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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
193/474

覇王VSエミリー

「凄かったな!総帥同士の対決!」


「ああ、途中から目で追えなかったぜ!暁、お前は見えたか?」


「まぁ」


 エキシビションマッチの、イギリス支部総帥とイタリア支部総帥の戦いを見た第1の生徒たち、モンジと栗田は、興奮が冷めていない様子で鼻息を荒くしている。


「やっぱ、俺も総帥なりてえな!」


「あれ目で追えない俺たちが総帥になれるわけねえだろ!」


「バッカヤロウ!夢を見るのはタダだろうが!俺を否定するな!」


 モンジに現実を突きつけられた栗田は、不満そうに答える。


「なぁ桶狭間!そうだろ?お前ならわかるよな?」


「金髪巨乳…ソフィアさん…俺様はあなたに惚れました…あとでサイン貰いたい…」


「ケッ、また女の話かよ、お前1番現実見たほうがいいぜ?」


 女なら見境がない通は、どうやらイギリス支部総帥のソフィアに惚れたらしい。


 いつものような下品な会話はしないものの、サインが貰いたいなどと言っていることから、結構本気で好きになっているのがわかる。


 そして唯一、夢を見るのはタダという話に同調してくれそうだった通を失った栗田は、頬を膨らませながら罵る。


「てか第7の松山の奴、総帥の後に戦わされるとか可哀想だな!」


「ははっ、いいんだよ!アイツは飛行機で舐めた発言してきやがったし、噛ませなんだからよぉ!」


 完全に立ち位置が噛ませと化している覇王をバカにする栗田は、総帥の後に戦うという大役を任せられている覇王のことなど心配せずに鼻で笑ってみせる。


 今回ばかりは同じチーム、日本の代表として出場している覇王を応援してほしいのだが、覇王は第1の男子からはあまり好かれていないようだ。


「噂をすれば、出てきたぞ!」


 赤茶色の、陸上競技場のようなグラウンドに現れた覇王。


 彼の足取りはいつもと同じように見えるものの、若干動きにカクつきがあることから、緊張しているのは間違いなしだ。


「めっちゃ緊張するじゃねぇか…!」


 2戦目、3戦目ならまだ肩の荷は降りたかもしれないが、重要な、1番みんなに見られる初戦で戦う覇王は、緊張マックスだ。


 幸いなのは、総帥がこの場で戦ったことを知らない覇王は、それ以上の重荷を持たずに済むということくらいだ。


「これでエミリーちゃんを惚れ込ませれば…」


 衆人環視の中で、いきなり妄想を始める覇王。


「アイツなんか笑ってねえか?」


「うわ、まじだキモ」


 ニヤニヤと笑う覇王を見た第1の生徒たちから聞こえてくる、冷たい声。


 しかし他の支部の生徒たちは、それを余裕と捉えたのか、大きな歓声が湧き上がる。


 流石にどの支部の生徒でも、このタイミングで妄想をしてニヤける奴なんて、誰もいないだろう。


 きっと他の支部の生徒が覇王の胸中を知ったら、ブーイングの嵐間違いなしだ。


 覇王が良からぬことを考えているのを察した悠馬は、目を細める。


 まさかわざと負けたりしないよな?

 昨日あれだけやる気だったのに、負けないよな?

