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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
156/474

これが本当の楽園です

 8月14日、時刻は22時を回ったタイミング。


 しんと静まり返った室内。


 夜だと言うのに、電気もつけずに座り込んでいる男の影があった。


「やべぇよ…やべぇよ…どうしよう」


 失恋でもしたのだろうか?


 そう尋ねたくなるほど、絶望の色を濃くして椅子に座っているのは、現在モテ期到来中の悠馬だ。


 そんな悠馬は、机の上に置かれた包みをじっと見つめ、頭を抱える。


「緊張して渡すもの間違ってんだよなぁ…」


 それはパーティー会場で誕生日プレゼントを渡したときの、痛恨のミス。


 悠馬は緊張のあまり、夕夏に渡すはずのプレゼントを間違え、美月から貰ったお土産を渡すと言う大失態を犯していた。


 挙げ句、男子から追いかけ回されその場から逃亡。


 八神から連絡をもらい、自身のミスに気づいたのがほんの5分前だ。


 ゲートを使いプレゼントだけ回収してきた悠馬は、どうやってプレゼントを渡し直すのかを考えていた。


 頭の中にある不安は、嫌われてないよね?ということだけだ。


 東京出身の夕夏に、誕生日プレゼントといって東京のプレゼントを渡すという、お馬鹿プレイ。


 こんなことをするのは、おそらく地球上のどこを探しても、悠馬くらいしかいないだろう。


「やってんな…マジでやってるよ…どうやって取り替えよう…」


 悠馬がそう嘆く中、脱衣所の扉が勢いよく開く。


「悠馬!プレゼント間違ってるよね!?」


「はい間違ってます!」


 脱衣所の扉が開き、大きな声が聞こえてくると同時に立ち上がる悠馬。


 扉から現れたのは銀髪の少女、悠馬の彼女である美月だ。


「バカ!何で私のお土産渡すかな?」


「バカです!緊張してたんです!ごめんなさい!」


「ちゃんと選んだつもりだから…って、これ私が選んだやつだし…」


「うぅ…緊張してたんだもん…手震えてたんだもん…」


 美月のボロカスな評価。


 自身を全否定されたような気持ちになった悠馬は、半泣きで小さな小包を手にする。


「俺これあげるつもりだったんだもん!夕夏にどうやって渡そう」


「だそうよ、夕夏」


「ぅあ?」


 美月の背後から現れた、花蓮と夕夏。


 想定外の事態に陥った人間というのは、変な声が漏れるものなのかもしれない。


 驚きのあまり変な声を漏らした悠馬は、無言のまま歩み寄ってくる夕夏を見て、申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「ごめん…」


「ううん。少し驚いたけど、悠馬くんからのプレゼントが1番嬉しかったのは事実だから」


「これがホンモノです…夕夏のために選んだ、誕生日プレゼント…」


「開けていい?」


「うん」


 夕夏のために選んだプレゼント。


 嬉しそうな夕夏を見つめながら、今度は間違ってないよな?と不安を抱く悠馬は、小包の中から出てきた小さなクマのぬいぐるみを見て安堵する。


「あ…!これって…」


「夕夏、この前テレビでこれ見たとき、目の色が違かったからさ。女子に人気とも言われてたし、これだ!って思ったんだ」


「うん!欲しかった!抱っこして寝たかったの!」


 ぬいぐるみをもらって喜ぶ女子高生の美哉坂夕夏。


 ファッションに興味のない夕夏からしてみると正直な話、こういうぬいぐるみのような可愛いものの方が嬉しかったりする。


 歓喜する夕夏は、クマのぬいぐるみを頬擦りし、悠馬へと抱きつく。


「ありがとう悠馬くん。大好き」


「よかったぁ…」


 今度は失敗しなかった。


 一度ミスを犯した悠馬は、安堵したように呟く。


「ところで、なんで花蓮ちゃんもいるの…?」


 夕夏へプレゼントを渡せ、少し落ち着いた悠馬。


 花蓮は今日、本土でモデルのお仕事のはずだ。

 そんな彼女が何故異能島に戻ってきているのかわからない悠馬は、首を傾げる。


「夕夏の誕生日だったから、急いで戻って来たのよ。ほら、私たちって将来的に家族になるわけだし」


「なるほど…」


「だからね?」


 不敵な笑みを浮かべる花蓮。


 上に羽織っていたパーカーを勢いよく開いた彼女は、水色のビキニを披露する。


「おっ…」


 ぱい!


 綺麗!美しい!可愛い!ヤバイ!


