表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
文化祭編
159/474

出し物は何?

 始業式の校長の長い話も終わった二限。


 冷房の風が教室内に心地よく吹き渡る中、教壇には2人の男女が立っていた。


 鏡花はというと、教室の角、悠馬の目の前にパイプ椅子を置き、生徒たちの動向を見守っている。


「それじゃあ、文化祭の出し物の意見がある人は手をあげてください」


 司会進行は、クラス委員の夕夏と八神だ。


 美男美女。


 クラスの男女から羨望の眼差しを向けられる2人のクラス委員は、八神が黒板記入を、夕夏が司会進行を。という形になっている。


 今日は3限で授業が終了し、それから各自下校、もしくは部活動といった形の午前中授業だ。


 2.3と文化祭の出し物について話す時間があるため、生徒たちは手を挙げないものの、勝手な意見を出し合っている。


「はい!はいはい!」


「栗田くん、どうぞ」


 勢いよく手を挙げ、猛アピールをする栗田。


 そんな彼を目にした夕夏は、真っ先に指名する。


「メイド喫茶!とかどうですか?」


「お、いいなそれ!」


「それなら頑張るかも!」


「賛成」


 栗田の意見は男子たちに大好評だ。


 その理由は間違い無く、このクラスの女子のレベルの高さが原因しているのだろう。


 このクラスには夕夏や美月、そして美沙といった美女に加えて、朱理という転校生まで加わった。


 そんな可愛い女子たちに、制服以外の衣装を着せるというのは、ちょっとした男のロマンでもある。


 まぁ、男の中でもメイド服がダメなやつはいるし、一概にそうとは言えないのだが、少なくともこの場面に限って言えば賛成者しかいないようだ。


 栗田の意見を援護するように、賛成だ、頑張れるなどと声を上げる男子たち。


「でもそれって、男子何するわけ?」


「そもそも私らメイド服とか着たくないし〜。メイド服見たいなら、メイド喫茶でも行って来なよ」


「俺もお前のメイド服なんか見たくねぇよ…」


「は?なんか言った?」


「何も言ってないよ?」


 一気に雰囲気が悪くなる。


 いつも夕夏や美月について回る金魚の糞、いつメンには属さない輩が栗田へと反論し、栗田もボソッと言い返す。


 彼女たちの個人的な意見は置いておいて、男子が何をするのか?という疑問は一理ある。


 メイド喫茶といえば、基本的に受付からウェイトレスまで女性がするものであって、男子はほとんどすることがない。


 唯一することがあるとするなら、それは料理くらいのものだ。


 しかし考えていただきたい。


 果たして貴方方は、通や栗田、モンジや木下が作ったご飯を食べたいと思うだろうか?


