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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
203/474

決闘2

凍えるような寒さと、冷たく吹き荒れる風。


夜だということもあり、昼間と比べるとより一層寒く感じる外灯に照らされた街を2人は歩く。


「おい、そっちはスタジアム沿いだけど…戦える場所なんてあるのかよ?」


上着は着ているが、すごく寒い。

制服を身にまとっている悠馬は、前を歩くサハーラに疑問を投げかけた。


悠馬たちフェスタの代表選手、いや、本大会を見に訪れた学生たちもきっと、夜に出歩くことは想定していないため制服くらいしか持ち歩いていないだろう。


凍える悠馬は、身体を震わせる。


「ああ。もうすぐつく」


「もうすぐって…」


あたりにはフェスタの会場であるスタジアムくらいしか見えないし、ビッグベンでは戦えないだろうし、まさか公園でやる気ではないよな?


会場は押さえているというサハーラの言葉に期待していた悠馬は、失望しながら後ろを歩く。


何が悲しくてこんな夜に初対面の野郎と2人きりで歩かなくちゃいけないんだ。


こんなことなら、夜に朱理や美月と抜け出した方が数億倍楽しいに違いない。


「着いた。ここだ」


「…え?」


サハーラに続いた先。

彼の目の前に広がっていた光景を目にした悠馬は、一度立ち止まる。


目の前にある建物は、イギリス支部に来てから最も見ていると言っても過言ではないスタジアム。


きっちりと閉ざされている扉の前で立ち止まったサハーラは、そのスタジアムを見ながらここだと呟いた。


夜だということもあってか、昼間とはまた違う雰囲気だ。


まるで無数のダイヤモンドを散りばめたような星々と、それを飲み込むような漆黒の空。


冷たい風がスタジアム外周を吹き抜け、イギリス支部の国旗がパタパタと乾いた音を立てている。


「え?侵入するの?」


侵入するのだったら、話がだいぶ変わってくる。

流石に準決勝、決勝が控えた前の日に侵入なんてしたら、棄権させられるだろうし不法侵入だ。


冷や汗を流す悠馬は、引きつった笑みを浮かべながらサハーラと話す。


「馬鹿か。言っただろう?会場は抑えてあると」


「ん?え?は?もしかして…」


会場って、スタジアムまるごと貸し切ったのか?


