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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
189/474

抗争

 悠馬がフレディやその他のイギリス支部生徒たちと話しているタイミング。


 各支部の代表選手たちが全員揃い、寺坂がいないタイミングで事件は発生していた。


「ねぇ、君可愛いね。俺は松山覇王。日本支部の次期総帥になる男だ。君のお名前は?連絡先教えてもらってもいいかな?」


 悠馬という面倒な男が、ちょうどイギリス支部の男たちと油を売っている時。


 いつも横から可愛い女の子だけを掻っ攫っていく、そして実力までもが上の悠馬にライバル意識を持っている覇王は、可愛い女の子を片っ端から口説き始めていた。


 このタイミングなら悠馬の邪魔もない。

 連絡先さえ交換してしまえばこっちのもんだ!


 自信満々の覇王は、白に近い金髪の女子生徒の手を握り、空いている右手で腰に触れる。


「初めまして。私はエミリーよ。アメリカ支部の代表選手。よろしくね?」


「は、はぁい♡よろしくお願いしますぅ」


 アメリカ支部の女子生徒、エミリーとお近づきになれた覇王は、鼻の下を伸ばしながら気持ち悪い声を出す。


 花蓮が聞いていたら間違いなく、「アンタ、その声どこから出してるの?気持ち悪い」「そんな気持ち悪い声、よく外で出せるわね」などという辛辣な言葉を並べられていたことだろう。


 しかし引く様子のないエミリーは、クスクスと笑いながら覇王の右手に体重をかける。


「お…おほ…柔らか…」


 童貞歴=年齢、絶賛その記録を伸ばしている覇王は、顔を真っ赤にさせながら腰に触れている右手を細かに動かす。


 その様子はまさにエロオヤジ。


 総帥や警備員がいたら、捕まっていること間違いなしの不審な行動だ。


 どうやら覇王に、エミリーのスキンシップは早すぎたようだ。


「ねぇ、俺今晩空いてるんだけどさ?日本支部の宿泊するホテル、寄ってかない?俺、実は夜の帝王って呼ばれてるんだけど…」


 もちろん嘘だ。


 覇王が夜の帝王なら、この世界で過ごしている童貞は全員、夜の帝王ということになる。


 自身を誇張したい覇王は、必死に嘘をつきながら、自分が夜の営みは上手だというアピールをする。


 これも悠馬に対抗意識を持っているのと、そして自分の入学動機である、モテまくるという夢を叶えるためにとっている行動だ。


 悠馬とは全く違う動機で国立高校を目指していた覇王は、悠馬は考えないような行動を、なんの迷いもなくとる。


「ぇ〜どうしようかな〜?」


「ぜ、絶対に満足させれるからさ!連絡先だけでも交換しとかない?ほら、ここで出会えたのも運命だと思うし。俺たち、相性いいと思うんだ」


 考えるようなそぶりを見せるエミリーに、グイグイと誘いを入れる覇王。


 他の支部の学生たちが、何をしているんだろうか?と不思議そうに見つめる中、覇王は一歩も引かずにナンパを続ける。


「おいお前。俺の女に何してんだ?」


「え…」


 これならいける!2人目の彼女ゲットだぜ!


 押しに弱そうなエミリーが携帯端末を取り出し、勝ち誇っていた覇王は、ちょうどその瞬間に声をかけられ、動きを硬直させる。


「あ、キング。何してたの?」


「手洗ってただけだ。それよりこいつはなんだ?この見窄らしい男は」


 キングと呼ばれた、他の支部の生徒よりも体格が良さそうな人物もが近づいてくると同時に、腰に回していた覇王の手を振り払うエミリー。


「え、エミリーちゃん…」


 実質振られたと言っても過言ではない、手を振り払われた覇王は、あからさまに残念そうな表情で顔を俯ける。


「この人、日本支部の人みたいで…なんか、おれと一晩どう?とか、いきなり訳のわからないこと言ってきてさ…身体にも触れてきて…怖かった」


「ほう…俺の女に触れるとは、いい度胸だな?それはアメリカ支部に対する宣戦布告か?」


「あ、いや…そういうつもりじゃ…いい女だなーって思っただけで…」


 さっきまでは怖がってなどいなかったくせに、キングの前では怯えたフリをするエミリー。


 そんな彼女にちょっとした憤りを覚えながらも弁明を始めた覇王は、しどろもどろに答える。


「おいおい、勘弁してくれよ。お前らみたいな野蛮国家に触られたら、俺の彼女が汚れちまう。薄汚え黄色いヤツらは外で飯でも食ってろよ」


「んだと!」


「事実だろうがよ?女なら誰彼構わず話しかけ、品性のカケラもない。こんなヤツが日本支部の代表ってことはつまり、日本支部にはお前みたいな底辺野郎しかいないってことだろ?」


