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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
フェスタ編
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帰路

「何したの?」


「何もしてないです」


 甘い誘惑を耐えきった悠馬は、訝しそうな瞳を向けてくる夕夏に対しそう返事する。


 ちょっとはいいな…などという気持ちもあったが、その場の雰囲気に流されることなく、きちんと断ることができたと言っていいだろう。


 体操着の上から上着を羽織った悠馬は、その場から逃げるようにして美沙の寮を出てしまったため、下は半ズボンのままだ。


 すっかりと暗くなってしまった異能島からは、遠くに煌めく星々が見えてくる。


 まるで真っ暗な闇の中に、無数に輝く希望のような、美しい星だ。


「本当?本当に本当?」


「うん。誘惑はされたけど、ちゃんと断ったよ。だから大丈夫」


「悠馬くんが変なことしてたらどうしようって、心配した。不安だったよ」


「あはは…心配してくれてありがとう。そして心配させてごめん」


 亜麻色の髪を潮風に靡かせながら、茶色の瞳の奥には、たしかに不安や心配といった感情が見え隠れしているようにも見えた。


 そんな夕夏に手を伸ばした悠馬は、ちょっとだけ冷たい彼女の手を握り微笑んで見せる。


「ん!あと、寺坂さんから連絡が来たよ」


「連絡?」


 日本支部総帥からの連絡。


 特に大きな功績を残したわけでもないし、問題を起こしたわけでもないのに連絡が来たと言われれば、当然自分が何かしでかしたのではないか?と考えてしまう。


 つい先月のオクトーバーの悪夢を思い出した悠馬は、その後の総帥邸で、何か器物を壊したのではないか?という不安に駆られる。


「うん!報酬金?が発生したから、悠馬くんに確認しといてほしいって!」


「報酬金…?」


 聞き慣れない言葉を聞いて、首をかしげる。


 悠馬はお金のために犯罪者を捕まえる、というスタンスではなく、悪羅に復讐をする、邪魔だから倒すといったスタンスのため、報酬のことについて一切を知らない。


 現在の世の中では、悪羅やオクトーバーといった大物犯罪者は、逮捕だけでなくとも、撃退だけで報酬金が貰えるのだ。


 しかも今回は、死者を出さずに、総帥秘書を救っての撃退。


 日本支部からの謝礼金も含めた報酬金の額は、弾むこと間違いなしだ。


「口座確認しといてね」


「うん、してみる」


 携帯端末ではなく、スマホを取り出した悠馬は、慣れない手つきで操作を行い、口座の残高を確認する。


「え?こんなに貰えるの?まじで?」


 悠馬の口座に振り込まれている、ふざけた金額。


 目を見開いた悠馬は、スマホの画面を夕夏に見せる。


「にひゃ…だ、ダメだよ悠馬くん!こんなのバレたら、どこから狙われるかわからないよ!」


 1回の撃退報酬が200万円。


 そんな金額を目にした夕夏は、周りから狙われることを警戒しているのか、悠馬にスマホの画面を伏せさせ、周りをキョロキョロと見回す。


「だ、大丈夫だよ…さすがに、学生グループで強盗なんてする人はいないだろうし…」


 特に異能島の中での犯罪は難易度が上がるわけで、そう簡単に犯罪を犯すことはできない。


 その中でも学生は、すぐに足がつくし、不可能と言ってもいいほどだ。


「そ、そうだね。ごめん、びっくりしちゃって…」


 珍しく慌てている夕夏が、愛おしい。


 頬を赤くしながら恥ずかしがっている彼女を見た悠馬は、頬を緩めながら、スマホをポケットにしまう。


「ところで今日の夜ご飯は?」


「ごめんなさい…まだ作ってないの…」


