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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
文化祭編
167/474

それぞれの文化祭 終

 第7異能高等学校、アリーナ。


 所狭しと並べられた椅子に座る学生たちは、今から始まるイベントを心待ちに、小さな声で騒めいている。


「な、なぁ…花咲ちゃん、俺たちに気づくかな?」


「お前には気づかないだろうけど、悠馬には気づくだろ」


 薄暗い会場の、真ん中辺り。


 ちょうど中央に座っている通は、自分が認知されていると思っているのか、自意識過剰な発言をしている。


 八神の言う通り、悠馬には気づくかもしれないが、通に気づくことはないだろう。


 なにしろ通と花蓮は、顔を合わせた回数は1.2回程度。


 もし仮にライブ中、視界に通が映ったとしても、周りと変わらぬ景色に見えること間違いなしだ。


 要するにモブと同じ扱い。


 人間、興味のないものは、気にしなければ視界に映らないものだ。


 通のことなど気にしていないであろう花蓮が、彼に気づくことはないと断言できる。


「クソ…!お前がいっつも旨味だけ奪ってくから…!」


 悠馬のことを罵る通。


 旨味を奪っていくと言うのは、夕夏や朱理、花蓮のことと、今日の文化祭の逆ナンパの出来事を言っているのだろう。


 通にとっては羨ましくて堪らない出来事だった。


「いや、今日のは全部お前の失敗だからな?俺何もしてないからな?」


 今日の失敗まで自分のせいにされてたまるか。


 悠馬たち3人は、第6高校の女子にナンパをされてから、度々女子たちに声をかけられた。


 そしてその都度、通は失言をしまくって女子から距離を置かれたのだ。


 これにおいては、悠馬や八神のせいではない。


 純粋に、通のセンスの問題だ。


「うぐ…」


「そんなことよりやっぱ俺は、隣のクラスの碇谷と真里亞さんがデートしてたことに驚きだったな」


「俺は南雲と湊さんかなぁ…」


 通のねちっこい嫉妬話は置いておいて、話題転換をする八神。


 彼の話す内容は、文化祭で屋台を回っている最中に見かけた、碇谷と真里亞というカップリングだった。


 Cクラスで絶大な人気を誇る真里亞と、Bクラスで特に目立ちもしない碇谷。


 そんな、天と地ほど離れた存在の2人が2人きりで歩いていたのだから、八神が驚くのも当然のことだ。


「まぁ、荷物持ちだと思うけどな…」


 こんなことは前にもあった。


 夏休みのバーベキューの時、重い荷物を運ぶために呼ばれたであろう碇谷は、それをデートだと勘違いし大はしゃぎしていた。


 あの時の間抜けな碇谷を思い出した悠馬は、鼻で笑いながら、どうせ今回も荷物持ちだろ。と判断する。


 碇谷と真里亞は、見てくれからでも釣り合わないし。


「いや、それなら湊さんと南雲もないだろ…」


「まぁ、あの組み合わせは意外性の塊だよな…」


 一度聞いたことのある、碇谷×真里亞という組み合わせは、前回と同じく荷物持ちだろうと判断できるが、湊×南雲という噂は聞いたことがない。


 男嫌いの湊と、女とつるまない南雲という、ありえない×ありえないのペアだ。


 湊の過去を知っている悠馬からすればなおさら、何を考えているのかわからない。というのが率直な感想だった。


「女なんて、そんなもんだろ。口では男嫌いって言っても、結局好きな男見つけて裏でイチャイチャしてんだよ。ケッ」


 今日も失言続きで彼女が出来なかった通は、嫉妬に染まりながら吐き捨てるように呟く。


「ま、考えても仕方ないな。どうせ付き合ったら話題に上がるだろうし、それ待とうぜ」


「そうだな」


 本人がいなければ妄想はできるが、結論はいつまでたっても出てこない。


 付き合っているのか、付き合っていないのかが争点の今、答えは真っ二つに分かれるのだから、答えは本人のみが知る。


「お、おいおい!誰かと思えば、暁じゃん」


 ちょうど話を終えた3人。


 そんな3人のうちの1人、悠馬に声をかけてきたのは、前の席に座る男だった。


 胸元には、Ⅶという数字が記されているため、第7高校の生徒であることは間違いなし。


 加えていうなら悠馬の知り合い、言葉を交わした第7の生徒といえば、片手で数えられる程度しか存在しない。


「松山覇王…」


 振り返った男の姿を見た悠馬は、めんどくさそうな表情で名前を呟く。


 覇王の性格と悠馬の性格は、相性が悪い。


 覇王の性格は、通を劣化させたような、通をさらに調子に乗らせて、そこにレベルを上げたようなものだ。


 自信過剰だし、ナルシストだし、ワガママだし。


