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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
134/474

孤高と孤独

 一方その頃。


 加奈と連太郎がヒミツの会話をしている真っ最中、2人とは真逆方向に、海沿いの砂浜を歩く影があった。


 それは悠馬でもなければ、八神でもない。


 真っ赤な髪を潮風に揺らしながら堂々と歩く南雲は、前を歩く湊を追うようにして、無言で歩いていた。


 どうしてこんなことになったんだ?


 なぜこんな状況に陥ったのかわからない南雲は、微妙そうな表情を浮かべる。


「おい、お前。オレに何か用なのか?」


「用ってほどじゃないけど。少し…ほんの少し気になることがあって」


 呼び出された側の南雲と、呼び出した側の湊。


 振り返ることもなく、気になることがあるとだけ告げた湊は、バーベキューメンバーの騒がしい声が聞こえなくなり、そして豆粒程度にしか見えなくなったところで立ち止まる。


「クク…いいのか?お前男嫌いなんだろ?変な噂が立ったら…」


「アンタって、孤独よね」


「あ?」


 不意に投げかけられた、湊の声。


 ここまで呼び出されれば、男ならば告白?それともデートのお誘い?などと、ちょっとした期待をしてしまうものだ。


 なにしろ2人きり。誰にも聞かれないように会話をしたいなどという場合は、良い方の期待ばかりしてしまうものだ。


 だというのに、湊の放った言葉は、孤独というもの。


 何が言いたいのかわからない南雲は、不思議そうな顔で眉間にしわを寄せる。


「薄々気づいてたけど。アンタって、日本支部の元隊長、南雲颯矢の息子…でしょ?」


「だったらなんだ?何が言いたい?」


 父親の名前を出されたところで、何が言いたいのか、話の流れすら読めない。


 ようやく歩き始めた湊が1番最初にとった行動は、もともと気になっていた南雲の背景を、直接聞いて見る。ということだった。


「うん。知らないよね。私のお父さんも軍人なの。だからアンタのお父さんが、どれだけ凄い人なのかも知ってる」


「やめろ。オレの親父のことを知ってるから、もうわかってんだろ」


「うん。もう亡くなってることも知ってる」


 南雲の父親は、悠馬が暁闇になった日とほぼ同時期に、戦地で死亡している。


 そのことを思い出したくなかったのか、それ以上は話すなと言いたげな南雲に対して、最後まで言い切った湊は、砂浜にしゃがみこむと貝殻を拾う。


「すごく偉大な人で、率先してみんなを引っ張ってくれた隊長だったって、いつもお父さんが話してた」


 南雲の父親は、八神の父親と同じく、隊長格にまで上り詰めていた。


 当然、隊長ともなれば周りからの支持、信頼はかなり得られているわけで、湊の父親が軍人ならば、慕っていてもおかしくはないことだった。


「そして…アンタの父親は、いつもアンタのことを自慢してたって聞いてる。聞き分けが良くて、周りにも気が配れる。いつも周りには友達がいて、いつもニコニコしてる自慢の息子だって」


 南雲の過去。

 今はいつも1人でいる南雲の幼き日は、どうやら今とは大違いの人格だったようだ。


「今は見る影もない。孤高というよりも孤独っていう単語がふさわしいし、自慢話が嘘だったって思えるレベル」


 南雲の周りにいる生徒は、敵に回りたくないから彼を慕う。媚を売っておきたいから彼の周りをうろつく。といった感じで、親しい友達がいるようには、全く見えなかった。


「その原因ってやっぱり、お父さんが亡くなったことに繋がってるの?」


「だとしたら?オマエに何か関係のあることなのか?良いことを教えといてやるよ。世の中には聞かないほうがいい話だってある。質問しないほうがいい内容だってあるんだ。これから世の中を長く満喫したいなら、よぉく覚えておいたほうがいいぜ?」


