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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
201/474

秘めた決意

「おい悠馬!」


 本日最終戦の直前。

 通路を歩く悠馬に声をかけたのは、通だった。


 本来ならば代表選手以外の立ち入りが禁じられた空間。


 どうやって侵入したのかはわからないが、通が大きく肩で息をしていることから、警備員たちを掻い潜って来たのかもしれない。


「言うな。わかってる」


 通の言いたいことはわかってる。


 彼の瞳を見て何を言いたいのか察した悠馬は、言葉を聞かずして拳を挙げる。


「待ってろ。明日には全て終わってる」


 八神の屈辱を、お前が返してくれ。

 通はきっと、それを言うためにここに来た。


 明日キングが勝ち進み、そして悠馬が勝ち進めば、決勝カードはキングVS悠馬になる。


 その瞬間がキングの最後だ。


 レッドパープルの瞳の奥で闇を蠢かせる悠馬は、振り向きもせずにグラウンドへと入場する。


「…フレディ」


「やぁ。暁悠馬」


 無表情の悠馬を見て、少しだけ笑みを浮かべたフレディ。


 しかしフレディには余裕などないように見える。


 両腕に巻かれている包帯は首あたりまで届き、体操着で隠れてはいるものの、昨日の傷は完治していないように見える。


 悠馬のようなトンデモ再生を持ってない生徒にとっては、かなりのダメージだと言ってもいいだろう。


 昨日の覇王との試合の怪我が響いているであろうフレディは、すでに限界に近いはずだ。


 きっと体操着の下は包帯でぐるぐるに巻かれ、包帯の下は爛れた皮膚がベロベロの状態だ。


「1つ。忠告がある」


「なにかな?」


 レフリーの見守る中、なんの戸惑いもなく話す悠馬は、一歩前に出ると口を開く。


「それ以上怪我をしたくないなら、棄権した方がいい」


「……それはどう言う意味?」


「試合が始まればすぐにわかる。あとはお前の判断に任せるよ」


「ではこれより、日本支部代表、暁悠馬VSイギリス支部代表、フレディ・オーマーの試合を始める!」


 2人の会話が途切れると同時に、手を挙げたレフリー。


 彼が手を挙げると同時にコングが鳴り響き、大歓声が沸き起こった。


 昨日の白熱した戦いを見せたフレディを、みんなが応援しているのだろう。


「っ…!」


 しかし観客の期待とは裏腹に、身動きを取らない2人の間ではすでに戦いが始まっていた。


 フレディは気圧されていた。

 真っ黒な泥沼の中に1人沈み込んでいくような、底なしの沼に引きずり込まれるような、そんな不安と恐怖。


 悠馬の撒き散らす殺意は、フレディに溺死という錯覚の形で届いていた。


 動けば殺される。動かなくても殺される。

 悠馬の向ける冷ややかな視線には、確実にそれを実行できるだけの殺意が、気迫が、自信がこもっていた。


「……はは。降参だよ。これは勝てない」


 数秒の後、両手を挙げて戦意がないアピールをしたフレディは、苦笑いしながら悠馬に歩み寄る。


 2人の間には、突如としてフレディが降参した混乱や、ブーイングなど入ってこない。


 あるのは互いに対する敬意だけ。


「その殺意は、キングに向けてかな?」


「…さぁ。或いは、もっと別の存在かもしれない」


「あの試合は気分が悪くなるものだったよ。もし仮に僕が勝ち上がったら、成敗する気でいたけど…こういうのは、同じ支部でケリをつけるのがいいよね」


 別の存在というのは、間違いなく悪羅のことだろう。


 悪羅に向けていたような殺意を抱かれているキングは、今すぐ逃げた方がいいのかもしれない。


 そしてフレディも、どうやら先ほどのキングの戦い方は気に食わなかったらしい。


 拳を向けてきたフレディに対して、悠馬も同じように拳を向けると、互いにコツンとぶつけ合う。


「勝てよ。暁悠馬」


「当たり前だ」


 僅か数秒での決着。

 互いに身動きすら取らずに終了したその戦いは、悠馬の勝利という形で幕を閉じた。



 ***



「それで?なんでみんな勢揃いなの?」


 悠馬の宿泊する室内。

 風呂を上がった悠馬は4人の女子生徒を発見し、そんなことを呟く。


 そもそもどうして侵入できるんだろうか?

 悠馬は警戒心も強いため、鍵を意図的に開けるなんてことは基本しないし、今日だって扉の鍵は閉めたはず。


 自分ではきちんと鍵を閉めたつもりでいたのに、どうして4人はここにいるのか。


 もしかすると受付の人が鍵を渡したのかもしれない。

 となるとセキュリティガバガバすぎない?