 通と関わるのですら若干面倒だと思っている悠馬にとって、覇王はあまり関わりたくない存在だった。


 加えていうなら、覇王は花蓮を狙っているため、悠馬をライバル視している。


 あまり関わったことがないというのに、こうして今絡まれているのが何よりの証拠だ。


「ハッ、お前ら出し物はいいのか?このままだと、お前らは第7にボロ負けだぜ?弱小高校だな!」


「ぬぁにをぉ!」


 自分たちの出し物に自信がある覇王は、第1の出し物をバカにしたような発言をする。


「俺らの出し物に比べたら、お前らの出し物なんて茶番なんだよ!今回の勝ちは貰ってくぜ」


 覇王の煽りに反応した通を、面白がってさらに煽る。


 八神と悠馬はというと、白い目で2人を見ていた。


 救いようのない2人の低次元な争い。


 小学生の煽り合いのような幼稚な光景は、2人の高校生にとっては茶番すぎた。


「俺らの出し物は売れ行き順調なんだよ!弱小なんかじゃねえ!」


 出し物をバカにされ、納得のいかない通。


 まぁ、ドーナツ屋さんという案は通が出したわけで、それをバカにされれば怒りもする。


「悔しいか?暁、悔しくて何も言えないだろ!はははっ!」


 悠馬が白い目で見ているのを、悔しくて何も言えないと思い込んでいる覇王はやけに嬉しそうに笑う。


「いや、お前の実力じゃないだろこれ」


「へ…?」


 覇王たちのクラスの出し物は、花蓮のライブだ。


 つい先ほど、八神と通と3人で確認をした悠馬は、覇王のクラスが他の出し物をしていないことをきちんと見ていた。


「え?お前なんかしたの?」


 観客席に座っているということはつまり、花蓮のライブでは何もしないということになる。


 覇王は準備をしたのかもしれないが、これから先は、完全に花蓮に任せっきりの状態なのだ。


「し、したぞ!水買いに行ったり、冷房の温度調節したり!」


「……それはパシリだろ…」


「うぐぐ…!」


 特に何も働いていないことが発覚した覇王。


 先ほどまで俺らなどと言っていたが、多分まともに働いているのは花蓮くらいだろう。


「まぁ、俺に勝ちたいなら、来年の異能祭のフィナーレまで待つことだな、覇王クン」


 何も言い返せない覇王を見てバカにしたような笑顔を浮かべた悠馬は、やれやれと両手を動かし、視線をステージに戻す。


「フィナーレまでなんて待ちきれねえ…俺はフェスタに出るぞ!」


「ん?」


「は?」


 勢いよく立ち上がった覇王。


 馬鹿げた話を始めた彼を見つめる3人は、大丈夫かこいつ?頭打ったのか?と言いたげな表情だ。


 フェスタに出場できる選手というのは、基本島内の投票によって決まるものである。


 代表選手は総勢で5名、その全てが人気投票で決まるため、いくら出たいと言おうが、投票をされなければ出場機会は得られないのだ。


 つまり嫌がらせやおふざけで投じられた票は、大抵無意味な票になってしまうことになる。


 そのことを知っているのかはわからないが、出場する気満々の覇王は、早くもフェスタで悠馬との再戦を望んでいるらしい。


「フェスタって投票で決まるんだぞ?」


「ん"ん"?」


 どうやら知らなかったらしい。


 一応、というか、確認のためにそう告げた悠馬は、驚きを隠しきれていない覇王を見てため息を吐く。


「これ以上恥をかく前に、黙って前向いて座ったほうがいいぞ」


 競ってもないのに勝ち誇った顔しているし、大して働いていないし、なんの確認もせずに自信満々な発言をするし…


 これを恥と言わずして、なんというのか。


 大抵の人なら、最初の方で口を噤んでいてもおかしくはないが、ベラベラと恥の上塗りを重ねていく覇王。


 悠馬に指摘されようやく恥ずかしさを感じたのか、顔を赤くした覇王は黙って前を向く。


「なんだよこいつ?新手の構ってちゃんか?」


 黙り込む覇王に、死体蹴りを入れる通。


 まぁ、通と八神は完全なとばっちりのため、煽られた通が死体蹴りをしてもなんとも思わないが。


「シッ!もうすぐライブが始まる!」


 通の死体蹴りを止め、周囲を静かにした八神。


 いつになく真剣な表情の八神がそう呟くと同時に、ステージの幕がゆっくりと上がり始めた。


 第7高校1年生の出し物、花蓮と由希奈のライブのスタートだ。



 ***



「ふぅん、やっぱ花蓮はセンスいいね〜!写真撮る?」


「あ、どうも…」


 時刻は19時過ぎ。


 文化祭も終了し、明日は片付け。明日の朝には投票の結果発表が控えた現在、悠馬の寮は騒がしいことになっていた。


 黒髪水色目の女子生徒が、悠馬に肩を寄せながら写真を撮る。


 それは何かの撮影会さながらのワンシーンだ。悠馬はちゃっかりピースをしてツーショットを撮っている。