 答えは否だ。


 死んでも食べたくない。


 男子が何をするのかと聞かれた直後に料理が思い浮かんだ悠馬だったが、クラスメイトが料理をしている光景を想像して顔を青くする。


 彼らなら必ず、食中毒になりそうな料理を提供したり、汚いところを触った手で料理をしかねない。


 絶対に無理だ。


 考えてみると鳥肌レベルのメイド喫茶。


 いくら女子の質が良かったとしても、男の料理の質が悪ければそれは成功したとは言えないし、クレームも絶えないだろう。


「ま、まだ候補だから。揉めないで、ね?」


 ヒートアップする場を収める夕夏。


 夕夏が止めに入ったということもあって女子は静かになり、栗田も大人しく席に座る。


「他に何か提案がある人はいますか?」


「はい!」


「アルカンジュちゃん、どうぞ」


 気を取り直して次の提案。


 元気よく手を挙げたアルカンジュを指名した夕夏は、嬉しそうに席を立つ彼女を見てほんの少しだけ微笑む。


「私、文化祭といえば、演劇だって聞きました!」


 文化祭といえば、演劇。


 誰も口にはしなかったものの、一度は脳裏によぎった出し物のはずだ。


 海外から来たアルカンジュにとっては、出店やメイド喫茶なんかよりも、演劇の方が楽しみなのかもしれない。


「ちなみに何の劇の予定かな?」


「考えてません!」


「……」


 夕夏の質問に、ノープランだと即答するアルカンジュ。


 劇で何をするのか決まっているならまだしも、今日から1ヶ月以内に劇の題材、主演の決定、台本の作成からセットや服の準備をやるとなると、到底間に合いはしないだろう。


 そもそも劇と言ったって主演、つまりはメインで出演する人たちは、それなりの文章を覚えなければならない。


 学校で授業を受けながら、部活もしながら演劇の準備をするとなると、かなりの疲労に繋がるだろう。


「ま、まぁ…候補として書いておくね」


 たとえ劇の内容が決まってなかったとしても、メイド喫茶よりはマシだ。


 そう判断したのか、夕夏は八神に黒板記入を任せると、垂直にそびえ立っている手を見つける。


「木下くん、どうぞ」


「美哉坂さんのピアノ演奏とかどうですか?」


「え"っ?」


 木下の想定外の提案。


 彼の意見を聞いて、夕夏は硬直していた。


 確かに夕夏は、ピアノを弾くことができる。


 まぁ、弾けるからと言って決して上手いわけでもないし、少し嗜んだ程度なのだから、習い事をしている人には勝てないくらいのレベルだろうが。


 しかしながら、夕夏は高校に入ってからピアノを弾けるなどと明言したことはなかった。


 つまり美哉坂愛好会の木下は、自力で夕夏のプライベートを調べ上げていたのだ。


 それはもはや、好きというよりもストーカーに近いだろう。


 夕夏はドン引きだ。


「それはないでしょ〜、夕夏1人の出し物になるし」


「それな!私らすることないじゃん!」


「それならバンドとかでよくない?」


「え?この中で楽器扱える人とかいるの?」


 ドン引きしている夕夏のことなど知らずに、会話を掘り下げていく女子たち。


 幸いなのは、夕夏のピアノ演奏でいいや!などという、ふざけた終わり方をしなかったことくらいだ。


「じゃ、じゃあ、バンドは候補に入れとくね?ピアノは却下で」


 ほぼ間違いなく、このクラスで楽器を扱える生徒はいないだろうが、候補には入れておく。


 ピアノは嫌だったのか、夕夏自身が却下と明言したことによって木下は大人しく座る。


「他に何かありませんか?」


「は〜い、はいは〜い!」


「美沙、どうぞ」


 意見が出揃った…というわけではないだろうが、手が挙がらなくなった状態で満を持しての美沙。


 自信満々に手を挙げた彼女は、夕夏に指名されると同時に席を立ち、身を乗り出し提案を始める。


「やっぱ、お化け屋敷っしょ!」


 文化祭の出し物といえば、飲食、演劇、お化け屋敷…そういった類のものが王道とされる。


 しかしながら、お化け屋敷という意見は、あまり出るものではない。


 王道すぎて、誰しも候補から忘れ去ってしまうのだ。


「あ、それアリかも!」


「お化け屋敷いいな!」


「男も女も関係ないしな!」


 お化け屋敷の最大の利点。


 それは劇の登場人物や、メイド喫茶と違って、男女に差がないことだ。


 つまり平等に、面倒なことを片方に押し付けるということもなく仲良く準備ができるのだ。


 本番だって、どこの配置がいい!などと揉めることもないだろう。


 そういった点では、お化け屋敷が1番平和なのかもしれない。


 メイド喫茶を女子が拒絶したため、代案を求めていた男子たちも、お化け屋敷はアリだと判断したようで賛成多数のように見える。


「お化け屋敷は禁止だ」


 この流れだと、確実にお化け屋敷で決定だ。


 誰もがそう思った瞬間に、その決定を覆したのは、Aクラスの担任教師、鏡花だった。


 鏡花が禁止だと呟いたことにより、生徒たちの視線は全て鏡花へと向く。


「昨年の2年、つまり今年の3年がお化け屋敷で問題を起こしたから、今年からは全学校、お化け屋敷は禁止となっている」


「えぇー」


「あの先輩たち、使えないくせに問題だけ起こすよねぇ」


「威張るだけだし」


 愚痴を呟く女子たち。


 いつも威張ってばかりだった先輩たちのせいで、自分たちの出し物にしわ寄せがくるのだから不満に思う生徒も多いだろう。


