表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは日本の異能島!  作者: 平平方
文化祭編
158/474

転校生はあの人

 2学期が始まって早々、教室へ入ってきた鏡花からの脅しに近い発言。


 それを聞いたAクラスの生徒たちは、鏡花の圧力にやられてしまい黙ったまま下を向く。


 さすがは総帥秘書。


 目力だけでも他人を恐怖のどん底にたたき落とすことができるようだ。


「お前らも知ってるだろうが、2学期は始まってすぐに文化祭がある」


 2学期の大きなイベント。


 1学期と違って、1年生も学校生活に順応している為、上級生たちも1年に対してそれなりの期待をしているだろう。


 2学期は文化祭にフェスタという、異能祭に次ぐ三大イベントの2つが開催されるのだ。


「お前たち第1は異能祭で優勝を果たし、フェスタ見学という権利を得た」


 各国の最強の学生たちが集い、その中で最強を、学生の中で最も異能王に近い人物を決める大会。


 そのフェスタを観に行けると聞いて、生徒たちの目は少しだけ輝いているように見える。


「文化祭は残りの1枠、つまり第1と共にフェスタを観に行く学校を決定する戦いだ」


 第1がフェスタを観に行くことは確定している。


 その為、文化祭でいくら手を抜こうが、クソみたいな出店を開こうが、最悪どうということはないのだ。


「だから手を抜いていい、なんて思ってないよな?」


 手を抜いても大丈夫。


 1位になれなくても大丈夫。


 ナンバーズの競争から外れてしまえば、そう言った油断と隙が生まれてくる。


 このクラスにいる誰もがきっと、少し手を抜いても…と考えていたはずだ。


「これは私からの忠告だ。手を抜いていいのは、このクラスの中では暁くらいだぞ?」


「!?」


 名前を挙げられて、一瞬驚く悠馬。


 何故自分の名前が挙げられるのか。


 手を抜いていいようなことをした記憶のない悠馬は、不安そうに鏡花を見る。


「言っておくが、上級生が下級生にイタズラをしなくなったのは、異能祭で暁が絶対的な力を見せたおかげだ」


 今までいじめてきた、見下してきた下級生たちの中に、自分たちよりも強い存在がいた。


 挙句にその存在は、異能祭のフィナーレで最後まで勝ち残り、第1の優勝の立役者となってしまったのだ。


 そんな下級生がいる学年に、果たしてイタズラを、イジメをしたいと思うだろうか?