 モデルでありアイドル、そして現在は自分の彼女である花蓮のビキニを見た悠馬は、大きく目を見開く。


「花火しましょ?」


「じゃーん!」


「実は私も着てるの…」



 みんな、聞いてくれ。


 楽園はここにあったんだ。


 確かにここに広がっているんだ。


 遠くを見るようにして、真っ白なビキニを披露する夕夏と、黒のビキニを着ている美月を見た悠馬は、顔を真っ赤に染めながら心の中で呟く。


 可愛い。可愛すぎる。


 正直こんな美人と付き合えていること自体、今でも信じられない。


 口には出さないが、そんなことを心の中で叫ぶ悠馬は、割と本気で嬉しそうだ。


「みんなすごく可愛い。綺麗だよ。大好きだ」


「はーい、大好き頂きました!」


「花火〜!」


「バルコニーでする予定だけど、いいよね?」


 バルコニーで花火。


 補導時間にはなっているものの、バルコニーは厳密に言えば自身の寮な訳だし、そこで花火をしていても怒られないだろう。


 多分、警察に見られたら捻くれてるなコイツら。と、内心でボヤかれそうだが、違反をしているわけでもないし問題ないはずだ。


「うん、花火しよ」


 バルコニーへの扉を解放した悠馬は、花火を手に持つ花蓮と、それに続く夕夏と美月を見て笑みを浮かべる。


 本当に幸せだ。


「3人とも、火傷とか危ないからパーカーは着てほしい」


『はーい』


 悠馬の言うことを素直に聞く彼女たち。


 各々が脱ぎ捨てたパーカーを拾い上げ、それを羽織った彼女たちは、再びバルコニーへと出る。


「私、こういうのが夢だったの!」


「私もだよ、花蓮ちゃん」


「実は私も…」


 夜のバルコニー。


 ビーチ横の寮ということもあり、大きな満月と白い砂浜、そして夜に染まる海が目に入る。


 さざ波の音が聞こえてくるその空間で、3人は口々に、こういうのが夢だったと話す。


 それもそのはず。


 花蓮は中学時代からモデルやアイドルとして活躍し、多方面から引っ張りだこ。


 そんな彼女が、夜に花火などすると危険だということで、本土で夜遊びなどしたことがない。


 夜遊びは異能島のバーベキューの時が初めてだ。


 夕夏も同じく、色々と厳しく制限されていた為、彼氏と彼女2人と花火をするというのは心踊るようだ。


 美月も中学時代はイジメられていたため、こういうこと自体が初めてで、頬が緩んでいる。


 嬉しそうに花火の袋を開ける3人を見ている悠馬は、少しだけ微笑んだ。


 彼女たちを見ていると、胸が締め付けられるような、そんな気持ちになる。


 きっとこれが、好きだということなんだろう。


「悠馬、何突っ立ってるの?こっち来なさいよ」


「ごめん」


 花蓮に呼ばれ、3人の横に並んだ悠馬。


 肩のふれあいそうな距離、わざと身体を動かせば触れ合える距離。


 正直、夜の営みとはまた違うこの状況はかなり緊張する。


「そういえば悠馬くん、さっきは本当にごめんね?」


 緊張している悠馬にかけられる声。


 それは夕夏の声だ。


 さっきというのは間違い無く、パーティー会場で付き合っていることを言ってしまったことだろう。


「ううん。ちょうどよかったし、俺ももう少し遅いタイミングで言うつもりだったから」


「じゃあ私も言っていい?」


「それは少し待ってください…」


 今の状況下で美月とも付き合っているなどと口走れば、どうなってしまうかくらい容易にわかる。


 八神のような勝ち組男子は何のダメージも負わないが、栗田や通といった男子は違う。


 夕夏と美月のどちらを狙うかで揉める彼らにとって、2人を同一人物にとられるというのはかなり不満なことだろう。


 我欲の強い異能島の学生ともなるとなおさらだ。


 嫌がらせが起こってもおかしくない。


「冗談。さすがに、今日の光景見てたら悠馬が何を恐れてるのかわかるからね」


「ありがとう」


 追いかけ回される悠馬を見ていた美月。

 ちょっぴり悠馬を困らせたかったのか、目を細めて笑う美月は、月に照らされ更に美しく見えた。


「あ、どうやって火付ける?」


「俺が炎使うよ」


 ちょっと間抜けな花蓮ちゃん。


 花火は買って来たのに、ライターは買って来てないという花蓮を見た悠馬は、頬を緩ませながら人差し指に炎を灯す。


「人間ライターね」


「失礼なこと言うなよ!」


 彼氏に向かって人間ライターなどと言うやつがいるだろうか?


