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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
入学編
14/474

お出掛け

 入学式の翌日。

 大抵の授業はクラス内の自己紹介で終わり、特に連絡事項もないのか、早く終わったホームルーム。


 入学翌日の放課後ともなれば、クラス内の話題はこれからどこに行くかという話で持ちきりだった。


 美月の周りを囲って居た女子たちは、行き先が決まったのか、いち早く教室の外へと向かう。

 その光景を眺めていた悠馬は、美月と目が合う。彼女は悠馬に向けてウィンクをすると、女子たちに「行こ行こ!」と背中を押されながら教室から見えなくなった。


 その微笑ましい様子を、上機嫌で見ていた悠馬。

 悠馬が本日、上機嫌の理由は、昨夕の放課後の出来事のおかげだった。

 連太郎に秘密を話しておいた方がいいと言われた悠馬は、三年前、自身に何が起こったのか、その結果どうなったのかを美月へと話した。

 その結果、美月は自身が闇堕ちだということもあってか、悠馬が闇堕ちであることをすんなり受け入れ、暁闇であることも特に気にした素振りも見せずに、驚くこともなかった。

 そして説明を終えた悠馬と、なんの戸惑いもなく連絡先の交換を終えて、今のウィンクに至るというわけだ。


 自分の過去を話せば恐れられる、離れられると思っていた悠馬からすれば、飛んで跳ねるほど嬉しい誤算で、昨日の夜は嬉しくて眠れないくらいだった。


「おい悠馬!お前荷物の整理は終わったんだろうな!今日こそ遊ぶぞ!」


 そんな上機嫌の悠馬の背中をちょんちょんと叩き、後ろの席の通は興奮気味に席を立った。


「今日の目的地はドーナツ屋さんだ!あそこは女の子がたくさんいるし、八神とお前を連れて行けば俺もお零れが貰える!最強のプランだ!」


 コイツは最初から他人に助けてもらう気か。そう思った悠馬だが、昨日は自分がかっこいいという自覚を持ち、美月からも受け入れられてかなり上機嫌だった。


「おう。任せとけ」


 普段の状態の悠馬なら、八神に判断を任せてしまっていただろうが、今日の悠馬はひと味違う。二つ返事で通のプランを承諾し、カバンを持って席を立ち上がった。


 八神の席は通と悠馬のほぼ対角だ。出席番号が1番最後から2番目である八神の方を振り返った悠馬は、八神が仲良さげに話している金髪の男にやや驚きつつも、昨日のような冷ややかな視線は浮かべずに八神の元へと向かう。


「おーっす八神ぃ!今からドーナツ屋行くぞー!」


「え?わかった。悠馬も行くんだよな?」


 悠馬なら反対していると思ったのだろうか?それとも悠馬が断ったから自分を撒き餌にされると思っているのだろうか?若干不安そうな八神に向けて、悠馬が首を縦に振ると、なら大丈夫か。とでも言いたそうに席を立った。


「金髪のお前も行かねえか?お前はお前でギャル受け良さそうだしな!」


 勝手にバラエティを豊かにするな。一体どれだけの女子と連絡先を交換するつもりなのだろうか?

 すんなりとその誘いを受け入れた連太郎を加えて、4人はドーナツ屋へと向かった。



 ***


「いらっしゃいませ〜!」


 ドーナツ屋さんに入ると、可愛らしい制服を着た二十代ほどの女性が、笑顔で出迎えてくれる。

 その女性に対して、鼻の下を伸ばした通は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら手を振っていた。