 ちなみに問題というのは、お化け屋敷に入ってきた他校生と揉めて、教室内の窓ガラスや設備を破損させた、というものだ。


 お化け屋敷が却下、というか禁止されたことにより、生徒たちは阿鼻叫喚する。


「え?他に何かある?」


「飲食店?」


「私らが作れるものとか、たかが知れてるし売れないでしょ…」


「やっぱメイド喫茶…」


「男子は黙ってて!」


 飲食店はハナから無理だと判断しているらしい。


 栗田はメイド喫茶を諦めきれていないのか、迷い始める女子たちに自分の意見を推したが、黙れと言われてシュンとする。


「ふは…無様だな、栗田よ…」


 そんな中、1人の生徒に動きがあった。


 栗田を無様と明言し、余裕と自信に満ち満ちた顔を向ける小柄な男子。


「んだと、桶狭間!ならテメェは代案でもあんのかよ!」


 通に無様だと言われたのが心外だったのか、憤慨する栗田。


 いや、この状況は栗田に限ったことではなく、通に煽られれば誰でも憤慨することだろう。


 何しろ、あの通に煽られるのだ。


 悠馬だって、八神だってブチ切れ案件だ。


「ははっ、これだから短気な奴はモテないんだぜ?栗田」


 いつもとは違う雰囲気の通の言動。


 彼の言葉を聞いた女子たちも、いつもとは一味違う、変なことを言わない通に興味を持ったのか少しずつ視線が集中する。


「俺はドーナツ屋さんがいいと思う!」


「……」


 ドヤ顔でそう叫んだ通。


 悠馬は前の席で引きつった表情を浮かべていた。


 こいつは本当に流されやすい奴だ。


 通がドーナツ屋さんを推す理由は、ほぼ間違いなく昨日の夜(?)ドーナツ屋のお姉さんから連絡をいただいたことが原因だろう。


 勝手に勘違いをして勝手に惚れているのだから、そこがまた哀れなところだ。


 好きな人と同じことをしたい。真似てみたい。


 実際は、ドーナツ屋の店員が1から作っているというわけではないと思うのだが、通は形から入るようだ。


「ドーナツだぁ?ハッ、何を言いだすかと思いきや…!テメェは女かよ!見ろよ、女子も反応微妙だぜ!」


 当然、栗田は猛反発だ。


 通がドーナツ屋を推す理由はわかっていないだろうが、自分の意見を無様だと言われれば、どんな意見が出ようが反発するに決まっている。


 女子たちが無言なのを見て、乗り気じゃないと判断した栗田は一気に攻勢に出る。


「ドーナツ屋さん…」


「いいかも」


「ドーナツだったら、作れると思う!」


「えっ」


 女子たちが飲食店を拒んでいた理由は、ほぼ間違いなく、普通のお店と同じクオリティ、もしくはそれ以上のクオリティのものを求められると思ったからだろう。


 しかし、ドーナツとなれば話は変わってくる。


 単純に言ってしまえば、捏ねて寝かして、揚げるだけ。


 至って単純な作業であって、そのくらいのレベルならこのクラスの男子たちでもできる。


 それに、事前にある程度の数を用意できるため、メイド喫茶のように、注文が入ってから時間がかかるといった可能性もないだろう。


 加えて言うならバンドよりも、演劇よりも覚える工程が少なく、制作費もあまりかからない。


 案外乗り気な女子たちを見て目を見開いた栗田は、その場に力なく膝をつく。


「はっ、栗田くぅ〜ん、これが俺様の実力だぞ〜?」


 お化け屋敷の次にウケが良いと言っても過言ではないほど、ノリノリでドーナツの種類について話を始める女子たち。


 女子はスイーツ系が大好きなわけであって、ドーナツを作るとなると映えるものを作ろうと全力を注ぐのだろう。


 そんな光景を見た通は、足を組み、肘をつき、王座に座っているかのように栗田を煽る。


「くっ…俺が…桶狭間に…負けた…だと?」


 通に意見で負ける。


 いつもはふざけた奴で、都度女子の非難の対象となる通に負けるというのは、栗田にとってはかなり屈辱的なことなのだろう。


 膝から崩れて落ちた栗田を鼻で笑った通は、文化祭のことなどドーナツ屋のお姉さんを前にすれば興味など湧かないのか、それ以上会話には入ってこない。


「それじゃあ、色々と準備も必要だし、この時間に出し物を決めたいと思います。自分がいいと思う出し物に、手をあげてください」


 多数決。


 学校ではよく取られる意見の通し方だ。


 結果は薄々分かってはいるものの、それでも一応、みんなが何をしたいのかは把握しておかなければならない。


 それから簡単な多数決が取られ、複数の意見の中単独で過半数を奪っていったのは、ドーナツ屋さんだった。


 まぁ、妥当といえば妥当ではないだろうか?


 国立高校がメイド喫茶をするのはアレだし、バンドも演劇も、それなりに練習が必要となる。


 安パイを取るなら、ドーナツ屋さんくらいしかなかった。


「それじゃあ、Aクラスの出し物は出店で、ドーナツ屋さんに決定しました!次の時間は、どんなドーナツを作るのかについて話し合います」


 今年の1年Aクラスの出し物は、こうしてドーナツ屋さんへと決定したのだった。


木下くんは夕夏の過去をネットで調べまくっています。…もちろん、夕夏の中学校時代の同級生のSNSアカウントも…

【追記】すみません、明日投稿予定のものを間違って投稿してしまった為、12月30日は投稿ありません。ごめんなさい(´;ω;`)

12月31日から通常通り投稿します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