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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
オクトーバー編
174/474

真夜中の聴取

 夜。


 時刻は0時を回った頃だろうか?


 真っ白なテーブルに、真っ白な室内。


 スタンドライトが机を照らす中、仲良く3人並んで座る悠馬、夕夏、朱理の姿が見える。


 いや、実際は3人とも緊張した表情を浮かべているのだが。


「待たせてしまったすまないな」


 ゆっくりと開く扉から中へと入ってきたのは、日本支部現総帥の寺坂と、警視総監の篠原(美月のお父さん)。


 悠馬にとっては、お義父さんになるかもしれない存在だ。


 華奢な美月と違い、筋骨隆々な彼女の父親を目にした悠馬は、少し怯えたような表情を浮かべながら会釈をしてみせる。


 なんで事情聴取で警視総監が出てくるんだよ。


 悠馬は心の中で嘆く。


 なぜ3人が、こんな真夜中に事情聴取を受けることになったのか。


 その原因は、もう言わずともわかるだろうが、オクトーバーからの悪羅という、二大犯罪者と接触した為だ。


 なにやら日本支部は、会話内容から何まで、悪羅に関する記録を全て残しておきたいようだ。


「では早速。話を聞かせてもらおう。君らが話すのは、鏡花が負けた後からだ」


 慣れた手つきで、筆を走らせる篠原。


 さすがは警視総監というべきなのか、動きに無駄がない。


「オクトーバーは彼女を…夕夏を手に入れると言っていました。なので鏡花さんがやられた後、止むを得ず応戦しました」


「それはいい。流石にオクトーバーや悪羅と遭遇して、異能を使うなとまでは言わない。況してや、誘拐をしようとしていたなら、尚更だ」


 今回の件で、悠馬が犯罪者となることはなかったようだ。


 ちょっとだけ安心している悠馬は、コツンと筆を叩いた篠原に反応し、背筋を伸ばす。


「私が聞きたいのは、戦いではなく、彼らの目的についてだ。何かおかしなところはなかったか?他の目的は?」


「あ…オクトーバーが…結界を使いました」


 篠原の質問で重大なことを思い出した悠馬は、その出来事を口にする。


「何ぃ!?」


「それは本当か?」


「はい。確かに、結界 ミカエルと言ったのを聞きました。あれは間違いなく、結界だったと思います」


 国家でも把握していなかった、オクトーバーが未だに結界を使えるという事実。


 驚きのあまり一度席を立った寺坂は、慌てて席に着き、平静を装おうとする。


「篠原総監。僕から質問、いいですか?」


「なんだ?」


 筆を走らせる篠原に、浮かんだ疑問をぶつけようとする悠馬。


「犯罪者の中で、結界を使えた前例はあるんですか?」


「チンピラならある。だが、大犯罪者の中で結界を使えたという記録はない。君も結界を使えるなら、わかるだろ」


 前例のない事態。


 だからこそ、寺坂も篠原も驚いている。


「他には?」


「世界を変えると言っていました。それには夕夏が必要だとも」


 何をしたいのかは結局わからずじまいだったが、世界を変えるためには、夕夏の力が必要だということで間違い無いのだろう。


「後は…悪羅はオクトーバーのことを仲間だと言っていました」


 これが1番の問題だ。


 オクトーバーと悪羅が繋がっている。


 今までそんな情報を得ていなかった各支部は、その話を聞いたら大パニックになることだろう。


 個々としての危険度もかなり高いというのに、その2人が組んでいるということは、国家を滅ぼしかねない、何かの拍子に国を潰してしまうかもしれない。


 そんな不安が残る。


「そのくらいです」


「…そうか。君たちは?何か感じなかったか?」


「いえ…」


「私たちも、悠馬くんの聞いた話しか…」


「わかった。ありがとう。聴取は終わりだ」


 筆を止めた篠原は、調書をパタンと閉じると、机に手を置いてお辞儀をする。


 それに合わせるようにして、寺坂、夕夏、朱理、悠馬もお辞儀をする。


「そしてここからは、1人の親としての話だ。ありがとう。君たちがいなければ、私の娘も、他の生徒も怪我を負っていたかもしれない」


 美月の父親である篠原は、警視総監としてではなく、1人の父親として深々と頭を下げる。


「いえ…頭をあげてください」


 美月は悠馬の彼女なのだから、守って当然だ。


 悠馬は優先順位として、ホテルの中にいる美月が伴う危険は少ないと思っていたが、念のため逃す準備もきちんと行なっていた。


「私からも。鏡花を助けてくれてありがとう。…足の骨折と肋骨が折れているようだが、一生傷になるようなものはなかった。本当にありがとう」


 深々と頭を下げる寺坂。


 おそらく、回し蹴りをした際に骨が折れたのだろう。


 しばらく担任としてのお仕事は出来ないはずだ。


