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冬の足音

 季節は巡り、12月。


 第1異能高等学校、1年Aクラスに通う生徒たちは、全員が入学当初と変わらない冬服を着て、グレー色の外を背景に暖房のおかげで暖かい室内で会話をする。


「ねぇ、今日どこ行く?」


「今日は天気予報雪だし、あったかいところがいいなー」


「それな〜」


 あと2週間もすれば日本でもトップクラスの大イベント、クリスマスに、学生にとっては何よりも嬉しい冬休み、そして年越しイベントが待っている。


 そんな浮ついた気持ちからなのか、やけにテンションが高い女子たちは、今日の放課後どこに行くのかの多数決を取っている。


「もう冬か…」


 今は12月。入学してから8ヶ月が経過したということだ。


 机に肘をつき、感慨深そうに1人壁を見つめる悠馬は、背後の席の通から背中を叩かれる。


「よぉフェスタ優勝者!」


「よっ、異能王に最も近い男!」


「将来は総帥か〜?」


 通の掛け声と同時に、冷やかしにも近い栗田やモンジの声が聞こえてくる。


 悠馬はフェスタで優勝してからというもの、事あるごとにそのことを話題にあげられ、そして今のような扱いを受けてきた。


 なんでこいつらは飽きないんだろうか?

 最初こそ抵抗していたものの、もうめんどくさくなってあまり反応しない悠馬は、楽しそうな3人を見て苦笑いを浮かべる。


「なんだよ?気にしてんのか?」


「何をだよ?」


 悠馬が苦笑いをしたことにより、何か言いたげな栗田は、不思議そうな表情を浮かべる悠馬の元へ近づき小声で囁く。


「アメリカ支部の飛行機墜落事故だよ。大声では言えねえけど」


 フェスタが終了してから2週間ほど。

 他の生徒には話を聞かれたくないのか、周りを警戒する栗田は、あの後起こった出来事について話をした。


 あの後、悠馬たち日本支部の学生も、アメリカ支部とほぼ同タイミングで帰国をした。


 そして帰国した後に耳に入ってきたのが、アメリカ支部の学生たちの搭乗した飛行機が墜落したというニュースだった。


 もちろん、はじめの方は大騒ぎだ。

 つい昨日まで同じ空間にいたはずの学生たちが亡くなったのだから、顔を知らなかったとしてもショックは受けるし、悲しい気持ちにもなる。


 そして戀や悠馬と言った学生たちは、アメリカ支部の生徒とも戦っていたわけで、栗田はおそらくそのことを気にしているのだろう。


 みんな表では話さないように心がけているようだが、頭の片隅には、飛行機墜落事故のニュースが残っているはずだ。


「こういうの言うと、みんな怒るだろうけど、俺は自分が助かって良かったと思う」


 まぁ、誰だって自分たちと同じタイミングで離陸していたはずの飛行機が墜落したと知れば、自分たちじゃなくて良かったと思うだろう。


 悠馬に気にするなと言いたいのか、助かって良かったと呟いた栗田は肩を軽く叩く。


「ははは…俺がいたら墜落しても死なねえよ」


 最悪ゲートでどうとでもなるし、墜落までの間に乗客を逃がすことは可能なはずだ。


 実際起こらないことが1番なのだが、もしも話をした悠馬は軽く笑ってみせる。


「…でも、あの中で暴動が起きてたんなら、そりゃあ死ぬよな」


「あー…まだ行方不明者が何人かいるってことか?」


「…ああ」


 これはあくまで悠馬の見解だが、飛行機は不具合で墜落したわけじゃない。


 ニュースで流れていた海に浮かぶ飛行機の映像では、どこかに不具合が起きたというよりも、風穴を開けられたという単語が相応しいほど、飛行機の半ば付近に大きな穴が空いていた。


 おそらく、何かがぶつかったか、中から誰かが穴を開けたのか。


 そんな可能性を想い浮かべる悠馬は、行方不明者の名前を思い出す。


「キング…エミリー…」


 他にも数名行方不明者がいるものの、この2人は記憶に残っている。


 キングが暴動でも起こしたのだろうか?