 悠馬や一ノ瀬が恐れていた事態が発生してしまった。


 自分の彼女に変に言い寄られ、怒るのはどの国の人間でも同じだ。


 覇王が言い寄ったことにより、あからさまに機嫌を損ねているキングは、差別用語を用いながら覇王を脅す。


「てめ!言わせておけば!」


 そして短気な覇王は、最初こそ弁明しようとしていたものの、拳を握りしめ煽るキングに殴りかかろうとする。


 しかしその拳は、キングの顔面を捉えることはなく地面に突き立てられた。


 イギリス支部の生徒たちと話していた悠馬が異変に気付き、慌てて覇王へと駆け寄り無理やりしゃがみ込ませたからだ。


「てめ…!暁!離せ!」


「馬鹿が…!お前はマジで何を考えてんだよ!」


 初対面の女を口説き、あろうことかその彼氏に殴りかかろうとするなど、日本支部の品位を地に落とすような行為だ。


 野蛮国家と罵られても仕方ないし、こんなことをするなら、差別用語を用いられたって何も言い返せない。


 無理やり覇王を土下座のようにさせた悠馬は、自身も深々と頭を下げながら謝罪する。


「ほんと、すみません。日本支部の生徒がご迷惑をおかけしました…」


 この状況で、どちらが悪いのかは明白。


 たしかにエミリーが思わせぶりな態度をとったのは気になるところだが、先に手を出したのは覇王な訳であって、どちらが謝罪すべきなのかは明白だ。


「なんだ?お前、いきなり現れて」


 キングの横に控えている、キングよりもはるかに体格のいい大男、ヴァズは、突然現れ覇王の頭を下げさせる悠馬を鋭い眼光で睨みつける。


 悠馬はその視線を背中でチクチクと感じながらも、頭を上げることはない。


「日本支部代表、暁悠馬です。この馬鹿は俺がよく言って聞かせるので、どうかお許しください」


 あとで覇王はボコボコにして、再起不能にでもするとしよう。


 それでキングたちが許してくれるかはわからないが、とりあえず、殴り合いなどの乱闘を避けたい悠馬は、この揉め事を丸く収めようとする。


「日本支部…暁…ああ、お前が暁か。いいぜ?許してやっても」


「ありがとうございます」


「ただし1つ、条件がある」


「条件、ですか…」


 許してやってもいいというキングに感謝の言葉を送った悠馬は、直後の彼の言葉を聞いて、眉間にしわを寄せる。


「ああ。ちょっとツラ貸せよ。お前と、松山?2人とも、外に来い。条件はその後に話すとしよう」


 白い歯を見せながら笑みを浮かべる、キング。

 状況的に立ち場が格下の悠馬と覇王は、他の支部の生徒たちの視線を集めながら、ゆっくりと立ち上がる。


「はい…わかりました」


「ああ…」


 まだ不満げな覇王に軽い蹴りを入れた悠馬は、一度睨みつける。


「わかりました…」


 本当に、覇王は何がしたいのかわからない。

 目的も性格も真逆の悠馬は、覇王のことを理解できないまま、キングとヴァズの後に着いて歩き始めた。


「何で止めに入ったんだ」


 アメリカ支部の2人の後に続きながら、不服そうな覇王は小さな声で訊ねてくる。


 きっと、また良いところで邪魔をされたなどと考えているのだろう、覇王の怒りの矛先は、悠馬にも向いているように見える。


「お前、散々釘を刺されたよな?問題だけは起こすなって」


「たしかにそうだけどよ…仕方ねぇだろ、起こっちまったもんはしょうがねぇ」


「はぁ…いいか?これ以上問題だけは起こすなよ。お前だって、ここで退学なんて死んでもごめんだろ」


「うっ…」


 異能島に入学をしながらも、僅か半年で退学、レベル10でそれなりに実力を認められている立ち場だというのに行き場を失うのは、覇王だって絶対に嫌な展開だろう。


 悠馬に脅され覚めたような表情をした覇王は、可愛い女と自分の退学、どちらが重要か理解したようだ。


「わかった。俺が悪かったよ。これ以上変なことは言わねえし、ちゃんと謝る」


「それでいい」


 日本支部の2人組、悠馬と覇王は、自分たちのすべきことを把握し、意見をまとめる。


 そんな2人とは裏腹に、キングとヴァズは、非常階段を登り、人気のない空間へと誘う。


「なぁ、日本支部ってどんな所なんだ?」


「え?」


 非常用階段を上りながら、不意に投げかけられた質問。


 その質問の意図が理解できない悠馬と覇王は、互いに顔を見合わせ、階段の先にいる男、キングを見つめる。


「いや、純粋にさ。どんな雰囲気なのかなって」


 数階分の階段を上り、大きく開けた踊り場で立ち止まったキングは、ニコニコと笑みを浮かべながら話をする。


