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ここは日本の異能島!  作者: 平平方
夏休み編
133/474

加奈のヒミツ

 騒がしい砂浜。

 近所に寮があれば、間違いなく騒音苦情が来ているレベルだ。


 通や碇谷がはしゃぎ回り、アダムとアルカンジュは女子たちに囲まれ、結局付き合っているのかインタビューを受けている。


 そんな景色を、少し離れた階段に座り見つめている人物の姿があった。


 赤坂加奈。

 夕夏の幼馴染であり、親友。


 性格は面倒で、彼女の周りには、あまり人がいない。


 今日だってたった1人、少し離れたところから、賑やかなバーベキューを眺めているだけだ。


「かーなちーん!」


 紙皿を2つ手に持ち、奇声を発しながら近寄ってくる金髪の男。

 それはつい先ほど、悠馬から逃げ出した連太郎だった。


 おもちゃで遊べなくなったら、また次のおもちゃへ。


 何を考えているのかはわからないが、テンション高めで駆け寄ってくる連太郎は、加奈の冷ややかな視線を見て、階段の下で立ち止まる。


「貴方、いつも暇してるわね。私みたいなつまらない女に絡んで楽しいの?」


「暇はしてないかな〜、ほら、だってこうして話ししてるし。大忙しさ」


「どこがよ」


 紙皿を持っているだけで、忙しそうには見えない。


 忙しいというのは、ちょうど遠くで囲まれている花蓮や夕夏のように、いろんなところから引っ張りだこになっている人物のことを指すわけであって、自ら絡んでくる奴のことを忙しいとは言わない。


