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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
195/474

取引

「はぁ」


 どこかのホテルの一室。

 悠馬たちが宿泊しているホテルよりもはるかに豪華で、どちらかといえばイギリス支部総帥のソフィアが滞在しているような空間に近い室内。


 赤いカーペットに豪華なシャンデリアが飾られた室内にいる、身長150センチ程度の女性は、深々とため息を吐いていた。


 アメリカ支部総帥のアリスだ。


 やけに疲れた表情の彼女は、一度携帯端末に視線を落とすと、直後に端末をベッドに投げつける。


「あの道化…!何が狙いだ!」


 アリスが手放した携帯端末には、文字化けした暗号のようなメッセージが映っている。


「アリス…だから迂闊なことはするなと警告したんだ。お前は熱くなりやすい。もう少し先のことを考えろ」


「レッド…!貴様は黙っていろ!」


「はいはい」


 特徴的な真っ赤な髪に、筋骨隆々な肉体。

 その肉体は、記憶に新しいヴァズの巨体と比べて見ても、格が違うと断言できるほどだ。


 レッドの肉体を見れば、ヴァズの巨体なんて来年から小学生だと言っても過言ではない。


「クソ…まさかジャクソンがあちら側で捕らえられていたとは…!」


「しかしこれで事実確認が出来るではないか」


「…それはそうだが…」


 黙っていろと言われ数秒間黙ったレッドは、頭が鶏なのか、それとも元から黙る気などなかったのか、アリスの独り言に口を挟む。


 ジャクソンは7月の日本支部への不法入国、並びに暁闇調査の際に、アメリカ支部軍隊長として部隊を率いた人物の名前だ。


 しかしその任務はバースの裏切りにより失敗し、そしてジャクソンは致命傷を受けたわけだが、アリスはそのことを知らない。


 アリスが持ち合わせている情報は、ジャクソンが死んだという報告、そしてバースが行方不明になったという報告のみだ。


 話によれば、隊長であるジャクソンは暁闇に殺されたとの報告が上がっており、アリスは自分の不手際、そして浅はかな判断が隊長の一角を殺してしまったと思い悩んでいた。


 ところがどっこい。

 今目の前のメールはなんだ?

 暁闇調査任務から逃げ出した、いや、中断した部下たちの話と違い、ジャクソンは生きているという。


 部下と行き違う情報に、本当に暁闇の襲撃かどうかという事実確認すらできていない現状。


 下手に手を出せばまた同じ展開になるかもしれない、これ以上下手に手を打って国際問題にしたくないというアリスの気持ちを汲むかのように、死神から連絡が来て、ジャクソンの生存が判明した。