 一部のファンが見たら、発狂してしまうこと間違いなしだろう。


「ちょっと!由希奈近い!もう少し離れなさいよ!」


「いいじゃん!花蓮が歌詞忘れた罰よ」


「うぐ…」


 悠馬に密着する由希奈を叱る花蓮は、由希奈の反撃を受けて黙り込む。


 花蓮と由希奈のライブは、無事に終了した。


 しかしながら花蓮は宣言通り、ライブの途中で悠馬を発見してしまい、歌詞をど忘れしてしまったのだ。


 そこは由希奈がなんとかカバーしたのだが、彼女はそのことを言っているらしい。


「ねぇ、王子様、花連のこと好き?」


「え?うん、好きだよ」


「どこが好き?」


「顔も性格も、全部好き」


「ちょ、由希奈…!本当にやめて!恥ずかしい!恥ずかしすぎるの!」


 花蓮が黙ったのをいいことに、好き放題な質問を始める由希奈。


 悠馬の受け答えを全て聴き終えた花蓮は、耳まで真っ赤にしながら由希奈を止めに入る。


「…ていうか、これどういう状況なの?」


 よく状況を飲み込めていない悠馬。


 その原因は、数分前にさかのぼる。


 悠馬は通と八神とライブを見終えた後、そのまま帰路に着いた。


 元々目ぼしいところも、行きたいところも考えていなかった悠馬は、寮へと帰ったのだ。


 そして寮にたどり着いた時の時刻は、17時近く。


 少し眠くなった悠馬は、夕夏や朱理が帰ってくるまでの間に寝ようと考え、睡眠に入ったのだった。


 そして現在。


 インターホンの鳴り響く音で目を覚ました悠馬が扉を開けると、花蓮と由希奈が立っていた。


 流れで寮に上げてしまったものの、なぜ由希奈がここにいるのかわからない悠馬は、不思議そうな表情を浮かべている。


「あの…ほら、私ってアイドル活動やって行く上で、悠馬の話をしてるわけじゃん?」


「あ、ああ…」


 花連の王子様の話。


 赤裸々な過去を思い出した悠馬は、頬を赤らめながら目をそらす。


 悠馬にとっては、美化されすぎた黒歴史と言ってもいいだろう。


「まぁ、それで当然、私は由希奈と2人でアイドルやってるわけだし、悠馬の話をいつもしてたの」


「そうなんだ…」


 要するに、花蓮が色々と美化してしまった上に、よく王子様の話をするから、容姿が気になってここまで来たということだろう。


「花蓮がジャ◯のメンバー振った時は、王子様のハードルかなり上がったけど、これは納得かも!」


 ジャ◯!?


 初耳の情報に目を白黒とさせる悠馬は、まさか花蓮が国民的アイドルグループの誰かに告白されているなどとは知らずに、心臓を跳ね上がらせる。


「だ、大丈夫よ!ちゃんと振ったから!アンタは安心してていいの!由希奈も余計なこと言わないで!」


「えー?でも、そういうことは話しといたほうがいいと思うよ?」


 いくら過去の話といえど、男というのはそういう話を他人から聞くと、もしかして隠してたんじゃ…やましいことがあるんじゃないか…と、疑り深くなってしまう。


 小心者と言ってもらっても構わないが、本当に心配しているからこそ、疑り深くなるのだ。


「悠馬、私の全部、知りたい?」


「知りたいです」


「うわー、花蓮、意味深な言い方しちゃってさぁ?ここはカメラが入ってこない空間だけど、変なことして私まで巻き込まないでよ?あ、私たちもうすぐ解散するんだっけ?」


「意味深じゃないわよ!」


 文◯砲がいつあってもおかしくない世の中。


 記者にスクープされる前に王子様と再会したと発表し先手を打った形になった花蓮だが、夜の営みなんかがスクープされた際には、大炎上不可避だ。


 当然、同じ名義で活動している由希奈にも迷惑がかかる。


「え?花蓮ちゃんアイドルやめるの?」


「高校までしかやらない。最初から決めてたことだしね」


「うんうん、私たち、そういう契約でアイドルやってたからね〜」


 アイドルの寿命というのはかなり短い。


 正直な話、短いと言っても高校でスッパリやめずとも続けて行くことは可能なのだが、どうやら2人は、高校卒業と同時に引退することを最初から決めていたようだ。


「まぁ、ユウマくん、花蓮をよろしくね?花蓮、君のこと本気で好きすぎて、毎日報告してくるくらいだから」


「もう!やめなさいよ!バラさないで!」


「それじゃー!船の時間近いので帰りまーす!」


「待ちなさいよ!」


「えっ、あ!?」


 嵐のように現れた由希奈は、嵐のようにして去って行く。


 わずか十数分の出来事。


 花連の気持ちの再確認と、そして花連の友人の性格を知った悠馬は、ドタドタと2人が去って行った寮内に1人取り残された。


「ええ…ぼっち…?」

友人が帰った後の家って、なんだか寂しくなりますよね…

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