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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
オクトーバー編
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オクトーバーの悪夢2

「も、もう要らないです…」


 どうやら朱理は、コーヒーが苦手だったようだ。


 コーヒーを二口だけ飲んでカップをテーブルの奥へとやった朱理は、窓から見える景色を眺め始める。


「こんなところでデートできるなんて、私には一生縁のないことだと思っていました。況してや自分の選んだ好きな人と、なんて」


 嬉しそうに話す朱理。


 確かに、加奈や寺坂が動いてくれなければ、厳しかった部分もあると思う。


 何より、悠馬がタルタロスの最下層で遭遇した得体の知れない人物、Aさんの存在は大きすぎた。


 彼がいなければ、朱理は助けられなかったと言っても過言ではないほどに。



「文化祭は楽しかった?」


「はい。残念ながら1位にはなれませんでしたが…美月さんともお友達になれて、いい思い出になりました」


 先日行われた文化祭。


 第1は結果として、総合順位を3位で幕を閉じた。


 ちなみに1位は第7高校。


 異能島の7割の生徒が第7に投票するという、史上初の出来事に教員側もかなり驚いたらしい。


 まぁ、花蓮のライブもあったわけだし、2日目はそれ目当てで殆どの学生が第7に集まっていたため、予想はできていたのだが。


 なにやら花蓮が彼氏を見つけて、歌詞をど忘れするシーンも人気だったようだ。


 まったく、男というのは理解しがたい生き物だ。


「そっか、美月とも仲良くなれたんだ」


「はい♪最初は怖い人だと思ってたんですが、話してみると優しくて…安心しました」


「それは良かった。赤坂とは?」


「加奈さんとは…加奈さんが出した案のおかげで、ナンパが減りました♪」


「そ、そう…」


 まだ記憶に新しい、ドーナツ屋さんの出来事。


 その場をしのぐために、屋台の売り子全員が悠馬の彼女を名乗ったせいで、悠馬は異能島の男子から誹謗中傷の声を浴びていた。


 女たらし、ヤリ○ン、ゲス野郎、クズ。


 誹謗中傷の数々を思い出した悠馬は、少しだけいじけた顔で朱理を見つめる。


「他にお友達は?」


 これが1番な問題点だ。


 朱理が転入してきてから、早くも1ヶ月と少しが経過した。


 なんでもできる夕夏に対し、他人に対する気配りは出来るが、自分のことはなにもできない朱理。


 そんな彼女は、男女問わずかなりの人気を得ている。


 周りの人に対して気遣いもできるし愛想もいい。などなど、愛される要素が詰まっていて、自分の身の回りのことは何もできない。


 そのギャップが萌えるのだろう。


 朱理は毎日のように、クラス内で髪を解いてもらったり、制服のリボンを弄られたりしている。


 しかしながら、彼女の帰宅は決まって早い。


 クラス内では馴染んでいるように見えるが、何か問題でもあるのだろうか?


 もしかすると、裏では何かされてるんじゃないか?という不安が、心に残るのだ。


「居るには居ますね…」


「遊ばないのか?」


 もし自分が影響しているなら、俺のことなど気にせずに遊んで欲しい。


 そう思った悠馬は、朱理に対して問いかけてみる。


「いえ…こういうの、恥ずかしくて夕夏にも言えませんが…私、お金をほとんど持っていないので…もうお金が…」


 そこでようやく気づく悠馬。


 それは大変申し訳ないことをしてしまった。


 気が利かない彼氏だと心の中で思われていても、おかしくないだろう。


 悠馬は死神からお金が振り込まれている上、両親の遺産まで手にしているため、金銭面をあまり気にしていなかったが、現状両親もいなくて、どこからの援助もない、加えて突然転入など、お金が底をつくのも当然だ。


