」


 八神がそう告げると同時に、Aクラスの男子たちの携帯端末の通知音が鳴る。


 全員の携帯端末から音が鳴るということはつまり、グループメッセージか学校側からの一斉送信。


 我先にと携帯端末へ視線を落とした彼らは、目を輝かせながら立ち上がった。


「クリスマスパーティ…!」


「キタキタキタキタ!」


「よっしゃァ!」


「ほらな?」


 落ち着きのない悠馬を見て笑う八神は、携帯端末のクリスマスパーティのご案内を悠馬に見せる。


「お前、根回ししたのか?」


「んまぁ、そんな感じかな?俺もほら、そろそろ女の子と仲良くなりたいし」


「…お前、中身通か?」


 自分が嫌い、彼女なんて作らないと言っていた八神が、まさかこんな発言をするとは思えない。


 ふと、美月と入れ替わったことを思い出した悠馬は、現在八神と通が入れ替わっているのではないか?という結論に至り、訝しそうに尋ねる。


「おい、勘弁してくれ…俺があいつと同類に見えるのか?」


「あ…悪い」


 どうやら思い過ごしだったようだ。


 通と同類扱いされた八神はそれが嫌だったのか、しかめっ面で腰に手を当てる。


「お前が女に興味持つとか、珍しいからさ」


「男色みたいな言い方するなよ…」


「いや、そういうつもりで言ったんじゃ…」


 どういう風の吹きまわしなのかは知らないが、きっと周りの男子たちが、八神は女を狙っていると聞けば阿鼻叫喚するに違いない。


 悠馬に美女を掻っ攫われた男子たちは、限られた性格が良くて可愛い女子を奪い合う形になっている。


 そんな彼らにとって、イケメンハイスペック男子の八神の乱入は由々しき事態のはずだ。


「少しだけ、自分に自信ができた…ようやく肩の荷が下りた気分だよ」


「ああ…」


 フェスタの後度々休んでいたし、過去のことに決着でもついたのだろう。


 自信でみなぎっている八神を見た悠馬は、フッと笑うと、ソファに座る。


「そんで?碇谷、お前以外みんな予定入ったようだが?」


 八神と会話を終え、1人無言で携帯端末を操作する碇谷をおちょくってみる。


 Aクラスの男子たちの予定は決まった。

 覇王とアダムは彼女がいるから、夕方にはこの場からいなくなるはず。


 ならば必然的に残ってしまうのは、Bクラスの南雲の金魚の糞である碇谷。


 碇谷が文化祭で真里亞と歩いていたなどという噂は耳にしたが、それ以上のことは何も聞いていないし、噂も聞かないため、コイツはボッチでクリスマスを過ごすに違いない。


 きっと寮に1人で帰って、サンタさんにお願い事でもして、1人でワンホールのケーキを食べて、何もないまま眠るんだ。


「あ…悪いな暁、俺も今日は予定があるんだ」


「……んん?南雲についていくのか?」


 いつもなら、何を!などと言って掴みかかり、そしてアダムにおちょくられさらにキレるところまでがテンプレ…だったはず。


 だというのに、コイツの余裕はなんなんだ?


 いつもとは一味違う、怒ったそぶりすら見せない碇谷は、微笑みながら話す。


「おいバカリヤ〜、今日のお前、なんかキモいな!」


 あ、これ絶対キレる。


 アダムのストレートな物言いは、いつだって碇谷を激昂させる。


「おいおい、俺はいつも通りだろ?なぁ、暁」


「さてはお前、碇谷じゃねえな」


 いつからこんな爽やかキャラになりやがったんだ。


 アダムに煽られてもキレないあたり、お前も成長したんだな…と嬉しい気持ちになるが、それと同時に、これは碇谷じゃない!と脳が拒絶してるような感覚に囚われる。


 碇谷はいつものように、アダムに何かを言われ怒っているから碇谷な訳であって、こんな碇谷なら、存在価値はない。


「ま。俺も大人の男になったからな」


 どや顔を浮かべながら、余裕を見せてくる。


 そんな彼の言葉を聞いた男子たちは、各々の会話を中断し、一斉に碇谷の方を見た。


 年頃の男子といえば、周りが童○かそうでないかで一喜一憂したり、コイツ抜け駆けしやがった!と騒ぎ立てたりする。


 ここにいる大半は彼女がいないのだから、大人の男になったという単語を聞いた彼らは、当然反応をする。


「おい碇谷、どういうことだ?」


「クラスは違えど、抜け駆けは許した覚えはねえぞ?」


「誰の許可もらって大人になりやがった?」


 許可必要なのかよ!

 そんな協定、いつ結ばれたのかはわからないが、Aクラスの面々の話を聞いた悠馬は驚きを隠せない。


「実は俺、今日真里亞ちゃんとデートするんだ」


「は!?」


「冗談だろ!?」


「真里亞ってあの!?」


「アホ死ね!んなわけあるか!」


 第1の1年Cクラスの真里亞と言えば、知名度で言うと夕夏や美月の次に来る。


 当然、第7出身の覇王でもその名前は聞いたことがあるだろうし、覇王も口をあんぐりと開けて、「え?こいつ、この顔で美女とお近づきになってんの?」と言いたげに指を指している。


「やっぱ俺、真里亞ちゃん運命の赤い糸で結ばれてるのかな…」


「…」


 アダムもこの件については、何も言えない。


 バーベキューの時は割と真面目に、荷物待ちのために都合のいい碇谷が真里亞に誘われたのだと、誰もがそう思った。


 いや、本当に。

 だってコイツ、モテそうな顔してないもん。


 顔で言うなら、栗田の方が女子人気は良さそうだし、碇谷の顔は、覇王と同じく平凡そのものだ。


「え?なんで?じゃあ俺もハーレム作れるくね?なぁ暁、俺は今、冷静さを失っている」


「松山、お前はすぐにここから出てけ」


 同じような、平凡な顔の男子が美女とお近づきになっているのが許せないようだ。


 何しろ覇王は、女の子からキャーキャーされるためにこの島へと入学した。


 そんな彼の前に、自分と近いレベルの顔で、可愛い女の子を恋人にしようとする存在が現れたのだ。


 それは悠馬なんかよりもずっと恐ろしい。


 だって、自分と同じく平凡な顔をした男が、自分よりもモテていると言うのは、かなりメンタルにくる。


 え?なんで俺はダメなの?と。


 特に覇王は、レベルで碇谷に優っているため納得できない様子だ。


 悠馬よりも手強いライバルが現れたと思っていそうな表情で、敵意をむき出しにしている。


「クソ、真里亞ちゃんは1番硬派だと思ってたから後回しにしてた…」


「篠原ちゃんの次だったもんな…」


「俺も碇谷より先に仲良くなっておけば…」


 美月の次に攻略難度が高いとされていた真里亞は、美沙という比較的誰とでも付き合う美女がいたため、大抵の男子が後回しにしてきた。


 まだ真里亞ちゃんは付き合わないだろう、と。


 しかし現実はそんなに甘くない。

 頭を抱える男子たちは、最後まで残っていた三大美女の1人が、ついに彼氏を作ったのかと絶望している。


「お前ら、楽しそうだな…」


 碇谷の話で、ヤケにテンションを上げ下げしている男子たち。


 クリスマスイブだというのに、こんな時間から阿鼻叫喚して疲れないのだろうか?


「ま、俺には関係ないけどさ」


 お菓子を散らかしている面々を見下ろしながら、悠馬は哀れな眼差しを向けた。

誤字報告ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

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