 放課後の女子定番のお集まりスポットともなると、人が多い。ほとんどの席に女子が座るその光景は、まさに秘密の花園と言えるだろう。

 第1近くのドーナツ屋さんということもあってか、ほとんどの席には見覚えのある女子の制服が見えるが、所々違う色の制服を着ている女子や、男子が目に入る。


「ケッ、なんで他校の奴らがこの時間にここにいるんだよ。ぜってぇ俺ら第1の新入生狙ってるぜ」


 先程女性店員に鼻の下を伸ばしていた通は、もう他の女へと視線が移っているようだ。

 自分たちと違う制服で、第1の女子の方をチラチラと見る男子たちに向けて毒づいている。


「まーまー、んな我が校の可愛い子ちゃんたちがイケメンの悠馬と八神を置いて他の男のところ行くわけがないじゃなぁい!」


 通の肩をぺちぺちと叩きながら、連太郎はふざけたようにそう告げる。


「確かに!」


「とりあえず、ドーナツ選ぼうぜ」


 喜ぶ通と、ハイタッチをする連太郎。欲望に忠実な男と、脳内の全てがノリと雰囲気だけでできている男は相性がいいらしい。

 ノリノリの2人を置いて、悠馬と八神はドーナツを選び始めた。


「お会計がドリンクを合わせて1080円になりま〜す」


「携帯端末でお願いします」


「は〜い、お兄さんたち、ここにいる女子狙い?」


 通が先程鼻を伸ばしていた女性店員のレジが空いていた為、そこは並んだ悠馬は、不意打ちのような質問に戸惑う。


「え?あ。いや…別に俺は…」


「ふふ…けど君、顔いいし、第1の制服ってことは将来も勝ち組なんじゃない?お姉さん21時にお仕事終わるんだけど、寮教えてくれる?」


 さらに不意打ちだ。

 悠馬はこの世の女性たちの恐ろしさを知らなかった。

 この異能島の国立高校に通う生徒たちは、よっぽどのことがない限りは、将来が約束されている。

 軍人や管理職、純粋な学力のみで大手企業に就職だって、造作無い。それに容姿もそこそこともなると、世の女性たちからは安定した収入源の上に周りからも羨望の眼差しを向けられる。悪く言えば、ブランド物のバッグと同じなのだ。


「あはは…すみません、俺好きな人いるんで」


 若干魅力的な申し出だなーとも思いつつ、女性店員の目を見て何かを感じ取った悠馬は支払いを終えると、会釈をしてテーブルへと向かう。


「流石クラス1番はちげぇな。いきなり逆ナンか?」


「今のは違うだろ。俺のことが気になってるってより、俺の将来の肩書きが気になるって感じだった」


 世の女性の怖さを知らずとも、直感でそれを感じ取っていた悠馬は、横で冷やかしてくる八神に向けてそう告げる。


「まぁ、異能島のナンバーズ、しかもイケメン美女と付き合ってるってのはかなり自慢できるらしいからな。肩書き大好きな女や男からすれば、片っ端から声をかけたい存在なのかも知れねえな」


 それを知っていたからこそ、八神は人が並んでいた三十代後半ほどの女性の列に並んでいたのだ。

 中学からこの島に通っている八神からすれば、二十代でこの島で働いている男や女は、そういったワンチャンを狙っているに違いないから、距離を置いておこうという危険対象になっていた。


「ナンバーズってなんだ?」


 初めて聞かされた情報に、調子に乗って寮に招待しなくてよかった。と顔を青くした悠馬は、八神の話で出てきた単語が気になり、問いかける。


「番号付きの高校のことだよ。第1から第9は、総称してナンバーズって呼ばれてんだ」


 この島には、私立の高校も存在するわけで、国立の高校は本土にだって存在する。

 それらと区別するために異能島の国立高校は、若い世代の中ではナンバーズと呼ばれるようになったらしい。


 ちょうど空いていた4人席に腰掛けながら、会話を進める2人。


「ねぇ、あの人たちカッコよくない?」


「2人共顔いいかも」


「アタシ声かけてこよっかなー」


「この島に通う先輩からの優しいアドバイスだ、悠馬」


「なんだよ?」


 女子たちの囁き声が聞こえ、肩身が狭くなる悠馬と八神。なんてったって、想像していたよりも視線が集まる。通がいれば変なことを言ってくれて、女子たちの視線は一瞬にしてなくなるが、悠馬と八神から女子を払いのけてくれる通は、悠馬が会計を済ませたお姉さんとの会話に夢中だ。


 チャンスと言わんばかりに、視線が集中する。


「付き合うなら、ナンバーズ同士にしとけ。私立の奴らでも、肩書きだけを欲しがるクズな女は多いからな。その点ナンバーズだと、同じ程度の地位だし、肩書き欲しさの可能性も薄くなる」


