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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
文化祭編
163/474

朱理と花蓮はデート中

 始業式が終わり、2学期がスタートしてから初めての土曜日。


 平日の昼間は授業、放課後は文化祭の準備といった風に、異能島の学生の平日は、今月に限ってはかなり忙しい。


 土曜の朝10時だというのに賑やかに行き交う学生を見る限り、きっとみんな休日は羽目を外したいと思っているのだろう。


 ここは噴水広場前。


 悠馬が異能祭の時、朱理をずっと待っていた場所であり、そして悠馬と花蓮が初めてのデートで待ち合わせ場所に選んだ空間だ。


「よし」


 金髪の髪を靡かせ、少しラフ目な格好をしている少女。


 ボーイッシュな格好というか、今日はデニムを履いていて、女らしさはあまり感じられない。


 所持していた携帯端末の内カメラを起動し、笑顔の確認を終えた少女、花咲花蓮は、今日は完全オフのご様子だ。


 ピアスやネックレスといった装飾もしていないあたり、可愛さよりも清楚さを選んでいるようにも感じる。


 あざとさの一切を捨てた格好だ。


 花蓮が笑顔の確認を終えると同時に、噴水広場に黒髪の人物が現れる。


「…髪、なっが…綺麗…」


 花蓮が彼女に抱いた第一印象は、綺麗な人。昔のお姫様。


 きっと、十二単でも着せたら、タイムスリップしてきたと誤解されるクオリティのお姫様になるはずだ。


 それほどに、黒髪の少女は美しく見えた。


「これは悠馬も…いや、誰だって惚れるわね」


 これに惚れるなと言う方が無理だ。


 夕夏とはまた違う質の可愛いさ。


 なんだか妖しい雰囲気を纏っているような気もするが、悠馬に近い何かを感じる。


 休日だと言うのに第1の制服姿で現れた彼女は、花蓮に気づくと真っ直ぐに歩み寄ってくる。


「初めまして。花咲さん…ですよね?」


「うん、初めまして、朱理ちゃん」


 初めての対面。


 夕夏や悠馬から話は聞いていたものの、実際に会うのは初めての花蓮。


 そんな彼女は、ニッコリと笑みを浮かべる朱理を見て、頬をフニフニと触る。


 なんだか、すっごく悠馬に似てる気がする。


「いひゃいれす…」


「あ、ごめん!悠馬みたいな表情するから、可愛くてつい…」


 夕夏とは違った、少しとっつきにくそうな雰囲気ではあるものの、おとなし目の人物であるようだ。


 悠馬からはちょっと情緒不安定かも?などと聞かされていたため、拍子抜けだ。


「それじゃあ、ショッピングモール行こっか?」


「はい♪」


 今日のデート先は、ショッピングモール。


 まぁ、お出かけと考えれば、大抵の生徒はこの結論に至ることだろう。


 ご飯も食べれるし、映画も見られるし、基本的に何のお店でもある。


 花蓮の誘いに元気よく頷いた朱理。


 彼女は僅かな所持金を手に、電車へと向かう。


 なぜお金がないのかは、考えてみればすぐにわかるだろう。


 父親の宗介が逮捕され、元々お小遣いなど貰っていなかった朱理は、夏休みだけ総一郎の家でお世話になった。


 そして現在、特例で異能島への入学が決まった彼女が遊べるほどのお金を持っているわけもなく、少ないお金で生活することを余儀なくされている。


 その金額はたかが知れている。


 しかし、夕夏にも悠馬にもそんな相談ができない朱理は、お金が少ないと言う真実を隠し生活していた。


 だから朱理は今日まで、友人に遊びに誘われても、適当な言い訳で回避してきた。


 朱理にとっては、悠馬と居る時間だけで十分であって、その生活に不満など微塵も感じていないから。


 しかし今回は違う。


 悠馬の1番最初の恋人であり、超人気モデルの花咲花蓮とのデート。


 貧しいアピールなどは今後の評価に関わるかも知れないと、朱理は今回のデートで出し惜しみをしないと決めていた。


 電車に乗り込み、お互い無言のままショッピングモールへと向かう。


「あ、あのさ?朱理ちゃん?」


「はい?朱理で結構ですよ」


 ついに口を開いた、花蓮。


 花蓮も花蓮で、朱理に対して慎重に言葉を選んでいた。


 嫌われないように様子を伺いながら、当たり障りのない質問をしなければならない。