「レッド…これが罠だという可能性はあると思うか?」


「ない。とは断言できないが…アメリカ支部の行動に憤りを感じているのなら、こんな回りくどい秘密裏な連絡は寄越してこないだろう」


 アメリカ支部を潰す気なら、こんな時間の無駄のような連絡などよこさずに先手を打っているはず。


 ここでわざわざジャクソンの生存の連絡をして、世間にアメリカ支部の行為を暴露していないということはつまり、死神は何か目的を持って行動している。


「身代金でも要求してくる気か?」


「ふっ、死神がそんなことをするわけがないだろう」


「何故そう言い切れる!」


「たしかにそこらのギャングなら身代金を要求してくるところだが…相手は冠位だぞ?」


 王から直接冠を承った存在がお金に困ることなんて、あるはずがない。


 その理由はここにいる赤髪の男、レッドがよく知っている。


 何故なら彼は、アメリカ支部2人目の冠位、覚者なのだから。


「ならば何故…」


「考えてもラチがあかないだろう。下手な勘ぐりはその場での判断力を失うぞ」


 死神の行動が読めない以上、勝手に行動を読もうとして、見当はずれな予測を立てればその場で混乱すること間違いなし。


 下手な展開には持ち込めない、アメリカ支部が不利な状況で即興力失うのを阻止したいレッドは、真剣な趣でソファに寄りかかる。


「そうだな…下手に勘ぐったところで、何が目的かはわからない」


「俺たちに出来るのは、ジャクソンの引き渡しに応じる。ただそれだけだ」


「ああ。わかっている」


「ところでアリス。お前は今回のフェスタで、誰が優勝すると思う?」


 死神の連絡通り、隊長であるジャクソンの引き渡しに応じるという方針で決定した2人は、話題転換をする。


 それは本フェスタにおける、優勝予想だ。


 1日目の全試合が終わり、残っている選手は約半分の16名となった。


 明日の試合が終われば、残りは8名。


 たったの16人から、様々な人材を見てきた総帥が優勝者を予想するという、単純なクイズのようなものだ。


 レッドの質問を聞いたアリスは、頬を緩めると机をコツンと叩く。


「アメリカ支部が勝って欲しいところではあるが…やはり優勝候補は日本支部の松山覇王だろう」


「ほう?」


 アリスの優勝予想を聞いたレッドは、眉をピクリと動かし、興味深そうに顎に手を当てる。


「正直、もう少しだけ戦闘を見たかった…という気持ちはあるが、学生で名前付きの異能をあれだけ使いこなせる奴は、そうはいない。お前はどう思う?」


「俺はイギリス支部のフレディ・オーマーが優勝すると考えている」


「ほう?そいつは確か、松山覇王の次の対戦相手だったな」


 レッドの挑発じみた、というか、対抗心を燃やすように明日の対戦相手の名前を挙げたことにより、アリスは眉間に皺を寄せる。


「そういえばフレディ・オーマーはお前と同じ、炎の異能使いだったな。肩入れでもしたくなったのか?」


「いいや。ただ純粋に、フレディは手加減をしているように見えた。アイツはまだ本気を出していない。それにアイツは去年…」


 名前付きの異能をぶっ放した覇王と、底が知れないフレディ。


 炎の異能使いであるレッドは、フレディがまだ本気を出していないことに気づいた様子で、本気を出せば優勝が狙えると考えているようだ。


「なら反対に、1番負けそうな学生の名前をあげるとしよう」


 お互いに食い違う意見。

 学生の実力者たちが集まっていて、互いに見ているところも違うためか優勝者予想は一致しなかったものの、敗者予想は一致するだろう。


 そう言いたげなアリスは、机を2度コツンと叩き、深呼吸を置く。


『日本支部、暁悠馬』


「意見があったな」


「ああ。流石にアレは、ないな」


 悠馬の名前を真っ先にあげた2人は、意見が一致したことが嬉しかったのか、互いに鼻で笑ってみせる。


「アレは相性が良かったから、なんとか1戦目を突破できたように見えた」


「ああ。剣を生成して戦っていたが、凄まじい異能を使えるようには見えなかった。注意力も散漫だ」


 相性有利で悠馬が勝利しただけ。

 本大会において、最も地味な勝ち方をした悠馬の評価が低いのは当然のことであって、寺坂の思惑通り、悠馬は注目されていないご様子だ。


「戦神。お前はどう思う?」


 アリスが振り向いた先には、金髪ロングに蒼眼の、美しい女性が立っていた。

 その容姿は、夕夏や花蓮に勝るとも劣らない、絶世の美女だ。


 年齢は十代だろうか?

