表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
211/474

戦神の日常

 豪華な天幕付きのベッドに、1人横たわる。


 長い金髪、ロールの掛かった髪をなびかせる人物は、枕に顔を押し付けてジタバタとしていた。


 ここはイギリス支部、テムズ川沿いから少し離れた高級ホテル。


 ここに宿泊しているのはアメリカ支部冠位、覚者である戦神だ。


 戦神はフェスタに招かれてはいるものの、存在自体が秘匿のようなもの。


 完全シークレットとして、学生の前になど顔を出せない戦神は、必然的にフェスタ会場から遠い場所に宿泊させられる。


 そして今日は、フェスタが終了した翌日。


 昨晩悠馬と決闘を行った戦神は、丸一日夜更かしをして、悠馬の言葉を脳内で繰り返していた。


 枕の隙間から見える蒼眼。

 目元には少し隈が出来ているように見える。


「私が…必要…」


 初めて同級生から、そんな声を投げかけられた。


 悠馬と同じく高校生である戦神は、悠馬からかけられた言葉を嬉しく感じていた。


 初めて出来たお友達というか、自分を必要としてくれる同級生というか。


「いや、あれはプロポーズじゃないのか…?」


 顔を上げ、そしてハッとしたように上体を起こした彼女は、ベッドにまで垂れる金髪の長髪を靡かせ、そして顔を赤面させる。


 悠馬は戦神を男だと判断したが、残念なことに戦神はバリバリの女性だ。


 バトルスーツを着ていて胸は強調されていなかったが、胸の発育はアメリカンだし、実際に素顔で悠馬と顔を合わせれば、悠馬は彼女が戦神だということには気づかないだろう。


「日本支部へ来い、私が必要、そして養ってやるとも取れる発言…」


 悠馬の発言をそう解釈している戦神は、頭をボンッと爆発させると、プスプスと煙を立てながらベッドにコテンと転がる。


「いきなりそんなことを言われても…」


 行きたい気持ちは、少なからずある。

 何しろ初めてのプロポーズをされたわけだし、あそこまで熱烈に勧誘してくるということは、よっぽど惚れ込んでいるに違いない。


 学生なのに養ってくれると言っていたし、想いはきっとホンモノだ。


 悠馬は師匠として戦神を勧誘したわけなのだが、言葉が足りず、そして悠馬の話を最後まで聞かなかった戦神は妄想を捗らせる。


 なぜ戦神が、こんなにも妄想を拗らせているのか。


 その原因は、彼女の生活にあった。


 彼女は八神と同じく、小学生高学年の時から軍人としての生活を送ってきた。


 八神はすぐに心が折れ、中学生に上がった頃には普通を演じながら学生生活を送っていたが、戦神はそうではなかった。


 彼女ほどの実力者を、アメリカ支部が手放すわけはないだろう。


 戦神は世界大戦後、学校へ通うことは許されず、軍人として生活してきた。


 つまり戦神には、同級生のお友達というのも、青春というものも、なに1つとして存在していないのだ。


 だからフェスタは食い入るように見ていたし、憧れもした。


 あんなショボい戦いで、自分も一喜一憂してみたい。出来たらな。と。


 そしてそんな戦神に、悠馬からのお誘いがあった。


 お前が必要だと。

 これって青春じゃないか?


 同い年の学生に声をかけられた戦神は、大興奮だ。


 憧れていた学校生活を始められるのではないか?彼が私を追ってアメリカ支部軍に入隊してきたらどうしよう?などなど。


 ありもしない妄想を捗らせる戦神は、扉が何度もノックされていることになど気づきもしない。


「はぁ…せめて彼がアメリカ支部の学生だったのなら…私は無理をしてでも会いに行ったというのに…」


 アメリカ支部の学生だったのなら、きっと適当な言い訳をつけて、学生としてお忍びで接触できたかもしれない。


 しかしそれが叶わないことを知っている戦神は、日本支部に住む悠馬のことを考え落胆する。


 これが身分違いの恋というやつなのだろうか?

