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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
196/474

ヴァズVS悠馬

 大会2日目。

 昨日もすでに異様な盛り上がりを見せていたフェスタは、さらに盛り上がりを見せ、会場の中は歓声と奇声が渦巻いている。


「今日の目玉は松山VSフレディと、暁VSヴァズ」


 プリントアウトされたトーナメント表に、勝者に矢印を引いている通は、栗田や山田、モンジたちとそのプリントを見つめ話をする。


「戀パイは卑怯すぎて勝ち確みたいなところあるからな!まさか一ノ瀬先輩VS戀パイとはな!」


「それを言うなら暁もだろ!あいつまだ、異能1つしか使ってねえし!」


「くぁー、暁の野郎が羨ましいぜ!」


 攻撃が全く効かない戀と、闇や雷、炎を使っていない悠馬。


 そんな彼らが敗北することを考えていない男子生徒たちは、楽しそうに今日の勝者を予測している。


「明日でベスト4まで決まるんだよな?」


 明日も試合がある為、4位以上までの選手が出揃うことになる。


 つまり、明後日は準決勝と決勝が行われるのだ。


「にしても、八神の奴人気だったよな!昨日!」


「まぁ、アイツが鬼神の息子だってことは、それなりに広まってるからな!他の支部の生徒たちも期待してるんだろ!」


 昨日の八神の試合は、どこの支部も八神を応援し、エキシビションマッチ並みに盛り上がりを見せた。


「八神も結構強いよな!レベル9は伊達じゃねえ!」


「それな!」


 大興奮のAクラスのメンバーたち。

 そんな彼らを背後から見下ろしている連太郎は、横に座っている加奈に足を踏まれていた。


「あの、加奈ちぃん?足痛いかなー?」


「ごめん。ワザとよ」


「クソアマ…」


「なに?」


「ひぎ!いや、なんでもないよ?」


 クソアマと呟かれると同時に足を踏む力を強くした加奈は、痛がる連太郎を見て愉快そうだ。


「貴方は八神くんのこと、どう思う?」


「近いうちに壊れる」


「よね」


 他の生徒たちの、八神や悠馬に向ける視線の数々。

 それを間近で観察している2人は、八神の行く末を不安視していた。


「でも少し、わからないこともある」


「わからないこと?」


「ええ、彼の父親は確かに凄いけれど…彼のプレッシャーはそれが原因なのかしら?」


 フェスタの代表選手になってからと言うもの、どうにも様子がおかしい八神。


 父親の実力がコンプレックスだということが最大の原因とされているものの、だからといってあそこまで不自然になるものなのかわからない加奈は、違和感を覚えている。


「んま、父親とか、戦争とか、自分の非力さとか。色々あるんじゃないのかな〜」


 後頭部に手を当てながら、独り言のように呟く連太郎。

 連太郎は八神の過去について知っているのか、極秘情報を提供する。


「やっぱり貴方は知ってるのね。紅桜くん」


「まぁ、それが仕事だからね。情報に疎ければ、この仕事はしてらんないよー」


 日本支部という国の裏である連太郎が、あの有名な八神家の過去について知らないはずもない。


 誰よりも事態を把握しているはずの連太郎だが、彼はそれを何かに使う気はないのか、のほほんとしている。


「助ける気はないんだ」


「他人から向けられる哀れみほど、ムカつくもんはないでしょ?加奈ちん」


「まぁ、そうだけど…」


「とと、そろそろ試合始まるぜ!」


 より一層歓声が大きくなる場内。

 これから始まる試合は、日本支部の悠馬VSアメリカ支部のヴァズだ。


 昨日のヴァズの物理的な戦いを見ていた学生たちは、今日はどんな戦いをしてくれるのかと盛り上がっている。


「よぉ。誰かと思えば、前夜祭の奴じゃねぇか。お前、残ってたのか?」


「対戦相手のことくらい調べておけよ。マジなバカだと思われるぜ?」


「あ?」


 悠馬のことを知らないフリ、眼中にもないと言いたげなヴァズは、バカにされると額に青筋を浮かべ、ピクピクする。


 ヴァズは煽りに弱い。

 いや、短気というべきだろうか?