 暇だから絡んできているわけだし。


「貴方、こういうイベントごと好きでしょ?私みたいなつまんない女放っておいて、楽しんでくれば?」


「あはは、卑屈だなぁ加奈ちぃん、そんな加奈ちんには肉と野菜あーげる」


「…どうも」


 手にしていた紙皿の1つを加奈へと差し出した連太郎。


 その中には、きちんと焼かれた野菜と肉が入っている。


「珍しいのね。貴方のことだから、空容器渡してくると思ってたんだけど」


「え、酷くね?俺ってそんな風に思われてたわけ?」


「だっていつも人を困らせて遊んでいるし、そのくらいは序の口でしょ」


「あ〜、悠馬のことだろ?アイツは特別だよ。他の奴にあんな嫌がらせはしない」


 人を困らせる、とやんわり表現をしてくれた加奈に対して、嫌がらせをしているという表現をした連太郎。


 嫌がらせをしているという自覚があるというのに、それを辞めないのはタチの悪い人間のすることだ。


 1番タチが悪いのは、自覚なしで嫌がらせをしている奴だが。


 自覚症状があるだけ救いなのか、それとも自覚症状がない方が良かったのか。


 呆れた表情を浮かべた加奈は、ため息を吐く。


「いいわね。貴方たちはバカやれる時間があって」


「その言い方だとまるで、自分は時間ないみたいな言い方だぜ?加奈ちん」


 高校生活は、誰にだって3年間ある。


 いや、厳密に言えば3年間もない生徒もいるのだが、異能島は親の影響を受けないし、お金の問題もほとんどない。


 だから異能島を中退する。という可能性はほぼゼロなのだ。


 極論を言えば、死ななければ異能島の生活は3年間保証されている。


 誰にでも3年間あって、そして誰もがバカをやれる時間。


「ないのよ。そんなことする余裕は」


「ほほぉん?そこまで言って、勿体ぶったりしないよね?」


 合宿の肝試しではあまり話せなかった、加奈の核心に迫る問いかけ。


 周りの雰囲気もあってか、怒った様子も見せない加奈は、再度ため息を吐き口を開いた。


「貴方、合宿の時にどうして霧ヶ丘を蹴って異能島に来たのか訊ねてきたよね」


「おん。そんなことも言った」


 エスカレーター式で、異能島と同じく将来を約束されている学校。


 その学校を辞めてまで、異能島へ訪れた理由を、聞いたことがある。


「私には、果たさなきゃいけない義務があるの。それをするためには、霧ヶ丘は向いてなかった。ただそれだけよ」


 加奈は話を続ける。


「その義務を果たすために、私はバカをやってる時間も余裕もないわ。聞きたい話は聞けた?これで満足?」


「ほほぉ…ま、それは知ってるんだけどさ!次、加奈ちんが質問していいよー」


 加奈が明確な目的を持って入学したことは、合宿の時に聞いていた。


 合宿の時とあまり進展のない答えを聞いた連太郎は、微妙そうな表情を浮かべ、加奈を指差す。


「じゃあ聞くわ。貴方…私の何かを知ってるの?」


「んん?」


「合宿の時。貴方は私に、目的を果たすことができたら、夕夏と友達になれるのか?って聞いてきたわよね」


 まるで全てを見透かしているような、隠し事をすべて知っているような、そんな雰囲気で。


 あの時は神宮の暴走のせいで深く追求せずされずだったが、今回は違う。


 変な横槍も入らないだろうと踏んだ加奈は、自分のヒミツを知られているのか、それともただ単におちょくった発言だったのか、連太郎の真意を探ろうとする。


「ああ〜、知ってるよん」


「っ…貴方は…私の父親の…赤坂暮戸に金を握らされた側の人間なのね」


 赤坂暮戸。

 その人物は赤坂加奈の父に当たる人物であって、そして彼女の果たすべき義務には、父親の暮戸が関係しているらしい。


 本来であれば、普通の学生が知り得ない情報を手にしている連太郎を睨んだ加奈は、連太郎が暮戸とつながっているのではないかと、警戒を始める。


「そんなわけないじゃん!!聡明な加奈ちんなら、すぐに理解してると思ったんだけどなぁ…少し残念っていうか?俺の信頼度の問題なのかな?」


 連太郎からしてみれば、かなり心外だったようだ。


 あからさまにしょんぼりアピールをした彼は、両手を広げながら、彼女が期待はずれだったような発言をする。


「……まさか、とは思ってたけど…紅桜って、あの紅桜なの?」


 紅桜家。

 それは大企業の社長や、大物政治家、少なくとも国の中心にいる人物たちは知らないはずのない、名の知れた家系だ。


 簡単に言えば、殺しの家系。


 警察が表では行えないような工作を裏で行い、国に害をなす者を消す存在。


 表の一般人は知らないだろうが、お偉方は紅桜家という名前を聞いたら、冷や汗を流すほどの権力、そして圧力を持っている存在だ。


 なにしろ国家公認で人殺しができる家系なのだ。自分たちが目をつけられたなどと言われたら、ビビらない方が無理がある。


 そうしてお偉方の中でできた、暗黙の了解。


 紅桜には関わるな。悪行に手を染めるな。余計な者と関係を持つな。


 その紅桜が、今現在、加奈の前にいるのだ。


「ご名答〜!いやぁ、やっぱ知ってんだ?父親に聞かされてたの?」


 お偉方の息子、娘なら、将来ヘマをして紅桜家に消されぬよう、よく言い聞かされているはずだ。


 察しろと言わんばかりの連太郎を見て、ようやく目の前にいる男が紅桜の息子だと知った加奈は、頬に冷や汗を流す。


 この紅桜が、吉と出るのか、凶と出るのか。加奈にはそんな期待と、不安がある。


「ええ。バカよね。自分が犯罪紛いの行為…いえ、犯罪行為を繰り返しているのに、娘には紅桜が現れるような行為はやるな。って。矛盾してると思わない?」


 まるで自分は犯罪をやっていないかのように、裏で根回しをする政治家の父親。


 加奈はそんな父親の姿に、不満を、疑問を抱いているように見えた。


「犯罪って、赤坂暮戸が夕夏ちんの従姉妹の美哉坂朱理をおもちゃにしてること?」