 なるべく目をつけられないように、逆襲されないようにしようと大人しくなるはずだ。


 つまり今年の1年は、実質悠馬の存在によって守られているようなものだ。


「お前らが手を抜けば、上級生には叩き放題の絶好の機会。1学期の合宿時に逆戻りだろうな」


 1年生のボロを見つけ出し、一斉に叩く。


 悠馬には手を出せないといえど、文化祭で失敗したのなら、失敗を口実にほかの生徒をいじめることは出来る。


 しかもそれは最悪なことに、悠馬は口出しできないことだろう。


 1年が失敗したから叱責しただけだ、ちょっと叩いただけだと言われれば、何も反論できない。


 鏡花の合宿前に逆戻りという話を聞いて、教室内のクラスメイトたちは輝かせていた瞳をいつも通りに戻す。


 6月の異能祭から突如として大人しくなった上級生たちを見て、少し調子に乗った態度をとったメンバーはこの中にもいるはずだ。


 そんな彼らにとって、今の鏡花の発言は確かなダメージを与えた。


「何を凹んでいる?凹む話じゃないだろ。お前らがいつも通りに力を誇示すればいいだけだ」


 鏡花はあくまで、このまま行けば失敗すると言っただけであって、絶対に、どうあがこうが失敗すると言ったわけではない。


 人は悪い方向に考えるのが得意であって、マイナスな話を聞くとそうかもしれない、そうなるに違いない。と誤解をしてしまう。


「さ。長話は転校生には失礼だな」


「転校生?」


「え?」


「ナンバーズに転校生とか来るの?」


 鏡花の不意な発言。


 その言葉を聞き逃さなかった生徒たちは、転校生という単語を聞いて口々に声をあげる。


 異能島の国立高校というものは、転校生が転入することはできない。


 私立高校ならまだしも、国立は入学試験で戦闘試験、実技まで兼ねているわけであって、転校ができるのなら、公平性が保てないとされているからだ。


 しかしながら今年に限っては、転校生が現れるのではないかという噂も囁かれていた。


 なにしろ今年の生徒は、例年よりも入学者が2人少ない上に、2人も退学者が出ている。


 その穴埋めをするためには、転校生が必要なのではないか?と密かに噂されていた。


「入ってきていいぞ」


 生徒たちの声を無視して、廊下へ向かって声をかける鏡花。


 果たして、転校生は男なのか、女なのか。


 容姿の整った男であれば、女子は大歓喜。女であれば、男子が大歓喜することだろう。


 転校生のことになど興味がない悠馬は、つまらなそうに肘を突き、ゆっくりと開く扉を眺める。


 自動ドアのように、静かに早く教室の扉。


 小さな声でざわめく教室内のことなど気にしていないのか、ゆっくりと一歩を踏み出した転校生を目にした悠馬は、想定外の人物にのけ反ることとなる。


 真っ黒で長い髪。左目の瞳は紫で、右目の瞳は黒という綺麗なオッドアイの少女は、真新しい第1の夏服に身を包み、悠馬と目が合うとウィンクをして見せる。


 真っ白な肌。か細い腕。


 美しい彼女の姿を目にしたクラス内は、瞬く間に静寂に包まれた。


 鏡花が教壇を譲り、朱理が教壇の、教卓の後ろに立つ。


「はじめまして。本土から転校してきました、美哉坂朱理です。よろしくお願いしますね」


 深々と頭を下げる朱理。


 黒く長い髪が、危うく床につきそうなほど頭を下げた彼女は、男女の好奇の眼差しなど気にしていない風に顔を上げる。


「あれ?暁の彼女じゃね?」


「異能祭の時の写真の人だよね」


「え?暁くん追ってこの島に来たとか?」


 朱理の顔を見た栗田の第一声。


 唯一クラス内で朱理の顔を生で見たことがあった栗田は、驚きを隠せないご様子だ。


「てか美哉坂って…」


「夕夏の従姉妹とか?」


「はっ?え?どういう関係?従姉妹同士で同じ人と付き合ってるだけこと?」


「禁断の関係とか?」


 さまざまな憶測が飛び交いはじめる教室内。


 朱理がフルネームを名乗ったことと、異能祭の出来事、悠馬の彼女が夕夏と朱理ということもあってか、教室内は大パニックだ。


「お前たち。少し黙れ。騒ぎたい奴らは休み時間に騒げ」


 朱理が挨拶を終えてから、徐々に声が大きくなりはじめた生徒たち。


 そんな生徒たちを一喝した鏡花は、朱理の耳元で何かを話すと、教卓を叩き生徒たちを注目させる。


「朱理の席は廊下に置いてある。暁と桶狭間は、2人で席を運んでくれ」


「はいはーい!」


 鏡花の指示に従い、廊下に置いてある机と椅子を無言で運ぶ悠馬と、鼻歌交じりに運ぶ通。


 通は朝から可愛い転校が見れたということと、ドーナツ屋のお姉さんで頭がいっぱいのようで、いつものような変な話はしない。


「朱理の席はあそこだ。まだ少しホームルームは続くから、着席してくれ」


「はい」


 鏡花の指示通り、廊下側2列目の一番後ろの席へと向かう朱理。


 彼女が席に着くと同時に再び教卓を叩いた鏡花は、生徒たちが注目するのを待ってから話を始めた。


「これより、2学期の行事について話を始める。聞きそびれないよう、各自きちんと話を聞くように」


 朱理と話したいと思う生徒たちも少なくはないようで、少しそわそわしている生徒たちは、鏡花の話が終わるのをまだかまだかと待っている。


「まず、今日の授業内容だが、主に文化祭の出し物について話し合いが行われる。」


 今日の授業内容について。


 今日の時間割は国語や数学といった通常科目が並んでおらず、総合学活という授業が並んでいた。


 文化祭は9月が準備期間で10月に開催という、なかなかに短いスパンで行われるため、新学期スタート直後から話し合いを始めないと本番に間に合わなくなってしまう。


「文化祭の出し物は、基本的に1クラス1つだが、以前は1学年で1つの出し物をしたところもあった」


 1つの学年で1つの出し物。


 失敗したら大惨事だし、かなりのリスクも負うことになるだろう。


 しかも前提として、学年間で仲が良くなければならないと言う条件付き。


 鏡花の言った後者は可能性から外してもいいだろう。


「つまるところ、各学校の出し物は最多で9個、少なくて3個になるわけだ」


 3個になると言う可能性は、ゼロに近いと断言してもいいだろうが、一応説明を進める。


「文化祭は2日しかないからな。9つの高校が一斉に開催するとなると、1つの学校が9つの出し物をしても、見れないものは必ずでてくる。お前たちは空き時間なら、どの学校を見に行ってもらっても構わない」