サハーラの言葉の意味を悟った悠馬は、金持ちしかできないであろう荒技に、半ば呆れて拍手する。


やはりサハーラの父親の企業はかなりの大手らしい。


下手な企業だったら、スタジアムを貸切にするどころか、どこも貸し与えてはもらえなかっただろう。


「入るぞ」


「鍵は?」


「ここにある」


慣れた手つきではないが、それでも迷いなくカードキーを取り出したサハーラ。


彼は扉の前に設置されているシステムロックにカードキーをかざす。


「他の奴らに見られたら厄介だ。早く行こう」


「あ、ああ」



***



スタジアム内は、フェスタの時とは大きく異なっているように見えた。


その原因はおそらく、スタジアム内に設置されているスタンドライトが点灯していることと、そして何より、スタジアムに天井があるからだろう。


フェスタ会場であるこのスタジアムは、どうやら開閉式だったようだ。


最終日前にしてその事実を知った悠馬は、歓声の聞こえない客席を見渡しながら新鮮な空気を吸う。


「観客、呼べばよかったかな?」


「いや…いらないだろ」


悠馬が辺りを見渡していたため、寂しいとでも判断したのだろう。


しかしそんな気持ちを感じていない悠馬は、サハーラにそう返すと、肩を回しながら確認を始める。


「ルールの確認、してもいいか?」


「どうぞ」


「結界の使用、並びに神器の使用、その他武器の使用は禁止」


「ああ」


「降参、若しくは気絶で決闘は終了。そのくらいか?」


「そうだな。続行可否は自分たちじゃ判断できないし、そのくらいだろう」


レフリーもいないため、試合開始の合図を送る存在も、続行可否を決める存在も居ない。


武器の使用と結界の使用だけを禁じた2人は、互いに向き合うと、真剣な眼差しへと変貌する。


これから行われるのは、フェスタなどというお遊戯会ではなく、互いに奥の手を見せた状態の勝負だ。


悠馬は寺坂から禁じられている雷の使用を良しとし、おそらくサハーラも、なんらかの奥の手を使ってくるはず。


「このコインを上空へ投げる。それが落ちた時が試合開始の合図…でどうだ?」


「わかった。いいよ」


サハーラが手にしているコインを目にした悠馬は、開始の合図はそれでいいと呟くと、警戒したように構える。


「じゃあ、始めるぞ」


サハーラの投げたコイン。

それは上空で何回転もしながら、最高地点へと到達する。


その間わずか、2秒ほど。


そこから先は、落ちていくだけ。


落ちていくコインを眺める悠馬は、地面にコインが落ちる瞬間を見逃さず、鳴神を発動させた。


黄金の雷が悠馬の周りへと放電し、そして体内へと収束していく。


その直後だった。


「っ!?」


茶色い何かが視界に映った悠馬は、鳴神を纏いながらそれを回避し、地面に手を突く。


「防ぐと思ったが…凄まじい反応速度…やはり手を抜いていたんだな」


「砂…!?」


悠馬が先ほどまで立っていた場所に、まとわりつくようにして形成されている砂。


その砂は刀のような形で、ちょうど悠馬の首があったであろう場所に刃を向けていた。


おそらく脅しのつもりだったのだろう。

ほんの挨拶程度だろうが、これでサハーラが他の相手と一味違うということがわかった。


「おい、サハーラ、お前も随分と手を抜いてたらしいな」


サハーラはこれまでの試合において、まるで砂を扱うまでに時間がかかるような、そして一度に使用できる砂には上限があるような立ち回りを見せていた。


悠馬の分析では、砂の異能を発動させるのに、約5秒の時間サハーラは動かなくなる。

そう思っていた。


しかし今この瞬間、その可能性はなくなったと言っていいだろう。


サハーラは砂を扱うまでに、ほとんど時間を必要としない。


かかる時間は、悠馬が鳴神を纏うまでの1秒程度ということだ。


「手を抜いてたわけじゃない。ただ、自分にはインターバルが必要だと思わせていた方が、後々楽になるだろう?」


初戦から一貫して同じパターンを見せることにより、数秒の間ができるという誤解を植え付ける。


そうすることによって、次から戦うであろう対戦相手たちはその情報を信用するため、いざという時に不意打ちができるようになる。


人間の分析を逆手に取った手段だ。


「なるほど…じゃあ俺も遠慮なく行かせてもらうぜ…!」


サハーラの異能に、先ほどまでの予測が通用しないことはわかった。


これまで立てていた可能性、仮説を全て白紙に戻した悠馬は、炎を右手に纏い、そしてサハーラを穿つ。


「当然のように複数持ち…!縛りプレイでもしてたのか?」


「お互い様だろ…!」


「それに…まさか身体の中に雷を…イカれてるよ」


雷を纏うなんて、普通の人間なら考えても実行には移さないだろう。


雷を纏うということは、基本的に雷系統を使える人間なら誰だってできる。


しかしながら、ほとんどの人が雷を自身の体に纏わないのは、ひとえに調節が難しいから。


下手をすると自分の異能で感電死、身体を動かすように雷を動かさないといけないため、かなりの集中力を要する。


だから鳴神は、考えたところで誰も使わない、チャンやバース、悠馬のようなぶっ飛んだ奴らが使う技なのだ。


夕夏も一度は使っていたが、あれはかなり格落ちのため鳴神とは言えない。


「暁、お前はこの大会に意味はあると思うか?」


「少なくとも昨日まではあったんじゃないか?」


純粋に自分の実力を計り、世界の広さを知る。


この大会に総帥や異能王が込めた思い通りの大会になっていた…はずだった。


「今日のアメリカ支部の奴か…あれは俺も気に食わねえ」


悠馬の炎を砂で防いだサハーラは、今日の出来事を思い出したのか、胸糞悪そうな表情で吐き捨てる。


「そしてアイツに感化される周りの雑魚どもも気に食わねえ…!」