 今更になってそんな不安が浮かんでくる。


「お、エミリーちゃん出てきたぞ!くそ、エロい身体してんなぁ!」


「通、お前、覇王みたいになりたくなかったらこれ以上変なことを言うのはやめた方がいいぞ」


 もうすでに手遅れだろうが、この空間において変な発言をするのは、得策ではない。


 どの支部が会話を聞いているかもわからない状況でふざけたことを言っていたら、昨日の覇王のようになりかねない。


 善意で通へ忠告をした悠馬は、白に近い金髪の少女、エミリーを見て、訝しそうな顔をする。


「やっぱりか…」


「何がやっぱりなんだよ?」


「あの女、猫かぶりだ」


 昨日とは全く違うオーラ、あたかも覇王に気があるような態度を取っていたのは演技であって、今日の彼女は覇王を本気で潰す気だ。


 なんとなく察してはいたものの、入場してきたエミリーを見た悠馬は、それが事実だということを悟り瞳を閉じる。


「おはようエミリーちゃん、昨日は眠れた?」


「んー?イマイチかな?」


 悠馬たちが観客席で話をしている中、向かい合ったエミリーと覇王は、レフリーの前で会話を始めていた。


 ここでルールの説明と行こう。

 本大会、フェスタにおけるルールは基本的に異能祭のフィナーレと同様。


 しかしながら、続行可否を決めるのは審判であって、選手が続けられると言ってもレフリーが危険だと判断すれば、試合は強制的に終了される。


 また、失格退場や危険行為による退場なども、審判が決めることになっている。


 ちなみに、降参もできるようになっているため、学生たちの身の安全も一応ながら確保できる仕組みとなっている。


 まぁ、流石に盛った学生と言えど、各支部の総帥、異能王の前で人殺し、大けがをさせようなどという考えの生徒はいないと断言してもいいため、安心して戦えるだろう。


「ま、安心してくれよエミリーちゃん。昨日は邪魔が入ったけどさ、今日は2人きりでご飯とかどう?そのあとは一緒に、ゆっくり寝ない?」


「ぷ…あははははは!」


 試合後のお誘い。

 昨日のことには懲りているものの、狙うことは諦めていない覇王は、キングのことなど関係なしに可能性のありそうなエミリーを狙う。


 そんな覇王を見て笑い始めたエミリーは、実に愉快そうだった。


「バカだバカだとは思ってたけど、日本支部の学生って本当にバカなのね!」


「え…?」


「アンタ、何か勘違いしてるようだけど、この私がアンタみたいな奴に興味持つと思ってるの?」


「で、でも昨日…」


「あんなの演技に決まってるじゃない!まさか間に受けてたの?」


 昨日のことは全部演技。

 その事実を聞いた覇王を見下ろすエミリーは、ゲスな笑顔で話を進める。


「顔も平凡、頭は悪い、女ったらし。ついでに白人じゃない!そんなナリで私からワンチャン狙えるとでも思ってたの?冗談よしてよ」


「全部…嘘だったのか」


「当たり前じゃない。キングに指示されなければ、アンタみたいな影薄そうな奴の相手なんてするわけないじゃない?でも感謝してよね?見てくれが悪いアンタでも、優しい私が1日だけ夢を見させてあげたんだから」


 昨日思わせぶりな態度を取られた覇王は、今日この瞬間まで、エミリーに理想を、夢を見ていた。


 このままお付き合いができたらな、連絡先交換出来るだろうな。などなど。


 そんな覇王の理想を打ち砕いたエミリーは、感謝しろと恩義せがましくそう呟くと、困惑しているレフリーを睨む。


「でも傑作ね、キングとヴァズにボコボコにされて懲りてないんだから」


「…」


「最後に一言。アンタ、総帥なんて器じゃないから、降参をお勧めするわ」


「そっか」


 理想を打ち砕かれた覇王のショックは計り知れない。


 誰だって、あれだけ思わせぶりな態度を取られれば気があるんじゃないか?狙ってみる価値はある。と淡い期待を抱くはずだ。


 エミリーに事実を突きつけられた覇王は、俯き加減に1つ返事をし、その場に立ち尽くす。


 夢を汚され、否定され、バカにされ…


 このまま投げやりになってしまっても仕方のないほど、覇王は精神的なダメージを負っているかもしれない。


 きっと、本来のパフォーマンスも発揮できないだろう。


 この会話を聞いていたレフリーも、どうすればいいのかわからないようで、俯いている覇王と、そして高笑いしているエミリーを交互に見て、そして最後に時計を確認する。


 定刻だ。


 いくら覇王の精神面が安定していなかろうが、時間を厳守しなければならないフェスタでは、そんなことを考慮している時間はない。


 すでに覇王が戦意喪失していることを悟ったエミリーは、レフリーが片手を挙げ、マイクを手にしたことにより、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「せめて私の糧になって頂戴。負け犬」