 前夜祭の時の行動を見ても思ったが、彼は手を出す速度が異常であって、その原因は間違いなく、今まで周りがヴァズの短気を容認してくれていたからだろう。


 今まで煽られるということがなかったであろうヴァズは、無言のまま殺意だけを振り撒き立ち尽くしている。


 悠馬に煽られたヴァズは、今にも手を出さんと拳を作り、悠馬を睨みつけた。


 レフリーもかなり困惑している。

 試合開始直前で、こんな殺伐とした雰囲気になったことは未だかつてないのだろう。


「っし。お前にはショーの役者になってもらおうと思ったが…やっぱ瞬殺することにしたぜ」


「…そう」


 悠馬にだって、ヴァズにはちょっとした恨みがある。


 2日前の前夜祭、悠馬は覇王を庇うという名目で、全く関係のないヴァズからの暴行を受けた。


 まぁ、エミリーと恋人同士だったキングから暴行を受けるのは納得がいくし、100歩譲って庇った悠馬も同罪だと言われるのも良しとしよう。


 しかし無関係の、ただキングの付き添いであったはずのヴァズからの暴行を受ける意味がわからない。


 その場の雰囲気、流れで暴力を振るったであろうヴァズのことを恨んでいる悠馬は、ニッコリとした表情で人差し指をクイッと動かし挑発する。


 まるでかかって来いよとでも言いたげな。


「っ〜!フー!」


 その挑発的な態度を見たヴァズは、一度クールダウンをするように、深く息を吐く。


 すでに表情は真っ赤で、今にも悠馬に殴りかかろうとしているのは、誰が見てもわかるほどだ。


「で、ではこれより、2日目7回戦、アメリカ支部代表ヴァズ・テイラーVS日本支部代表、暁悠馬の試合を開始します!」


 レフリーが手を挙げ、そして試合開始を宣言すると同時に響き渡るゴングの音。


「お前はぶっ殺す!」


「おー怖い…」


 その開始の合図と同時に、身体強化の異能を発動させたヴァズは、額にいくつもの青筋を浮かべ悠馬へと向かって走る。


 ヴァズの巨体からは考えられないほどの速さ。

 こんな巨体が猛スピードで迫ってくれば、それはもう、闘牛に突っ込まれるのと相違ない。


 先ほどまでの挑発的な笑みをやめた悠馬は、掴みかかろうとしてくるヴァズの手を難なく回避し、そして後ろ首の体操着を掴む。


「なっ…!」


「判断速度が体の速さについていけてないぞ」


「入り身投げ…!?」


 身体強化されたヴァズの巨体を軽々しく倒した悠馬。


 そんな彼を見ていた加奈は、驚きのあまり声をあげる。


「彼、合気道も習ってたの?」


「さぁ?アイツは基本的になんでもできるからな。したことないことでも、大抵平均程度には出来るんだよ」


 会場内に響き渡るほど、大きな音を立てて地面に背を付けたヴァズを見下ろしながら、連太郎は呟く。


「なるほど…彼が羨ましがられる理由がわかる気がする」


 天は二物を与えずというが、現にこうして二物を与えられたような存在がいるのだから、誰だって嫉妬や羨望の眼差しを向けるだろう。


 容姿に異能、優れた身体能力に学力。

 誰のいいところを奪って成長したんだと聞きたくなるほど、悠馬は出来上がっていた。


 まだまだ精神的には未熟かもしれないが、それでも高校生の中では、格というものが違いすぎる。


「んま、異能に関してはアイツもかなり努力してるからサ。俺なんかよりも、ずっと」


「貴方よりも、ね」


 連太郎なんかよりも、ずっと努力をしている。

 そんな単語を聞いた加奈は、何か思うところでもあるのか、連太郎の言葉を繰り返す。


 連太郎の家は紅桜家で、紅桜家は代々暗殺や異能についての厳しい指導をされると聞いている。


 だから連太郎のこのイカれたような能力の使い方は理解できるし、死ぬ気で努力をしたんだろう、死ぬような思いをして、レベル9でありながら10に限りなく近い異能を手に入れたんだろうと思っていた。