「っ…そこまで調べがついてて、今まで能天気な人格を演じていたなんて…恐れ入ったわ」


 加奈が夕夏と、本当の意味で友達になれない理由。


 それは自分の父親が、夕夏の従姉妹である朱理に酷い扱いをしているからだ。


 加奈はそのヒミツを後ろめたい気持ちがあって、今現在行われている、バーベキューの輪の中に、入れずにいる。


「ま。真剣なのは仕事だけで十分でしょ。他は気楽にやらせてもらうさ〜」


「そう。それで?なに?私に自分のヒミツを明かした。ってことはつまり、近いうちに何か起こすってことじゃないの?」


 自身が紅桜の家系であることを打ち明けた。


 もしかすると〜…レベルだった可能性を、自ら確信へと変えさせたのだ。


 ならば、紅桜家が動くとしか思えない。


 現状、連太郎がリスクを負ってまで、加奈にヒミツを打ち明ける必要はなかったはずだ。


 いくら加奈が質問したと言えど、言い訳のしようはいくらでもあったわけで、他に何か、もっと重要な事が隠されているに違いない。


 そう踏んでいる加奈は、紅桜家が何を起こすつもりなのか、そしてなぜ自分に家系を明かしたのかを尋ねる。


「うーん、起こすっていうか、起こりそうなんだよね〜」


 連太郎は続ける。


「悠馬がさ〜、異能祭で美哉坂朱理と接触したの知ってる?」


「ええ…あの時は生きた心地がしなかった」


 異能祭のフィナーレの後、出回っていた画像。


 朱理と悠馬が付き合っているという説を仄めかしているような、そして加奈からしてみれば、それは恐怖でしかない画像。


「あれのせいで、なんか色々と動きがあるみたいでさ。その辺は説明できないけど。最悪、紅桜が介入しないといけないんだよね〜」


「それで、私には実家に帰るなって事?」


 異能島の学生が本土へと帰省し始める夏休み。


 暮戸になんらかの動きがあるとするなら、偶然実家へと帰省した加奈にもなんらかの影響、巻き添えが来るかもしれない。


 察しのいい加奈を見て、にっこりと笑顔を浮かべた連太郎は、首を縦に振り、口を開く。


「ま、そんなとこ。もしかすると、色々と協力してもらうかもしれないけど。どうする?父親が大事なら、協力しなくてもいいよ?ただその代わり、君は事が治るまで、異能島で監禁生活になるけど」


 協力するか、しないか。


 自分の肉親を切り捨てるか、それとも切り捨てないか。


 そんな極端な質問を出された加奈の表情は、異能島に入学して以来、もっとも楽しそうに見えた。


「連太郎くん。言ってなかったわね。私の果たすべき義務」


「ん、聞いてなーい」


「私が異能島へ入学した理由はね。父親を刑務所に入れる為よ」


「く…ははははは!マジかよ!」


 加奈の出した、あまりにも無慈悲な結論。


 父親を切り捨てると明言してみせた加奈が面白かったのか、高笑いをする連太郎は、腹を抱えながら加奈を見る。


「いいの?後戻りできないよ?」


「ええ。知ってるわ。っていうかそもそも、私が貴方にこのヒミツを打ち明けた時点で、どれだけ本気なのか察して欲しいのだけれど」


 大嫌いなはずな連太郎に、ヒミツを打ち明けた。


 加奈の中では、連太郎以上に父親のことが嫌いだということだ。


 今まで関わりたくないとばかり思っていた連太郎と、こうして話していることからも、加奈の考えはすぐにわかる。


「うんうん、そだね。加奈ちん俺のこと嫌いだもんね〜」


「そうよ。できることなら関わりたくないレベルで嫌いよ」


「えぇ〜?ひどくね?俺は加奈ちん結構好きだぜ?だからさ、赤坂暮戸の一件が終息したら、2人でデートとかどうよ?」


 先ほどの話を聞いていたのか?と呆れたくなるような、連太郎の提案。


 嫌いと言われているのに、デートの誘いをする男なんてどうかしてる。


 軽いイタズラのような連太郎の提案を聞いた加奈は、顎に右手を当て、考えるようなそぶりを見せる。


「考えてあげる」


「え"」


 連太郎、本日2度目の想定外の返事。


 悠馬の請求割り増しもかなり驚いたが、それよりも、現在の加奈の返答の方が想定外すぎる。


 連太郎はてっきり、「嫌よ。つけ上らないで」「それなら死んだ方がマシよ」などという、冷たい返事が返って来るのだろうとばかり考えていたが、加奈の返事は、予想の遥か上をいくものだった。


 大嫌いなはずの連太郎とのデートを考える。


 一言で拒絶することもできたはずなのに、予想もしていない返事が返ってきた連太郎は、完全に硬直する。


 連太郎、今世紀最大のミスだ。


「え?は?いいの?デートだよ?」


「いいとは言ってない。ただ、考えてあげなくもない」


 わけがわからない。


 そう言いたげな表情の連太郎を見た加奈は、我慢が限界にきたのか、吐き出すように笑い始める。


「あははははは…!貴方って、女慣れしてそうな外見なのに、案外ピュアなのね。考えるってだけでその様子なら、おっけーしたらどうなるのかしら?」


「った〜…加奈ちんが冗談言ってくるとは思ってなかったからな〜…クソ、やられた〜…」


 バカ真面目な加奈が、冗談など言うはずがない。


 だからデートを考えるという答えを聞いて焦ったが、いまの加奈を見ていると、彼女が冗談を言ったのだとすぐにわかってしまう。


 珍しく罠に嵌められる側に回った連太郎は、頭を抱えながら、階段に座る。


「貴方の苦しむ姿を見るのも、案外楽しいわね…これから定期的に取り入れていこうかしら?」


「それは勘弁して欲しいかな…」


 どうやら連太郎が慌てふためく姿は、お気に召したらしい。


 バーベキューを楽しむメンバーから少し離れた空間で、2人きりで話す加奈と連太郎。


 月明かりに照らされるその後ろ姿は、恋人のように見えなくもなかった。

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