 もっと早く気づいてあげれば、朱理は今頃、沢山のお友達と遊んでいた頃だろう。


「ごめん、ちょっと待ってね」


 あることを思いついた悠馬は、携帯端末を開き、死神にお金の一部を朱理に付与していいか?という質問を送る。


 待つこと2秒。


 好きにしろとの返信が、悠馬の端末に返ってくる。


 死神は死神で、暇そうな人生を送っているようだ。


 すぐに返ってきた返信を見て、本当に島の仕事を引き受けているお偉いさんで、冠位なのか?という疑問が浮かんでくる。


 もしかすると、ブラック人間で下っ端をこき使っているのかもしれないが…


 可哀想だから、是非やめていただきたい。


「朱理、とりあえず5万円、振り込むね」


 側から見ると、援助交際の現場に見えているかもしれない。


 5万円振り込むなどと美人に言っているのだから、うわコイツヤベェ奴じゃん。と思われているかもしれない。


「いえ、私が我慢すれば良いだけの話なのでお気になさらず。私は悠馬さんと一緒に居られることが、何よりの幸せですので」


 朱理の嬉しい発言。


 そう言われるとかなり嬉しいし、嬉しさのあまりこの話から脱線してしまいそうになるが、今回はそれはできない。


 せっかく朱理にできるはずだった友達が、ノリ悪いから。という理由で居なくなってしまうのは、悠馬としても悲しい。


 それに朱理には、我慢をせずに、伸び伸びと生きて欲しい。


 何年間も我慢を強いられたのだから、少しくらい羽目を外しても俺がカバーしてやる。


 悠馬はそう考え、朱理に手を伸ばす。


「俺は朱理が友達と遊んでいるところも見たいからさ。島へ帰ったら、放課後友達と遊んで来なよ」


「…どこまでも優しいんですね。悠馬さんは」


 そう言われたのが嬉しかったのか、照れくさかったのか。


 頬を少しだけ赤らめた朱理は、先ほど飲まないと宣言したコーヒーを再び口に運び、渋い顔をする。


「ぁー…マジで朱理かわいすぎ…」


「こほん。そろそろ出ませんか?」


 これ以上恥ずかしいところは見られたくないらしい。


 少し頬を赤らめながら立ち上がった朱理は、悠馬が立つのを待たずに歩き始めた。



 ***



 一方、その頃。


 東京の少し洒落た飲食店の中。


 薄暗い店内が大人びた雰囲気を醸し出す中に、Aクラスの女子生徒たちが集まっていた。


 まぁ、Aクラスの女子全員が集まっているというわけではない。


「とりあえず、文化祭お疲れ様〜!乾杯!」


「いぇーい!」


 ここに集まっているのは、いつものメンバーだ。


 美沙に夕夏、加奈にアルカンジュ、藤咲と湊と美月と愛海。


 元気よく乾杯をした美沙は、ジョッキの中に注がれている飲み物を一気に飲み干し、ガタン!と机の上に勢いよく置く。


「かー!美味い!」


 まるで酒を飲んでいるかのリアクションだが、美沙が飲んでいるのは、ただのコーラだ。


 その辺のことはきちんと弁えている。


「いやー、楽しかったね、文化祭」


「3位だったのは残念だけど」


「それな〜!」


 文化祭のお疲れ会。という名目の、みんなで食べる夜ごはん。


 本土では集まったことのないメンバーで、ご飯を食べるというのもまた一興。


 旅行やお出かけの醍醐味ともいえるものだ。


「てか夕夏、朱理は〜?朱理ん、1人にして大丈夫なの?」


 美沙の質問。


 朱理がいないことを気にしている彼女は、テーブルに並べられた食事をつまみながら尋ねる。


「あ、朱理は悠馬くんとデート中?」


 朱理の本日の行き先を聞いていた夕夏は、お誘いが成功したのかわからないため疑問形で答える。


「夕夏は良かったの?」


 本土でデートなんて、滅多にできることじゃない。


 特に異能島の生徒ともなると、春、夏、冬休みのいずれかでタイミングを合わせるか、はたまた高校を卒業するまで待たなければならないため、尚更だ。


 つまり何が言いたいかというと、この機会を逃せば、今年の間に本土でデートをするということは、ほぼ不可能になってしまうのだ。


「うん、私は悠馬くんに毎日甘えてるし…それに、朱理は親が厳しかったから、外にも出してもらえてなくて…今日くらい、譲るべきじゃないかな?」


「へぇ…やっぱ朱理って、お嬢様だったんだ?」


「雰囲気夕夏ちゃんに似てるし、愛想いいもんね!わかるかも!」


 加奈は申し訳なさそうに目を逸らしたが、女子たちは厳しさの意味を過保護として捉えているらしい。


 勝手にお嬢様設定を付け足された朱理は、後日苦労をすることだろう。


「てか夕夏、毎日甘えてるって、どゆこと?」


「文字通りだよ…?ね、美月ちゃん」


「え"っ、ちょっとまって、なんで私?」


「そりゃぁ美月、暁と付き合ってるし…そろそろみんなに公表しなよ。いつまで隠してるつもり?」


「え?」


「ん?」


「は?」


 夕夏からのキラーパスに反応した美月に、追い討ちをかけた湊。


 湊の表情は、冷やかしているというよりも、早く公表しなよ。という意思が強いように見えた。


 必死に隠してきた美月の努力は、ここにきて終わりを迎える。