 本当にやりかねない彼のことを思い出した悠馬は、そんなことを考え、1人でゾッとする。


「男子生徒1人、バラバラで見つかったらしいしな。ネットに書かれてたぜ」


「バラバラ?」


「ああ、両手足が綺麗に切断されて、おまけに腹に穴が空いてたってさ。切断面から察するに、墜落で出来るような傷じゃないらしいし、死亡時刻も、墜落前ってので確定らしい」


 調べているのかやけに詳しい栗田は、いつもなら大声でべらべらと話すが、今日は周りに注意を払って話している。


 栗田なりの思いやりという奴だろう。

 フェスタ前まであれだけ嫌い嫌いと言っていた八神のことを心配し、相手に激怒するくらいなのだから、根はいい奴だ。


 ちょっとヤンキーチックだが、友は大切にしようとしているのがわかる。


 だからアメリカ支部の事故も、少し気になっていたのだろう。


 相手国だったと言えど、顔を合わせていたのだから気になりもする。


「…ってことは、やっぱ墜落前に何かあったんだろうな」


「ああ…後これ…掲示板では噂になってるけど」


 栗田は携帯端末をポケットから取り出すと、スクリーンショットされた画像を悠馬へと向ける。


 それは恐らく、アメリカ支部で事故に遭った学生の中で、1番最後のSNSへの投稿だ。


「光る化け物が現れた。殺される…?」


「きっとこの、光る化け物ってのが事故を起こした原因なんじゃないのか?って、俺は考えてる」


「そんな可能性もあるな…」


 しかしアメリカ支部行きの飛行機に乗っていたのは、異能島の学生のみだったはず。


 誰かが紛れ込んでテロでも起こしたならわかるが、乗組員、学生以外の遺体は見つかってないようだし、意図もわからない。


 加えていうなら、同じ支部の学生が暴動を起こしたのなら、光る化け物、なんて書き方はしないだろう。


 考えれば考えるほど、ピースは揃わなくなっていく。


「そういえば八神の奴、最近サボりがちだけど何やってんだ?」


 そんな悠馬の長考を遮ったのは、栗田の純粋な疑問だった。


「ああ…あいつのことなら心配いらないだろ」


 何か知っている様子の悠馬は、そう答える。

 フェスタではいろいろあったし、自分なりのケジメでもつけに行っているのだろう。


「ま。アイツがいない分、今日は俺たちが抜け駆けする日か!」


「そうだ!」


「俺らの時代だ!」


 悠馬の席にゾロゾロと集結してくる、変態四天王たち。


 八神の不在が好都合なのか、ニヤニヤ笑いを浮かべる彼らを見た悠馬は、何か悪い予感がしてその場から離脱しようとする。


「おい悠馬、今月なんの日か知ってるか?」


「冬休み?」


「アホ死ね。んなことはどうでもいいんだよ!」


「もっと重要なのがあるだろ?ほら、なぁ?」


「はぁ?」


 冬休みをどうでもいいと切り捨てた彼らを、信じられないといった表情で見つめる悠馬。


 学生の長期休みというものは、春休みに夏休み、冬休みしかないのだから、どうでもいいわけはないだろう。


 何しろお年玉だって貰えるし、普通の学生ならウキウキして本土へと帰省をするはずだ。


 だが変態四天王にとっては、それ以上に大事なイベントがある。


 それは


「クリスマスだろ」


「俺らは國下狙いだから手え出すなよ」


「お前に可愛い女取られるのはもうごめんだからな」


「お前はクリスマス、家で待機してろ」


 心無い言葉をかけてくる、男子生徒たち。


 いや、本当にひどい奴らだ。


 つい先ほどまで、悠馬を軽くおちょくったりして遊んでいたというのに、女絡みのイベントの話となると、イケメンを全力で排除してくる。


 八神がいなくて好都合という発言の意図を知った悠馬は、自身が敵対対象になっているのだと知り、4人を見る。


 どうやら割と真剣に、美沙という最後の砦だけは悠馬に取られたくないようだ。


「だ、大丈夫だよ」


「ほんとかよ?お前、美沙美沙と合宿の時いちゃついてたじゃねえか!」


 面倒なことを記憶していた通は、人差し指を突き出しながらそう告げる。


 たしかに悠馬は、通の前で美沙と接近はしたものの、それ以降は大して何もしていない。


 そもそも悠馬は、約1ヶ月前に彼女のことをこっ酷く振ったため、4人が心配しているような事態にはまずならない。


 しかしそんなことを言えるはずもない悠馬は、根拠のない弁明を行なった。


「というか、そもそも俺に話すってことは、何かあるんだろ?」


 本来ならば、知られたくない相手には黙っておくはずだ。


 特に栗田やモンジ、山田は自慢をするよりも先に、女の子を囲い、そしてそのあと付き合い始めたくらいのタイミングで言いふらすような人格者。