 いや、ここにいるのだが。


 失礼な言い方をする花蓮を叱った悠馬は、美月と夕夏の持っている花火にも火を灯す。


「ん〜!夏って感じね!」


「あはは。そうだね」


「来年は朱理さんとも一緒にしたいね」


「ああ」


 風上にいる美月の使ったであろうボディソープの香りが、鼻をくすぐる。


 朱理の話は美月にも話している。


 異能祭の時の写真の女の子、というとすぐに納得してくれた。


「そういえば朱理さんって、胸大きいの?」


「……」


 美月に問いかけられ、彼女の胸に視線を落とす。


 彼女の胸の大きさは、盛ってC、通常でBといったところだ。


 そんな彼女からしてみると、自分以外の彼女たちの胸が大きいのは少しショックなのかもしれない。


 自分が一番貧乳は嫌だ。と言いたげな美月は、悠馬に胸を見られていることに気づき手で隠す。


「変態」


「いや…気にしなくても、俺は今の美月が好きなんだからさ」


「朱理はGだよ?」


「ちょ!夕夏!」


 オーバーキルだ。


 夕夏と花蓮はFカップ。さらに朱理がGとなると、美月の推定Bカップは、夕夏たちよりも4回りほど小さいことになる。


 夕夏は良心で言ったつもりだろうが、結果として精神的なダメージを負っている美月。


 彼女は口をパクパクとさせながら、真っ黒な瞳で自身の胸を触り始める。


「私…まだ成長するよね?」


「美月、俺割と真面目に今のお前が好きだから、胸大きくならなくていいから」


「ほんと?貧乳だから要らないとかいわない?」


「言うわけないだろ!お前の中で俺はどんなクズ男なんだよ!」


 貧乳だから別れるなどと言う男が本当にいるのかは知らないが、自分がそんなことを言うと思われているのはかなり心外だ。


「だってクズじゃん…」


「うぐ…」


 クズといえばクズなのかもしれない。


 ちょっとだけ自覚のある悠馬は、美月の小さな声を聞いて顔を歪める。


「はいはい、2人とも落ち着いて。安心していいわよ、美月。悠馬はね、私の胸がまな板だった頃に惚れてたんだから、少なくとも巨乳好きではないわ」


「まな板…」


 今はFカップの爆乳に育ってしまった花蓮の胸だが、それは何も、生まれた時からFカップというわけじゃない。


 小さい頃は当然まな板だったわけで、その頃に好意を寄せていた悠馬が、巨乳好きだから花蓮と付き合った、という線はまずないだろう。


「それを聞いたら少し安心したかも…」


 まだ慰めようはいくらでもある。


 花蓮のナイスな判断によって凹まなかった美月は、嬉しそうに花火を見つめる。


「あ、安心しろよ…俺は3人のことを、嫌いになんてならないから」


「ふぅん?」


「なんだよ…」


「ちゃんと録音したから」


「怖っ!花蓮ちゃん怖い!」


 言質を取られてしまった。


 そんな大した言質ではないのだが、許嫁の一件を引きずっている花蓮からしてみればかなり強力な武器だ。


 多分、悠馬が次迷い始めたら、これを材料にして脅し始めること間違いなしだ。


「ま、何はともあれ、夕夏、お誕生日おめでとう!」


「ありがとう!花蓮ちゃん!」


「ん〜!夕夏ほんと可愛いわよね、抱き枕にしたいわ」


「その気持ちよくわかるよ、花蓮ちゃん」


「私もわかるかも…」


 可愛くて愛想のいい女の子を抱き枕にして寝るのは、さぞ気持ちいいことだろう。


 それは男の夢であり、女の夢でもある。


 花蓮の発言に同調する悠馬と美月は、花火を眺める夕夏をチラチラと見る。


「じゃあ今日は、4人で寝る?」


『え?』


 2人の方を見ずに提案をする夕夏。


 そんな返しを予想していなかった悠馬と美月は、驚きの声をあげる。


「あ、それいいかも」


「じゃあ決まり!今日は私の寮で、悠馬くんと花蓮ちゃん、美月ちゃんと私で、4人で一緒に寝まーす!」


 ついにこの瞬間が来てしまった。


 待ち望んでいた、少なからず期待していたこの瞬間の到来を心の中で歓喜する悠馬。


 男の夢、男の理想である彼女と一緒にお眠り。


 ナニをするというわけでもないが、好きな人と一緒に寝るというのはかなりドキドキするものだ。


 これが本当の楽園なんだ。


 夢の中とも言えるこの瞬間に直面した悠馬は、ゆるゆるになった頬を手で隠しながら、深く頷いた。


「うん、俺も賛成だ」

夏休み編最後です!

プールやビーチ、夏祭りは割愛で…

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