 その見た目からは、つい先ほどの怒りなど微塵も感じられない、怖いほど屈託のない笑顔だ。


「日本支部は…まぁ、良くも悪くも、対抗心を燃やす奴らが多いって感…」


 キングの笑顔を見ながら、口を開いた悠馬。


 日本支部がどんな所か話そうとした悠馬は、直後に腹部に鈍い痛みを感じ、壁の端まで吹き飛ばされる。


「かはっ…」


 悠馬の懐へと飛び込み、そして腹部に拳を打ち込んだ大男、ヴァズは、自身の拳の感触を確かめるように手を動かし、踊り場の端で蹲っている悠馬を見下ろす。


「暁!!っ…てめぇら!最初からそのつもりで…!」


「やめろ!覇王!全部無駄になるぞ…」


 悠馬を殴った大男ヴァズに向かって、異能を放つ体制へと入った覇王は、叫び声を聞いてたじろぐ。


 覇王も悠馬も、現在どちらの立場が上なのかを、よく知っていた。


 もし仮にこのまま覇王が異能を使い、相手をKOしてしまった場合、いくら先に手を出したのがアメリカ支部の連中でも、2人の立場は無くなってしまう。


 なぜなら覇王がナンパを仕掛けていたのは、パーティー会場に来ている代表選手全員が目撃しているわけであり、事の発端は日本支部に責任があるということになる。


 だから悠馬も覇王も、下手に仕返しをするということはできないのだ。


「おいおい、聞いたかキング。この黄色い野郎ども、ビビって仕返しもできないんだと」


「ああ。聞いたぜ。みっともないなぁ?代表選手がここまでビビリなら、お前ら日本支部の他の連中は、クソ以下の下等生物なんじゃないか?」


「っ…んなわけねぇだろ!」


「テメェは少しは口の聞き方考えろよ!」


「ぐっ…!」


 口答えをする覇王が癇に障ったのか、悠馬を殴った時のように拳を振り下ろしたヴァズは、崩れ落ちる覇王を見下ろし白い歯を見せる。


「おいおい、まだ潰れんなよ?ちょっと挨拶してやっただけじゃねえか。日本人は脆いなぁ?」


「やめてやれよ、ヴァズ。猿が人間様に勝てるわけねえだろ?」


「はは、違いねえな!」


「松山だったか?テメェはまだ許してねえぞ?立てよ」


 腹部に響く、鈍い痛み。

 何かに押し潰されているんじゃないかと確認したくなるほどの激痛に腹部を抑える覇王は、ヴァズに変わり近づいてくるキングを睨みつける。


「なんだその目は…!おい!コラ!」


「がっ…くっ!」


 倒れ込んでいる覇王の顔面に、キングの蹴りが炸裂する。


 右からの蹴りに、左からの蹴り。幾度となく蹴りを繰り返すキングの靴は、赤色に染まり始め、覇王の血液は踊り場に飛散していた。


「キングがそこまでやるなら…俺も燃えて来たぜ」


 覇王を一方的に攻撃しているキングを見たヴァズは、闘争本能に火でも付いたのか、壁に横たわる悠馬を見下ろし蹴りを入れる。


「おい!日本支部最強ってこの程度か?ビビって異能も使えねえのか?んん?このままだと本気で死んじまうぜ!お前ら!」


 覇王を蹴る音よりも、遥かに鈍い音を立てるヴァズは、額から血を流す悠馬を見ながら煽ってみせる。


「おいおい!返事しろよ!気絶してんのかぁ?」


 ヴァズの暴力を無言で耐える悠馬と、キングの暴力をひたすら耐え続ける覇王。


 2人はアメリカ支部の連中になんと言われようが、決して反抗をすることはなかった。


 ただひたすら、無言で殴られ続けるだけ。


「はぁ…はぁ…クソ、なんの面白みもねえな」


「まぁ、仕方ねえよ。考えても見ろ、アメリカ支部で強者の俺たちが、こんな雑魚に負けるわけねえだろ」


 一通り楽しみ終えたキングは、何も喋らない悠馬を見下ろし、唾を吐き捨てる。


「ムカついたら1発くらい殴り返してみろよ」


 最後の煽り。

 流石に心が広くても、いくら自分たちに落ち度があったとしても、ここまでされてキレない奴なんていないはずだ。


 最大限の侮辱を込めて唾を吐いたキングだったが、その期待とは裏腹にピクリとも反応を見せない悠馬を見て、呆れたようなため息を吐く。


「つまらねえな。行くぞ。ヴァズ」


「ああ。よく覚えとけよ。俺たちアメリカ支部のメンバーに手出したら、こうなるってことをな」


 一方的に蹂躙したアメリカ支部のキングとヴァズは、最後に脅し文句を吐き捨て、階段から去って行く。

エミリーをメインヒロインにしようと思っていた時期が私にもありました…

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