「別に、満喫するつもりはないから構わない。私は自分の知りたいことを知れたらそれでいい」


 世の中には聞かないほうがいいことだってある。


 そう忠告をした南雲を一刀両断した湊の表情には一切の迷いがなく、そして南雲の過去に、片足を突っ込む覚悟ができているように見えた。


「教えてくれない?どうしてアンタは、そんな風になったのか」


 傷の舐め合いなのかもしれない。


 ただ、自分と同じような闇を背負っていそうな、そして自分と繋がりがありそうだった南雲が気になっていた湊。


 父親が知り合い同士だったこともあってか、聞いていた話とは全く違う性格の、南雲の過去を探り始めた。


「クク…つまらねえ話だぞ」


「別に構わない。私が知りたいだけだから。面白さなんて求めてないし」


 人の過去に、面白さを求めるほうが無理がある。


 最初から面白い話など期待していない湊は、話す気になった南雲を真剣に見つめる。


「殺されたんだよ。オレの親父は」


「…うん、残念だけど、それは知ってる」


 第5次世界大戦。

 ロシア支部を舞台として激化したその戦争は、各国に大きな犠牲をもたらし、そして多くの対価を払って終結した。


 先程も言った通り、南雲の父親が既に亡くなっていることを知っていた湊は、首を縦に振った。


「日本支部の誰かに殺された」


「っ…!?どういうこと?」


 南雲の父親が戦争で命を落としたことは知っていた。


 しかし、日本支部の誰かに殺されたなどという事実を知らなかった湊は、驚いた表情で声を上げる。


 日本支部の誰かに殺された。


 戦争中は、国家一丸となるわけで、敵国に日本支部の誰かがいた、などという可能性はまずありえない。


 なにしろ先の大戦は、全面的にロシア支部の総帥が悪かったわけであって、そんな悪者を援護しようとする国家はなかったからだ。


「単純な話だろ。日本支部は他の支部と違って、隊長の枠を増やさなかった」


 第5次世界大戦の中、当時国力がトップクラスだったロシア支部を攻撃する過程で、各国は隊長格を増やすことにより、四方八方から攻めることを可能にした。


 その中で唯一、日本支部は隊長の席を10席のみ、つまり増やすことなく、この戦争を切り抜けたのだ。


 まぁ、実際のところは各国が隊長格を増やしたことにより、日本支部が隊長格を増やさずに済んだ。ということもあるのだが。


「だから邪魔だったんだろうよ。席が増えないなら、空席を作ればいい。単純明快な答えだ」


 バカでも出せる答えだ。


 隊長の席がないなら、自分たちで空席を作ればいい。


 それが戦争中ともなれば、尚更だ。


 戦争中に味方を数人殺したところで、バレていなければ大した詮索もされない。


 誰に殺されたのかーなんて、敵国の誰かと言えばいいだけであって、証拠だって残りはしない。


 流れ弾に当たった、気づいたら死んでた。そんな適当な言い訳をしていれば、大抵なんとかなってしまうのが、戦争だ。


 戦争に便乗して、自分の嫌いな人を、自分の利益の為に、殺す。


 原始的で、もっとも気づかれにくい犯罪行為。


「いや…でも…どうしてそんなことわかるのよ」


 身内に父親を殺された。


 そう聞いた湊は、驚きを隠せないのか、狼狽しながら疑問を投げかける。


 戦争中なら証拠も残っていないはず。ならば南雲は、何を根拠に身内に殺されたと言っているのか。


「隊長は一体、どこの配置に着くと思う?先頭?真ん中?後方?」


「そりゃ…真ん中から後ろじゃないの?だって、隊長がいきなり死んだら、指揮系統乱れちゃうし…戦闘中だと、後ろの統率だってうまくできないと思う」


 隊長が真っ先に死ねば、引き連れていた部下も死ぬのと同義だ。


 いくら訓練されているとは言えど、隊長が先頭を突っ走り真っ先に死ねば、部下たちは動揺を隠せないだろう。


 それに、先頭を歩いていれば、戦況を把握することも難しい。


 とすれば、必然的に後衛、中衛辺りに配置されるはずだ。


「オレの父親は、背中に1発の弾丸を撃ち込まれ、即死だったそうだ」


「背中?」


 仮に前方にいたなら、100歩譲って背中に流れ弾が当たる可能性はあるかもしれない。


 しかし、隊長にも上り詰めたような人間が、相手に背中を向けるだろうか?


 況してや中衛〜後衛にいる人物に、流れ弾が当たるだろうか?


 答えは否に限りなく近い。


 とてもじゃないが、隊長が流れ弾で死ぬようなことはないと考えるべきだ。


 なにしろ異能が主流となった戦争で手渡される銃というのは、自害用の拳銃一丁なのだ。


 どこの国だって、だいたいその程度。


 拳銃をメイン武器に戦う部隊なんて、今の時代には存在しない。


 背中、という単語に引っかかり眉間にしわを寄せた湊は、南雲が身内に殺されたと話すワケを知り、黙り込む。


「ちなみに弾丸は、日本支部で作られたものだった。日本支部の軍人が自害用で持っていたものと同じだ」


「…それって…」


 確信犯じゃないか。


 日本支部の中に、最初から隊長を殺そうとしていた人間がいた。そういうことになる。


「探り出せなかったの?なんで味方に殺されたって…噂されないの?」


「もし仮に、日本支部の指揮系統を乱す為にロシア支部が行った行動だったら?内輪揉めしている間に全滅するかもしれない。それに、その拳銃は少なからずロシア支部にも流通していた。だから、その場で真実を追求されることはなかった。」