 不安を抱く悠馬は、花蓮が手にしているカードキーを発見し、口をポカンと開ける。


「理事から貰ったの。このカード」


「…俺の部屋の?」


「ええ。当たり前よ」


 当たり前なんだ…

 まさか自分の部屋のマスターキー的なものが花蓮に渡されているのを知らなかった悠馬は、唖然とした様子で立ち尽くす。


 どうやら理事会は、悠馬のプライバシーよりも花蓮の機嫌をとるべきだと判断したようだ。


 やましいことはないものの、自分の人生が花蓮の機嫌以下だと言われたような気がして、少し寂しい気持ちになる。


「こんばんは。悠馬さん。お久しぶりですね」


「お久しぶり…って、今日も挨拶したよ?」


 ニッコリと笑みを浮かべながらすり寄ってくる朱理は、悠馬の肩に密着すると、身体に触れてくる。


「はい。ですがこうしてゆっくりと話をするのは、約4日ぶりではないでしょうか?」


「そうだね」


 フェスタが始まってからというもの、基本的に男女の席は綺麗に分けられているし、悠馬は代表選手だし…などの様々な要因が重なり、2人が言葉を交わすのは朝の挨拶くらいのものだった。


 それが不満だったのか、身体を触ってくる朱理は、じとっとした眼差しで悠馬を見る。


「今日は私がお相手しましょうか?」


「ちょ…!朱理、みんなの前でそんなこと言っちゃダメだよ!」


「いいじゃないですか。どうせみんな、一度は見せ合ってるわけですし」


 見せ合ったわけではないが、朱理が言っているのはおそらくこの前みんなで豪華ホテルに泊まった時のことを言っているのだろう。


 朱理と夕夏と花蓮と美月は、一緒にお風呂に入っていたため、彼女の言う通り形的には一度は見せ合った仲なのかもしれない。


「悪いけど、今日はやめとくよ」


「うん。明日決勝だしね」


 明日が決勝なのに、ここで淫らなことをして力尽きましたなんて、末代にまでネタにされるはずだ。


 今日はそこまでの欲求がないのもあるが、そんなことを口にしない悠馬は、美月に同調するように深く頷く。


「悠馬。あの男潰しなさいよ」


「ん」


 1つ返事で返す。

 花蓮の言いたいことはわかってるつもりだ。


 多分、彼女たちが今日ここへ来たのだって、八神の件で色々と思うところがあったからだろう。


 そして悠馬がどれだけ怒っていて、相手に大怪我を負わせないか心配したのかもしれない。


 容易に想像できる彼女たちの心配に、少しだけ笑ってみせた悠馬はベッドに座る。


「みんなの心配はわかってるつもりだよ。だから大丈夫」


「悠馬くん。相手に現実を教えてあげるのも、この大会の大きな目的なんだからね」


 意外にも怒っているご様子の夕夏は、手加減をするなと言いたげだ。


 悠馬が下手に手を抜いて、惜しかったね、実力は五分五分だ〜などと言われるのが気にくわないのだろう。


 やるんなら徹底的に。


 その意見に反対する人物は、この中にはいなかった。


 まぁ、クラスメイトがボコボコにされて、周りからバカにされて煽られた光景を見ていれば、誰だってムカつくし、本気で叩き潰したくなるだろう。


 そもそもこの大会は表向き、学生の中での最強を決めるわけであって、今まで悠馬が手を抜いていたのがおかしかったのだ。


 この辺りで現実を見せてあげるしかない。


 最終関門と言ってもいい夕夏からゴーサインが出た悠馬は、彼女の手を引き、ベッドに倒す。


 可愛い子には、ちょっとしたイタズラをしたくなるものだ。

 プンスカと怒っている夕夏を見て、どうしようもなくその気持ちに囚われた悠馬。


「うぁ!?悠馬くん?」


「この大会が終わったら、みんなでデートしようよ?」



 ***



「加奈ちぃん…」


「今集中してるから話しかけないで」


 ホテルの1階、エントランスのすぐ隣。


 売店の中に立っている地味目な少女は、金髪の派手系男子を黙らせながら陳列された商品を見る。


「話しかけないでって…誰の金で買うと思ってるんだ」


「何か言った?」


「ううん。加奈ちんになんで友達がいないのか、その理由を考えてたんだ」


 飛行機の中で、なんでもするという連太郎の失言を聞き逃さなかった加奈はこうして現在、人の金でお買い物をしている。


 側から見ると、カップルが買い物をしているようにしか見えないし、おそらく店員もカップルが買い物に来たと、微笑ましく2人を見ていることだろう。


 しかし2人の間には、恋心など微塵も感じさせない、ギクシャクとした空気が流れている。


 もともと性格の合う男女じゃなかったから、当然の結果だ。


