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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
141/474

タルタロスへ

 夜の新東京。


 新東京は旧東京と違い、居住区が少ないからか、人通りはほとんどない。


 しんと静まり返った街の中、無意味に点滅する青信号を突き抜けた悠馬は、ある場所を目指していた。


 新東京にあるもの。それは新東京タワー、スカイツリー、総帥邸にタルタロス…etc…


 日本支部の重要な機関が、新東京に集まっていると考えてもらっていい。


 悠馬は現在、死神の装備、変装をして歩いている。


 仮面を被り、ローブを羽織り歩いて行く悠馬。


 夏だからか、すでにかなり暑い。


 死神はこんな暑い装備で呑気に会話をする余裕まであるのだから、大したものだ。


 タルタロスは、新東京の地下にある。


 今まで訪れたことなんてないし、明確にどこに入口があるのか、なんてわからない悠馬は、死神から手渡されたメモだけを頼りに歩みを進める。


 タルタロスに行けば、何かが役に立つ。


 いったい誰が捕まっているというのだろうか?


 まさか総一郎が捕まってたりしないよな?


 そんな不安を抱きながら、目的地へとたどり着いた悠馬は、その想定外の建物に、歩みを止めた。


「…まじで…?」


 新東京スカイツリーの真下。


 いや、新東京スカイツリーを囲むようにして、警備員が立っている。


 昼間ならば、警備をしているのだろう、ご苦労様です!などと勘違いをしてしまうかもしれないが、時刻はとうに0時を過ぎている。


 等間隔で警備員を並べる必要性もないし、今のご時世、監視カメラだってバッチリだ。


 おそらく新東京は、異能島と同等の監視カメラの数、そしてきちんと配置がされているはず。


 ここまで厳重にガードをする、必要性が感じない。


 まぁ、もし仮に地下にタルタロスがあるのなら、全て納得できるのだが。


「誰だ!!姿を現せ!」


「っ!」


 悠馬が木の陰から様子を伺っていると、1人の警備員が声を上げる。


 おそらく知覚系の異能を保有しているのだろう、視線は悠馬が隠れている方を向いていて、拳銃まで取り出そうとしている。


「待て待て…落ち着け。オレだ」


 このまま隠れていたら、蜂の巣にされてしまう。


 警備員ということはつまり、死神のことも知っているだろうと判断した悠馬は、仮面を外さずに、両手を上げて木の陰から出てくる。


 見えるだけでも、警備員の数は5人。


 その全員が、悠馬の方を訝しそうに見つめ、眉間にしわを寄せている。


「誰だお前?」


「おい、アイツのこと知ってるか?」


「俺は知らない」


「俺もだ」


「新手のオレオレ詐欺か?」


「え"っ」


 どうやら警備員は、死神のことを知らないらしい。


 挙句には新手のオレオレ詐欺と勘違いされているし、本当に、死神の噂も何も知らないのだということが伝わって来る。


 なにがタルタロスに行け、だ。


 なんの躊躇もなく突っ込んでたら、まじで撃ち殺されてるやつじゃないか。


 彼らのリアクションを見ながら冷や汗を流す悠馬は、互いに顔を見つめ合い、仮面の男が誰なのか話し始めた警備員の会話に、割って入る。


「死神だ。日本支部冠位の」


「……いや、いやいや」


「確かに話は聞いてるが、俺は筋骨隆々の大男だって聞いてるし」


「冷やかしなら帰れ。さもなくば危険人物として、確保するぞ」


 どうやら彼らは、完全に警備員をおちょくりに来た、仮装大会の道化と思っていそうだ。


 ここまで必死に死神を演じて来た悠馬だったが、流石に死神風に喋るのは恥ずかしいのか、頭を抱えながら声を荒げる。


「いいから偉い奴連れてこい!なんなら寺坂でもいい!こっちは時間がねえんだよ!」


「と、とりあえず連れて来るか…」


「そうだな…俺行って来るわ…」


 声を荒げる悠馬。


 それに驚いたのか、警備員の1人が偉い人を呼びに行き、残りの4人は悠馬に拳銃を向けたまま立ち止まっている。


「怪しい動きをしたら撃つからな」


「はいはい…」


 普通に顔出しで行ったら、拳銃を向けられることもなかっただろうに…


 死神の装備で行ったら、なんでこんなに警戒されるんだろうか?


 悠馬は死神の服装を普通だと思っているようだが、仮面を被り、ローブを羽織った男が、突然真夜中の収容所に現れたらどう思うだろうか?