 少し寂しくなると思いながらも、無事だということを聞いて安堵する悠馬は、2人のお偉方からの視線を見て、首を傾げる。


「どうか…したんですか?」


「……暁闇…闇を使ったな?」


「…そりゃあ…使わないと勝てませんでしたし…」


 闇を使わずに勝てるなら、苦労していない。


 そう言いたげな悠馬は、この期に及んで闇を使うなと言いたいのか?と言いたげに口を尖らせながら反論する。


「周りの状況からするに。君は学年の友人たちに、暁闇だとバレたということになる。これからの学校生活はどうしていくつもりだ?」


「…それは…考えてなかったです」


 篠原の指摘を受けて答えを出せなかった悠馬は、顔を下に向ける。


 あの時は必死で、みんなが守れるならそれでいいと、なんの躊躇いもなく闇の異能を使ってしまった。


 だから明日の朝、いつも通りの生活に戻れるのか心から不安だ。


「知っていると思うが、暁闇は畏怖の対象だ。今横にいる2人からは受け入れられているかもしれないが、必ず君に怯える生徒もいることだろう」


「そうですね」


「居心地が悪くなったら、連絡して来なさい。新たな学校を用意する」


「…はぁ」


 明日には、悠馬の居場所はクラスにないかもしれない。


 暁闇だとバレてしまった今、その可能性が高いと判断した篠原は、悠馬に逃げ道を作ってあげる気でいた。


「君も随分と丸くなったな」


 悠馬と篠原は、顔を合わせるのは1度目ではない。


 初対面は3年前、悠馬が闇堕ちして間もない頃だ。


 その時の悠馬を覚えている篠原は、悠馬=危険因子、嫌い。というイメージを定着させていたが、今の落ち着いている悠馬を見て、少しは信頼してくれているようだ。


 美月からは、お父さんは暁闇嫌いだから。などと聞かされていた為、どんな冷たい言葉で罵られるんだろうか?と恐怖を感じていたが、そんなこともなかった為安堵する。


 彼は案外優しいのかもしれない。


「それで…そんな君に尋ねたいことが…いや、お願いしたいことがある」


「なんですか?」


 真剣な表情の篠原。


 そんな彼の真剣な表情を見た悠馬は、改まって返事をする。


「最近、ウチの美月が男と遊んでいるらしいんだ。何処の馬の骨か調べておいてはくれないか?調子に乗ったクソガキならば、いずれ社会的に消さねばならんからな…」


 メラメラと燃え滾る、篠原の闘志。


 前言撤回だ。美月のお父さんは怖すぎる。


 多分だが、悠馬が美月とお付き合いしてます。と言っていたら、この場で血祭りにあげられていたことだろう。


 先ほどまでの落ち着きのある調書と違って、娘のこととなると容赦のないおじさん。


 その姿は、総一郎を彷彿とさせる。


「は、はぁ…見つけたら報告しますね」


「お願いする。美月のヤツ、お盆に帰省した時も、男と連絡を取ってニヤニヤしていてな…見つけたら絶対に許さん」


 ごめんなさい。その連絡をしてたの、絶対に俺です。


 そんなこと口が裂けても言えないが、身に覚えのあることばかりの悠馬は、冷や汗を流しながらコクコクと頷く。


 ここでバレたら、本当に殺されてしまう。


「では。これにて全ての話が終わった。下に車を用意してあるから、ホテルまで送らせよう」


 話し終えた篠原がそう告げると同時に、スーツ姿の女性が現れ、悠馬たち3人を案内し始める。


「こちらにどうぞ」


 指示に従い、外に出る。


 エレベーターへと乗り込んだ3人は、寺坂と篠原に見送られ、一階に到着していた黒い車に案内される。


「さぁ、行きましょう、悠馬さん。今日は朝の8時から、総帥邸の見学ですよ」


「うげ…」


 悠馬の手を引く朱理。


 オクトーバーと戦う前はウキウキワクワクしていて、明日が待ち遠しいなどと思っていた悠馬。


 しかし、現状疲れ果てている悠馬からしてみれば、早起きというのは地獄そのものだ。


 早く帰って寮で休みたい。


 ってか、総帥邸見学中止にしろ。


 そんなことを心の中で嘆く悠馬は、朱理に手を引かれ、夕夏の手を引きながら、車の中へと乗り込んだ。



 ***



「寺坂くん。どう思う?」


「オクトーバーが善人だとでも言いたいんですか?」


 悠馬たちが帰った静かな室内へと戻った寺坂と篠原。


 2人は椅子に座ることもなく、壁に寄りかかって話を始める。


「可能性の話だ。私は数年前、オクトーバーと共に仕事をした事がある」


「それは初耳ですね…聞かせてもらってもいいですか?ヤツがどういう人間だったのか」


 寺坂の知らない、オクトーバーの話。


 寺坂は総帥に就任したのは、世界大戦後の為、オクトーバーの悪い面についてしか知らない。


 報告書を漁ればオクトーバーがどんなことを成し遂げたのか、どういう経歴なのかくらいは出てくるだろうが、それについて調べていなかった寺坂は、初めてオクトーバーの総帥時代の話を聞くこととなる。