 初対面で嫌われることを避けたい花蓮は、雑木林の中を歩きながら微笑みかける。


「それじゃ、朱理、朱理は悠馬のどこが好き?私のことも花蓮でいいわよ」


「では花蓮さん。私が悠馬さんを好きになった理由は…そうですねぇ、言うならば、全て、ですかね」


「全て?」


「存在そのものが好きと言いますが、細胞1つ1つまで好きです」


 朱理の言葉を聞いて、硬直する花蓮。朱理は笑顔で花蓮を見つめていた。


 悠馬の言った通り、朱理は少しやばい人なのかも知れない。


 どこが好きかと聞いて、細胞1つ1つという答えが返ってくるとは思っていなかった花蓮は、口元に笑みを浮かべながら感情を失っている。


「…すみません。人を好きになるのは初めてで…こんな感情を抱いたことがなかったので、何と答えれば良かったのか、わかりません」


「そ、そうなんだ!変な質問しちゃってごめんね!」


「いえ。逆に花蓮さんは、悠馬さんのどこに惚れたんですか?」


 続いて、朱理のターンだ。


 朱理からすると、引く手数多と言われている超美人モデル兼アイドルの花咲花蓮が、一般人の悠馬と付き合っている方が謎だった。


 普通なら、近い職業のジャ◯ーズなんかと付き合うんじゃないの?というのが、朱理の素直な気持ちだ。


 わざわざ悠馬に固執する必要性を微塵も感じない。


「私はずっと前から悠馬のこと知ってたからさ。ピンチの時は必ず助けに来てくれるとことか、本当は自分だって怖いのに、励ましてくれるとことか。そういうところが好き」


「わかる気がします」


 最近、似たような出来事に直面した朱理は、納得したように深く頷き、花蓮の手を握る。


「花蓮さん、私、悠馬さんに少しでも恩返しがしたくて、何かプレゼントをしたいんです。出来れば簡単になくならないような物が良いんですけど」


「なるほどね。悠馬にお礼がしたいんだ?おっけ!私に任せて!」


「ありがとうございます♪」


 可愛らしい朱理の笑顔を見て思わず頭を撫でてしまった花蓮は、我に返り謝罪をすると、ショッピングモールへと朱理を連れて行く。


 目的地に入ると、休日ということもあってか、かなりの賑わいを見せている。


 カップルでデートをしたり、友達同士ではしゃいだり。


 同い年の学生を学校の外で見たことのない朱理からすれば、初めて見る光景だ。


 本土にいた時は、暮戸に軟禁されていた為、ずっとひとりぼっちだった。


 だが今は目の前に、たくさんの生徒がいる。


 様々な私服を着た生徒たちが。


「すごい…皆さんオシャレですね」


「あはは。休日は制服着てる方が珍しいからね」


 休日でも制服を着ている生徒といえば、昼から部活〜とかいう理由で、遊んだ後直で学校に行ったり、学校に行った後〜という人がほとんどで、朱理のような常時制服という学生はほぼいない。


「寮に洋服はあるの?」


「いえ…夕夏のはあるんですけど…胸が厳しいんですよね…私服はボロボロで、夕夏に着て行くなと言われました」


 そう言われて、朱理の胸元を見る花蓮。


 確かに、この胸は夕夏よりも大きいし、少しきついかもしれない。


 しかし、私服がボロボロなのはすごく可哀想だ。


 朱理の境遇をほんの少し知っている花蓮は、彼女がこの環境にも戸惑っているのではないかという不安を抱く。


 きっと、1人で心細かったはずだ。


「ゆっくり慣れていこうね。私が側にいるから」


「花蓮さんは、悠馬さんと同じことを言ってくれるんですね。嬉しいです」


 少しだけ、肩の荷が下りた気がする。


 花蓮の優しい一面を見た朱理は、胸の奥が温かくなるような安心感に包まれ、安堵する。


「私、夕夏に負けないくらいオシャレな服も欲しいです」


「よし!なら私も、今日は本気でいこうかしら!」


 それから花蓮は、自身がモデルとして培った今年の流行の傾向や、クラスメイトたちのオシャレ事情を思い出しながら、朱理に服を勧めていく。


 今の季節は夏物が大安売り。


 来年の夏のために、ハイウエストやオフショルなど、最近話題の服を購入していく。


「朱理はワンピースが似合いそうね。…というか、どの服も似合うのよね…」


 着る服着る服が似合いすぎて、正直困る。左右で瞳の色が違うせいか、イマイチだなーと思った時は隠れている方の瞳を見せるようにしたら似合うし、服を着せれば何でも似合ってしまう。