 最多で9×9の81個の出し物が用意される文化祭。


 まず間違い無く、半数近くは見ることができずに終わると言ってもいいだろう。


「文化祭が終わると同時に、各自携帯端末から1番良かった学校への投票を行い、翌朝結果告知という流れだ」


 自分の空き時間はどの学校へ行っても構わないという話を聞いて、顔を見合わせる生徒たち。


 順位が決まると聞いていたから、てっきりクラス行動を余儀なくされるのだと思っていた生徒たちからすれば、嬉しい情報だ。


「せんせー、その投票方法だと、自分の学校に投票できるんですか?それとも、投票しないっていう手もあるんですか〜?」


 美沙の質問。


 夏服を着崩し、危うく下着が見えるんじゃないかと思うほど攻めた服装をしている美沙は、場の雰囲気など御構い無しに質問をする。


 しかし、美沙の質問も一理ある。


 フェスタを観に行きたい気持ちは、どこだって同じはずだ。


 なにしろその空間から、将来の異能王や総帥、名の知れた軍人と言った立場の人間になる人が多い。


 意識の高い生徒だと、フェスタで見た身のこなしを覚え、取り込んだりする生徒もいるはずだ。


 そんな生徒たちからして見ると、投票は自分の学校に、自分の学校に投票できないなら、無効票にするといった作戦をとるはずだ。


「自らの学校に投票をすることは出来ない仕組みになっている。ちなみに無効票の場合は、投票を行わなかった生徒にペナルティが課せられる」


「ペナルティ?」


 誰でも思いつきそうな無効票の投票。


 鏡花はニヤリと笑うと、ペナルティと聞いて眉間にしわを寄せる美沙を見る。


「ああ。もしかすると退学だったり、特別指導だったりするかもな」


 鏡花の発言を聞いて、シンと静まり返る室内。


 投票をしなかっただけで退学になるかも知れないと脅されれば、当然みんな怯えてしまう。


「まぁ、ペナルティは投票しなかった輩に課せられるものだから、お前たちに教える必要はない。私個人としては、お前たちはフェスタの見学権利を得ているわけだし、自分の好きなところに投票することをオススメしよう」


 無効票のことについては、詳しく説明しなかった鏡花。


 しかしAクラスのメンバーには、確かな恐怖が刻まれている。


 Bクラスの神宮と霜野が暴れて退学になったという話は全学年に行き渡っているし、この学校なら本気でやるかも知れない。


 そんな不安が、教室を静かにさせている。


 まぁ、鏡花の言う通り第1はフェスタの見学権利をすでに手に入れているわけで、どの学校に投票しようが、害を受けるという可能性はないのだが。


 きっと生徒たちは、もし投票忘れたらどうしよう?などと言う不安に駆られているはずだ。


「さらに詳しい話は、追って話すとしよう。さて、ホームルームはおしまいだ」


 Aクラスを不安にさせるだけ不安にさせて、楽しそうに去っていく鏡花。


 その様子はまさに悪魔の所業だ。


 しかしながら、静寂は長くは続かない。


「朱理ちゃん!」


「お話聞かせて!」


 この場に転校生がいなければ、もしかすると静寂が続いていたのかも知れないが、今日はとっておきの美人転校生が転入してきている。


 気持ちを切り替えるのが早い女子たちは、先生が外へ出るのと同時に席を立ち、朱理へと駆け寄る。


 男子たちは、その光景を恨めしそうに見つめている。


 十中八九、俺たちも話しかけたいと思っているのだろう。


 通はドーナツ屋のお姉さんで頭がいっぱいのご様子で、黒板を眺めながらニヤケているが。


「お話…ですか?」


 振り向きもせず、朱理の話に耳を傾ける悠馬。


 悠馬は朱理の彼氏な訳で、世間知らずの朱理が何か変なことを言ってしまわないか心配なのだろう。


「うんうん、私たちと友達になろーよ!」


「それね!」


 美人の取り巻きになれば、敵視されることも目をつけられることもなく、安全に学校生活を送れる。


 女子の中での暗黙の了解みたいなものだ。


 いきなり朱理に取り入ろうとする女子たちは、徐々に彼女の周りを囲み始める。


「友達…ですか」


 女子生徒の話を聞いて、考えるような声を上げた朱理。


 朱理は徐に席を立つと、机の間を一直線に歩き、ある方向へと近づいていく。


「ちょ、朱理さん、その子はやめといたほうがいいよ」


「うん、ちょっとね…」


 女子たちがグループになる中、ひとりぽつんと座っている黒髪の少女の元へとたどり着いた朱理。


 女子たちの忠告など聞かずにその場で立ち止まった彼女は、現在絶賛ハブられ中の加奈へと声をかける。


「いいザマですね」


「っ…」


 朱理の心無い言葉。


 加奈の近くの席に座っている悠馬は、朱理の発言を聞いて止めに入るか迷ったものの、彼女の過去を知っているために止めることはできなかった。


 朱理にとって加奈というのは、悠馬で言う悪羅の息子のようなものなのだ。


 当然許せるような人物じゃないだろうし、加奈だってそれを理解しているからこそ、何も言い返さない。


「なーんて、冗談ですよ。加奈さん、あの時の返事ですが…」


 おちょくるように一度クスッと笑った朱理は、加奈へと手を伸ばし、再び口を開く。


「私の1番最初のお友達は、加奈さんにします。これからよろしくお願いしますね」

お友達…私にはいません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