 つまりは彼らが本当に美沙とイチャイチャしたい場合、悠馬が必要にならなければ、何も言わなかったはずなのだ。


 自分たちだけ甘い蜜を吸うような性格の悪さを知っている悠馬は、鋭い質問をする。


「じ、実は…」


「なぁ?」


「お前にお願いしたいことがあるんだよ…」


 そらきた。


 予想通り、悠馬にお願いがあるからこの話をしたわけだ。


 自分の予想が的中し、ちょっとだけ優越感に浸る悠馬は、悪い予感も的中したことを悟り、徐々にクールダウンする。


「お前、國下へのクリスマスプレゼント何がいいと思う?」


「こいつら、ローターとかふざけたこと言って、話になんねえんだよ」


「バッ…!ローターって意見出したのはお前だろうが!」


 やはりこんな質問だ。


 夕夏の誕生会の時は各々で選び物をしたためか、素晴らしいとまではいかないが、無難で女子が喜びそうなものを買ってきていた。


 しかしこういう変態たちは、集団になると悪ふざけが過ぎ、意見が統率しにくくなる傾向になる。


 あれがいいんじゃない、お前あれをプレゼントしろよ。


 そんなノリで、思ってもいないプレゼントを買って女子に嫌われるオチだ。


 きっと4人は、自身たちが意見を出し合ったところで、途中で脱線して変なものを買ってしまうと思ったのだろう。


 だがそれと同時に、悠馬は1つの疑問を抱いた。


「お前ら、4人で1つのプレゼント渡すのか?」


『あっ…』


 バカだ間抜けだとは思っていたが、こいつらは本当にバカだ。


 どうせこいつらは、美沙を狙うと言いつつも、あまりお金がかからないように、4人で割り勘をしてクリスマスプレゼントを贈ろうなどと考えていたに違いない。



 しかしそれをしてしまうと、美沙とお近づきになることはできても、恋愛感情を抱かれることはないだろう。


 何しろ美沙が律儀な女ならば、彼らにプレゼントを返すだけで4倍の出費だし、4人で買いましたと言われて、わぁ、惚れた!などとはならない。


 つまり何が言いたいかというと、4人で1つのプレゼントを買おうなどと考えているコイツらは、絶対に付き合うことはできない。


 悠馬の疑問を聞いて、ようやく自分たちが無謀な挑戦をしているのかを悟った4人は、互いに顔を見合わせ警戒し合う。


 こいつらは一妻多夫制の世の中ででも生きてきたのだろうか?


 美沙なら4股はやりかねないし、まぁ、可能性はなくもないが、あからさまに身内同士で敵対心を抱いた様子の彼らの姿は傑作だ。


 さっきまで一緒にプレゼントを〜なんて流れだったのに、今ではバトルロイヤルでも始めるような顔をしている。


「お、おい悠馬、親友の俺様のプレゼント選び手伝ってくれるよな?」


「お、おい!暁、俺のプレゼント選び手伝ってくれるなら、飯奢るぜ!」


「な、なぁ?お前の好みそうなエロ本、貸すからさ?」


「お、おい、野球教えるから頼むよ!」


 4人の仲に亀裂が入った瞬間なのかもしれない。


 あれだけ抜け駆けをされないように警戒していた4人組が、我先に抜け駆けをしようと悠馬へとお願いする姿を見るからに、彼らの友情は案外、脆いものだったのかもしれない…


 明日にはこの脆い友情も修復されているのが、男の面白いところだ。


 候補が2つなくなったな。

 野球に興味がなく、そしてエロ本に興味がない悠馬は、4人の裏切りを眺めながら、そんなことを考える。


 そして栗田の飯というのも、多分安いサイ○○ヤやマ○クといったものだろう。


「とりあえず、俺は通の買い物に着いてくよ。クリスマスまであと2週間あるし、お前ら全員のプレゼントだって、間に合うだろ?」


 ていうかそもそも、4人で1つのプレゼント買ってどうするの?と聞きたかったわけであって、誰か1人抜け駆けしろなんて言った記憶はないし、ここは平等にプレゼント選びに付き合うべきだ。


 だって面白そうだし。


「暁…お前いい奴だな」


「お前のこと、裏でゴミカスイケメン野郎とか言ってごめんな…」


「正直すまんかった…」


 ちょうどいい暇つぶしが見つかったなどと思っている悠馬は、3人が感動していることなどいざ知らず、ルンルン気分で携帯端末を開く。


 こいつらのクリスマスプレゼントを探してる間に、自分も彼女たちへのクリスマスプレゼントも探せるし、完璧じゃないか。


 完璧なプランへとたどり着いた悠馬が、彼らとプレゼント選びを始めるのはまた後日の話だ。

ここからしばらく日常パートが続きます。日常パートが終われば終章まであと2.3章ほどになります(´・ω・`)


コロナウイルスが流行って(?)ますね…みなさんもお気をつけ下さい!

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