 正直、なんでもアリ状態だ。


 服が選びきれない。


 花蓮は困った表情で、美哉坂家の朱理と夕夏の美貌が卑怯すぎると嘆きながら、服を着せていく。


 結局夏物を6着と、秋物を8着買い、朱理がこれ以上は重いので次回。と言ったこともあり昼休憩に入った。


 2人で服選びに盛り上がっていたということもあり、時刻はすでに14時を回っていた。


 少し遅いお昼のお時間だ。


 昼のピークも過ぎたのか、待ち時間もなくレストランの中に入れた。


 そこは安いレストランだ。普通の学生たちがたむろするような。


 そんな場所、普段の花蓮なら絶対に行きたがらないのだが、今回は朱理がここが良いというので、渋々中へと入っていた。


 なぜ花蓮がこういうところを好まないのか。


 普通の学生なら、喜んでレストランに入るだろうし、味も平均的なため、舌に合わないという可能性も低い。


 ならばなぜ、花蓮がこういう空間を好まないのか。


「うお、花咲花蓮じゃん。お前連絡先聞いてこいよ!」


「金払ったら教えてくれるかな?」


「一緒にいる女も可愛くね?俺連絡先聞いてくるわ」


「ねえ、良かったら連絡先教えてくれない?」


 グループで騒いでいた男子たちが、花蓮の存在に気付き、口々に騒ぎ始める。


 花蓮はこうなるのが嫌で、面倒だからいつも高いレストランを選ぶのだ。


 そうすれば、その辺のマナーを弁えた学生がほとんどだし、群れで近づいてくる輩なんてほとんどいない。


 軽いノリで連絡先を聞き出そうとしてくる男子たち。


 彼らを見つめる花蓮の眼差しは、冷ややかなものだった。


 朱理からすれば、きっとどこの店も初めてで、人が賑わっているところに行って見たかったのだろう。


 しかし人が多いということはつまり、裏を返せば誰でも来るというわけで、民度というものが非常に低い。


 極端な話、常識のない奴らが多いのだ。


 ギャーギャーと騒ぎながら、ナンパを始める男たち。


 飲食店に入ったというのに、注文をするよりも先に、注文していない輩がやって来るというわけのわからない状況だ。


 呆れた様子の花蓮は、笑みを浮かべることなく、近づいて来る男たちを見つめる。


 容姿ですら、悠馬の足元にも及ばない。


 低レベルな奴らだ。


「あの…」


 花蓮が何かを言おうとした、その直後。


「すみません。貴方方とは友達になりたくないので連絡先は交換したくないです」


「え?」


 にっこりと笑みを浮かべ、受け答えを始める朱理。


 受け答えというか、火の玉ストレートが飛んで行った。


 軽い気持ちで連絡先を聞こうとしていた男子たちも、まさかこんな返答が来るとは思っていなかったのだろう、唖然としている。


「聞こえなかった?さっさと失せろって言ってんだよ。二度とその汚ねえツラ見せるんじゃねえぞ」


 ちょっと、朱理さぁん?


 和やかな表情で、暴言を吐き捨てる朱理。


 そんな彼女の姿を見た男たちも、花蓮もドン引きだ。


 玉砕した男たちはそのまま、大人しく去っていく。


「ふぅ。さすがは悠馬さん。変な男に絡まれた時の受け答えを教えてもらって正解でした」


「ちが…違う違う!朱理、それは絶対ダメ!」


 悠馬は一体、何を教えてるんだ。


 男に絡まれた時の対処法、というか、今の対応をすれば、近いうち朱理は襲われること間違いなしだ。


 悠馬が朱理を守りたい気持ちはわかるが、行き過ぎた行動は、周りから非難の対象になってしまう。


「いい?こういう時の対処法は、夕夏に聞くの!悠馬は信用できないから!」


 悠馬だけは絶対にダメだ。


 朱理の受け答えを見た花蓮は、少なくともそれだけは断言できると、朱理の肩を掴み話す。


「そう…なんですか?でもさっきの方々は…」


「ダメ!変な男だと、ナイフ持って追いかけて来たりするから!」


「なるほど。それは物騒ですね」


 頭を抱えるように、困った表情で朱理を止める花蓮。


 悠馬は絶対、あとで指導だ。


「はぁ…悠馬って本当にバカ…どんだけ過保護なのよ…」


「あ、ところで花蓮さん、お昼は何にしますか?」


「そうだった…そうだったわね…」


 お昼をしに来たんだった。


 ようやく本題を思い出した花蓮は、朱理と向き合い、そして微笑み合う。


「朱理となら仲良くなれそうな気がする」


「奇遇ですね、私もです」


 色々ツッコミどころはあったが、互いに互いの性格を知れた、貴重なひと時。


 朱理がどういう人物なのかを知れた花蓮は、嬉しそうに笑った。


 朱理の所持金はほぼカラになってしまったが、このあと悠馬へのプレゼントを購入し、その日のうちに購入したプレゼントを悠馬へと贈った。


 それから三日三晩、悠馬は嬉し過ぎてにやけていたという。

ナンパをされたら中指を立ててきっちりと断りましょう。

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