 しかし連太郎曰く、彼なんかよりも、悠馬の方が努力をしたと聞く。


 いったいどんな努力を、いったいどれほどの研鑽を重ねたのか。


 凡人には到底理解できない、理解しようとすればするほどゾッとする話だった。


「すげぇー!」


「うぉおおおおおお!」


「やっちまえー!」


 グラウンドに響き渡る、大歓声。

 それを聞いている悠馬は心地好さそうに、大きく目を見開いているヴァズを見下ろす。


「んな…何しやがったテメェ!」


「普通に投げただけ」


 入り身投げとは言わずに、投げただけと言う。

 こうして端的に、普通に投げたと言われたら、プライドの高いやつほど傷つく。


 何しろレベル10の彼らは自分たちが王様、王様の側近というような扱いで生きてきたのだ。


 そんな彼らが異能を使って、普通の投げであしらわれたと言われれば、どんな気持ちだろうか。


 ヴァズの表情には、怒りや憎しみ、焦りや恐怖といった感情が渦巻いている。


「ふざけんじゃねぇ!」


 悠馬の言葉を納得ができないヴァズ。


 何かの異能を、なんらかの異能を使って投げられたと思っているヴァズは、異能を両足、両手に集中させ、悠馬に殴りかかろうとする。


「リーチが短いぞ」


 そんなヴァズが近づいてくる中、構えを取った悠馬は、独り言を呟きながら一度回転しヴァズの腹部へと蹴りを入れる。


 その速度は鳴神も使用していないのに、目で追うのがギリギリの速度で、より洗練されているのがわかる。


「後ろ蹴り…」


「今のはモロ入ったな…」


 ヴァズが足と手だけに異能を集中させている状態、腹部に出来た隙を狙った技。


 人の拳のリーチよりも、足のリーチのほうが長いという単純な理由で繰り出された悠馬の後ろ蹴りは、身体強化をして駆け寄ってきたヴァズの速度も相まって、かなりの威力になっているはずだ。


 連太郎は聴覚強化の異能で、ヴァズの肉体のダメージを把握しているようだ。


 ちょっとだけ嫌そうな表情を浮かべ、冷や汗を流していることから、ヴァズの腹部への蹴りはかなりのダメージ量だということがわかる。


「まさかアイツ、異能を使わずにやる気か?」


「それはさすがにないでしょ…」


 悠馬の蹴りを見て、会場からドッと歓声が湧き上がる。


「ぐ…ぁぁぁぁあっ!」


 ヴァズは悠馬の蹴りをモロに受けた腹部を抑え込み、その場でうずくまっている。


「…まだ2発しか攻撃してないんだけど…」


 悠馬は大きな誤解をしていた。


 ヴァズの大きな体、そして2日前の暴力。

 それらは様々な格闘技を習っていて、舐めたような発言は、まだ技を繰り出していないからだと思っていた。


 しかし蓋を開けてみればどうだろうか?

 格闘技の技を使うこともなく、動きは一直線の激情型。


 てっきりまだ本気を出していない、手を抜いていてこんな攻撃を仕掛けてくると思っていた悠馬は、それがヴァズの底だと知り、呆れたようにため息を吐く。


 ヴァズは異能を使った喧嘩、そして恵まれた体にモノを合わせ、暴力を振るっていただけだ。


 きっとプロの格闘家なんかと殴り合いをしたとしても、ヴァズは勝てないだろう。


 井の中の蛙大海を知らずとはまさにこのことだ。


「チクショウが…!クソ!」


 悠馬に投げられ、蹴られ、激昂するヴァズ。

 彼の怒りは最高地点に到達しているのか、顔は真っ赤に染まり、下手をすれば血管が切れるんじゃないか?と不安になってしまうほどだ。


「テメェ、なんの異能使ってやがる…!使ってんだろ!異能をよぉ!」


「…はぁ」


 自分の異能と互角以上の力を見せている。そんな風に感じるヴァズ。


 彼は悠馬の異能が自身と同じ身体強化系の異能ではないかと踏み、そして悠馬が卑怯な手を使っているように声を荒げる。


 実際はヴァズ自身の力と反動を利用され大きなダメージを負っているわけだが、2日前まで見下していた存在に、異能なしで押されているのが理解できないのか、したくないのか、異能を使ってないということは視野に入れていないようだ。


「使ってないよ。何も」


「嘘ついてんじゃねえよ!この卑怯者が!だったらなんで俺が押されなきゃならねえ!」


「そりゃあ…お前が恵まれた異能と体格に感けて努力を怠ったからだろ」


「っ〜!」


 悠馬に痛いところを突かれ、黙り込むヴァズ。

 どうやら彼は悠馬が言った通り、異能と体格に感けて努力をしてこなかったようだ。


 その痛い指摘をされたヴァズは、歯を食いしばりながら腹部を抑えている。


「でもわかったよ。異能で戦いたいなら、俺も異能を使う。まぁ、観客に異能を使えって叩かれるのも嫌だしな」


「ま、待て…!」


 試合開始から一切異能を使わなかった悠馬。

 ようやくそれが事実だと悟ったヴァズは、自身が異能すら使っていない相手に押されていたこと、そしてこれから異能を使われることを悟り、冷や汗を流す。


 悠馬からして見ると、ヴァズなど最初から異能を使わずとも勝てる相手だった。


 彼の脳内には様々な不安がよぎり、悠馬の周りに渦巻く冷気を見る。


「降参だ!降参する!」


 自分の弱さを、自分が異能に感けていたことを知ったヴァズ。


 これ以上戦ったところで結果は同じ、どう足掻いたって醜く散るしかない。


 その未来を知ったヴァズは、巨体をビクビクと震わせながら降参を宣言した。

通くん、意外とマメな性格です

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