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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
212/474

幕間7

「んん…」


 昼間なのか、かなり明るい室内。

 ゆっくりと目を開けた悠馬は、少しだけだるい身体を起こして昨日の出来事を思い出す。


 確かフェスタで優勝して、なんだかんだで戦神と戦うことになって、そして…


「ぼろ負けした」


 勧誘は拒否されるわ、一撃でやられるわで、とんだ1日だった気がする。


「ようやく起きたし…アンタ、マジでフザケンナよ」


「わー!」


「黙れ!」


 横に座っていた、青髪の女の毒舌を聞いて跳ね上がる悠馬。


 悠馬の横に座っていたのは、8代目異能王、エスカの戦乙女であるマーニーだった。


 どうやらかなり不機嫌なようだ。


 驚いた悠馬に対し黙れという単語を吐いてくるあたり、育ちの悪さが滲み出ている。


「はぁ、雑魚のくせに調子に乗って戦神と戦いたがるし…手当てするこっちの身にもなれっての。このクソ雑魚」


「…はは」


 モンジ、今お前の願いだった、マーニーさんに罵られるというイベントが始まってるぞ。


 別にそんな性癖は持っていないし、そもそもマーニーに興味すら抱いていない悠馬は苦笑いを浮かべる。


 多分、異能王の側近じゃなければ殴り飛ばしているところだ。


「で?身体の調子は?痛いところとかない?」


「これがツンデレってヤツですか?」


 初対面でアンタ呼ばわり、雑魚などという暴言を吐いた態度とは打って変わって、悠馬を心配するように声をかけてくるマーニー。


 ちょっぴりドキッとしかけた悠馬は、高校に入って学んだ単語を使い本人確認してみる。


「は?仕事だっつの。これだからナルシスト雑魚は…はあ死ね」


「うぐっ…」


 これがツンデレなら、世の中のツンデレ好きはどのタイミングで可愛いと思うのだろうか?