 これが身分差というものなのだろうか?


 日本支部とアメリカ支部、決して仲が悪いわけではないが、立場上下手に動けない戦神は今、とても歯がゆい気持ちだ。


「せめて返事をしなければ…手紙だ」


「いい加減返事をしろ!」


 ボサボサの髪で、枕を抱っこしながら独り言を呟いていた戦神の耳に、つんざくような怒鳴り声が聞こえてくる。


「うるさいな…アリス。君は人の部屋に入る前にノックもできないのか?」


「何回もしていただろ!ふざけたことを言うな!」


 昨日のことに夢中だった戦神は、怒鳴り声をあげるアリスをウザそうに睨みながら溜息を吐く。


 乙女が苦悩している最中に、こんなに怒鳴り声を上げて入ってくる、空気の読めない奴なんて他にいるだろうか?


 いや、いないだろう。


 勝手にアリスを空気の読めない奴認定した戦神は、一気に不機嫌になる。


「要件はなんだ?アリス。私は忙しいんだ」


「…お前、今日の待ち合わせ時間を1時間も過ぎているというのに、ベッドの上で、寝間着姿で忙しいだと?」


 忙しいという割に、寝起きのような格好をしているし、そもそも約束の時間に待ち合わせ場所にいなかった戦神。


 それに対してアリスが怒るのは当然であって、何も空気が読めないわけじゃない。


 戦神よりも不機嫌そうなアリスは、責められても動じる様子のない彼女を見て深く溜息を吐く。


「お前にしては随分と珍しいんじゃないのか?いつも約束の時間にはきちんといるはずなのに、今日は夜更かしでもしたのか?」


「…まぁ、そんなところだ。少し考え事をしていた」


「そうか」


 少し押し黙るような態度を見せた戦神を見て、アリスはそれ以上は深く追求しなかった。


 総帥のアリスとて、彼女の心情はそれなりに理解しているつもりだ。


 戦神は人間にとって1番楽しい期間とも言える青春を、軍人としての時間に充ててしまっている。


 そんな彼女は当然ながら、今回のようなフェスタを見てしまえば、きっと軍人になったことを後悔もしているし、悩んでもいるだろう。


 てっきりフェスタで学校生活をしたくなったと思っているアリスは、戦神の思考を妄想し、そしてふふんと笑う。


「戦神、お前に少し提案がある」


「…なんだ?」


 アリスの不穏な笑みに、何か危険でもあるのではないかと、警戒したように返事をする。


 そんな戦神は、次の言葉を聞いて大はしゃぎすることとなる。


「日本支部で学生をする気はないか?」


「え!?」


 それは今、戦神が一番欲しかった言葉。


 1番かけて欲しかった言葉を受け取った戦神は、蒼眼をキラキラと輝かせベッドから身を乗り出す。


「学生!?異能島か?」


「あ、ああ…お前もやっぱり、学校に通いたかったんだな…」


 食い入るように見つめる戦神を見たアリスは、一歩後ずさりながら、彼女の気持ちを悟る。


 彼女だって、覚者・冠位、戦神である前に、1人の人間であって1人の女性だ。


 そんな彼女が青春をしたくないはずもなく、こうしてハイテンションになっている。


 そう判断するアリスは、期待に応えられるだろうかと少し不安になりながらも、その詳細について話し始める。


「実は昨日、ジャクソンの身柄の受け取りを行った」


「…ほう。うまくいったのか?」


「ああ。そこである情報を聞いた」


 そう言ってアリスは、深刻そうな雰囲気を醸し出しながら壁に寄りかかる。


 そこからは、7月のアメリカ支部の一件の話だ。


 部下が独断で別の任務を行おうとして、女子生徒を拉致したこと。


 隊長の称号欲しさに、反逆をしたバースのこと。


 そして暁闇が、バースと戦ったこと。


 全てを聞いた戦神は、ある疑問を抱く。


