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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
文化祭編
160/474

来ちゃいました♪

 第3学区ビーチ横。


 4つの寮が四角系に固まる中の1つ。


 オレンジ色のライトが照らす室内には、1人の男子と、1人の女子の姿があった。


「朱理…来るなら来るって、事前に連絡して欲しかったな…」


 朱理の突然の転入。


 悠馬は朱理と付き合っているというのに、彼女が異能島へ転入して来ることを知らされていなかった。


「あは♪悠馬さんに会いたくて、来ちゃいました♪」


「もぉ〜、可愛いなぁ朱理〜」


 会いたくて来たと言われて、照れる悠馬。


 好きな人に、可愛い女の子に会いたかったと言われれば男子なんてイチコロだ。


「学校はどうだった?」


 オレンジ色のライトの光が、ほんの少しだけ2人を暖かく包み込む。


 彼女へと手を伸ばした悠馬は、擦り寄ってきた朱理を抱き寄せ耳元で囁く。


「まぁ…思っていた学校とは違いました。私の想像では、みんなが仲良くしている=学校みたいなイメージだったので」


「あはは…」


 まるで飼い主に撫でられるペットのように、悠馬に嬉々として撫でられる朱理。


 彼女は入学早々、異能島の洗礼を受けていた。


 それは加奈の一件だ。


 イメージ通りなら、みんなが仲良くしていると思っていた学校で、みんなが1人の生徒をハブっていることに衝撃を受けたらしい。


 まぁ、それは朱理が真っ先に話しかけたことによって少しは和らいだのだが、それでも加奈がクラスで浮いていることには違いない。


「でも、朱理が真っ先に赤坂の方に行ったから、何をするのかヒヤヒヤしたよ」


 自分を汚した、親の人生をめちゃくちゃにした人物の娘と対峙すれば、誰だって感情を抑えきれなくなるものだ。


 だからこそ、悠馬は朱理の大人の対応に驚いた。


 悠馬だったら絶対に抑制できない。


「加奈さんは…なんというか、暮戸とは違いますから」


「そっか」


「ところで悠馬さん、私嫌いな人が出来ました」


「んんんんん?」


 朱理の不意な発言。


 彼女のサラサラの長い黒髪を手櫛していた悠馬は、想像していなかった言葉を聞いて首をかしげる。


 入学早々、嫌いな人が出来た。


 悠馬は真っ先に、自分が嫌われたんじゃないのか?という不安に襲われる。


 なにしろ悠馬と朱理はというと、異能祭で数時間のデートをしただけの関係。


 悠馬は自分の表面しか朱理に見せていなかったし、暮戸の一件の時だって、吊り橋効果に限りなく近い状態で告白をしている。


 つまり、完全に何もない、なんのイベントも起こっていない冷めた状態で悠馬のことを見たら、あれ?私ってなんでこんな男のこと好きになったんだろう?と疑問を抱いてもおかしくないのだ。