 起きてから暴言を吐かれ続ける悠馬は、引きつったご様子でマーニーへの好感度を下げていく。


 異能王も、よくこんな奴を側近として置けるよな。

 そんな気持ちすらある。


「で?身体はどうって聞いてんだけど?大丈夫なの?」


「あ、はい…今のところ特に問題…は!?」


 マーニーに身体の調子を聞かれ、自身の身体に触れる悠馬。


 そして悠馬は気づく。自分の服が着替えさせられていることに。


 たしか花火の後戦神と戦ったときは、ラフな格好でスタジアムへと向かったはずだ。


 しかし現在の悠馬の服装は、ホテルに置いてあった寝間着そのもの。


 つまり誰かが悠馬を着替えさせたか、もしくは意識がない状態で着替えたかの二択になるわけだ。


「なに?そんなに焦って」


「なんで俺、着替えてるんですか!?」


「お前、気絶してるかと思ったら、スヤァっと眠るし、そのままだと焦げ臭かったから風呂に入れてやったのよ!言わせんな!クソ!」


 マーニーは言動とは裏腹に、気が利きすぎる女らしい。


 風呂に入れられたと聞いた悠馬は、青ざめた表情で周囲を確認する。


 もし仮に彼女たちがいたら、100パーセント殺されている。


 まさか初対面の、しかも戦乙女にお風呂介護をしてもらったなんて笑えないし、おそらく悠馬は全裸でお風呂に浸けられている。


「お嫁にいけない…」


「こっちのセリフなんだけど?私が介護してやったのに、気持ち良さそうに寝やがって…何様のつもりよ?」


 どうやら他にも、介護をしてくれていたらしい。


「具体的にはなにを…」


「身体洗ったり、髪洗ったり、服着せたり、体温測ったり、タオルで頭冷やしてあげたり…」


「過保護っ!!!」


 まさか高校生にもなって、他の誰かに介護される日が来るとは思いもしなかった。


 しかも相手は戦乙女だし、お母さんなんていう次元の存在じゃない。


「ま、私が介護してやったんだから、調子が良いのも当然よね」


 お調子者マーニー。

 驚く悠馬と、その現状を把握した彼女は、悠馬が元気なのは自分のおかげだと断言しドヤ顔を浮かべる。


 実際はシヴァとの契約の恩恵である、再生によって悠馬は元気になっているわけだが、悠馬の結界を知らないマーニーからしてみると、自分のおかげだと思うのかもしれない。


「…見たんですか?」


「…そこはお互いに忘れるべきでしょ!私エスカ様の指示じゃなければ、こんな興味のカケラもない男の介護なんてしないし!」


 見てしまったらしい。

 自分の大事なところが見られたと聞いた悠馬は、顔を赤く染めながらプルプルと震える。


 エスカの指示がなければ、そもそもこんなところにいないと言いたげなマーニーは、プイッとそっぽを向くと、その先に置いてあった小さな紙袋を見て、視線を固定する。


「そういえばお前…緑内障なの?」


「ど、どうしてそう思うんですか?」


「私の父も緑内障の兆候があって、お前が机に置いている薬を飲んでいる」


 意外なところで、想像もしていないタイミングで緑内障の症状が出ていることを知られた悠馬。


 唯一の救いは、マーニーが同じ学校の生徒ではないため、広められる心配がほぼないということくらいだ。


「でも、おかしいわね。お前はまだ高校生なのに、なぜ老人の病気にかかるの?」


「まぁ、色々あったんですよ…」


 セラフ化を使いすぎたなんて言えないし、色々という言葉で括った悠馬は、不思議そうな表情を浮かべるマーニーを見る。


「そ。深く聞くつもりはないけど、あまり無理はしないように。お前は腐ってもフェスタ優勝者だし、私だってお前の今後に、少しは期待してる。だからくれぐれも無茶だけはしないように」