「今から8年ほど前。ゲルナンの悪夢という話は聞いたことはあるか?」


「はい。当時のアメリカ支部総帥を襲撃し、後遺症を残した人物ですね」


 当時最悪の犯罪者と言われ、今で言う悪羅の立ち位置に君臨していた人物だ。


 昔の悪羅は暴れてはいたものの、実力は定かではなく、小物テロリストという認識だった為、当時はゲルナンがかなり危険視されていた。


 話だけは聞いた事があるのか、少し内容を知っていた寺坂は、深く頷く。


「ゲルナンは日本へ逃亡した。当時は紅桜家に警官の服を着せ、総一郎さんを筆頭にして沖縄本島で迎え撃つこととなった」


「紅桜に…」


 今では考えられない事だ。


 この国の裏であるはずの紅桜を、表で使うという行為。


 当時はそれほど、ゲルナンを危険視していたのだろう。


「そして緊急来日してくれたのが、オクトーバーだった」


 日本へ逃亡した犯罪者を討つため、ロシアからわざわざ来てくれたオクトーバー。


「ゲルナンは総一郎とオクトーバーを前にして、流石に負けると判断したのか、追い詰められてから1人の民間人を人質にした」


 当然だ。


 総帥2人を目の前にして、普通の人間は助かるなどと考えはしないし、2人の総帥の後ろには紅桜に警察まで控えているのだ。


 悪羅ほどの実力がなければ、それを真っ向から相手にするということはできない。


「ゲルナンは、この民間人を助けたくばこの場から手を引けと脅した。それを聞いた総一郎は、手を出せなくなったよ」


 自国の民を犠牲にして名声を得るか、それとも自国の民を救い、犯罪者を逃すか。


 即答するには難しい、選びようのない選択肢だ。


「しかしオクトーバーは違った。彼はなんの躊躇いもなく、ピストルの引き金を引いたよ」


「…それはどちらに?」


 民間人を撃ち抜いたのか、ゲルナンを撃ち抜いたのか。


 今のオクトーバーなら、間違いなく民間人を撃ち抜いているはずだ。


 そんな事が頭によぎった寺坂は、真剣な表情で篠原を見つめる。


「もちろん、ゲルナンをだ。奴は少し強引なところがあったが、世界を平和に導くために身を粉にして尽力してくれた。この世界がより良くなるなら、私はいくらでも対価を支払うと、よく言っていた」


 一歩間違えば民間人を傷つけていたかもしれないが、オクトーバーの選択は間違ってはいなかった。


 篠原の言う通り、強引な一面はあるものの、善悪の区別、そして思想は正しい人物、総帥の器に相応しかったのかもしれない。


「……オクトーバーは、あのお方と繋がりがあると思いますか?」


「悪羅はあのお方と敵対している可能性が高い。つまり、オクトーバーはあのお方と繋がっていないはずだ」


 あのお方。


 過去に益田と繋がりを持ち、人を使徒に変える謎の力を提供する人物。


 もし3人が繋がっていたら、大惨事だ。


 この世界の犯罪者のトップ3が協力をする可能性は低いと知った寺坂は、ホッと息を吐く。


「現状、1番の危険因子は暫定であのお方…という可能性が高いのか…?」


 オクトーバーは結界を使える。


 つまり神は、オクトーバーの行動を容認している。


 ならば協力している悪羅も結界を使える可能性が高いわけで、ならば敵対しているあのお方が、神々が見放した危険因子という可能性が高くなる。


「いや。悪羅も犯罪者で、オクトーバーも犯罪者。いくら神々が容認しようと、私は許すつもりはありません」


 神々が許そうが、2人が人としてやってはいけない過ちを犯したのは事実だ。


 危険因子であることに変わりない。


「そうだな。そうだった。いや、悪いな。昔の仕事仲間だったからか…どうにもな…」


 少しだけ引っかかっているのか、寺坂の指摘を受けて自分自身を納得させようとする篠原。


 知り合いが犯罪者になっていれば、気になるのも、気にかけるのも仕方のないことだ。


「では…私も鏡花のところへ行ってくる」


「ああ。気をつけて」


 聞きたいことを聞いた寺坂は、篠原に手を振り、その場を後にする。


 向かう先は最愛の人、寺坂絶賛片思い(?)中の、鏡花の元だった。

お義父さま!!!

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