 それも世界的な犯罪者から、大量虐殺者なども収容されている、タルタロス。


 誰かを救いに来た悪人、やばい奴だと思われても仕方ないだろう。


 こんな服装で歩いていたら、どこへ行ったって補導されるに決まってる。


「お待たせした。それでキミが自称冠…おいお前ら!その拳銃を下ろせ!何してる!」


 待つこと数分。


 先程偉い人を呼びに行った警備員と、その横を歩くちょび髭の男。


 身長は180センチほどで、少し痩せているように見えるが、オーラを見る限り、レベルはかなり高いように見える。


 ちょび髭の男は、死神姿の悠馬を観る直前に、自称…などと口走っていたが、死神の姿を見るや否や、怒鳴り声を上げて拳銃を下ろすように指示する。


「佐藤さん…この人、本当に冠位ですか?」


「ば…!この人は冠位だ!すみません、こいつらは今年入った新人で…冠位のことはまだ話していなかったんです…」


 こんなふざけた服装の男が冠位なのか?と言いたげな警備員の1人をぶっ叩いたちょび髭男、佐藤さんは、作り笑いを浮かべながら謝罪をする。


 佐藤の選択は、決して間違ってはいないだろう。


 所属1年目の下っ端に、日本支部には冠位がいる。などと言ってしまえば、話のネタにされて、瞬く間に日本全土に広がってしまうかもしれない。


 死神の存在はこの国の上層部しか知らないわけであって、いくらこの国の中枢で働いている人物といえど、それなりに年数を重ねていないと、知り得ない情報なのだ。


「いや、いい。オレが何の連絡もよこさず、いきなり現れたのが原因だし、怒ってない。こちらこそ悪かった」


 アポなしで訪れたのは悠馬の方。


 もし仮に、連絡を入れていたとするなら、仮面を被ったお偉方がタルタロスに来るから、門を開けろ。などという指示もできていたはずだ。


 冷静に考えて見ると、突然変な奴が現れたら、警備員が怪しむのも無理はない。


 そう納得した悠馬は、焦る佐藤に一礼すると、歩みを進める。


「じゃ、じゃあお前たちはいつも通り警備を頼む。私が死神さんを責任を持って案内するから、後は頼んだぞ」


『はっ!』


 夜の新東京に響く、元気のいい5つの返事。


 安心しきった様子の佐藤が歩き始めると、悠馬もその後に続いて歩き始めた。


 真っ暗なスカイツリーの内部。


 閉館時間を過ぎているということもあってか、視界も良好とは言えない空間には、2つの足音だけが、コツコツと聞こえる。


 それはもちろん、佐藤と悠馬の足音だ。


 夜のスカイツリーということもあってか、まるで遠足に来た子供のようにキョロキョロと辺りを見回す悠馬は、しんと静まり返った室内の中、床を見つめる。


 この下にタルタロスがある。


 いつもは観光客で賑わうスカイツリーの真下に、大犯罪者たちが収容される施設があるのだ。


「ところで死神さん…今日はどう言ったご用件で?」


 ちょび髭男、佐藤はエレベーターへと乗り込むと、悠馬に問いかける。


 連絡もなしに突然冠位が来訪したのだから、何か不手際があったのではないかと怯えているのだろう、そこそこの管理職についているのか、不安そうな佐藤は、チラチラと悠馬の様子を伺いながら問いかけた。


「緊急事態でな。お前らの不手際でなく、大物政治家が厄介ごとを招いたせいで…」


「なるほど…大物政治家、しかも胡散臭いと言えば、赤坂暮戸あたりですかね。彼には気をつけてくださいよ、死神さん。彼の権力は異常ですから」


 おそらく、暮戸の悪い噂は、この国の中枢にまで聞こえてくるのだろう。


 だというのに、未だに政治家をやっていけているのだから大したものだ。


「忠告感謝する」


 エレベーターのキーパッドを操作し終えた佐藤は、本来であれば地上に登るはずのエレベーターを、数字のない地下へと向かわせる。


「ご利用、初めてですよね?説明しておきましょうか?」


「ああ、お願いしてもいいか?」


 死神がタルタロスに訪れるのは初めて。


 おそらくスカイツリーに訪れるのも初めてだと判断したのだろう、気を利かせて説明をしてくれようとする佐藤の提案を受け入れた悠馬は、黙って話を待つ。


「まず、このエレベーターは地下一階にまで繋がっています」


 佐藤がそう告げると同時に、チンという鈴の音のようなものが響き、ゆっくりと扉が開く。


「……すごいな」


 一階の綺麗な床と違い、古代遺跡に迷い込んだように錯覚してしまう、地下。


 古びた石段と、松明で照らされる床は、まさに収容所といった雰囲気がふさわしい。


「ここが地下1階です。ここから先は、私たちも許可を得た者しかはいれない空間になっています。タルタロスは地下1階から100階にまでなる、大規模な収容所でして…2階から犯罪者の収容がされています」