 加奈は読書を好み、静かな空間を求める。


 しかし連太郎は、読書なんてしなければ、他人とギャーギャー騒ぐことを好む。


 そんな2人に共通の話題などほとんどなく、性格すらも合わない。


「このディナープレート。30枚くらい買おうかしら?」


 連太郎の煽るような発言に対し、彼女はカウンターを仕掛ける。


 加奈の指差した場所に陳列されているのは、イギリス王室土産と書かれた、豪華な皿だった。


 値段は日本円にして、1枚1万円と少し。


 それを30枚買うなどと言い始めた加奈を見る連太郎の目は、「正気か?このアマ」と訴えかけるようなものだ。


「ふ…冗談よ」


「冗談じゃなかったらネットの海に沈めてるところだったよ」


 2人きりの状態では加奈の方が立場が上のようなものだが、その他大勢が集まると変わってくる。


 父親が犯罪者という烙印の押された加奈は、現状悪い噂を流されれば弁明の余地がなく、周囲に叩かれる。


 だから連太郎が言ったように、ネットの海に沈めることは理論上可能であって、大多数の生徒は彼の方を信用すると思われる。


 半ば脅しのようなことを呟いた連太郎は、大人しくなったようなそぶりを見せた加奈が、こっそりとプレートを1枚入れたのを見逃しはしない。


 このアマ、30枚は冗談でも1枚は買わせる気だ。


 初手から1万円を超える商品を投入された連太郎は、恐怖を感じている。


 連太郎はお家柄上、他の生徒よりもお金を持っているだろうし、なんなら必要経費ということでこの買い物を済ませることができるかもしれない。


 しかし、連太郎にだって言い訳には限りがあるし、ふざけた金額を経費としては落とせないため、後で両親に怒られる可能性が浮上してくる。


 果たして財布の中に入っていた50,000円で支払いは足りるだろうか?


 そんなことを考えていると、次は石鹸を入れる姿が見えてくる。


 一箱3千円ちょっとのやつだ。


「…ホント、悠馬が羨ましいよね」


 悠馬の可愛い彼女たちなら、人の金でこんなふざけた行動をとることはないだろう。


 もしかしなくても、入学当初からちょっかいを出して愉しむ相手を間違えたのかもしれない。


 今まで、なんだかんだで加奈といることを楽しんできた連太郎だったが、彼女との買い物デート(今回)を経て、自分の過ちに気づきつつある。


「なに?貴方もハーレム作りたいの?無理よ。貴方暁くんみたいにカッコよくないし」


「…加奈ちんも悠馬に拾われなかった粗悪品だけどね」


 自分のことを棚に上げて言える立場か?

 そう言いたげな連太郎は、悠馬と付き合っていない加奈を粗悪品と評し、バカにしたような視線を向ける。


「やっぱり、貴方とは仲良くなれそうにないわね」


 粗悪品と言われたのが嫌だったのか、王室土産のところまで戻って来た加奈はディナープレートを大量にカゴに入れる。


「待って!?おかしいでしょそれは!」


 連太郎に対する嫌がらせのつもりだろうが、彼女のタチの悪いところは、待って、ダメだと言わなければ本気で行動を起こすことだ。


 つまり、どうせ最後の方に戻しに行くんだろ。なら無視で冷やかせばいい。などと考えていたら、商品をレジまで持って行ってしまう。


 からかうのが好きな連太郎にとって、その行動はとてもつまらない、面白くない行動だ。


「あら。近所に配ろうと思ったんだけど…」


「やめて、1万円ばらまく発想やめて」


 1万もする皿を近所に配る、しかも他人の金でなんてどうかしてる。


 これ以上まずいことが起こるんじゃないかと、変な汗をかき始めた連太郎。


 そんな彼らの元に、1つの影が近寄ってくる。


「君ら、日本支部の生徒だよね?」


「…はい?」


 日本支部の生徒である2人は、自分たちが呼ばれたのだと思い振り返る。


 そこに立っていたのは、浅黒い肌に、グレーを黒に近づけたような髪の生徒だった。


 身長は180センチほどで、結構高い。


「そうですけど…」


「良かった。暁悠馬の部屋を教えてくれないか?」


 その言葉を聞いて、連太郎は一度動きを止める。


 並大抵の生徒がそんなことを聞いて来たって、軽々しく教えてはい、さよならなのだが、今回、目の前にいる男は少し違う。


 連太郎と加奈の前にいる人物。


 それはエジプト支部代表であり、明日の悠馬の準決勝の対戦相手。

 4強にまで勝ち残っている、サハーラだった。

連太郎くんと加奈は微妙な関係が続いてますね…

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