「そうだね。私、悠馬と付き合ってるの。夏休み前くらいからかな?」


『はぁぁぁぁあ!?』


 美月の暴露で、2人が付き合っていることを知らない人物たちの驚いた声が響く。


 その中には、加奈と藤咲の驚いている姿も含まれる。


 普段驚かない女子たちまで驚くレベル。


 当然だ。


 悠馬は現在、みんなの中ではアイドルの花咲花蓮と、第1のアイドルの夕夏、朱理とお付き合いをしている。


 誰がどう見たって羨ましい環境だし、まさかまだ1人隠しているなどという可能性は、何人たりとも考えはしない。


 欲張り、強欲。


 悠馬が意図的に仕組んでここまでのことを成し遂げたというのなら、とんだ策士だと言ってもいいかもしれない。


「え!?美月黙ってたの!?」


「ごめんね。流石に隠さないと、悠馬が大変になるから」


「まぁ、たしかに…花咲さんに夕夏、朱理んに美月ってなると、Aクラスのみんな発狂しちゃうよね」


 クラス内の美女3人と、異能島内でトップに君臨するアイドルを1人で掻っ攫っていったことになる。


 クラスの男子が何も言わずとも、他のクラス、他の学校の生徒から誹謗中傷をされてもおかしくないレベルだ。


 異能島の学生が嫉妬深い、欲深いということは愛海も知っているため、納得したように頷く。


「てか湊、私まだ言うつもりなかったんだけど…」


「ダメ。だって美月、クラスの中で暁と話したいんでしょ?いっつも暁の方見てソワソワしてるし。まずは身内に教えてかないと」


 いつメンが知っていれば、それとなく教室内で接触も増えるだろうし、何より変な勘ぐりをされずに済む。


 まずは練習と言いたげに、グレーの髪をなびかせた湊は、美月を抱き寄せながらアドバイスする。


「えぇ…みんな、内緒にしてね?」


『はーい』


 心のこもっていない返事。


 結局、明日の昼には美月と悠馬が付き合っていると言う話は広まるのだが、この時の美月は、まだ知る由もない。


「ところでみんなは、フェスタで誰に投票するか決めた?」


 不意な質問。


 話題転換とも言える藤咲の質問を聞いた一行は、何も考えていなかったのか、驚いた表情で硬直する。


「フェスタまであと2週間。投票は来週。どうするの?」


「私は暁くんかな〜」


「私は双葉先輩」


「私も〜」


「まぁ、その2人になるよね」


 異能祭で最後に激突した2人。


 順当に行くのであれば、悠馬、戀、一ノ瀬がフェスタに出場することは決まっていると言っても過言ではない。


 なにしろ彼らは、日本支部の異能島のトップ3と謳われ、歴代でも最高峰の実力者として噂されている。


 この3人の中から、確実に次期総帥が決まると断言していいほどだ。


 フェスタの出場枠は、合計で5枠。


 男女混合であるため、残りの2枠がどうなるのかはわからないが、今上げた3人が外れることはないだろう。


「暁くんはねぇ、男子からも嫉妬されてるし、確定だよね」


 フェスタで悠馬が負ければ、男子たちは間違いなく叩き、いいザマだと鼻で笑うこと間違いなし。


 そして逆に悠馬がフェスタで勝利すれば、日本支部の同じ島で苦楽を共にする学生が勝ったのだと鼻高々だし、お前はやると思っていた。と都合のいいことも言える。


 勝っても嬉しいし、負けても嬉しい。


 実力も申し分ない悠馬は、嫌がらせ票も入れられて確実に1位で投票を終えることだろう。


「夕夏はどう思う?悠馬に出て欲しい?」


「私は…嫌かな…」


「え?なんで?」


「優勝したら、暁くん私らの世代の異能王になれるかもなんだよ?」


 各国の選りすぐりの生徒たちの中で優勝できれば、次期異能王候補として名乗りをあげることとなるだろう。


 確かに、それはかなり魅力的な話だ。


 悠馬は幼い頃に異能王になると言う夢を抱いていたらしいし、彼が願うのなら夕夏だって、側で支えて行くつもりだ。


 しかし今は違う。


 いや、フェスタにおいては違うと言うのが正しいか。


「フェスタはね…神宮君みたいな人が多いの。お父さんに聴いたことがある」


 各国の異能島のトップ。


 悠馬のような善人はいるかもしれないが、神宮のように、自分が世界の中心だと誤解している学生もかなりの数いる。


 裏で審判を買収したり、卑怯な反則行為を使ったり。


 各国の意地と意地、プライドとプライドがぶつかり合うのだから、それは仕方のないことなのだろうが、それに彼氏が出るとなると話が変わる。


 怪我をして欲しくない、傷ついて欲しくない。


 そんな気持ちがある夕夏は、正直なところ、悠馬にフェスタで選ばれて欲しくなかった。


「ま。そんな時は夕夏と美月が癒してあげればいいんじゃない?」


「そうそう!んじゃ!そろそろ食べますか!」


 夕夏の心配など知らずに、手をつけていなかったご飯を食べ始める女子たち。


「ん。そうだね」


 夕夏も気持ちを切り替えて、文化祭のお疲れ会という名の夕ご飯を食べ始めた。

Aさんは物語終盤で再登場予定するかも…?

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