 まるでありの巣のような地図を見せながら、説明をする佐藤。


 タルタロスが地下100階まであることと、そして許可なしでは入れないことを聞いた悠馬は、こくこくと首を縦に振りながら、話を聞く。


「警備員は10階置きに配置されていて、そのメンバーの誰もがレベル10以上。かつて総帥候補に名乗りを上げた偉人や、きっと死神さんもあっと驚くような人物も警備をしているはずです」


 10階置きに警備員が配置されている。


 しかも、レベル10以上。


 世間ではレベル10が最強、人類の到達できる最高レベルと話されるが、それは事実ではない。


 単純に考えてみてほしい。


 レベル10同士が戦った際、相性の良し悪しはあるだろうが、異能がだだ被りだった場合、決着がつかないことになる。


 しかしながら、実際に戦って見ると決着はついてしまう。


 異能王が最強と言ってもレベル10なら、レベル10複数人で攻撃してしまえば、勝てる可能性すらあるのだ。


 つまりレベルは、最初から10以上も存在している。


 ただ、10以上に分布される人間が少ない上に、混乱を招く可能性もあるから、レベル10が最大、上限という情報が流れているのだ。


「下の方はどうなってる?」


「残念ながら、60階層以下は全くの不明です。立入禁止区域。誰が収容されているのかもわかりませんし、本当に人が存在しているのかもわかりません」


 どうやら60階以下は警備員も配置されていないようだ。


 タルタロスの看守であるはずの佐藤が知らないということはつまり、飯も行き届いていないはず。


 まぁ、大犯罪者な訳だし、餓死して当然だろう。


「そして地下へ行く方法は、2つ。右手に見える階段を使うか、あのエレベーターを使うか、です」


 右手に見える、虫が降ってきそうな古びた階段と、そして正面に見える、石でできたエレベーター。


 エレベーターは壊れそうだし、階段は上からムカデが降ってきそう。


 どちらを選んでも、変な展開になりそうな気がしてならない悠馬は、死神のお面の下で表情を歪ませると、エレベーターを指差す。


「今回はこちらを使わせてもらう」


「かしこまりました」


 どっちを選んだって、多分結果は変わらないはず。


 ならば、気持ちの悪い虫が現れそうにないエレベーターを使って、少しでも気分良くここを脱出したい。


 結局、なんのためにタルタロスに行けと言われたのかわかっていない悠馬は、エレベーターという楽な方を選び、乗り込もうとする。


「しばしお待ちを。念のため、指紋認証を願います」


「え"」


 指紋認証だぁ?


 言われてみれば当然のことだが、そのことを考えもしていなかった悠馬は硬直する。


 タルタロスは世界的大犯罪者を収容するような場所だ。


 そこに間違っても、招かれざる客、許可のない人間を入れるわけにはいかない。


 もし仮に死神が、今行なっているように全くの別人だったら?


 悠馬がその気になれば、タルタロスに収容されている犯罪者を全て引っ張り出すこともできるわけだ。


 それはもう、テロというよりも、国家が転覆しかねない事態。


 立ち止まった悠馬は、佐藤が取り出した指紋認証のようなものを目にして、冷や汗を流す。


 認証されるわけがない。


 だって死神じゃないし。


 しかしここでそれがバレてしまえば、佐藤と戦闘に陥り、総一郎を救うどころか、自分が犯罪者としてタルタロスにぶち込まれてしまう。


「悪い…悪羅と戦ってな。手に怪我を負ったから、指紋が認証されないかもしれない」


 とりあえずそれとなく言い訳でもしておこう。


 怪我で指紋がなくなっているかもしれないなどという言い訳をした悠馬は、震える手でその機会に触れ、瞳を閉じる。


 どうか何かの間違いで、エラーにならないでくれ。


「本人確認できました。ありがとうございます」


「ぇ…」


 佐藤に聞こえないよう、小さな声を漏らす悠馬。


 どうして死神の指紋認証で、自分の指が反応するのか。


 もしかすると、死神は最初からこの事態を予測していて、指紋をすり替えていたのか?


 それとも…あの時のセラフ化…そして未来から来たような発言は…


「いや、まさかな…」


「では。ここでお待ちしております」


 そんなはずないよな。


 地下へと向かう悠馬を見送ってくれる佐藤に会釈をしながら、エレベーターへと乗り込む。


 ところで俺は、何階に向かえばいいんだろうか?


 ふとした疑問が、悠馬の頭に浮かんだ。

下には誰がいるんでしょうか…

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