 もしかすると学校生活を覗かれ、失望されたのかもしれない。


 そんな不安を抱いた悠馬は、徐々に早くなる自身の心音と、そして血の気のなくなっていく身体で手を離そうとする。


「心音、早くなってません?」


 悠馬の異変をいちはやく察知した朱理。


 身体を密着させていたということもあってか、鼓動が早くなっていることに気づいた朱理は、まるでおちょくるように、ジトっとした瞳で悠馬を見る。


「嫌いになったって、俺のこと…?」


 恐る恐る、質問をする悠馬。


 嫌われるようなことをした記憶はないのだが、それでも不安な悠馬は、瞳を反らしながら尋ねる。


「あは。なるほど…悠馬さん、見かけによらず心配症なんですね」


「誰だって不安になるだろ…」


「可愛いです。よしよし。私は悠馬さんのことを、嫌いになんてなりませんよ」


 不安そうな悠馬の手を引き、次は朱理が悠馬を抱き寄せる。


 優しく頭を撫でられた悠馬は、力を失ったように朱理の全てを受け入れる。


「誰が嫌いなんだ?」


「私の周りに来た女の、えーっ…茶髪の地味目の…」


「そいつはモブだから気にしなくていいよ」


 茶髪の地味目女子。


 Aクラスの女子といえば、夕夏、美月、美沙、加奈、藤咲、湊、愛海、夜葉、アルカンジュが代表として挙げられるものの、その他の女子は大抵モブ。


 夕夏や美月について周り、大義名分を掲げてないと生きていけないような、言わば集団じゃないと生きていけない寄生虫みたいなものだ。


 だから名前を覚える必要もなければ、関わる必要もない。


 男子からは地味子、パシリなどと呼ばれ、疎遠にされている存在たちだ。


 なにしろ彼女たちは性格が悪い。


 先程も言ったが、彼女たちは大義名分を掲げると、自身たちが間違っていたとしても徹底的に袋叩きにしてくる。


 そんな女子とは関わりたくないに決まっている。


「口ぶりからするに、悠馬さんも良くは思ってないんですか?」


「うん。名前知らないし…朱理がアレのこと嫌いな理由は、加奈の悪口言われたからだろ?」


「はい。犯罪者とは関わらない方がいいよ。と言われました」


「ドギツイなぁ…」


 加奈の前では言わないくせに、裏では朱理に言ったような言葉を言っているのだから、女というのは本当に怖い。


 朱理は友達のことを悪く言われ、そのことが気にくわないのだろう。


「あ…それと悠馬さん、私に常識を教えてください」


「そうだった」


 今まで鳥籠の中で過ごして来た朱理は、常識というものを知らない。


 今日の始業式だって、堂々と携帯端末を使って注意されるほどだ。


 総一郎に任せれば大丈夫だろう、冬休みにはきっと常識を全て覚えている。などと思っていたが、流石にわずか数週間では間に合わなかったらしい。


「教えるよ。でも、長くなるかもしれないから…朱理の寮まで連れてってくれる?」


 一般的な常識を、どこまで知っているのかもわからない現状。


 そこからスタートとなれば、当然時間は掛かるし、帰りも遅くなる。


 自分の寮よりも、朱理の寮で教えた方が帰りの心配もしなくていいと判断した悠馬は、さりげなく朱理の寮の場所を聞こうとする。


「え?ここですよ?」


「んん?え?は?」


 何を言っているんだ?と言いたげな朱理と、何を言っているのかわからない悠馬。


 2人の間に数秒の沈黙が走り、悠馬は叫び声をあげた。


「え?同居!朱理と俺!?」


 彼女と同居。


 夕夏とは半同居のようなものだが、自身の寮に彼女が1人増えるとなると、話は変わってくる。


 嬉しさと緊張のようなものを感じながら、悠馬は頬を緩める。


「正確には、夕夏の寮ですが…」


「ああ…そうだよね…うん」


 知ってたよ。知ってたさ。知ってるに決まってるよ。


 これから毎日、朝は朱理が起こしてくれて、制服への生着替えを覗け、一緒に登校する。


 そして下校は、一緒にアイスクリーム屋さんに寄ったり、クレープ屋さんに寄ったり。


 そんな淡い期待を、そんな夢を思い浮かべていた悠馬は、あからさまに凹んだ様子で頷く。


「でもまぁ、悠馬さんがここに泊まっていいと言うなら。私に身体を委ねてもいいんですよ?」


 全身を包むように、朱理の柔らかな感触が伝わってくる。


 耳元で悪魔の囁きをした朱理は、ゾクっと震える悠馬を見て嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「し…しばらく泊まってくれても…」


「あは♪ありがとうございます」


「でも、その前に話とかないといけないよな…」


 今晩は朱理とお泊まり会。


 そんなご予定が決まったところだったのだが、悠馬はある重要な話をしていないことを思い出し、渋そうな顔で朱理から手を離す。


「話したくないのなら、話してもらえなくても結構ですよ。そうですね、きっと悠馬さんは、闇堕ちした原因でも伝えたいんでしょう?」


「うぐっ…」


 図星をつかれた悠馬。


 1番重要な話、何故自分が反転しているのかを伝えていなかったことを思い出した悠馬は、朱理と付き合い始めてから数週間が経過しているため、今更伝えるのに少し罪悪感があるようだ。