「これより、アメリカ支部代表、エミリー・エミリコットVS日本支部代表、松山覇王の試合を開始します!」


 レフリーがマイクで宣言すると同時に、競技場内に巨大なコングが鳴り響く。


「ねぇ、エミリーちゃん」


「気安く名前を呼ばないでくれる?汚らわしい」


 一応のため、距離を置いて警戒は怠らないエミリー。

 そんな彼女に不意に声をかけた覇王は、俯いていた顔を上げ、そしてニッコリと笑ってみせる。


「それ言わなかったら、多分エミリーちゃんが勝ってたよこの試合」


 元々エミリーの顔を立たせようなどと、アホなことを考え悠馬への宣戦布告も忘れていた覇王は、この一回戦で負けて、彼女とイチャイチャするつもりだった。


 しかしそれが全て嘘だったということはつまり、覇王は手を抜く必要も、負ける必要もないわけだ。


 気の無い相手を全力で落とそうとするのは、花蓮だけで十分だ。


 だってそもそも、エミリーは花蓮より可愛くないし。


 心の中でそう断言した覇王は、無造作に一歩踏み出すと、冷気を纏いながら目を細める。


「エミリー。悪いが俺は、真の男女平等主義者だ。だから女だからって席は譲らねえし、殴られたら殴り返す。妊娠してる奴でも腹パンされたら腹パン仕返す!」


「は?それがどうしたの?」


「俺はやる時はやる男だって言ってんだよ!」


「ならやってみなさいよ!私を殴るの?こんな衆人環視の前で?そんなことしたら貴方の品位は疑われること間違いなし!」


「へへっ、甘くみられちゃ困るな」


 ようやく本来の覇王に戻った。


 エミリーに毒されていた覇王は、ようやく目が覚めたのか、フィナーレで悠馬と戦っていた時のように白い歯を見せ、氷でできた刀を構える。


「その刀で私を…」


「作ってみただけだっつの!お前には人差し指1本で十分だ!」


 覇王が無造作に一歩踏み出し、そして刀を構えたことにより後ろに飛び退いたエミリーは、彼が突き出した人差し指を見て、目を見開く。


「ど…うして!」


「喰らえっ!これが俺の新たなコキュートスだ!」


 人差し指の先から現れた、龍の形状をした氷。


 ちょうど後ろへと飛び退いたエミリーの足が地面から離れ、彼女が逃げ場を失ったタイミングで放たれた、氷系統の異能の最上位技、コキュートス。


 コキュートスは大きく蛇行を繰り返しながら、その大きな口でエミリーを飲み込むと、会場の内壁に直撃し動きを止めた。


「っし。決めたぜ俺は!フィナーレで1位になってやる!」


 僅か数秒での決着。

 一瞬の静寂ののち、瞬く間に大歓声が響き渡る場内で拳を上げた覇王は、白い歯を見せながら叫ぶ。


「フィナーレの時より強くなってるな」


「おい、おいおい暁!何笑ってんだよ!フェスタに出るような相手がワンパンされたのに、なんでそんなに余裕そうなんだよ!お前、噛ませにだけは負けんなよ!?」


 フィナーレの時よりも強いと呟いた悠馬は、噛ませのはずの覇王が勝利し慌てふためく栗田を無視する。


 フィナーレの時のコキュートスもどきとは違い、今回覇王が放ったコキュートスは悠馬が放つものと全く同じ、つまりは本物だった。


 加えて今回、覇王は氷で刀を生成したことにより相手の動揺、ならびに回避を先読みした。


 そして結果として、動揺したエミリーが飛び退いたことにより地面から足が離れ、コキュートスを回避することが不可能となった。


 いつもはふざけた奴だが、戦いにおいてのセンスは光っているものがある。


 今までは覇王からライバルだなんだと言われても軽くあしらっていた悠馬だが、ようやく覇王の強さが自身に少し近づいたことを悟り、笑みを浮かべる。


「そうだよな…フィナーレより進歩してないと、面白くないもんな…!」


「面白さ関係ねーだろ!負けんなよ!負けるんじゃねえぞ!」


「どうだろうな」


 なぜか覇王に対抗心を燃やす栗田は、微妙な返事をする悠馬を見て硬直する。


「どうだろうな じゃねぇぇえ!アホ!あいつの喜んでる姿見るとなんかムカつくんだよ!俺の代わりにボコしてくれよ!闇使え闇!」


「使わねえよ!」


 悠馬は氷と炎以外の異能の使用を制限されているわけであり、だからこそ覇王とは互角の戦いが出来そうなわけだ。


 闇を使えという栗田にツッコミを入れた悠馬は、歓声に包まれる覇王を見下ろしながら席を立つ。


「おい暁、小便か?」


「いや?準備だよ。俺3回戦だからさ」


「お、そうだったな!お前の初戦はエジプト支部か」


「ボコられんなよー」


「お前が負けたら美哉坂ちゃん励ましといてやるからなー」


「負けたら別れろよー」


「負けねえし別れねえよ!」


 まるで悠馬が負けることを期待しているような、そんな発言をしてくる同クラスの男子たち。


 こいつら果たして、本当に同じ学校の生徒なのか?

 そんな疑問を抱き始めた悠馬は、声をかけてくる男子たちの方を振り向き、両手で中指を立てる。


「お前らそこでおとなしく観戦してろ!」


 そんなことを叫んでいると、誰かとぶつかる。

 悠馬は後ろを向いて歩いていたため、誰かとぶつかるのは当然のことだ。


「ご、ごめんなさい」


「誰かと思えば…久しぶりだな、暁」


 すぐに謝罪を入れた悠馬は、頭を一度下げ、そしてその声を聞き、顔を上げる。


「権堂先輩!」


 第1異能高等学校では、もっとも体格が良いであろう権堂。


 こうして顔を合わせるのは、合宿の時以来だろうか?

 以前とは違い髪を坊主にしていたため、ぱっと見ではわからなかったが、すぐに権堂だと気づいた悠馬は、嬉しそうな声をあげる。


「せっかくの祭りだ。楽しんで来いよ」


「はい!」


 懐かしい顔と出会い、嬉しそうな悠馬。


 権堂から背中を押された悠馬は、鼻歌交じりに控え室へと向かう。

覇王くんも成長してます!知能は成長してないようですが…

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