「そう…なんだ」


 その場で真実を追求されないということはつまり、迷宮入りということだ。


 なにしろ戦時中。亡骸を運ぶのでも手一杯、隊長の最期を直接目にした人間だって粗方死んでいるだろうし、実況見分なんてできるはずもない。


 その場で真実を追求されなければ、戦争中の死人のことなど忘れ去られるだけなのだ。


「その事実を知った時からだろうな。作り笑いは辞めた。いつ裏切るかもわからない奴らに、愛想を振りまいてどうするのか?って、疑問に思ってな」


「…」


 返す言葉が出てこない。


 南雲の話を聞いて、どう励ましたらいいのか。どんな言葉を返せばいいのかわからなくなってしまった湊は、俯きながら黙り込む。


「言った通り、つまらねえ上に気分の悪くなる話だろ?ま、オマエが聞いた話なんだから、文句は受け付けねえぞ?」


「うん。わかってる。だからもう一つ質問していい?」


「クク、この期に及んでまだ質問か?オレは別に構わねえぜ?隠すことなんて、特にねえからな」


 話を終え、バーベキューの行われている空間へと戻ろうとした南雲を呼び止めた湊。


 その呼び止めに応じた南雲は、面白そうに笑って見せながら、湊の方へと振り返った。


「父親が殺されたのに…なんでアンタは日本支部の軍に入ろうとしているの?」


 もし仮に自分が当事者だったら、父親を殺した人物がいるかもしれない仕事先に就職したがるだろうか?


 1番入りたくない、叶うなら潰れて欲しいと思ってもおかしくないだろう。


「クク、ここまでくれば誰でも理解できるだろう」


「復讐する気?」


 考えられる唯一の可能性。


 自分の父親を殺したであろう軍人がいる日本支部に、わざわざ入隊を志願している理由。


 それは当然、復讐しか思い浮かばない。


 南雲のしようとしていることを想像した湊は、冷や汗を流しながら、笑みを浮かべる彼を見つめる。


「そこまではいかねェよ。ただ、オレは答えが知りたい。どうして親父が殺されなくちゃいけなかったのか。日本支部の誰が殺したのか。ただの殉職なら、それでいい」


 学生の力では、どうしようもない。


 だから南雲は、日本支部の軍に志願し、父親の死の真相を追求するつもりでいるのだ。


「探偵ごっこだって笑ってもらっても構わねえぜ?笑いたきゃ笑えよ」


 それだけの理由、それだけの動機で志望した軍人としての生活。


 早くてもあと2年後の話なのだが、そんな理由で志望したとか馬鹿じゃないの?と言われても、なんらおかしくない動機だ。


 笑われようが、何を言われようが何も変える気のない南雲は、笑いたきゃ笑え。怒りはしねえと言いたげに、瞳を閉じる。


「…笑わないわよ。人生も信念も人それぞれ。それに私から質問しといて、笑うのはおかしな話だとは思わない?」


 きっと笑われる。バカだと言われる。


 そう思っていた南雲に帰ってきたのは、想定外の返事だった。


 予測していなかった返事が返ってきた南雲は、ゆっくりと目を開け、驚いた表情を浮かべた。


「クク…確かに、オマエから質問しといて、笑われるってのもおかしな話だったな」


 質問をした側が笑うなんて、無礼にも程がある。


 最低限のマナーを守る湊と、その言い分に納得した南雲は、愉快そうな笑みを浮かべると、額に手を当てる。


「さっきから、オマエばっか。私のことは湊でいい。父親が同じ軍人同士、ここで巡り会えたのも何かの縁だから」


「…オマエ…男嫌いって聞いてたが…」


 湊の男嫌いは、他クラスにも知れ渡っている。当然、南雲も知っていた。


 勝手に湊と呼ぶ男子は多いが、おそらく湊から公認で名前を呼んでいいという許可を得たのは、南雲くらいだろう。


「私は前に進むって決めたから。男嫌いも克服する」


「クク、それで?父親同士の繋がりがあるオレが実験体ってわけか」


 父親同士が同じ職場だったのなら、話題作りはかなり楽だ。


 なぜこんな話をさせられたのか、そしてなぜ呼び出されたのか、その内容を悟った南雲は、呆れたように両手をあげると、その場から去っていく。


「いいぜ?これも何かの縁だ。オマエの男嫌いの克服、手伝ってやるよ。湊」


 湊の男嫌い克服の実験体第1号となった南雲。


 彼の表情は、呆れた様子でも、怒った様子でもない。


 ただ、少しだけ楽しそうに。愉快そうに見えた。

湊さぁん!

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