「私だって、ほら、闇堕ちですから」


 闇の異能を手のひらに出し、微笑む朱理。


 彼女が闇堕ちしている原因は、ほぼ間違いなく暮戸のせいだろう。


 朱理が闇堕ちだということを知っていた悠馬は、美月も闇堕ちだし、自分も闇堕ちであるため、大して驚きもしない。


「俺…は。端的に言うと、暁闇なんだ」


「でしょうね。普通に考えれば、すぐにわかりますよ?逆に隠せてるつもりだったんですか?」


 思い切って真実を告げた悠馬。


 そんな悠馬に対して、朱理は冷めた様子で、何を今更…と言いたげに罵ってくる。


 朱理の態度は、当然の結果だ。


 朱理は他の異能島の学生と違い、悠馬が闇の異能を使うところも、宗介を倒すところも目撃している。


 宗介といえば前総帥候補であり、たかが学生、子供ごときが倒せる相手でないことは、誰だって分かることだろう。


 もし仮にそんな芸当ができる人物がいるとするなら、それは暁闇くらいだ。


 闇堕ちをしていて、総帥と同等の実力を保持している。


 そんなヒントが出されてしまえば、誰だって暁闇という答えにたどり着くことだろう。


「うぐぐ…」


「っ…悠馬さん、やっぱり貴方は最高ですね。反応は可愛いですし、容姿はかっこいいですし♪あ〜、愛しています」


 朱理の冷たい言葉を聞いて、思い切って打ち明けたのに…と半泣きの悠馬。


 そんな悠馬を見て可愛いと思った朱理は、悠馬をそのまま押し倒し抱き枕のようにして両手を回す。


「俺、今割と重要な話したはずなんだけど…」


「私にとっては些細なことでした。なんの問題も、心配もいりませんよ♪」


 悠馬の過去など、どうでもいい。


 悠馬の過去がどんなものであろうと、どんな人物であろうと、朱理の心はすでに決まっていた。


 この人と生涯添い遂げたい。


 そんな気持ちを抱く朱理のことなど知らない悠馬は、安堵していた。


 朱理にも受け入れられた。


 美月や花蓮、夕夏には受け入れられたものの、朱理はどうなるかわからない、拒まれたらどうしよう?などという恐怖をほんの少し抱いていた悠馬は、頬を赤らめながら朱理に触れる。


 このままキスでもしてしまおうか?


 ゆっくりと顔を近づける悠馬に、瞳を閉じる朱理。


「…朱理、帰ってこないって思ってたら…ふーん?抜け駆けしてたんだ?」


 2人のキスを妨害する、冷ややかな声。


 その声を聞いた2人は、ピタリと動きを止めて、声の主人の方向を見る。


「あら。夕夏。来てたんですか」


「来てたも何も、さっきからノックしてたんだけど」


「ご、ごめん…重要な話をしてて…」


「ふぅん?重要な話、ね?」


 あからさまに不機嫌な夕夏。


 夕夏は少しは嫉妬もしているが、それ以上に朱理のことを心配していたのだ。


 今日いきなり転校して来て、同じ寮で生活をしていくはずなのに、中々帰ってこない。


 誘拐されてたらどうしよう?襲われてたら?事件に巻き込まれてたら?


 そんな気が気でない常態で、夕夏は朱理を待っていたのだ。


 そんな朱理が、隣の寮で彼氏とイチャイチャしてたら、果たしてどう思うだろうか?


「私も混ぜてよ!お詫びとして!」


 従姉妹丼。


 朱理の間に割り込むようにして飛びついて来た夕夏は、悠馬の肉体に触れると、頬を緩めながら甘い声を漏らす。


「えへへ…久しぶりに悠馬くんに触っちゃった…」


「夕夏…私が先ですよ。私は3週間もこの時を待ってたんですから…」


 夕夏に横取りをされ、むぅっと頬を膨らませる朱理は、負けじと悠馬に抱きつき唇を合わせる。


「あっ…!朱理!ズルイ!」


「んんっ…!ちょっと、やめて!落ち着こう!?ねぇ!」


 これではもう、どっちが襲っているのかわからない。


 逆レイプのような状況になってしまった悠馬は、美哉坂邸でのデジャヴを思い出し、その場から逃げ出そうと這い回る。


「悠馬くん!逃げないで!」


「だって2人とも、俺と一緒にいたらすぐ揉めるだろ!揉めるなら俺はこの場から退散する!」


「揉めませんから!私と夕夏は、すごく仲がいいんですよ?」


「ね〜♪」


 喧嘩をするなら、お触り禁止。


 そんな悠馬の発言を聞いた2人は、本当の姉妹のように手を取り合い微笑んで見せる。


 彼女たちの目は、本気だった。


 本気で悠馬に触りたいと、触らせてもらえるなら揉めないと言いたげな。


「はぁ…約束できる?俺もみんなの気持ちに応えれるように頑張るけどさ…」


 みんなが心の中でどう思ってるのか、何を求めてるのかなんてわかりたくてもわからない。


 そんな時に、彼女同士で揉めないでほしい。


「あと、俺は2人とも、そっちの方がすっごく可愛くて、もっと好きになれるから」


 百合も案外、いいのかもしれない。


 手を取り合う2人を見た悠馬は、そんなバカみたいなことを考える。


 そんな悠馬に悲劇(?)が訪れるのは、僅か数日後のことだった。

今年も残すところあと3時間!良いお年を!

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