「じゃあ、ホテルでも行こうか?」


「え?それはラブ…」


「普通のホテルです!」


 いきなり彼氏にホテルなどと言われたら、そっち系のホテルを想像してしまうのは仕方がないため、慌てて訂正を入れる。


 何故学生しかいない上に、寮が完備されている異能島にホテルがあるのか。


 その理由は今から教えるとしよう。


 無論、いかがわしい事をするためにホテルがあるわけじゃない。


 例を挙げるなら、異能祭。異能島で年に1度だけ、一般公開でこの島が解放されるときの大イベント。


 異能祭は1日で終了してしまうものの、夕方からの僅か数時間で、全員が本土へ船で帰宅ということはほぼ不可能である。


 そのため、ごく限られた大人たちは、この島での宿泊を許可されるのだ。


 他にも、自身の寮が何らかの不具合によって使えなくなった場合の保険だ。

 もちろん、寮が壊れた場合は無料で提供してくれるのだが、いまの悠馬たちのように、ただ泊まりに行くだけなら、お金を取られるシステムになっている。


「みんな誘っていい?」


「うん」


 悠馬の誘いを受け入れた夕夏。


 本日の行き先を決めた悠馬は、満足げだった。



 ***



 大理石の床が反射する、最上階スイートルーム。


 この階層の外周面は一切の壁ながなく、全てが強化ガラスでできているため、この島の景色をぐるりと一周、一望できる。


 旧セントラルタワーに新セントラルタワー、大型ショッピングモールに夜の海まで。


 もし仮に異能祭の後ここに泊まれるのなら、最高だろう。


 まぁ、大金持ちじゃなければそれは無理だろうが、


 革のソファに座り待機していた悠馬は、新セントラルタワーの見えるガラスに歩み寄り、カーテンを閉める。


 死神なら、向こう側からこちらの様子を伺えるかもしれない。


 そんな恐怖を感じたからだ。


 大理石の床をペタペタと歩きながら、ソファではなく椅子に座る。


 高そうな刺繍の施された椅子に、ぱっと見数百万はしそうな大理石のテーブル。そしてそこから見える大型モニター。


 そして椅子から首を右に向けると、螺旋階段と、そこから続く2階、その2階の下に見えるキッチンには、果物が置いてある。


 本来であればお酒などが置いてあるのだろうが、悠馬たちが未成年のため、回収されているようだ。


 ちなみに2階には、ジャグジー付きの大浴場や個室が完備されていて、どちらかというとシェアハウス寄りの構造になっている。


「個室で宿泊だけは嫌だな」


 大きな部屋の中、1人呟く悠馬。


 このホテルの中には現在、花蓮に夕夏、美月と朱理が一緒に宿泊している。


 そして当然、彼女たちとの宿泊となれば、男の悠馬としては、一緒のベッドで寝たい、甘えたい、夜が明けるまで話したいなどなど、そんな気持ちを抱いてしまうわけだ。


 だから今日は、彼女たちを個室では寝かせたくない。


 だって個室で寝かせてしまえば、それはもう、寮で寝泊まりするのと何ら変わらないからだ。


 そう1人意気込む悠馬。


「上がったわよ。今風呂場に行ったら、みんなのお着替え見れるんじゃないかしら?」


 悠馬が張り切っていると、2階の風呂の扉が開き、可愛らしい彼女が出てくる。


 金髪の髪にタオルを巻く、エメラルド色の瞳の少女。


 真っ白なバスローブを纏ったその姿は、大物女優そのものだ。


「花蓮ちゃんのお着替えも見たいんだけど」


 お風呂上がりの花咲花蓮。


 モデルにアイドルまでこなす彼女のバスローブ姿を見た悠馬は、軽い興奮状態に陥りながら邪な期待をする。


「嫌よ。だって悠馬、美沙とベッドインしたんでしょ?」


「してないよ!してないから!ちゃんと我慢できたんだよ!?」


 あらぬ誤解をされている。


 夕夏が言ったのか、美沙が言ったのかは知らないが、なんてことを言うんだ!