「アリス。バースは性格的には少し難があったが、実力は私も認めていた。それが簡単に殺されたというのか?」


 バースは隊長クラスの実力を持っていたし、正直体力的にも全盛期だった為、そう簡単に負けるとは思えない。


 況してや殺されるなんてことは、あるはずがない。


 あれほどの実力を持っていながら、逃げ切れないということもまずないだろう。


「さぁな。残念だが、その時すでにジャクソンは意識を失っていたらしく、死神に聞いた話だそうだ」


「そうか」


 バースが事故や死神にバレて死んだのではなく、暁闇に殺されたと聞いた戦神は、深刻そうな雰囲気を出しながらあることを閃く。


 バースは思いっきり軍事法違反である仲間の殺害未遂を行なって、暁闇殺害の功績欲しさに、調査を怠りいきなり殺害をしようとした。


 それはもう、名誉ある軍人などという存在ではなく、ただの犯罪者だ。


 ならば利用させてもらおう。


「実は昨日…私は暁悠馬と戦った時にあることを話した」


 超真面目な雰囲気で、話を始めた戦神。

 その雰囲気で真剣な話だと感じ取ったアリスは、無言のまま頷く。


「彼は暁闇について知っているような口ぶりだった」


 もちろん、真っ赤な嘘だ。

 超真面目な雰囲気話しているが、1つも事実ではないし、暁闇なんて単語すら出てきていない。


「本当か!?」


「ああ、だから私が日本支部の異能島、それも暁と同じ学校に編入することができれば、きっと暁闇の素性もわかるはずだ」


 日本支部の学校へ通う理由は、ほぼ間違いなく暁闇の調査なのだろう。


 隊長を凌ぐ実力を持ち、狡猾な存在であろう暁闇は、ただの軍人では太刀打ちできない。


 ならば真っ向から、高校生として冠位である戦神を送り込み、完全に暁闇の調査を終わらせる。


 それがアリスの考えだ。


 なんとなくそのことを察している戦神は、口からでまかせを並べまくり、悠馬と同じ学校へ通えるよう仕組もうとしている。


 アリスは昨晩あの場にはいなかったわけで、戦神が嘘をついているとは考えないだろうから、ほぼ確実にこの話に乗ってくるはずだ。


 思わず笑みをこぼしそうになりながら、アリスを見つめる。


「よし。わかった。これはアメリカ支部としても都合がいい。この任務、暁闇の調査については、学生として真っ向から暁闇を調べることができ、尚且つ実力者であるお前が最適だ」


「ふ…当たり前だ。私以外に適任などいるはずがないだろう」


「確か暁は第1出身だったな。そこへの編入で大丈夫だな?」


「ああ。任せておけ」


 もちろん悠馬が暁闇のことなんて知っているはずがないだろうが、戦神としては悠馬と話せるだけで十分だ。


 まぁ、実際は悠馬が暁闇なのだから、戦神はいきなり答えに接触するわけだが、彼女は知る由もない。


「ついでに、青春も楽しんで来い。期間は最長で2年、短くて1年だ」


 戦神の青春も考えて、かなり長い期間を設けたアリス。


 彼女の人生のことを考えれば、妥当といえば妥当な期間であろう。


「ああ!」


 自分の希望を全て通し、そして1年〜2年というかなり長い期間を調査へと充てられる戦神は、すでに飛び跳ねそうなほど喜んでいる。


「待っていろ。暁悠馬。すぐに行く」


「あ、お前、編入は早くても2年生からだから…」


「え…」


 明日からでも、日本支部の異能島へと行く気満々だった戦神。


 彼女がアリスの発言を聞き駄々を捏ねた結果、帰りの飛行機に乗れなかった。

ちなみにホテルのロビーで冠位のレッドも待っていたので、3人揃って飛行機に乗り損ねてしまってます。…まぁ、乗り遅れて正解だったんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