 いや、でも相手がナンバーズだからこそ、ナンバーズと付き合うことに固執している、つまりは外野と同じく肩書きが欲しいんじゃないのか?と疑問に思う。


「結局は付き合わないのが1番ってことだろ」


 周りにチヤホヤされるのが少しだけ嬉しかった悠馬だが、それが自分がかっこいいからではなく、肩書き欲しさなんじゃないのか?という結論に至り、一気に冷め始める。


「ま、そういうことだな」


「なぁ、八神。俺らの肩書きって、そんなに凄いのか?」


 悠馬からしてみれば、それが理解できなかった。

 悠馬のレベルは10。学業は元から秀でていたし、最初は苦手だったスポーツも鍛えることによってなんでも熟せるようになった。

 つまり、悠馬視点では異能島に合格するのは、緊張はしたものの当然のことだったのだ。

 その当然がなんでそんなに凄い肩書きなのかを、悠馬はイマイチ理解していない。


「あのなぁ…ナンバーズの男子ってのは、9校3学年合わせても、千人しかいないんだぜ?日本の人口が五千万!現役のナンバーズは五万人に1人しかいない!どうだ、すげぇだろ?」


「そ、そうだな」


 イマイチピンとこないが、とりあえず理解したふりだけをする。

 悠馬はとりあえず、自分は凄いんだということだけを理解した。あと女怖い。


「おまたー」


「おいおいおぃぃ、俺様はあの美人店員さんから連絡先を教えてもらったぜぇ!やっぱ、俺様はモテるんだなぁ!」


 どうやら早速怖ーい女の毒牙にかかった男がいるらしいぞ。ドヤ顔をしながらメモをピラピラと見せてくる通。その様子を見ていると、現実を突きつけるのは可哀想に思えた。


 女の恐怖をレクチャーされた悠馬と、女の恐怖を知っていた八神は、通に哀れみの視線を向けながら彼のことを褒め称えた。


「ふっふっふっ、はーっはっはっ!どうやらここでも悠馬と八神とは格が違うってことを見せつけてしまったな!」


 昨日出会ったばかりの俺からすると、いつどこで格の違いを見せつけられたのか、教えてもらいたいくらいだ。悠馬は心の中でそう呟いた。


「しっかしまぁ、女子ばっかだな〜うぇーい」


 そんな3人の茶番のような光景をスルーしている連太郎は、ギャル系女子に向けて謎の掛け声と共に手を振る。


「うぇーい!マジ、ナンバーズに声かけられたんですけど!」


「はっ!マジ?ちょっと今ケータイ見てて見てなかったんですけど!」


 2人組のギャルは大はしゃぎだ。

 どうやら肩書き効果は本物らしい。


「ま、そのうち治るんだろ?これ」


「多分1ヶ月も経てば女子高生たちは今程じゃなくなると思う」


 冷静な分析をした連太郎は、この女子たちのテンションが永久的に続くとは思えないという結論に至ったようだ。

 そしてこの島に中学からいる八神も、その事は知ったいたようだ。


「ま。このちびっ子のように女の誘いにホイホイのらないことをお勧めするよ」


 早速携帯端末を開き、真剣な表情でメモの電話番号を打つ通を指差しながら、八神は2人に笑いかけた。


「ははっ。たしかに」


「この分だと女子との連絡先はもっと後になってからでいいや」


「お前、あの子に嫌われない為にも早めに女慣れしといたほうがいいんじゃね?」


 悠馬の出した結論に、連太郎が食いつく。八神はあの子がわからないのか、首を傾げている。


「やめろ、それはマジでいうな。ってか、俺とアイツはもう終わってるんだよ。あの日に」


 三年前に全部終わってんだ。今更連絡なんて取れねーよ。俺に出来るのは、静かに彼女から手を引くだけなんだ。悠馬はそう自分に言い聞かせ、恋心を胸の奥へと押しやって鍵をかけていた。


「ほぉー、そかそか。なら俺がワンチャン貰ってもいい?」


「だめだ。俺はアイツの幸せを願ってるが、お前じゃアイツを幸せにできねえ」


 だからといって、誰かに譲るということも出来ずにいる、そんなめんどくさい男が悠馬だ。


「やっほー。今暇っしょ?テーブルくっつけなーい?」


 悠馬と連太郎の会話がヒートアップしかけた時、ひとりの女性からの申し出があった。


 自分たちと同じ学校のマークが施された制服を羽織り、スカートを短く履き、胸元のボタンをギリギリまで開けた悠馬と同じ茶髪の女子生徒。


 昨日の入学式で、ギリギリに教室へと入ってきた女子生徒だ。


「いいか?悠馬」


「俺は別にいいよ」


 同じクラスのメンバーとは仲良くしておきたいし。

 満場一致でテーブルを合わせた悠馬は、奥にいた女子生徒たちを見て、目を丸くした。


「んんん?」

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