 冷ややかな視線を向けてくる花蓮に慌てて訂正を入れる悠馬は、座っている椅子まで歩み寄ってきた彼女を見て微笑む。


「なんか夫婦みたい」


「ま、私たち許嫁だしね。数年後には、そうなってるんじゃないかしら?それとも今、パパになる?」


「ちゃ、ちゃんと避妊はしましょう」


 花蓮の発言を聞いて、頬を赤く染める。


 かなり魅力的な提案ではあったものの、高校1年生にしてデキちゃいました。なんて言うのは笑えないし、彼女のご両親に殺されること間違いなしだ。


 花蓮も本気で言っているわけではないだろうし、変に反応を見せない悠馬は、花蓮の方をチラッと見て、目をそらす。


「花蓮ちゃん…その…服装が…」


「え?普通に着てるだけじゃない?」


 バスローブ姿の彼女が目の前にいれば、誰だって興奮してしまう。


 特にモデルにアイドルまでしている彼女のバスローブ姿は破壊力抜群で、悠馬でも悩殺されてしまうほどだ。


「えっちすぎます!」


「な、なによ!まるで私が変態みたいに!いいじゃない!どうせ今日の夜だってするんでしょ!今のうちに溜めときなさいよ!」


「そんなにすぐ溜まんないだろ!てか心配されなくても、余裕だって!」


 なにがとは言わないが、花蓮の発言に過敏に反応した悠馬は、憤慨したように彼女を見る。


「あらら。夫婦喧嘩ですか?花蓮さん」


「あ、朱理…いやね?悠馬が…」


 風呂から上がってきた、バスローブ姿の朱理。


 2人が揉めている(?)光景を目にした彼女は、花蓮からその内容を聞き、クスッと笑ってみせる。


「悠馬さん、ど変態ですね ♪ あは」


「うぐ…」


「上がったよ!」


「上がりました〜」


 朱理が罵る間に上がってきた、美月と夕夏。


 夕夏は2人と同じくバスローブ姿だが、美月はガードが固いのか、私服を着て肌をほとんど露出しないようにしている。


 花蓮、夕夏、美月、朱理。


 異能島の美女が集結したと言ってもおかしくない可愛い彼女たちがいるこの状況は、他の男子生徒たちが見たら、舌を噛み切ってもおかしくないほどだ。


 異能島の男子学生全員が、嫉妬してもおかしくない。


 しかしそんなことわかってない悠馬は、いつものように呑気にテーブルへ突っ伏す。


「美月のバスローブ姿みたいな〜」


「い、嫌だ。そういうのは卒業してから…!ううん、修学旅行の時まで待って!」


 悠馬のおねだりを即で断る美月。


 彼女の様子を見るからに、悠馬とのお付き合いの距離感というのを、いまだに把握できていないのかもしれない。


 まぁ、付き合って4ヶ月程度で、バスローブ姿を要求する悠馬も相当なのだが。


「あと、お触り禁止!」


「へ?」


 真剣な眼差しで、悠馬を指差す美月。


 彼女の吐いた言葉は、悠馬にとっては死刑宣告も同然だった。


 悠馬と美月は、付き合い始めてからというもの、一番最初にキスをしてから、なにも発展していない。


 つまり、最近はキスも何もしていないのだ。


 後に付き合った朱理の方が進展しているし、悠馬からすれば、それは美月から嫌われているのではないか?という不安すら抱く。


 そして今の美月の言葉だ。


「うぅ…美月に振られた…」


「いや、悠馬アンタね…私は5年近く悠馬のこと思ってたから進展が早いだけであって、普通の女の子、あんな簡単に股開かないわよ?夕夏がおかしかっただけよ」


「え!?私おかしいの!?」


「おかしいですよ。付き合ったその日に合体なんて。頭いかれてます」


「人を合体ロボみたいに言わないで!!」


 花蓮と朱理にボロクソ言われる夕夏。


 確かに、数年間両想いだった悠馬と花蓮や、すでに初めてを奪われていた朱理がすぐに行為に及ぶのは仕方のないことだが、本来であれば、美月のような対応が普通なのだ。


「え…夕夏…付き合ってその日にって…」


 普通に美月もドン引きしているご様子だ。


 クラスでは清楚の塊のような、慈愛に満ちた、教会のシスターのような彼女が、まさか付き合ったその日に身体を許しているとは思わなかったのだろう。


「し、仕方ないじゃん!だって扉開けたら花蓮ちゃんと悠馬くんがしてたんだもん!私だけハブられるの嫌だったんだもん!」


「わー!ちょ、ちょっと夕夏!その話はしないって約束でしょ!」


 鍵も閉めずに、2人で楽しんでいた花蓮と悠馬の裏話。


 花蓮は誰にも話して欲しくなかったのか、顔を赤くしながら夕夏の口をふさぐ。


「あらら。花蓮さん、モデルなのに…」


「花蓮さん…」


「ぁぁ…私の立ち位置が…」


 頼れるお姉さん、みんなのお姉さんといった立ち位置から、間抜けなお姉さんへと降格してしまった花蓮。


 ま、間抜けな花蓮ちゃんも好きだけど。


 まるで他人事のように、頬杖をついて微笑む悠馬は、そんなことを考えている。


「ていうか悠馬、アンタもアンタでしょ!何笑ってるのよ!」


「え!?俺!?」


「当たり前でしょ!元々、アンタがビビって距離置かなければ、付き合った初日に…なんてならなかったのに!」


「それはすみませんでした!」


 悠馬が闇堕ちしてから花蓮と距離を置いたせいで、2人のお付き合いは3年も遅れて始まってしまった。


 花蓮の言う通り、悠馬が距離を置かなければ、もっと早く、こういった幸せな時間は始まっていたのだ。


 自分だけ他人事のような悠馬を一喝した花蓮は、不機嫌そうに悠馬に歩み寄り、頬をつねる。


「いひゃいれす…」


「これでチャラ。いーい?」


 びよーんと伸びる悠馬の頬をつねりながら、怒った様子のない声で話しかける花蓮。


 頬をつねるだけで、色々なことを流してくれるという心優しい花蓮に、コクコクと頷いた悠馬は、ゆっくりと離れていく彼女の手を掴み引き寄せる。


「え?何?」


「花蓮ちゃん、好きだ!」


 悠馬の声が、ホテルの中に響く。


 結局この後、悠馬の願望通り、みんなと一緒のベッドで眠りにつきながらお話をするというイベントが始まった。

やましいことはなに1つしてません!!普通にお泊まりしただけなんです!!!許してください!

次回、フェスタの地へ…

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