 アリスの不意な質問にピクリと反応した彼女は、少し考えるようなそぶりを見せると、口を開く。


「私は暁悠馬が優勝すると思う」


「おいおい…お前はまだ子供だが…」


「人を見る目はあるはずだろう…」


 2人が負けると宣言した選手を優勝すると予想した戦神。

 それが心外だったのか、呆れたのか、互いに頭を抱えたレッドとアリスは、続けて口を開いた戦神を見る。


「アレは恐らく、この大会で1番手を抜いている。私は氷の覚者だから、よくわかる」


 自分の得意とする異能を使っている存在のことは、よくわかる。


 悠馬が手を抜いたことに気づいている戦神は、そう断言して見せると、その場から立ち去ろうとする。


「さて。俺も長居は良くないな」


「遅くまで付き合わせて悪いな」


 冠位の2人を遅くまで部屋に閉じ込めていたアリスは、謝罪を入れると去っていく2人を見つめる。


「ああ…それと。お前は息子のことを気にかけたほうがいい。ちゃんと向き合え」


「言われなくても、わかっている」


 レッドの去り際の一言。

 その一言は、自分がよく知っているためなのか、あからさまに不機嫌そうな表情へと変わったアリスは、そっと扉を閉める。



 ***



「ごめんなさい、キング…」


 とあるホテルの一室。

 ギクシャクとしたそのホテルの一室の中、ジャパニーズ土下座のような態勢を取っている白に近い金髪の少女は、怯えたように頭を下げていた。


「まさかあれだけお膳立てしてやったのに、一撃で負けるとは…オイエミリー、お前どのツラ下げてここに帰って来たんだ?」


「ちが…!見たでしょう!キングもヴァズも!アイツ、開幕と同時に氷の最上位異能を使ったのよ!私、使えるなんて聞いてないわ!」


 覇王に初手でいきなりコキュートスを放たれたエミリーは、自分が負けたのはしょうがないと言いたげに弁明を始める。


 その様子は実に見苦しいもので、悠馬や覇王がこれを見ていたら、鼻で笑っていること間違いなしだ。


「それをなんとかするのが一流だろうが。なぁヴァズ」


「ああ。あの程度なら造作無く止めれるぜ」


「フフ…それができなかったってことはつまり、エミリー、お前が純粋に力不足だったってことだ」


「そ、そんなはず…!それにアイツ、動揺してなかった!私の力不足以前に、貴方の予測も外れてたのよ!」


 エミリーは結果的に大敗を喫したが、それはキングも同じ。


 キングの指示通り、思惑通りに動いた結果負けてしまったエミリーは、何故自分だけ非難されなければならないのか。と不満を露わにする。


 キングだって、計画面で覇王に負けたのは事実だ。


「オイ…エミリー…テメェ黙っておけば付け上がりやがって」


 彼氏であるキングに噛み付いたエミリー。

 自分が負けたも同義だと言われたのがよっぽど不満だったのか、額に青筋を浮かべながら立ち上がったキングは、怯えた様子のエミリーの長い髪を掴み、持ち上げる。


「あぎっ…痛い!キング!痛いやめて!」


「負けたのはお前の責任だ…俺は負けてねえ。お前の実力がないから、アメリカ支部に泥を塗った…だからお母さんが…」


 振り向いてくれない。

 自分は負けてない。そう言い聞かせるキングは、必死に髪を離してもらおうとするエミリーのことなど無視して、ボソボソと呟く。


 そして数秒の後、我に帰ったのか、それとも気が済んだのか、キングはパッと手を離し、崩れ落ちたエミリーを見下ろす。


「お前みたいな女はもう要らねえ」


「…え?」


「ちょうど飽きたと思ってたんだ」


「待って、え?待ってよキング!だって私たち、身体の相性だって良かったじゃない!」


 アメリカ支部のトップに君臨するキングに見放された。


 漸く、やっとの思いでキングの隣を奪い、そしてアメリカ支部の中でも余裕のある生活をしていたエミリーは、キングに見放されたと悟り顔を青くする。


 誰だって、今の生活から地に堕ちると宣告されれば、回避手段を探すだろう。


 エミリーはまさに今、その状態にある。

 好き放題できていた生活が終わりを迎える。他の奴らに復讐されるかもしれない。


 数々の恨みを買っているであろう彼女は、自身の悪行を思い返しながらキングに許しを乞う。


「身体だけの相性なんて、いらねぇんだよバーカ。俺の隣にお前はふさわしくなかった。ったく…アメリカ支部にはレベル9の女しかいないからな」


 たった一度の敗北で、恋人を切り捨てたキング。

 そんな彼は、新たな獲物を探すように、エミリーの声など無視してヴァズを見る。


「オイ、ヴァズ。他の支部にいい女はいると思うか?」


「ああ。それなりにいるぜ。特に日本支部。あそこにはレベル10でアイドルをしてる花咲花蓮や、美哉坂前総帥の娘である美哉坂夕夏がいるらしい」


「ほう?そいつぁ面白そうだな。肩書きもレベルも十分じゃねえか。こんなチンケな女なんかより、ずっと良さそうだ」


 普通の家の出身で、レベル9能力者のエミリー。

 彼女が優れているのは容姿だけであって、その為だけに横を歩かせていたキングは、新たな候補を見つけ出し、自身の唇を舐める。


「おお…こいつぁいいな」


 エミリーよりも経歴が格上の、花蓮の写真を見たキング。


 金髪姿の、アイドル衣装の彼女を見たキングは、ニヤニヤと笑いながらヴァズの携帯端末を奪い取る。


「よし。決めたぜ俺は」


「お?」


「俺はこの大会で優勝して、景品でこの女をもらって帰る」


 今回大会の優勝商品でもある、異能王が可能な限り願いを実行してくれるという権限。

 その場で非人道的な、下衆な行為を行おうとしているキングは、愉快そうに笑う。


「ま、待ってよキング!私は、私はどうするの!?」


「お前は早くこの場から失せろ。用済みなんだよ。尻軽ビッチが」


 元恋人に容赦のない言葉を投げつけるキング。

 そんな彼の次のターゲットは、悠馬の恋人であり許嫁の、花咲花蓮だった。

こういうキングって、横に可愛い女の子連れてれば一目置かれるって勘違いしてるんですよね。

女の子はブランドでも飾りでもないんだぞ( *`ω´)

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