「はい、ありがとうございます」


 もうすでに手遅れな気はするが、マーニーから釘を刺された悠馬は深く頷いてみせる。


「それじゃあ、容体も良いようだし、私はこれで帰るから。あとは自分でなんとかしなさいよ?わかった?」


「は、はい…」


「さよならー」


 疲れた様子は一切見せないが、去り際の一言だけ、疲れていたように見える。


 マーニーは一晩中寝ておらず、悠馬の看病に当たっていたのだから当然なのだが、それを知らない悠馬は不思議そうに首をかしげ、時計を見る。


「は!?」


 時刻は11時45分。

 悠馬は今日の12時に、このホテルを発たなければならない。


 ベッドから飛び降りた悠馬は、慌てた様子で荷物をまとめ始めた。


「誰か!助けて!」


 イギリス支部に取り残されるなんて嫌だ。日本支部に早く帰りたい。


 ホームシックになっている悠馬は、半泣き状態で室内を走り回る。



 ***



 して飛行機。

 なんとか荷物をまとめ終える事が出来た悠馬…ではなく、この飛行機はアメリカ支部の学生たちの専用機。


 お通夜のような雰囲気を醸し出している生徒たちの視線の先には、キングが座っていた。


 キングの周りには誰も座っていない状態で、仲の良かったであろうヴァズの姿も、エミリーの姿も見えない。


 その姿はもう、一匹オオカミそのものだ。


 孤高というよりも孤立しているキングへと声をかける学生は、誰1人としていない。


 アメリカ支部では自分が1番強い、偉いなどと勘違いをして抑圧されてきた生徒たちからすると、まさにかける言葉も見当たらないのかもしれない。


 中にはいい気味だと思っている生徒も、少なからずいるはずだろう。


「みっともねえよな。今まで散々脅して来といて、決勝であんな負け方するとか」


「ヴァズの方がマシな負け方だったろうに、2日前のキングに、2日後の自分の姿見せてやりたかったな」


 ヴァズは自分と悠馬の実力差に気づき、これ以上恥をかかないために降参を選んだ。


 それに対してキングは、散々ヴァズを雑魚だ使えないと罵ってきたが、決勝では結果の通り、悠馬に圧倒されて敗北。


 つまり相手を見る目がなかったのはキングであって、ヴァズが降参したのは仕方のないこと。


 2日前まで、キングに便乗してヴァズを罵っていた生徒たちは、一気にヴァズ擁護派へと転向する。


「つか、それは100歩譲っていいとして、レフリージャッジで敗北したのに、その後に攻撃しようとしたのが問題だろ」


「酷いよな、アメリカ支部の面汚しだぜ」


「あれ、本来なら警察沙汰らしいぜ」


 試合が終了したにもかかわらず、それに納得できなかったキングは、隙をついて悠馬へと攻撃をした。


 そのことを話すアメリカ支部の学生たちは、面白おかしくその時の話をしている。


「しかも、不意打ちだったのにボコられるとか、傑作だよな」


「実はアイツ、大したことないんじゃないか?今なら勝てる気がする」


 自分が強くなったわけではないが、あのレベルでボコボコにされていると、キングが弱いのではないかと勘違いしてしまう。


 実際、キングは弱くはない。

 アメリカ支部でトップを張るほどの実力があるのは事実だし、フレディやサハーラとも、それなりの戦いを繰り広げることはできただろう。


 しかし相手が悪すぎた。


 悠馬と当たってしまった、加えて悠馬を怒らせたことによって睨まれたキングは、決勝にもかかわらず、一方的にやられてしまった。


 悠馬が強すぎただけなのだが、素人目じゃそれはわからないため、周りの生徒たちはキングが弱かったと判断している。


「はは、クソだせえ」


「エミリーも振られたんだろ?俺エミリーに告ろうかな」


「俺も狙ってんだが」


「抜け駆けは良くねえだろ!」


 そしてキングの話題などすぐに終わり、他の生徒たちの話になる。


 もともとキングは、アメリカ支部内でも、決して人気があるというわけではなかった。


 腕っぷしが強く、レベルも10で総帥の息子だから、みんなやむなくついて来ていただけだ。


 しかしその取り柄がほとんど消え去ったキングに、自ら進んで従おう、いつも通りへこへこしようなんて思う奴はいない。


 子供が飽きて捨てたオモチャのように、キングは忘れ去られるだけだ。


「…」


 キングはそれを甘んじて受け入れた。

 いや、聞こえてなどいなかった。


 キングの脳裏にある記憶は、昨晩のアリスとの会話だけ。


「どうして…!」


 今までアリスに振り向いてもらうために努力をして来たキングにとっては、到底納得がいくわけのない幕引きだ。


 後一歩、王手のところまで来ていたというのに、寸手でそれが水の泡へと消えたことに納得できないキングは、1人座席を叩く。


 そんなキングが意識を外へと向けたのは、アメリカ支部の生徒たちの間抜けな声が聞こえたからだった。


「おい、なんだよあれ…!?」


「は!?」


 驚いたような声。

 キングの悪口を言っている時よりも、数倍声が大きくなった生徒たちの視線の先には、キングも驚愕する〝何か〟が立っていた。


 人型ではあるが、人という単語が相応しいのかはわからない。


 その人型の存在は、無数の光体に身を包まれ、到底人とは思えない。


 セラフと言われれば納得できるような、次元の違う何かだった。


「あ…あなたは…なぜ生きておられるのですか…」


 誰よりも早く、その存在が何なのか気づいたキング。


 彼は目を見開くと、光体の何かが知り合い、もしくは知っている存在なのか、跪きながら話をする。


「ほう…其方はこれが見えるのか?この姿が」


 その声は合成がかかっているというよりも、脳内に直接浸透してくるような、そんな声だった。


「当たり前でしょう…!」


 どうして他の奴らは気づいていないんだ?わかってないんだ?


 そう言いたげなキングは、キョトンとしている生徒たちをチラッと見て舌打ちをする。


「すみません…アイツらはゴミなので…」


 突如として現れた光体に、なんで、どうしてという単語よりも、下手に出ることを優先させる姿を見るからに、おそらくこの存在はキングよりも格上なのだろう。


「それに比べて其方は見込みがあるな。ほう…其方は母親に捨てられたのか…どうだ?妾の手を取り、元の母親を取り戻しては見ないか?」


 光体の浮かべた不気味な笑顔は、口元だけしか見えなかったものの、この世界で見るどの恐怖よりもずっと恐ろしく、そして深淵にも近いものだ。


 いち早くこの笑顔に反応したのは、ヴァズだった。


「キング…!そいつの話を聞くんじゃねえ!」


 飛行機の中だというのに異能を全開にしたヴァズは、光体に向かって突進をする。


 レベル10が飛行機の中で暴れたのなら、間違いなく墜落は必至。

 しかしヴァズは、そんなことよりも遥かにこの存在が危険だと判断した。


 コイツの好きにさせちゃいけねえ。コイツはヤバすぎる。

 得体の知れない光体に身の毛もよだつような恐怖を感じながら、ヴァズは手を伸ばした。


「其方の意見は求めておらん。()()()()


 キングを守るべく、光体へと突進したヴァズ。


 光体とキングがいる場所よりも少し離れた席に座っていたエミリーの顔には、鮮血が飛び散った。


「えっ…」


 たった数秒の出来事。

 ヴァズが突進してから、1秒にも満たない出来事に理解が及ばないエミリーは、目を見開いたまま、ヴァズが突進したであろう場所を見る。


 そこには凄惨な光景が広がっていた。


 ヴァズは手足が捥がれ、そして心臓部分には大きな穴が空いている。


 これを見れば、誰だってわかってしまう。


 ヴァズは死んでいた。


「いやぁぁぁぁあ!」


「きゃぁぁ!」


 ヴァズの死体を見た学生たちは、真っ先に声を上げて逃げ惑う。


 クラスメイトといえど、アメリカ支部でトップ2をしていたヴァズが即死したのなら、友情なんかよりも逃げることを優先するだろう。


 何しろここは空の上。

 下手に異能を使えば墜落、加減をすれば即死なのだから、距離を置いてやり過ごそうというのが1番まともなのかもしれない。


「母さんを…取り戻す…」


「そうだ。そのために其方には、セラフを授けよう」


 悲鳴をあげる生徒になど目もくれず、死んだヴァズにも目もくれない光体は、決意を固くするキングを見て再び笑みを浮かべる。


「その話、乗った」

ちなみに悠馬くんは飛行機に間に合いました!


……そしてアメリカ支部の飛行機…何やら不穏ですね。おそらくアリスや戦神、レッドがいたとしても結果は変わらなかったでしょう…

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