「雑魚て…」


悠馬に向けて砂の槍を放つサハーラは、今日の試合で大歓声をあげていた生徒たちを雑魚だと明言する。


確かにサハーラや悠馬から見れば、この大会に出ている生徒のほとんどですら雑魚であり、大会にすら出ていない生徒は、雑魚中の雑魚なのだが。


それでもほかの言い方があっただろうと言いたげな悠馬は、砂の槍を氷の剣で斬り伏せる。


「事実だろ?あの程度で粋がってる奴には何もできねえ。何も救えねえ。何も守れねえ。何も変えれねえ!それに感化される周りもだ」


「確かにそうだけど…」


「だが俺も、あれをしたいとは思ってる」


「!?」


サハーラの作った砂塵を掻い潜り、距離を詰めた悠馬は彼の発言を聞き、一瞬動きを止める。


「アメリカ支部のキング。アイツが雑魚連中からなんて呼ばれ始めたか知ってるか?」


「知らねえな」


「ホープだとよ。傑作だと思わねえか?」


嗜虐的な笑みを浮かべるサハーラの表情には、相手に対する敬意など微塵も感じないように見える。


キングは八神に勝ったことにより、鬼神に勝てる希望、望みという生徒たちの勝手な妄想により、ホープなどという大それた異名を手にした。


実力に見合わない異名、弱いものイジメをして手に入れた大げさすぎる異名。


サハーラはそれが気に食わないようだ。


「だから俺は、決勝に勝ち上がったらアイツを捻り潰す。感化された奴らの希望もろとも打ち砕いて見せる」


「そりゃ、面白そうだ」


悠馬が考えていたように、サハーラもキングをボコボコにしたいらしい。


悠馬の回し蹴りを砂で止めたサハーラは、砂に乗り流れるように距離をとる。


「そしてようやく、お前がこのタイミングで戦いたかったのかもわかった」


「ほう?」


何故サハーラが、準決勝と決勝を控えたこのタイミングで決闘を申し込んできたのか。


ようやくその意味を知った悠馬は、ニヤリと笑うと距離を置いて立ち止まる。


「明日のため、だろ?」


「ご名答」


明日の準決勝、悠馬VSサハーラは、お互いに勝つ気でいるため、激戦は必至。


互いに徐々に本当の力を見せていけば、その時点で互いに隠していたものが全てパーになるということだ。


つまりはキングとの試合前に手の内を晒し、負けて仕方ないような雰囲気を出してしまう。


言い訳の材料を提供することになるのだ。


お互いに地味な戦いを繰り返してきたサハーラと悠馬にとって、決勝前に株を上げるのは避けたい事態。


だからサハーラは、誰も見ていないこの空間で決着をつけようとしているのだ。


「俺は今日ここで負ければ、明日の試合には行かない」


「なるほどな」


明日の試合が不戦勝になれば、少なからず学生たちは不満を募らせる。


こんな半端な男と鬼神の息子を倒したキングが戦っていいのか、陰謀論なのでは、買収されたのでは。と。


そして株を下げておいて、キングをいたぶるわけだ。


人間としては最低だが、感化されていない学生たちにとっては最高だ。


調子に乗っている奴がボコボコにされる瞬間ほど、気分のいいものはない。


「まぁ、勝つのは俺だけどな!サンドゴーレム!」


「悪いがこっちも、友達がいたぶられたんだ。仕返しをするのは俺だよ」


八神が望んだわけではないが、こっちの気持ちも収まりがつかない。


前夜祭の時は100歩譲って仕返しをしなかったが、今回ばかりは見過ごせない。


半年間、仲良くしてきた友達をボロボロにされてイラついている悠馬は、動きの鈍そうなゴーレムに飛び乗ると、右手で触れる。


「ニブルヘイム」


「っ…!ふふ、ははは!最高だ!やはりニブルヘイムも使えるか!」


「全部使えるぞ?」


「…は?」


自身の異能であるサンドゴーレムが氷漬けになったというのに、まだまだ余裕そうなサハーラ。


そんな彼を硬直させた一言を発した悠馬は、彼の驚いた表情を見て白い歯を見せる。


「悪いな。俺が氷だけレベル10だとたかをくくってたのかもしれないが、違うんだよ」


「な…に?」


そんなこと、あり得ない。あり得るはずだない。


視線を彷徨わさるサハーラの様子には、明らかな混乱が感じられる。


覇王ほどのバカであれば、一周回って何も考えずに戦うだろうが、サハーラは覇王とは違う。


冷静に相手を観察し、そして強者と戦いたいサハーラは、自身が見誤っていたことを悟り、脳みそをぐるぐると回す。


普通氷がレベル10なら、炎や雷はそれ以下のレベルになると考えられる。


雷はレベル9以上確定だとは判断していたが、まさか全ての異能において名前付き異能を使えるとまでは思っていなかったようだ。


「燃えるな…!これだから戦いはやめられない」


期待をはるかに上回る、悠馬のハイスペックさ。


それに目を輝かせたサハーラは、周囲に砂を掻き集め、そして白い歯を見せる。


「お前とここで戦えてよかった。これで俺は、もっと強くなれる」


「そりゃ、お互い様だ」


サハーラの手に見える、大きな砂嵐。


砂嵐はスタジアム天井付近まで吹き荒れ、それは軽いハリケーンと言ってもいいほどの規模だ。


そんな砂嵐を発動させたサハーラに対しニヤリと笑ってみせた悠馬は、炎と雷を纏いながら氷で生成した刀を構える。


「ありがとな!暁悠馬!」


「雷切ッ!」


サハーラが放った砂嵐を一瞬で突き抜け、彼の背後で刀を下ろした悠馬。


気づけばサハーラの背後に立っていた悠馬は、鳴神を止めると、ゆっくりと振り返る。


それは悠馬とサハーラの戦いが決着したという合図だった。

サハーラくんは砂の異能の使い手です。それ以外の異能は使えません。それにしてもサハーラくん…お父さんのお金で好き放題したらダメですよ!!

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